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第六話 発動!治癒の力

僕は急いで女の人の元に駆け寄って様子をうかがう。

かなりの出血、かなりの重傷で顔色も真っ青を通り越して白い。

右の脇腹の辺りの服が破れて肌と傷口が露出している。傷口の感じからあの巨大犬の爪でやられたっぽいな。それと左腕がこちらは恐らく噛み傷だろう肘から先が血だらけで殆ど千切れかかってる。白い骨みたいなのも見えてるしヤバい。


「と、とにかく、何とか止血しないと!いや、消毒が先か!?」


僕はお医者さんになりたかっただけの只の高校生だ。こんな時の正しい応急処置の方法なんてわかるはずもない。女の人はさっきは逃げろって言ってくれたけど、どうやらもう意識もないみたいだ。


おっかなびっくり、とにかく右の脇腹の傷の出血をなんとかしたいと思ってソッと触ってみる。


「うっ……」


女の人が声をあげる。ごめんなさい、痛くしちゃったかな。

なるほど、傷は深い。4本の線状に切り裂かれた傷は一部内臓にまで達していてそこからも出血している。身体の中にも血が溜まっているし大きな血管も傷ついている。




え?

なんで僕にそんなことがわかるの? 傷の表面にちょっと指先で触っただけだよ? 内臓がどうこうなんて素人の僕に分かるはず…… あっ!


「治癒の力!」


そうだよ、僕はチートとして治癒の力を貰ってる筈なんだ。これなら何とかなるかもしれない。

気合を入れてしっかりと傷口を確認しながら意識を集中する。

わかるぞ、出来る事、やるべき事がわかる。絶対に助けてみせる。


「頑張って…… 死なないで…… 頑張れ…… 絶対助けるから、頑張ってください……」


そんな言葉が無意識に口からこぼれ出る。傷口を癒しつつ、失ってしまった血も補っていく。

傷口や患部に近い場所を触る方が効果的に癒やせるようだ。治癒の力が波紋みたいに広がっていくイメージが近いかな。腹部の裂傷を指先でなぞるように動かし消毒と治療、再生を続ける。


「あっ、あぁ…… あぁ…… ハァハァ」


女の人が苦しそうな声をあげ、身悶えする。そりゃ癒すためとはいえ傷口を触られれば痛いよね。

でもどうやら僕の力はかざすだけで癒やしの光的なのが出て回復、とはいかないようで治療対象に直接触れないと駄目なんだ。触れると診察? 触診? みたいな事も出来るから一長一短だな。


「あぁ、あっ、あっあぁ……」


僕が手を動かす度に女の人が苦しそうな声をあげる。

けど、もう大丈夫だ。おなかの傷はほぼ完治したぞ。あれだけの傷でも少し触るだけで簡単に治せるんだからやっぱりあの上位存在さんは凄い力をくれてたんだ。

あとは腕の傷だけど、その前に体力と流れ出ちゃった血も回復させておこう。治癒の力を全身に行き渡らせるイメージで出来そうだ。


「ああああぁぁぁぁあぁあぁぁぁ!」


僕が力を流し込むと女の人が一際大きな声をあげて全身を震えさせている。あ、これひょっとして痛みとか違和感とかあるのかな。他人の力が体内に干渉するわけだからあり得なくはないよね。注意しなきゃ。

それでも治さないわけにはいかないからもう少しだけ我慢して貰おう。

そう思って左腕の治療に取りかかろうとしたとき、女の人が話かかけてきた。


「貴様、何をしている…… はぁはぁ」

「気がついたんですね。動かないで下さい、すぐに腕も治しますから」

「何を…… 腕は殆ど食い千切られている。治療など無駄だ。アァ…… ァ」


女の人は息を切らせ、怖い目で僕を睨み付けている。自分でも怪しい自覚はあるけど我慢して欲しい。とにかくまずは傷を治してからだ。


「大丈夫です、治せますから。痛いかも知れないけど出来るだけ動かないでジッとして」


誰かに睨まれたことなんてないから正直怖いけど、治療が終わるまでは引き下がるわけにはいかない。

女の人の目を見つめ返し、僕は腕の治療に取りかかる。


「痛い、というかぁ…… これはぁ…… き、さまぁぁぁ」


肘から先が千切れかかっている腕も治癒の力にかかればそっと撫でるように触れていくだけであっという間に治せてしまう。凄いぞ、ありがとう上位存在さん。


「これでよし、と。どうでしょう、違和感とかないですか」


治療が終わった僕が女の人にそう尋ねと少し戸惑った顔をしながらも左手を握ったり開いたりしながらまじまじと元通りになった腕を確認する。


「あ、ああ。問題ないようだ。……ありがとう、感謝する」


そう言いながら女の人は身体を起こし立ち上がって頭を下げる。


「あ、まだ動かないほうが。傷は治ったはずですし体力も回復させましたけど、無理はしないで出来るだけ安静にしてください」

「いや、そうもいかない。ここにいればヤツが戻ってくるかも知れないし、血の匂いに誘われて他の魔獣どもも集まってきかねない」

「ヤツって…。あ、あの犬」


僕がそう呟くと女の人は一瞬目を丸くして僕の顔を見た後、困ったような顔で穏やかに笑った。


「あんなバケモノ狼を見て犬とはな。肝の据わった男だな、君は」


あ、そっか。ずっとデカい犬、巨大犬って呼んでたけどあれ、普通に狼だな。なんでそんなことも分かってなかったんだろう。なんだか急に恥ずかしくなってきたぞ。


「変なやつだな、君は。改めて治療をありがとう、私はミリアという。良かったら名前を教えて貰えないだろうか」

「僕は上条七桜といいます。よろしくお願いします」


そういって頭を下げるとミリアさんが今度は声を出して笑い出した。何かおかしかっただろうか。

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