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第三十七話 予定されていた別れと僕

ミタお婆さんを治した時点である程度のことはわかったけど、より確実を期すためにもう少し情報を集めたいと思った僕は孤児院の子供たちにも協力を要請することにした。調べたいことがあるので協力してほしいと伝えて皆さんに子供たちを集めてもらう。

症状の出ている子、出ていない子、出たけど治った子など色んなパターンを触診していき、得た情報を補強していくのだ。ついでに子供たちの健康状態も確認したけど、孤児のイメージにありがちな栄養が足りていない子なんかはいなくてみんな健康そのものだった。とても素晴らしいことだ。


「素晴らしいですね。調べものついでに子供たちの健康状態も確認させてもらいましたけど、みんな健康そのものでしたよ。ついでにちょっとした傷なんかは治しときました」

「調べもののついでに、ね」

「ついでにゃー」

「ナオ様の慈愛は留まるところを知りません」


なんか子供たちの健康を心配して理由をつけて診察した風に勘違いされている気がする。ふむ、乗らなきゃこのビッグウェーブ。僕は決して嘘はついていない。否定しなかっただけだ。好感度があがるのは歓迎なのでこれをわざわざ否定する必要なんて全くない。


さて、子供たちから得た情報も併せてこのカサブタ症状のことを一度整理して考えてみる。

まずこの街のどこにいても匂うこの独特の匂い。この匂いの中にほんの僅かだけど人体に有害な成分が含まれている。だけど、本当にわずかだから普通ならそれを吸い込んでしまっても吐き出す息や汗なんかの老廃物と一緒に全部体外に出せているので問題にならない。

だけどたまに体質的にこの物質に弱い人や排出する力が弱い人がいる。そういう人は身体に残った有害な物質を身体の一番外側、つまり皮膚に集めて他の器官に影響が出ないようにしているんだ。それがつまりあのカサブタだね。子供の頃に症状が出るのは身体が小さいから許容量自体が小さいことと抵抗力が育ち切っていないから。成長とともに身体も大きくなるし抵抗力がついていくので勝手に治ると思われているのだろう。ミタお婆さんの場合は体質的に排出する力が他の人より弱いから僅かな有害物質がほんの少しずつ残り続けてあの状態になってしまっていたのだ。この街の治癒師の方が匙を投げたって言ってたけど、コレは確かに『病気じゃ無いから治せない』ね。身体が異物に対して正常に処理を行った結果、みたいな感じだ。

僕はそういった内容のことを皆さんにできるだけわかりやすく説明する。この世界ではアレルギーとか公害とかいったことの基本的な知識が浸透していないので上手く伝えられたかはわからないけど。


「なんとまぁ…… この匂いの中にそんなモンがねぇ。確かに気持ちのいい匂いじゃないけどよ」

「それでも、だとするとミタ様の症状は一度改善してもこの街にいる限りはまた起きてしまうのでは?」

「いえいえ、こうして治していただけただけで充分でございますよ。それに今のお話であれば、私の中に毒が溜まるまで時間がかかる筈ですございますから、それまでにはお迎えが来ていますよ」


ミタお婆さんの微妙に反応に困る発言。天然なのかお年寄り特有のシルバージョークなのか。


「あ、その心配はないですよ。さっきミタお婆さんを治したときに同じ毒は効かないようにしときましたから」


僕の一足先を見越した対応に流石だぜ、なんて賞賛の声が掛かる。フフフ、僕はこう見えても割と気遣いの出来る男なのですよ。ドヤ顔が表に出ないようにしつつも褒められてちょっとイイ気分になっているとミリアさんがなんか物凄いジト目でこっちをみていた。

なんだろう、ドヤ顔が漏れちゃってたかな? 笑ってごまかそう。ニコリ。


「…… 任意で特定の毒が効かない体質に出来る、というのがどれほどのことなのか…… わかってないんだろうな……」


渾身のニコリを飛ばしたのにミリアさんに溜息をつかれてしまった。ジト目美人の溜息、余すところなく吸い込みたい。願わくばマウストゥーマウスで。


「君のその善良さに助けられた身としては言えたことではないが、君はもう少し自分の力の価値に留意すべきだな」


ミリアさんが真面目に忠告してくれているのはわかっているんだけど、正直に言えばそんなに大したことかなぁ、という気持ちが強いのも事実だ。ただ、この力が前世でもあれば猫好きの猫アレルギーといった悲劇を消すことが出来ただろうな、と思うと残念ではある。




その後は子供たちと遊んだりミタお婆さんとお喋りを楽しんだりと和やかに過ごし、日暮れ前には以前ミーナさんが遊んでもらっていたという年長組の子供たちも院に帰ってきたので、ミタお婆さんが腕を振るってくれたお料理を一緒にご馳走になったりしているうちにあっという間に時間が過ぎてしまった。

その時に年長さんたちからも色々お話を聞けたのだけど、ある程度の年齢になるとみんな孤児院を支援してくれているという商会のあっせんで街のあちこちで働きだすらしい。子供でもできるようなお使いや配達といった仕事が中心で給金は多くはないけど孤児院自体への寄付もあり生活は問題ないので、いずれ院を出て独り立ちする時のための資金にと貯めているのだそうだ。そしてお金よりも街のあちこちに顔を出しておくことで孤児院を出た後のコネ作りにもなっているらしい。もしもそこまで考えて子供たちに仕事を振っているのだとすれば、噂の商会の人はかなりの聖人だな。


