第四十六話 NTR属性持ちと僕の誤算
ならず者やら呪いやらトラウマやら色々とあったけど、
結局のところ、会頭さんと奥様の願いは病気の娘さんの治療だった。
そういうことなら断る理由は全くないのでお引き受けしようとしたところ、
今度は僕への報酬について会頭さん達が悩み始めてしまった。
これ以上まだ揉めるの? もう早く治療しない? もめ事の原因は大体全部僕ですけども。
「あの、僕の治癒を受けるのは娘さんという事でしたよね。その場合、ちょっと問題があるんです。なのでその問題分を割り引いて一般の報酬ということでどうでしょうか?」
「問題、ですか?」
チームベトン商会の皆さんにアレについて説明する。これ、説明するだけでセクハラにならない? 大丈夫そ?
流石の会頭さんも判断に迷ってる顔してるな。16歳の愛娘の治療をしてやるけどセクハラも同時にするぞ、と言われれば戸惑うのが当たり前だよね。
「あー、その。ナオ様のことを疑っているわけではないし、こういったことを女性に聞くのはどうかとは思うのだが…… 今の話は本当なのだろうか?」
「えぇ、性的な…… という部分も含めて概ね事実ですね」
会頭さんがミリアさんに問いかける。理解しづら過ぎて経験者の話とか聞いてみたくなるよね。わかるけどそれセクハラですよ。僕にだけは言う権利ないけど。
「あらあら、まぁ……///」
奥様は頬を染めて恥ずかしがっている。 …… なんかちょっと嬉しそうじゃない? 気のせい?
「もうこの際だから聞いてしまいますわぁ! ミリア様、貴女やその周りの方たちがとても美しくなった、というのもナオ様のお力ですの?」
なるほど、気になっていたことを聞くチャンスを見つけたと思って嬉しそうだったのか。僕も最初は奥様はソッチ狙いだと思ったもんな。やっぱり知ってはいたんだ。
くだらないことを聞くんじゃない! と怒る会頭さんとくだらなくなんてありませんわぁ! と譲らない奥様の痴話喧嘩(?)をぼんやりと眺めつつ思う。
僕、この先どこへ行っても治癒の前にはこのやり取りすることになるのかなぁ。ミリアさん達の時は自覚がなかったから仕方ないとして、緊急事態でも無いのに黙ってセクハラは良くないから仕方ないけど。
「ナオくん」
ん? なんでしょう。現実逃避してたらミリアさんに小さく呼びかけられた。目が合うとチラリと奥様を見て、また僕に視線を合わせるミリアさん。
あ、これはあれか。治癒のことはともかく美容系のことを自分が答えていいのかと問われているんだな。今更だけどミリアさんに頼りっきりなのも情けないからこれは僕が自分で答えよう。
「僕の治癒を応用してお肌や髪を一番健康な状態にすると結果として美しいお肌や髪になるんです。つまり僕が美しくしてるんじゃなくて本来の美しさを引き出すお手伝いをしているって感じですね」
健康になっただけでその美しさなんですの? と驚きつつミリアさんをマジマジと見つめる奥様。そうですとも、ミリアさんは元々がとても美人さんなのですよ。
「私はナオ君に自分の命を救ってもらっただけでは無く、不治の病と言われた娘の病を癒してもらい、その上にこのような恩恵まで受けている。恐らく現時点では彼の恩恵を最も受けていると言ってもいいだろうと思う。
その上で、彼の力が与える性的な快感、ということについて一つ考えがあるのだが聞いてもらえるだろうか」
え、僕のアレについてなんか考えてることがあるなんて初耳ですけど。というかミリアさんは知ってるよね、アレがあの人のただの悪ふざけだって。
「興味深いですね、是非聞かせて頂きたい」
ミリアさんが何を思っているのか知るのは怖い気がして出来ればあまり聞きたくないんだけど会頭さんが思いっきり食い付いちゃったからコレを止めるのは無理だな。
「本来、性的な行為というのは子を成す、つまり命を育むための行為です。そしてナオ君の奇跡は命そのものを分け与えているというか増幅させているというか…… 上手く言えないが通常私たちが知る治癒術とは全く違う理が作用しているんじゃないかと思うのです。
その神の奇跡によって増幅された命の波動とでもいうべきものが大きすぎて人の身には収まりきらずその余波を命を育む行為の一種のように感じてしまっているんじゃないのか、というのが私の個人的な解釈です」
「何故、そのように感じられてたのかをお聞きしても?」
「根拠と呼べるほどのものはありません。神の奇跡に人の理屈が通じるとも思えませんし。
私は初めはあの快感は傷の痛みや病の苦しみを忘れさせるための慈悲だと思っていました。
そして、私の娘やミタ様はナオ君の力を受けて日だまりにいるようなぬくもりに似た心地よさを感じると言った。それは娘は幼すぎて、ミタ様はお歳を召されすぎて『命を育む力』を身体が備えていないから、その部分を感じずそれ以外の『苦しみを忘れさせる慈悲』のみが身体に伝わった結果なのではないかと思うに至ったということです」
