第二十七話 三人娘との出逢い2
さて、説明の前にまず厚手のかなりゴワゴワしたグローブを両手に装備する。
僕の力は布程度なら貫通するけどこのグローブ越しには発動しないのは確認済みだ。
「シトリィさん、僕と力比べしてくださいませんか?」
そう言って僕は両手を前に出して構える。格闘漫画なんかでよくある力比べの構えだ。
「おいおい、アタシは筋力強化も得意なんだぜ。あたえられしものといってもお前の力は治癒なんだろう? 無茶はやめときな」
「握りつぶしていい。シトリがやらないならロロがやる」
大丈夫ですよ、種も仕掛けもありますから。そう言って笑って見せると渋々といった体ではあるがシトリィさんが力比べに応じてくれた。
「気が乗らないなら、ロロが代わるのに」
「ロロは本気で握りつぶしに行きそうだから駄目だ」
シトリィさんと向かい合って両手を合わせる。がっぷり四つってやつだね。流石にグローブ越しだと女の人と手をつないでるという感動は少ない。
「よし、じゃあいくぞ。よぉーい…… フンッ」
掛け声とともに力を込めて押し込んでくるシトリィさん。だがしかし、僕はビクともしないのだ。
「ムゥ…… 言うだけあって中々やるな。じゃあもうちょっと力を入れても大丈夫だな」
更に力を込めてくるのが伝わってくるが、やはり僕はビクともしない。フフフ。
「クウゥ…… これだけ押しても涼しい顔しやがって」
更に更に押し込んでくるシトリィさん。腕だけじゃなくて全身で前のめりになって押し込んでくるからお顔が僕の顔の前まできてしまった。額には汗を浮かび、頬は紅潮している。うーん、シトリィさんは男勝りな口調のわりにお顔は可愛い系だな。丸くて大きな眼が印象的だけど小さめのお鼻とプクッとした唇も可愛らしい。
「おいおい、力比べの最中に上の空で考えごとなんて随分余裕をみせてくれるじゃないか。ならこっちも強化最大全力で行くぜぇ!」
おぉー、凄い。シトリィさんの全身からキラキラと光の粒みたいなのが出始めた。魔力的なものを使って筋力を強化しているんだろう。
「グググ…… ここまでやっても全く手ごたえが無い…… というか、お前のんびりした顔してるけど力入れてるのか?」
あ、流石に気付かれた。そう、僕はさっきから全然力を入れたりしていない。僕の感覚ではただ両手を合わせて立っているだけだ。
「よし、その辺でいいだろう。ナオ君の異常さも伝わったようだしな」
そしてミリアさんの終了宣言が続く。僕とシトリィさんは指示に従い手を放し力比べを終える。
「姉さん、どうなってんだ、コイツ。ビクともしなかったぞ」
「ナオは力を入れていなかった様に見えた。ただ立っていただけ」
「これが使徒様の大いなる力の一端…… 大樹よ!」
いい感じで驚いてくれているな。ここでさらにもうひとつ。
「次は…… ミリアさん、お願いします」
「よし、いくぞ。三人ともよく見ておきなさい」
僕とミリアさんはみんなから少し離れた場所でお互いに向かい合う。ミリアさんとの距離は5mくらいだろうか。これから何が起こるのかと三人も興味津々のご様子だ。
ミリアさんが剣を抜き、構える。
「ハッ」
次の瞬間、ミリアさんは僕の目の前にいた。それだけじゃなくミリアさんが持っていた剣が僕の左肩に当たっている。何時斬られたのかすらわからなかったけど、つまりミリアさんは合図の声と同時に間合いを一瞬で詰め、袈裟斬りに斬りかかってきたのだ。
目にもとまらぬ早業とはまさにこのことだろう。普通なら僕は斬られたことにすら気づかずに死んでいたな。
「姉さんが剣を止めた……? いや、アイツが防いだのか?」
「ミリアは本気で斬った。なのに斬れてない。何故?」
「大樹の奇跡が使徒様をお守りになったのですね!」
僕の目には消えたようにしか見えなかったけど、三人娘さんはしっかりとミリアさんの挙動を捕えていたようだ。流石、護衛も引き受けているような人たちは動体視力も鍛えられている。
だいぶ驚いてくれたみたいだし、そろそろちゃんと説明しよう。
「ご覧頂いた通りです。僕を力尽くで拘束しようとか傷つけようとかはほぼ無駄なので僕の護衛は必要ありません。最悪でも時間稼ぎは出来ます」
