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第三十四話 スイカと大馬鹿野郎

「それでね、タバサおばさんたら凄いの。指からジーって火が出てね」


夕飯を囲みながらミーナさんが今日一日何をしていたのかを嬉しそうに報告している。ミリアさんは微笑ましそうに見守っているし、褒められているタバサさんも嬉しそうだ。

タバサさんの内職というのは指先に火の魔法を集中させてその熱で革製品に焼き印? 焼き絵? のようなものを入れることだそうだ。その様子を見学していたらしい。火の魔法を指先に集めて絵を描く、というのはこの街で革製品に付加価値をつけるために発達した変わり種魔法で使える人はあまり多くはないんだとか。その上で更に絵心がありデザイン的なこともできる人は貴重でタバサさんはいわば売れっ子デザイナーみたいな立ち位置らしい。



「そんなに褒められちゃうと照れるねぇ」

「おかみさんは見かけによらず繊細な絵が描けるんだぜ」

「タバサの作品は人気。高く売れる」

「シトリィ、見かけによらずってのはなんだい」


にぎやかな食卓だ。


「それにしても今日はミーナに見られててちょっと張り切りすぎちまったね。魔力を使いすぎてクラクラするよ」

「それならこれを食べてください。疲れが取れますよ」

「あ~、ミーナも欲しい」

「ロロも食うにゃ」


僕が出したのはチョコレート。通学カバンに入っていた僕のおやつだ。


「甘くて美味しいよ」

「にゃ、癖になる甘さにゃ」

「変わった色だね。…… こりゃ、美味い。甘くて口の中でとろける様で…… 本当に疲れが取れるようだよ」


よろしければみなさんもどうぞ、とミリアさんたちにも振る舞う。どうやら甘いのが苦手な人はいないようで喜んでくださっている。


「ナオ君、君の故郷のお菓子だというコレ、ミーナやロロも何度もいただいているようだが、そんなにたくさん持っていたのかい?」


ミリアさんが不思議そうに言う。馬車での移動中なんかにも食べてたのを見てたからね。一向に無くならないから何箱も持っていたのかと思ったのだろう。一箱24個入りだからこのペースで食べてたら普通ならとっくに無くなってる筈だもんね。


「これ、何故か無くならないんですよ。食べつくして空き箱になっちゃってもカバンにいれとくといつの間にかもとに戻ってるんですよね」


なに言ってんだコイツみたいな顔をしないでほしい。

僕にもよくわかっていないのだ。原因らしきことに心当たりはあるけど。今回もやっておこうか。

チョコを一包装、誰も座っていない席の前に置く。すると神聖な光に包まれてチョコが消える。今回は持って行ったね。


「ナオ君…… 今のは…… あの時と同じ……?」

「もー、ホントお前そういうことサラッとやんのやめろよ!」

「大樹よ……!!」


僕とミーナさんがチョコ食べてるときにお供えするとたまに回収されるんだよね。美味しいって言ってたし、気に入ってもらえたんなら嬉しい。

で、多分この「お裾分け」みたいなかたちのお供えを気に入ったんじゃないかな、あの人。だからそれがチョコがなくなって終わらないようになんかしてるんだと思うんだけどどうだろう。


「なんだい、今の光は? なんだか神聖な力を感じたよ? しかもあのチョコ? とやらを食べたら本当に魔力が回復しちまったよ。いったい何が起こったんだい?」

「魔力を回復させる食べ物、しかも尽きる気配はなく、神が好んで食べるという事実…… 流石にクラクラしてきたな」

「あ、チョコもう一個いります?」

「そういうことではない。というかわかって言っているだろう」


叱られてしまった。ミリアさんはちょっと怒り顔も魅力的だな、好き。


「そういえば街で他の獣人さんとかエルフさんとかは見かけませんでしたね」

「この街はどこにいっても革の匂いがつきまとうからね。鼻が利く獣人は殆どいつかないよ。エルフは元々人里に出てくる数が少ないし、どうせ出てくるなら臭くない所にいくさ」

