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第三十二話 楽しくおしゃべりと壁

「いやぁ、恥ずかしいところを見せちゃったねぇ。いい歳して大泣きだよ大泣き。まったくもうみっとまないったらないよねぇ。でもそれだけ嬉しくて嬉しくてねぇ。まさか与えられしものの奇跡なんてもんが身近におこるなんてねぇ。あたしゃ神様なんぞとんと信じてなかったけど、これからはもう毎日でも祈らなきゃね、いやぁありがたやありがたや……」


落ち着いてからのタバサさんは絶好調だ。

タバサさんが落ち着くまでにそれなりの時間がかかり、ミーナさんは旅の疲れが出たようなので早々に床に着いた。今はこれまでの状況を説明したり積もる話をしたりこれからの話をしたり、話題があっちにいったりこっちに行ったりしながらも穏やかな時間を過ごしている。


「そうかいそうかい、与えられしものねぇ。本当にいたんだねぇ。それでロロがそんなに懐いてるってわけかい。いや、ロロの毛並みがやけにピカピカになってるなぁとは思ってたんだよ。はぁ~、それで男嫌いのロロがねぇ、なるほどねぇ」


今度はロロさんの話になった。当のご本人は僕にぴったりくっついてしなだれかかりながらかすかにゴロゴロ言っている。僕の主観ではとてもかわいいにゃんこに懐かれている感覚だけど、この世界の人から見れば女性を侍らせている状態だと思うとちょっと気が引けてしまう。


「それだよ! なんでロロとミーナはナオに触れても平気なんだよ。アタシは酷い目にあったぜ」

「にゃー、平気じゃないにゃ。とっても気持ちいいにゃ。もう放さないにゃ」

「気持ちいいってお前…… それは……」


何かを思い出したのか真っ赤になるシトリィさん。これはそろそろちゃんと説明しておかないとな。



「なるほどなぁ。ミーナは子供過ぎて女扱いされないからってことか」

「ロロもかなり色が濃いですからね。濃すぎると相手を異性として見れないというのは男女ともによく聞きます」

「濃ければ濃いほどいい、なんて奴もいるけどどっちかつーと自分と同じくらいの濃さの奴がいいとは言うよな」


お二人が言う濃い薄いというのは獣人の方の獣度とでもいうべきものでロロさんのような人を『獣の色が濃い』逆に僕が最初にイメージしたようなケモ耳だけのタイプの人もいて、そういう人は『獣の色が薄い』というのだそうだ。

ロロさんにミーナさんと同じポカポカが発生したのはロロさんを女性として見ていない、という意味になってしまうのだが、色の濃さが違いすぎるとお互いに異性としては見ないというのは割と一般的な価値観だったようですんなり受け入れられた。

しかし、ということは、だ。なるほどね、この世界にはモフ耳モフしっぽのお姉さまもいらっしゃってしかもその人たちもロロさん並みに毛艶に拘りがある可能性がある、と。なるほどね。


「へぇー…… で、それ(・・)はそんなに気持ち良かったのかい? シトリィもミリアちゃんもやってもらったんだろう? いくらなんでもあのロロが男にピッタリつっくいて離れないなんておかしいとは思ってたんだよ。お日様みたいに気持ち良くてしかも毛並みが良くなるとなりゃあ、そりゃロロが放す筈ないね」

「シトリは悲鳴を上げて崩れ落ちたにゃ。宿に着いたらしっかりやってもらうっていってたんだからやってもらうといいにゃ」

「受けるには最初はちょっと覚悟が必要になるな。それでも一度受け始めたら目に見えて変わっていく魅力にあらがえずについついあちらもこちらもと頼んでしまったよ」


恥ずかしそうに言うミリアさんにゴクリと生唾を飲むシトリィさん。ところで美人の羞恥顔いいですね。もっとください。


「いや、アタシはあれ、だよ。そうだよ、ハンナ! ハンナが先にやってもらえよ」

「私は明日、神殿に行って身を清めてからお願いするつもりです。それまでに覚悟を固めておかなければなりませんね」


わちゃわちゃと盛り上がっている女性陣を眺めているとロロさんに袖口をひかれた。なにかな? と思ってみると小さくシトリィさんを指さして悪戯っぽい笑みを浮かべている。いいですね、この悪戯な子猫ちゃんめ。