「いや、ナオのあたえられし力は治癒なんだろ?ミーナの病気を治して、ミリア姉さんの大怪我も治したらしいじゃないか。あたえられし力は一つじゃないのか」
「なにかズルした?」
「使徒様のお力は万能なのですね!」
ごもっともな疑問を持つシトリィさんとズルを言い当てるロロさん。そしてハンナさんの根拠のない信頼が怖い。
「僕の力は、正確に言うと『医者がするようなことを神の奇跡で再現できる』ことです。怪我の治療や病気の快癒などが代表的ではありますね。でも、それとは別に僕はとある人から『自由に生きろ』というお言葉と『丈夫な肉体』を授かっているんです。なので僕の意に反して僕から『自由』を奪うことは出来ません。そしてヒトとは違う基準で『丈夫』になった僕の身体を傷つけるというのも現実的ではありません」
こういう風に言えば後は大体察してくれるだろ。
「な、なるほどな。神様お墨付きの、ってことか。それなら姉さんのあの一撃でも斬れないのも納得だ」
「全く力をいれてなかったのにシトリが押し切れなかったのも納得」
「アァ、アァ…… お力だけで無く、お言葉まで授かっておられるとは…… あなた様こそまさに真の使徒様です」
ひ、一人また泣き出しちゃったんだけどもっと情緒を安定させて欲しい。使徒様からのお願いです。
「そんな訳なので僕の護衛はいりません。みなさんには万が一の時にはミーナさんの安全を最優先で考えていただきたいです。ただ僕は剣も魔法も使えないから本当に時間稼ぎしか出来ないので、ある程度状況が固まったら助けてくださいね」
「なるほどな。そうそう死なない自分よりもミーナを護れってか。あたえられしものなんていうからどんな野郎がでてくるかと思ったが、なかなか筋の通った野郎じゃないか。気に入ったぜ」
「ミーナを最優先するのは当然。それを理解しているのは認めてあげる」
「あぁ…… 使徒様……」
ハンナさん、さっきから使徒様しか言ってなくない?時間がたてばもうちょっと落ち着いてくれるといいんだけど。
「ナオ君がシトリィたちに自分の護衛はいらないんだとしっかり理解させてミーナの護りをより確実にするんだと訊かなくてな。実際に見せて説明させてもらった」
「確かにこんなの口で説明されても納得できなかっただろうな。まぁ、言いたいことはわかったよ。アタシたちがミーナにはかすり傷一つつけないようにしっかり護ってやるさ。元々そのつもりだったんだしな」
シトリィさんは拳を胸に当て力強く請け負ってくれ
「この辺りは元々魔物も盗賊も出るような場所じゃない。けど、万が一の心構えは大事。ミーナと大事な荷物は任せて」
ロロさんも長いしっぽをピンとたてて引き受けてくれた。
「全ては使徒様の御心のままに…・・・」
ハンナさんは相変わらず涙を流している。今の会話に泣くほど感動するところあった? キミに涙は似合わないぜキラリ、とかやってみたくなるな。大変なことになる予感しかしないからやらないけど。僕は詳しいんだ。
「さ、それじゃ説明も済んだことだし出発しましょうか」
ミリアさんの声に聞いてミーナさんはワクワクとした様子で荷馬車に乗り込んでいく。
「ミーナ、ちっちゃいときは街に住んでたんだけどおっきくなってからは行ったことないから楽しみ~」
「僕も大きな街は見たことがないので楽しみです。ワクワクしますね」
僕も荷馬車の横に並び、ミーナさんと歓談しつつ出発の時を待つ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、姉さん。もう一つ確認させてくれ。姉さんがその、一段と綺麗になったのもナオの力なんだよな」
シトリィさんがちょっと慌てたようにミリアさんに尋ねる。
「あら、煽てても何も出ないよ、シトリィ」
ミリアさんはちょっとうれしそうに眉を下げて困ったように笑いながら答える。
「事実。ミリアの髪はとても綺麗になっている。ミーナも」
「フフ、そうだな。これもナオ君の力によるものだ。まぁ、そんな話も移動しながらするとしよう。日が高いうちに森は出ておきたいからな」
「それもそうか。それじゃ出発しようぜ!ミーナ、忘れ物はないな?」
「大丈夫!」
さぁ、いよいよ最初の森を出て初めての街に向かう。
この先には一体何が待っているのだろうか。ワクワクしてきたぞ。




