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第三十話 ロロさんと僕と猫さんみっけ

話が一通りまとまったところで明日に備えて休むことになった。明日の早朝に立てば、夕方前には街につくとのことだ。


夜間の見張りはシトリィさんたちが交代でやるので僕とミリアさんは休んでいるように言われた。お手伝いも申し出たが、一晩だけなら人数的に3人で交代くらいがちょうどいいらしい。頭数が多ければいいってものじゃないんだな。「ナオが起きててもいざって時対応できないだろ?」と言われてしまってはぐうの音も出ないのでグゥグゥ寝ることにした。上手い。


そして、深夜。ふと目が覚めると、僕の顔を覗き込むようにしていたロロさんと目が合った。眼を開けたらすぐ目の前に巨大な猫の顔があったのだ。悲鳴を上げなかった僕をほめてほしい。全身ビクッとなったけど。


「起きた。気配殺してたのに」

「なんとなく目が覚めただけです」

「そう。ナオの故郷ってどこ」

「え?」

「すごく遠くから飛ばされてきた。それだけじゃ無い。エルフも獣人も知らないなんて変」


唐突すぎる話の振り方に困惑を隠せない。

実はロロさんたち三人には異世界云々は伝えていない。隠してるわけじゃなくて説明する必要もないんじゃないか、というミリアさんの言葉に従ったかたちだ。この世界では交通網も通信網も発達していないので「国を二つ三つ跨げば違う世界みたいなものさ。どこかにある故郷を探しているということにしたほうが旅をする理由になるだろう」との言われ、僕もその意見に納得したので採用している。

とはいえ、こうして疑われるくらいならちゃんと説明したほうがいいかな。


「エルフはともかく獣人はどこにでもいる。いないところなんて、この世界にあるとは思えない」


鋭いな、ロロさん。


「まぁいい。敵じゃないから。それより、ナオに触られると気持ちいいと聞いた。あと毛が綺麗になる。本当か」


あれ、どうやら本題はこっちみたいだ。


「どちらも本当ですよ。試してみますか?」

「触られるのは嫌。だけど綺麗になるのは興味深い。試みる。嘘だったら刺す」


嘘じゃないですが、すぐに刺そうとするの止めてもらえませんかね。刺さらなくても意外と怖いんですよ。

そんな心の声を押し殺し、まずは手を繋いでみる。ロロさん、外見はほぼ猫だけど指もしっかり分かれて、手はかなり人に近い形してるんだな。掌と指先に肉球の名残が残っているようだ。麗らかなお茶する女の子みたいなイメージだな。フニフニした肉球が猫っぽくて可愛い。


「グルルル…… 確かに気持ちいい。これで綺麗になった?」

「いえ、まだです。今は本当に触れているだけで、綺麗にしたり癒したりするには力を流す必要があります」

「やってみろ」

「じゃ、このまま手から肘の辺りにかけてやってみますね」


獣人さんに初めて触ったけど、この世界の獣人はかなり獣に近いんだな。人が獣の力を身につけた、じゃなくて獣が人に近づいた感じ。骨格からして人間とは違うんだ。

直接触れたことで得られた診断の情報を頭の中で整理しつつロロさんの腕を撫で上げ、綺麗にしていく。


「ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……」


めっちゃゴロゴロ言い出した。眼も細めて気持ちよさそうな顔をしているのでご満足頂けているようだ。

予定通り肘の辺りまでを撫で終えて、手を放してもしばらく目をつぶったままゴロゴロを続けていたロロさんが少ししてから我に返る。


「にゃるほど…… 気持ちよい。でもこれだけで本当に綺麗にな……」


「にゃ! にゃんだこれ!! 毛がこんなに綺麗になってるにゃ!? 触っただけで!? 本当に!?」


そして効果の程を確認して大興奮。口調まで変わって…… たき火の灯りしかない暗がりの上にロロさんは元々真っ黒な毛並みのなので正直僕には全然見えてないんだけど、夜目が利くロロさんには違いがよくわかるらしい。


「ロロさん、皆さんお休みですから声を抑えてください」

「んにゃ!? そうだったにゃ。静かにするにゃ」


耳をしょんぼりと垂れさせて慌てたように両手で口元を抑えるロロさん。なんなんですか!? さっきから一々可愛いんですけど。


「もっとやるにゃ。頭も顔もおなかも背中も足もしっぽも全部やるにゃ」


気を取り直してグイグイと迫ってくるロロさん。猫がよくやるように鼻先をすりすりと擦り付けてくる。冷たいお鼻がちょうど首筋に当たってくすぐったい。


「手じゃなくても気持ちいい……?」


僕の首筋から顔を放したロロさんが呟く。そう、僕の力は手で触ることが発動条件じゃない。全身どこからでも癒すことが出来るし、どこに触れても気持ちいいのだ。手で撫でながら目視してやるのが一番やりやすいからそうしていただけで。


「早く! 早くやるにゃ!」


ぼんやりとされるがままになっていたら催促されてしまった。

失礼な感想かも知れないけど、大きな猫に懐かれているような感じで悪くない。というか、いい。僕は犬も猫も動物は全般大好きだったのだが、気管があまり強くなかったので転生前はあまり触れ合えなかったんだ。夢に見たモフモフパラダイスが今、ここに! 爆・誕。


「わかりました。…… 本気で行きますよ」

「望むところにゃ!」






はぁー…… 堪能した。気が付けば空が白んできている。そういえばこの世界でも日が昇るの東なのかな? 今度確認しておこう。

ロロさんご本人の希望もあったので僕は全力でナデナデを敢行した。ロロさんはモフモフ系ではないけど、スベスベで艶々で撫でれば撫でるほど光沢が出てきてしなやかでカッコいい黒豹のようになっていった。今は朝日に照らされて神秘的ですらある。


