第五話 ランチタイムにおやつが乱入。
気がつくと森の中にいた。
さっきまで着ていた高校の制服のままでカバンもちゃんと肩に掛かっている。
赤ん坊からやり直すパターンじゃなかったみたいだな、なんて暢気なことが頭を過ぎるけど、それよりもなによりも大きな問題がある。
いや、大きなお尻がある。
僕の数メートル先には3,4メートルくらいはありそうな大きな犬のお尻があって、その犬が向いている先には怪我をした女の人が大きな樹の根元に座り込んでいて、巨大犬を睨み付けている。
これは間違いなくお食事タイム直前のご様子ですね。ちょっといきなりやめて下さい、なんですかこれ。
「あ……」
言葉にならない言葉が漏れ、思わず後ずさりすると巨大犬がこっちに気づいた。その様子をみて女の人も僕の存在に気づいたようだ。
「バカ、早く逃げろ!」
「ガァァァァッ」
女の人の悲鳴のような忠告と巨大犬のうなり声、どちらが早かっただろうか。
巨大犬は僕に気づくと同時に飛びかかってきた。彼にしてみればご飯の前に急に新しいおやつが出てきたのだ。そりゃあ食べようとするだろう。
巨大犬が首筋めがけて飛びかかってくるのを咄嗟に腕を上げてカバーする。目の前に突き出されたその細いお肉の棒に巨大犬は齧りつく。
「グルルルル……」
あぁ、終わった。転生していきなり巨大犬、恐らく魔物に噛みつかれて食べられて死ぬんだ。僕は小説の主人公のようにはなれないんだなぁ。
諦めの境地に達した僕は目を閉じて『その時』が来るのを待つ。
「グウゥゥ?」
巨大犬が困惑したような声をあげる。
しばらく待っても一向に訪れない『その時』に僕も戸惑いながら恐る恐るギュッと瞑っていた目を開けてみる。
ヒイィィィィ
目の前に僕の左腕をガッチリくわえ込んだ巨大犬の牙があって超怖い。
だけど、おかしい。全然痛くないぞ。咬まれてる感触とか巨大犬が僕を押し倒そうとしているのとかは感じるけど、それだけだ。腕に牙は刺さってないし、押されてるけど普通に立っていられる。
なんで? おかしくない? なんで無事なの僕。
「よーしよし、怖くない、怖くないよ」
取りあえず現状を何とかしようと風が吹いてる谷のお姫様みたいな事をいいながら巨大犬に腕を咥えられたまま空いている右手で頭を撫でてみる。
「グウゥゥゥウゥゥゥ……ウ?」
自分でも訳のわからない事をした自覚はあるが、なんと巨大犬に反応があった。
なにか不思議な感覚に戸惑っているような雰囲気を感じる。ここはもう一押しだな!
「よしよし、怖くないぞぉ。良いコだから寝床へおかえり。ここは君がいる場所じゃないんだ」
そのままゆっくりと巨大犬の頭を撫でながらそう言って説得していると、やがて巨大犬も僕の腕を解放してくれた。話せばわかるって素晴らしい!
自由になった左手も使って巨大犬の頭を撫でながら、山だか森だか、寝床へ帰るように言い聞かせる。
巨大犬はどうやらわかってくれたようで、食べかけのご飯も置いてそのまま木々の間を縫うように静かに消えていった。
「助かった…… の……?」
いきなりの怒濤の展開に頭が追いついていない感じがする。
「駄目駄目。こういう優柔不断で周囲に流されっぱなしだったからあんな目にもあったんじゃないか」
しっかりと現状を把握して、自分の意思でしっかり行動できるようにならないと。
まず、僕がすべきことは
「大丈夫ですか!?」
女の人の安否確認だ!