第二十話 真実は時に人を傷つけるものと知れ
まだだ、まだ諦めるのは早い。僕が何かを企んでいたなんて証拠は何処にもないのだ。
なんのことだかさっぱりわかりません、そんな気持ちを込めて小首をかしげてみせる。
すっとぼけ大作戦だ。
ミリアさんはそんな僕を少し呆れたようなジトッとした目で見ている。
「とぼけない。ナオ君がミーナに危害を加えるなんて私も思ってないけど、さっきの顔は明らかになにか悪戯を思いついた子供の顔だった。大人しく白状なさい」
ふむ…… ジト目美人か。悪くないな。新しい扉開きそう。
ミリアさんってクールビューティ系美人だけど実はかなり表情豊かだよね。ずっと見つめていたい。
「ナオくん?」
くだらないことを考えながら一人うむうむと頷いていたらミリアさんに返事を催促されてしまった。
悪戯を注意する先生のようだ…… 悪くない、悪くないぞ。
「いえ、悪戯なんてするつもりはないですよ。ただ、さっきのことで新しい力の使い方というか、出来ることが少し増えたのでそれを試してみようかなぁ~って。勿論危険はありませんよ」
「危険に関しては疑っていないよ。試してみたいことがあるというのならそれ自体は全く構わない。だが、その相手は私でも良いんじゃないか? ミーナでないと駄目だというのであれば、せめてなにが起こるのか説明は欲しいな」
「ミリアさんだと、その、アレになっちゃいますし…… 決して悪いことではないので何も言わずにやってみてびっくりさせたいなぁ、なんて」
「人を故意にびっくりさせようとすることを悪戯というのよ。繰り返すがナオ君を疑ってはいない。疑ってはいないが、神の奇跡を使った悪戯というのはさすがにな……」
出た。ミリアさんの眉尻を下げた困り顔のような笑い顔。これを見るために僕はこの世界に来たのかも知れない。
「ナオ君、キミ、ミーナに翼をはやそうとか企んでないだろうね?」
おっと、とんでもないこと言い出したぞ、このクールビューティー。
「翼ですか? なんでまたそんな?」
ミリアさんも中々想像力逞しいな。14歳の頃には病にかかっていたのかも知れない。
「キミの力が更に増したというのならば、それぐらいのことは出来てもおかしくないと思えるし、キミ、たまにミーナを見て『天使かな?』って呟いているだろう。天使の翼をつけて本物の天使にしようとしているんじゃないか……?」
すみません、原因は僕でしたか。右目がうずいているミリアさんなんていなかったんや。
というか、声に出ていたうえに聞かれてしまっていたのか。恥ずかしい……
「流石にそこまでだいそれたことはしませんよ。隠すようなことでもないのでもう正直に言いますが、僕はミーナさんの頭を撫でさせてもらおうと思っていました」
「頭を撫でる? それぐらいは構わないしむしろミーナも喜ぶだろうが、理由をきかせてくれるかい」
「ナオさん、ミーナの頭撫でてくれるの? やったぁ! ポカポカだ、ポカポカ!」
おっといち早くご本人からの許可を得てしまった。
…… アレに変な中毒性なんてないのはわかったけどちょっと不安になるな、この反応。
「上手く説明出来ないんですけど、あの力は病気や怪我を治しているというよりは生物の体を理想の状態に書き換えている、というような表現の方が近いんです。だからそれを上手く使うと例えば傷んだ髪に潤いと艶を与えてサラサラキラキラにしたり、お肌をプルップルにしたりといった事が出来る筈なんです」
「髪に潤い…… お肌プルプル……」
「ポカポカ! ナオさん、ポカポカ!」
「それだけじゃないですよ! 髪で言うなら普段は砂埃や汚れ・乾燥なんかに曝されてその美しさを充分に発揮出来ていないけど、それを一気に理想の状態に戻し、ついでにその理想をほんの少しだけですけど更に引き上げることも出来るんです」
「……」
ざっくり言うとべ〇マをかけるとついでに命の木の実が食べられますよ、ってことだ。
伸ばす方向性は僕が意識すれば自由に変えられるから、筋力を強化したりとか敏捷性を上げたりとか、ミーナさんの体力をつけてあげたりも出来る。これはなかなか素敵なことだぞ。
「」
「引き上げた分が身体に馴染むまで少し時間が必要ですから、一度に無制限に、とはいきませんが逆に言えば多少時間を置けば何回でも上限を上乗せし続けることも出来るんです」
ふふふふふ、これは奇跡と言うほど凄すぎもせず、程ほどに凄くて応用範囲も広いなかなかに便利なチートではないだろうか。
僕は今、渾身のどや顔を決めている。
……
おや?
ミリアさんの反応がないですね。霊圧消えちゃった?
とりあえずミーナさんにポカポカしとこうかな。そのうちミリアさんも帰ってくるでしょう。
「ナオ君」
おや、おかえりなさい。
「自分でも言っていたが、キミ、モテなかっただろ」
グヘッ!?
いきなりディスられた! 自覚はあるし上位存在公認の非モテでしたけど、そんな豪速球投げ込まれるとちょっと泣きそうになっちゃってます。
美人に罵られて開く扉はもってないんです、僕。