全てを理解し、行動を始める。盛り上がっている女性陣に気づかれないようにそっと席を立ち、ゆっくりとシトリィさんの背後に忍び寄る。途中でミリアさんが小さく笑いながら仕方ない奴だ、と言いたげに僕を見てきた。見逃してくれるようだ。そんなノリがいいところも好き。


「ふみゃあぁあぁぁぁぁ!?」


ワレ キシュウニ セイコウセリ。

朝、一部分だけ触れていた髪の残りを仕上げるべく両手でがっちりと頭を固定し、しかる後、撫でまわす! シトリィさんが逃れようと暴れるので手元が狂い、お耳や首筋にも触れてしまったのは不可抗力である。

すこし続けているとスイッチが切れたように急に大人しくなったので、これ幸いとお顔、首筋、手とミリアさんたちに評判のよかったところを順番に攻める。お顔の目元を触ったときに右目に違和感があったのでそれもついでに治しておく。


「にゃ、にゃにを…… しゃがる……」


まずい、怒られる!? 僕はとっさにロロさんに目配せを送る。


「凄いにゃ、シトリ。凄く綺麗になったにゃ!」

「え……? ほ、本当かよ?」

「えぇ、髪もお肌もとても綺麗になってますよ」

「指をみてみるといい。アレをされると爪までとても綺麗になるんだ」

「うわぁ! マジだ! なんだよこの艶々な爪。これがアタシの手か!」

「シトリィさん、少し右目が見えづらかったんじゃないですか? それも治しておきました」


「ああ、確かに何年か前にオークに頭をぶん殴られてから右だけちょっとぼやけた感じがあったんだけど…… マジだ治ってやがる!」


よし、上手く気を逸らせたな。皆さん、ナイスアシストでした。ありがとうございます。うーん、それにしても


「シトリィさんは元々可愛らしかったですけど、さらに可愛くなっちゃいましたね。我ながら中々いい仕事したんじゃないでしょうか」

「か、可愛い!? いや、それよりも眼…… あー、もう! 姉さん、なんなんだコイツ!」

「そういったことを気軽にやってしまうんだ。恐ろしい男だよ、ナオ君は」


ミリアさんの困り笑顔頂きました。癒されますねぇ。女神かな?


「いやはや、まったく恐れ入ったよ。ちょっと触っただけであんなに綺麗になるもんなんだねぇ。これがミーナを治した奇跡と同じものなんだってのがまた不思議だねぇ。シトリィをあんなに美人にしちまうってんだから、ミーナの病気くらい屁でもなかったのかもねぇ」

「そりゃどういう意味だよ! おかみさん」

「いやぁ、ありがたいねぇ。ほんとうにありがたいよ。与えられしものなんて奇跡がまさか本当にあって、しかもそれがミーナを癒やせる力で、そんなもんもらう奴がいて、しかもそれが急に目の前に現れるなんて、本当に奇跡としか言い様がないよ。力を授かる代わりに遠くに飛ばされちまったっていうナオには申し訳ないけど、本当によくここにきてくれたもんさね。立派な宿屋じゃないけど、行くところが決まるまではいつまでだってここに居てくれていいんだからね」


タバサさんはそう言いながらもまたちょっと涙ぐむ。泣きすぎだ、とシトリィさんとロロさんがすかさずからかい、ハンナさんがそれを諫め、ミリアさんが優しく見守っている。

いい雰囲気だなぁ。この空間に僕はいらないね。できれば、壁になれる奇跡(チート)も下さい。



「さて、おしゃべりに長々と付き合わせちまって悪かったね。アンタたちも疲れてるだろう。今日はそろそろ休みなよ」


楽しい時間は長く続いたけど、夜も更けてきたところでお開きとなる。

明日は本格的に異世界初めての街を探索する予定だ。楽しみだなぁ。

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