第二十二話 覚悟の準備は良いですね。
「キミが何故、不思議そうな顔をしているのかが私には不思議だよ。その辺で一度手を止めてミーナの髪を確認させてくれ」
お母さんに娘さんを確認したいと言われてしまっては従わざるを得ない。
名残惜しいけど…… 仕方ないんだ……
「クッ……」
「そんなに悔しそうな顔しなくてもいいだろう」
「終わりだって。ナオさん、また後でポカポカしてね」
僕の手元を離れていく天使。あぁ、僕は転生によって四苦からは逃れられたが八苦からは逃れられない宿命なのか……
僕が去年快癒した筈の病に苦しんでいる中、美人親娘は髪の確認に夢中。
「これは…… なんてことだ……」
「凄ーい、ミーナの髪がキラキラサラサラになったぁ!」
どうやらミーナさんにはご満足頂けたようだ。あらゆる汚れを完全に消し去って潤いを与えてダメージケアもした。更になんか『女の子の髪っていい匂いしそうだなぁ』と思って撫でていたら実際にしてきた。
何しろこちとらチート持ちだ。それぐらいのことは起こるでしょう。うむ。
「ナオ君、キミ、どのくらい変化あるか確かめるなんて言っていたけど、こうなるのわかってたね?」
「まぁ概ね想定内ですね」
「ナオさん、ありがとー。次はお母さんにもやってあげて欲しいなぁ」
ハァァァー、と今度は思いっきり大きな溜息を吐くミリアさん。その吐息、吸い込みたい。
あと、ミーナさん。ミリアさんが望まれるなら喜んでやらせて頂きますが、その場合七桜君のナオ君は大変なことになります。
「これで、『ほんの少し上乗せ』なのか…… 神の目から見れば誤差程度なのかも知れないが、凄まじいな」
「あ、ちょっと誤解がありそうですけど、上乗せ分は本当に僅かですよ。その髪は概ねミーナさんの元々の状態からダメージがなくなっただけです」
「え?」
「元々髪って日常生活で勝手に痛んでいくものらしいです。つまりそれが本来の姿ってことですね」
僕の言葉を聞いて、再度マジマジとミーナさんの髪を観察しだすミリアさん。実際綺麗になったよね、ミーナさんの髪。艶々してるし、ダークブロンドで比較的暗めの色なのに光を反射してる。テレビで見るシャンプーとかのCMの女の人みたいだ。
「そんな馬鹿な。だって、手触りも艶も全然変わっているし、見ろ光を受けてあんなにキラキラしている」
ミーナさんは綺麗になった髪がよほど嬉しいらしく、明かり窓から入る光の下でくるくると回って光の中で広がる髪を楽しんでいる。
自分のしっぽを追いかけている子犬みたい。可愛いが過ぎないか。法に触れてない?
「不足していた栄養素なんかは多少補いましたけど、そのぐらいです」
「たったそれだけで、あれほどの変化が……」
マジマジとミーナさんを凝視しているミリアさん。
鈍い僕でもミリアさんが今、何を思っているのかは想像がつく。
「「あの」」
被った。
「何でしょうか」
「いや、ナオ君の話から聞かせてくれ」
今度はお互い譲り合う。
このままじゃキリがないので僕から言ってしまおう。
「よろしければミリアさんもやってみますか」
「よいのか!?」
パッと顔を輝かせるミリアさん。+2可愛い
「しかし、こんな事でナオ君の手を煩わせてよいものなのだろうか…… そもそも、これだけの力を使って、キミには負担はないのか」
なにやら葛藤しているミリアさん。思い悩む美女 +3可愛い
僕の事を心配して気を使ってくれるミリアさん +1可愛い
「僕の感覚としては本当にただ触れているだけなので負担とかは全くありません。ただ……」
「ただ?」
「その、アレは覚悟してくださいね。できるだけ刺激しないように努力はしますけど」
何かを思い出してしまったのか頬を染めるミリアさん。
駄目です。可愛すぎます。+1000可愛い
確実に法に触れてます。逮捕しますね。
「……わかっている。で、出来るだけお手柔らかに頼む」
全くミリアさんは僕の純情を弄んでなにがしたいのか。
その恥ずかしそうな顔をみただけで七桜君のナオ君が出番だと思って準備を始めてしまいそうだ。
「ミーナ、昨夜話したように、外の畑を片付ける用意をしてきてくれるかな」
「はーい。お母さんもポカポカしてもらうの?」
「あぁ、そのつもりだよ」
「あとで見せっこしようね。行ってきます」
元気に畑仕事にお出かけしていくミーナさんを見送る。自然な流れで隔離に成功。このあと、教育に悪いことが起こる可能性を考えれば当然の配慮であろう。
だがしかし、結果として何やら覚悟を決めた顔をしている気がするミリアさんと二人きりになってしまった。
美女と密室(?)で二人きり…… 何も起きない筈がなく……