「あー、なるほどそうなんですね」


ということはこの街にケモミミお姉さまはいないという事か。じゃなくて、ハンナさんは同族を避けているところがあるからわかるけど、ロロさんは何故この街にいるんだろう。シトリィさんたちと一緒に活動するためにしても移動を申し出てもおかしくはないと思うけど。この街が臭いって真っ先に僕に言ったのもロロさんだし匂いが平気って訳でもなさそうだよね。なにか事情があるのかな。


その後もしばらくワイワイととりとめのない楽しいお話が続いた。夜も更けてきたしそろそろ切り出す頃合いかな。


「ハンナさん」

「ひゃ、ひゃい!」


僕が声を掛けただけで思いっきり声が裏返ってしまったハンナさん。緊張しているな。だが、安心してほしい。僕もだ。


「そろそろ始めましょうか」

「は、はい。よろしくお願いします」


見るからにガチガチに緊張しているハンナさん。釣られて僕も緊張してくる。


「それじゃ、どうしましょうか。僕の部屋か、ハンナさんのお部屋でやりますか?」

「ぇ…… 二人っきりでですか!?」


あれ、人は少ないほうがいいと思ってたんだけど違うのかな?


「いえ、他の方がいらしても大丈夫ですよ。ただ、どうしても僕の力を振るうにはハンナさんのコンプレックスを晒していただくことになるので……」


ハンナさんは相変わらず緊張したまま、恥ずかし気に頬を染めたまま、それでも僕の目をまっすぐに見つめながら言った。


「ナオ様、シトリィとロロにも立ち会ってもらってもよろしいでしょうか。二人は私が辛いとき、いつも傍で支えてくれた大切な友人なんです。使徒様のお力で生まれ変わるとしても、私たちの絆は変わらない。そのことを確かめるためにも一緒にいてほしいのです」


あぁ、この三人は本当に仲がいいんだな。ハンナさんの言葉を聞いてシトリィさんとロロさんがそっと寄り添う様に隣に並ぶ。僕が憧れた『素敵な仲間』の姿がここにあるんだ。いいなぁ……


「勿論、構いませんよ。それじゃあハンナさんのお部屋でやりましょうか」

「ありがとうございます。二人もありがとう」

「水臭いこと言うなよ」

「ハンナが気持ち良くなるのしっかり見届けてやるにゃ」

「もう! ロロ!」


ミリアさんたちに見送られながら僕たち4人はハンナさんの部屋に移動する。元宿屋の客室だけあって僕が使わせてもらっている部屋と間取り自体は変わらないはずなのに置いてある小物の色使いとかであぁ、女の子の部屋だなという感じだ。あとちょっといい匂いもします。

さて、それじゃあいよいよ始めますか。


「ハンナさん、僕は後ろを向いてますので、その間に上の服を脱いでもらえますか」

「脱っ…… は、はい。畏まりました」


宣言通り僕が背を向けると後ろで服を脱いでいるのであろう衣擦れの音が聞こえる。シトリィさんが小声で頑張れ、と言っているのも聞こえてきた。

ふぅ。めちゃくちゃ緊張してきたけど、これから始めるのは治療・医療行為だ。邪な気持ちは持ってしまったとしてもそれは絶対表に出すなよ、僕。BeCoolだぞ。


「ナオ様、もう大丈夫です」


よし、行くぞ。BeCool BeCool BeCo……


デッ………!!

エッ………!!


振り向くとそこにはスイカよりも二回りは大きいんじゃないかと思えるような大きなお胸様を両手で抑えるように隠して立っているハンナさんがいた。いわゆる手ブラ状態ってやつですね。初めて見ました。

服の上からでも大きいのはわかってたけど、まさかここまでとは…… エルフ史上最大は伊達ではないということか……


「ナオ? ハンナの胸にくぎ付けになる気持ちはわかるけど目的を忘れるなよ」

「にゃ、もし脱がすための口実で今更ホントはできないとか言い出したら、いくらナオでも刺す」

「ナオ様……」


いかん、ハンナさんが悲しそうな顔をしている。僕の大馬鹿野郎、これから行うのはハンナさんの心の傷を癒すための医療行為だぞ。それなのに僕がハンナさんを傷つけてどうするんだ。

切り替えろ! 心のスイッチを!

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