第十六話 ギブミー・チョコレート
ミーナさんの診断は問題なく終わったので、さっき発見したチョコレートを出してみる。
「ナオ君、これは?」
「カバンの中に入っていた僕の故郷のお菓子です。甘くて美味しいんですよ」
金色の紙に個包装されたチョコを一つずつお二人に渡し、紙を剥がして見せ、チョコレートを一欠片囓ってみせる。
「確かに凄く甘い匂いがするが…… なんというか、独特な色をしているな……」
「この紙、金色で凄く綺麗!こんなの初めて見た」
チョコの色は見慣れていないミリアさんには抵抗があるようだ。うん、色だけで言えばアレに見えなくも無いよね。考えていることはわかりますよ。
一方ミーナさんはチョコを包んでいた包装紙の方に注目している。この世界の製紙事情はわからないけど、金色の包み紙は高級っぽい感じはする。僕の目から見てもそうなんだからミーナさんが気になるのも無理は無いかな。
「色は変わっているかもしれませんが、甘くて僕の好きなお菓子なんです。甘い物がお嫌いじゃ無ければ食べてみて下さい」
「甘い! 美味しい! お母さん、これすっごく甘くて美味しいよ」
「確かに甘い…… そして固いのかと思えば口の中で溶けていく…… 初めて食べるが美味しいものだな」
「お口に合ってよかったです」
甘いものを食べると幸せになるよね。父さんは甘い物が苦手だったけど、僕と叔父さんは大好きだったからよく二人で甘いケーキを食べては「こんなに美味しい物が嫌いだなんてしんじられない」なんて父さんをからかったものだ。
「ナオ君、こんな綺麗な紙に一つずつ包まれているし、この甘さだ。高級品だったんじゃないのか? 頂いた後で言うのもなんだが、良かったのか?私たち二人に気軽に渡したりして」
「いえ、これは僕の故郷では子どものお小遣いで買えるくらいのものですよ。お気になさらず」
「だとしてもこれはもう恐らくこちらでは手に入らないものだろう。貴重な故郷の思い出の味ともいえるものの筈だ。もっと大事にとっておいた方がよかったのでは」
「ミリアさん、おいしいものはみんなで食べるともっと美味しくなるんですよ」
僕がそう言うとミリアさんは困ったようないつもの笑顔で穏やかに笑ってくれた。抱きしめたい、この笑顔。
そんな穏やかなひとときを過ごしていると不意に聞き覚えのある電子音が鳴り響いた。
「え、これ何の音?」
「ミーナ、こっちに来なさい」
この場には不釣り合いな電子音にお二人は警戒しあたりを見回す。ミリアさんはいち早くミーナさんを抱き寄せて守る体勢になっているのが流石だ。
この電子音の発生源は僕のカバン。スマホの着信音だ。
なぜスマホがいきなり鳴りだしたのか疑問は残るけれど、まずはスマホを確認しないと。
鳴り続けるスマホを取り出してみると着信画面になっていない。けど着信音は間違いなくコイツからだ。
状況は一向につかめないまま、僕は通話ボタンを押す。
「もー、遅いよ七桜君。もっと早く出てよね」
……ハ?
聞き覚えのある声、口調がスピーカーから聞こえてきた。
「なんで、貴方が電話掛けてきてるんですか……」
「チッチッチッ、違うよ七桜君。ボクからこうやって言葉が届くことは世間では神託っていうんだよ。覚えておくといい」
通話相手は間違いなくあの時の上位存在さんだ。相変わらずノリが軽い。
「いえ、僕が言いたいのはそういうことではないんですが。というか、電話で神託って有りなんですか」
「テレパシー的なので伝えても良かったんだけど、ちょうどそこに《遠くの人と会話をする》って概念の結晶みたいなのがあったから。ちょうど良いなとおもってさ」
「……そうですか」
多分何を言っても僕のこのモヤモヤした気持ちは伝わらないんだろうな。いや、わかってるけど気にしていない可能性も高いな。
「七桜君、ボクにもチョコちょーだい」
この神様、マイペースすぎない?
「差し上げるのは問題ないですけど、どうやってお届けするんですか」
「ボクに捧げたい、と思って置いてくれればいいよ」
そういうものか、と思って言われたとおりにチョコを一つ取り出してテーブルの上に置いてみる。
すると、なにやら優しげな、それでいてどこか神々しささえ感じる光に包まれてチョコは消えてしまった。
「奇跡だ……」
ミリアさんが呟いているのが聞こえてきた。ミーナさんも目をまん丸にして驚いている。可愛い。
「あの、もしかしてですけど。チョコが欲しくて電話……?神託……?してきたんですか」
「まさか。チョコはついでだよ。うん、美味しいねこのチョコ。七桜君は正直者だなぁ」
日本の製菓業者の皆さん、皆さんのチョコは上位存在も認める美味しさでしたよ。
このことを知ったらきっと喜んでくれるだろうな。伝える術は無いけど。
「本題はね、まぁチュートリアル終了のお知らせってとこかな」
あ、ちゃんと本題もあったらしい。