「フワァ~ おはよう、ナオ。もう起きてたのか…… ってお前ら! 何してやがる!?」


寝ぼけまなこで頭をボリボリと搔きながら起きてきたシトリィさんが僕たちをみて大声を上げる。その声に反応して素早く皆さんが起きてくる。凄いな、ミリアさんなんか完全に臨戦態勢だ。


「あ~…… ロロちゃんズルい!」

「ふ、不敬ですよ!ロロ!」

「あー、なるほど。こうなったか」


今、僕は胡坐をかいたような態勢で座っており、その足の上にロロさんが丸くなって乗っかっている状態だ。ロロさんは大きいので当然納まりきらずにいるけど、頭を僕のお腹に押し付けるようにスリスリとしてご満悦のご様子。

そんな僕とロロさんを見て、思い思いの感想が飛んでくるが、当のロロさんはどこ吹く風で相変わらずゴロゴロ言っている。


「おはようございます、やっぱり皆さん早起きですねぇ」


ロロちゃんばっかりズルい!と叫んで飛び込んできたミーナさんを抱きとめつつ、朝のご挨拶。その間もロロさんの頭を撫でる手は緩めない。この手を放すもんか!


「ああ、おはよう…… じゃなくて! なんでそんなことになってるんだよ」

「ロロの毛並みが、ビロードのような輝きを…… あぁ、これが美と癒しを司る使徒様のお力!」


「うにゃ。うっさいにゃ。せっかくいい気分なのに台無しにゃ」


僕の膝の上からジロリとシトリィさんを睨み、文句を言うロロさん。なんて我儘なんだ! それでこそだ! あと、ハンナさん、また使徒様に戻っているうえにそんなもの司った覚えないです。勝手に肩書増やさないで。


「獣人たちは自分の毛並みに並々ならぬ拘りを持つものが多いんだ。私の髪を見て一番そわそわしていたし、そのうちねだるだろうとは思っていたが、予想以上に早かったな」

「そうだったんですか。僕はてっきりロロさんはそういったことには興味がないのかと」

「ふふ、だから君は女心がわかっていないというんだ」


はぁ~ ミリアさんの笑顔癒される。駄目だしされた気がするけどそんなの全然気にならない。癒しを司ってるのって僕じゃなくてミリアさんじゃない?


「にゃ~ こんなに気持ちいいし毛もキラキラになるし、ロロはもう一生ナオから離れないにゃ」

「そうにゃ~ 離れないにゃ~」


ロロさんに続いてミーナさんまでにゃあにゃあ言い出した。可愛いにも程があるだろ。これはもうミーニャさんだな! ……我ながらサムいことを考えてしまった。間違えても口走らないように気を付けよう。


「いや、それにしてもマジでスゲェな。ロロの毛、キラッキラじゃねぇか。姉さんたちも滅茶苦茶綺麗になってたから疑ってたわけじゃないけどよ」

「実際に変化を見ると驚きですね。ここまで変わるとは…… あのお力で私も……」


「あの、ところでロロさんの口調が全然変わっちゃったんですけど」


にゃごにゃご言ってる可愛い子猫ちゃん&大猫ちゃんを撫で撫でしながら気になっていたことをミリアさんに聞いてみる。


「ロロの素の口調はこっちだよ。どうやら人前で『にゃ』が出るのが恥ずかしいらしくてね。抑えようとして喋るとあの口調になるらしい」

「そうだったんですね。ギャップが激しかったのでちょっと戸惑ってしまいました」

「ロロは元々人見知りが激しい上に男が嫌いなのも本当だからな。でもナオには最初からちゃんと名乗って会話もしてただろ?姉さんの恩人だってのもあるけど、普通の男だったら初対面ならまず眼も合わせないんだ」

「そうですね。心を開くのも時間の問題だと思っていましたが…… 思った以上に早かったですね」


なんと、あれでも良い方の対応だったらしい。首筋にナイフ突き立てられたりしたんですけど。まぁ、アレは大丈夫だと確信した上での行動だったんだと思っておこう。実際大丈夫だったんだし。


「つまんないこと気にしなくていいにゃ~。そんなんじゃモテないにゃ」

「そうにゃ。モテにゃにゃにゃ」


ミリアさん! 貴女のせいで僕の天使な子猫ちゃんが変な言葉覚えちゃってるんですけど!? 責任取って結婚して下さいます!?



「さ、いつまでも遊んでないで出立の支度をしてちょうだい。今日中にブキシトンに着きたいわ」


ミリアさんがそう言うとみんながテキパキと動き出す。流石だなぁ。

軽く朝食をすませ、しっかりと火の始末も確認した上でいざ、出発。



「なぁ、アタシの髪もちょっとやってくれないか?」


と、その前にシトリィさんが僕の前に駆け寄ってきてちょっと恥ずかしそうに頼んでくる。


「そんなに時間かかるわけでも無いんだろ? サッとで良いからさ。で、街に着いたらちゃんとやってくれよ」

「シトリィ、街まで我慢なさいな」

「いいじゃんかよぉ! 見ろよ、姉さんやミーナの髪! ロロの毛並みだってあんなに変わってるんだぜ? ちょっとくらい体験させてくれよぉ」


シトリィさんは最初から興味津々だったからね。ロロさんを見て待ちきれなくなったんだろう。僕としては全然構わない。構わないけど。


「僕に触られてアレをすると相当気持ちいいらしいんですけど、構いませんか?」

「ロロも滅茶苦茶気持ちいいって言ってたな。痛いとか苦しいとかじゃあるまいし、寧ろ楽しみなくらいだぜ」


そっか。なら遠慮無く。



「みにゃああああぁ!?!?!?」


あ、ここにも猫が居た。

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