「なるほど。確かに『性的な快感』そのものであれば幼い子供だろうと老婆であろうとソレ自身は感じても不思議はない。命そのものに作用する神の奇跡が人の肉体には大きすぎるということ。ナオ様が癒す対象の痛みや苦しみを取り除きたいと願って下さっていること。その二つが合わさって『命を育む力』を備えている肉体には『命を育む行為を受けている』ように感じてしまう、ということか」
会頭さんだけじゃ無くて奥様も今の話を聞いて凄く納得したような顔をしている。神の奇跡を信じている人たちには『人間には神の奇跡が強すぎるんで思わぬ反応が出ちゃいます』はとても飲み込みやすい理屈なんだな。
だけどその理屈が間違っていることをこの世界で僕とミリアさんだけは知っている。なんたってご本人様から直接聞いてるからね。ミーナさんも聞いていたけど多分ちゃんと理解は出来ていなかったと思うので例外扱い。
「正しいかどうかより相手が納得出来るかどうかの方が重要な場合もある。良い落としどころだと思うんだが、どうだい?」
ミリアさんがこっそり耳打ちしてきた。なるほど、確信犯(誤用では無い意味の方)でしたか。実に良いですね! 耳元で囁かれる美人の吐息! じゃなくて皆さんが納得しやすい理屈であるということもいいけど、この場合だとあの人が玩具扱いで奇跡を授けているということをうまく誤魔化せているのが素晴らしい。
「実に素晴らしいと思いました。
…… それでは会頭さん、一度僕の治癒を受けてみますか? 怪我や病気が無くても体調を整えたり髪を綺麗にしたりはできますよ」
百聞は一見にしかず。ある程度納得いったならあとは体験してもらうのが一番じゃない?
「いえ、そのような些事でお手を煩わせる訳には……!」
「是非お願い致しますわぁ!!」
真っ二つに分かれるお二人の意見。まぁ、そりゃそうなりますよね、やっぱり。
「僕に負担は特にありませんし、大切なご家族に関することです。事前に出来るだけ正確な情報は集めておかれるべきでは? 無理にとは言いませんが。特に女性には繊細な問題も含みますし」
「その様に仰って頂けるのであれば……」
そしてあっさり折れる会頭さん。やっぱり『情報』という言葉がツボだったんだと思う。予め見ておけるものなら見ておきたいし、実際に体験できるならやっておきたいタイプだよね、会頭さん。
奥様は奇麗にするのは髪にしようかお肌にしようかと悩み始めた。実に切り替えが早い。別にご希望であればどっちもやりますけどね。情報収集の為という建前上、会頭さんの前でやることになるけどそれでも良ければ。
一言も喋らずただ僕を睨み付けている怖い人を尻目に会頭さんは疲労回復と肩こり・腰痛の改善、奥様は髪のお手入れと顔の小ジワなんかを取り除いてみた。
「確かに太陽の光に包まれているような穏やかな暖かさ、心地よさを感じました。長年の付き合いであった腰痛も嘘のように…… これは確かに我々が知る治癒術とは違うものですね」
「はぁはぁ…… わたくしったらはしたない声を出してしまいましたわぁ。これほどならばナオ様やミリア様が気まずそうなお顔をされていたのも分かるというものです。それでもこの髪やお肌の変化を体験してしまっては…… 女なら毎日でもナオ様にせがんでしまっても仕方ないですわねぇ。ミリア様が羨ましいですわぁ」
あの、奥様…… 旦那様の前でそういうことを言うのは…… とても、とても気まずいのです。
「そのような気まずげなお顔をなさらないで下さい。こちらからお願いしたことですし、この場には事情を知るものしかいないのです。妻のはしたない声には思うところが無いとは言えませんが神の御業に抗えというのも酷な話でしょうし」
会頭さんがフォローしてくれたところで、話を戻す。
「そういうわけで、僕が年頃の女性を癒すのには問題があるのです。なので、その分を割り引いて考えて頂ければ、と」
「いや、むしろリスクは無い、という追加の説明をして頂いたようなものでしたが?」
え? なんでそうなるの? 今しがた貴方の奥様を貴方の目の前でアンアン言わしたったのは僕ですよ? もしやNTR属性持ち? イエーイ、見てるぅ~?
「ナオ君、今の話の流れだと君のアレは神の御業によるものであるから君にも受ける女性にも責任というか他意は無い、という事を証明しただけだから君が思うようにマイナスの要因には全くなっていないぞ」
え、でもその流れにしたのはミリアさんじゃ?
あれ、でも僕の治癒はとっても気持ちいいから報酬を割引して下さい、という話の流れに最初から無理があった?
むむむ、わからなくなってきたぞ。思いつきでしゃべるもんじゃねぇな。途中で完全に当初の思惑とは別の方向に話が言っちゃったもんな。ミリアさんの顔をチラリと見る。
ミリアさんは僕の視線を受け、目線を下げ少し逸らしたままちっちゃい声で
「ごめん」
許す!