それから数日の間、僕は異世界の街を堪能した。見るもの全てが珍しくとても刺激的な日々だった。毎日少しづつミーナさんの体力を上乗せしていくことも忘れない。そのおかげもあってかミーナさんは毎日絶好調だ。僕と一緒に街を探検し、友達と遊び、タバサさんの内職を応援し、いままで遊べなかった分を取り戻そうとするかのようにはしゃぎまわっていた。シトリィさんは全力で恥ずかしがりながらも誘惑に勝てず少しづつ僕に触られることに慣れ、綺麗になっていく。ロロさんは変わらず僕にべったりくっついて離れないし、ハンナさんについてはもう諦めた。信仰心って怖い。

そんな楽しい毎日が続いていたある日の晩、ついにその時がきてしまった。


「そろそろこの街を出ようと思っている」


みんなでとった夕食のあと、和気藹々としたいつもの空気の中にミリアさんの発言が広がる。

それは最初から決まっていた。ミリアさんたちはこの街で旅の支度を整えてからミリアさんの故郷に帰る筈だったのだから。

ミリアさんは旦那さんを亡くしたあと、ミーナさんをつれて実家に帰ることを何度も考えたそうだ。だけどミーナさんの身体を思えば旅なんてとても出来ることじゃなかった。だけど


「ナオ君のおかげでミーナは元気すぎるくらい元気になってくれた。今のミーナなら私の故郷までの旅路も問題ないだろう。

 家出同然に飛び出した身ではあるが、自分が子供を授かってやっと親の気持ちというものも知った。私の両親はまだ健在の筈だ。あの方たちにもとても迷惑をかけたが可能ならば生きているうちに謝りたい。そしてミーナも祖父母に合わせてやりたい」


最初から決まっていた、聞かされていた予定だった。ただ、この街が、タバサさんがとても温かく、ミタお婆さんがとても優しく、孤児院の子供たちがとても元気でにぎやかに、僕たちを迎え入れてくれていたから。ほんの数日の筈なのにずっと続いていた日常みたいに感じてしまっていた。だから、別れが来ることなんてすっかり忘れてしまっていた。それでも


「僕も、ご迷惑でなければご一緒させていただきたいです。色んな街を世界を見て回るのが今の僕の目標ですから」


これも話し合っていた予定通り。旅をしたいとしか目的のない僕には目的地が必要だったから。


「おぉ、そうかいそうかい。そうだねぇ、ミーナにおじいちゃんおばあちゃんが居るんなら合わせてやらないとねぇ。それにミリア、あんた結構イイとこのお嬢さんだろう? それならなおさら実家に帰るのがいいだろうね。ミーナは賢い子だから学校にも通わせてもらえるかもねぇ。ミリアの故郷のオソレは港町だし、ここから向かうなら王都も通るだろう。ナオの故郷の情報も手に入るかも知れないねぇ。与えられしものなんていってもアンタはまだ子供なんだ。子供は家族の元で暮らすのが一番だもの。家に帰れると良いねぇ」


タバサさんは相変わらずの饒舌っぷりだ。だけど、少し声が上ずっている気がする。


「ロロはナオについてくにゃ。というか逃がさないにゃ。ナオは一生ロロの毛並みのケアする運命にゃ」

「私もナオ様のお傍にいたく…… お供させていただきとうございます」


ロロさんとハンナさんは僕についてきてくれるつもりらしい。ロロさん、毛並みの手入れをする度に「一生離れないにゃ」なんて言ってたけど本気だったのか。


「やったぁ! みんなでミーナのおじいちゃんおばあちゃんに会いにいこう! どんな人かなぁ。優しいといいなぁ」


ミーナさんは目的地が港町ということで初めて見ることになる海や祖父母に会えることを楽しみにしていたから大喜びだ。


「ロロやハンナもナオから離れられそうにないとおもっていたけどやっぱりかい。まぁ、アンタらが一緒だってんなら道中も安心さね。ミーナとナオのこと、しっかり守ってやるんだよ。ミリアもミーナもナオも達者でね。ナオがいりゃあ怪我や病気の心配はないんだろうけど、それでも身体には気を付けるんだよ。無理はしないようにね。シトリィ、アンタはどうすんだい? っていうかアンタも行くんだろ、全く騒がしいのが全部いなくなっちまったらこの宿も静かになって夜も安眠ってもんだよ」

「「え?」」


タバサさんの言葉にシトリィさんとミーナさんがそれぞれに反応する。


「達者でって…… え? タバサおばさんは……?」

「あたしゃこの街からは離れられないさ。ロロ達が旅に出るってんならこの宿ももうお役御免かもしれないけどねぇ。革細工であたし一人が生きてこの家を維持するくらいは簡単なことさね。生まれて育って、亭主が眠っている街だ。あたしもこの街で眠るさ」


この街を離れるということはタバサさんともお別れだということ。そのことは寂しいけど僕はある意味当然のこととして受け止めていたけれど、ミーナさんはそうではなかったようだ。

生まれて初めての健康な身体でこの街を元気に満喫していたミーナさんにとってはこの街での生活はとても楽しかったのだろう。ミタお婆さんや孤児院の子供たち、新しい出会い新しい友達に溢れた毎日がずっとこのまま続いていくと思っていた彼女には別れなんて想像の埒外だったのかもしれない。


この街を離れればタバサさんや友達とも分かれることになる。そのことに気付いてしまったミーナさんは小さな掌をギュッと握りしめ、瞳からは大粒の涙をポロポロと流しながら、声を押し殺して泣き出してしまった。そんなミーナさんをミリアさんが優しく抱きしめる。頑是ない子供のように大声で泣き喚いたり、駄々をこねるようなことはなくただ静かに涙を流すミーナさんに僕はかける言葉もなかった。


「アタシは……」


楽しかった食卓が嘘だったように静かになってしまった食堂にシトリィさんの声がポツリとおちた。


「アタシは行けない。ナオとミーナのことはお前らに任せる。ミリア姉さんもいるんだ、問題ないだろ」


遅くなりました。

なんとか更新のペースを戻したい。

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