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4 増水

 次の日、目が覚めると雨が降っていた。

 ――シロ、ちゃんと雨宿りできてるかな。

 前に雨が降った時、置いてきた傘は地面に固定してある。やんちゃなシロも、ちゃんと傘の下に入っていると良いんだけど。

「ちょっと、あすか。お願いがあるんだけど」

 シロに会いに行こうかな、と考えていると、母から声をかけられた。

「どうしたの?」

「窓、全部閉めちゃってくれる? 雨打ち込んできそうなの」

「わかった」

「ついでに、ベランダのスリッパも入れておいて。物干し竿も」

「了解」

 私はさっと窓を閉め、ベランダのものを玄関にしまいこむ。ベランダの物干し竿までしまうほど雨も風も強くないのにと思うが、それを言うと「前の物干し竿は、そうやって扱ったせいで錆びて折れたんだから!」と怒られるので黙って中に入れた。

 しかし、天気は徐々に悪化していった。

 午後になる頃には、雨は土砂降りになっていた。窓を閉めて室内にいるのに、叩きつけるような音がしている。

「心配よねえ。パパ大丈夫かしら」

 母が眉をひそめて言った。

「きっとこの天気じゃあ川も増水するだろうし、しばらくは車もあの辺は」

「増水?」

「ほら、あの川よ。テニスコートの辺りなんか、激しい雨が降ると増水しちゃって大変なんだって」

 思わず目を見開いた。慌てて玄関に向かう。

「ちょっと、出かけてくる!」

「こんな天気なのに」

「すぐ戻るから!」

 私は雨の中、傘もささずに飛び出した。向かう先はシロのところ。

――シロ、無事でいて!

無事を確認したら、シロの段ボールの場所を移動させよう。一日くらいなら、どこかに避難させられるはずだ。

しかし、いつもの場所にシロは見当たらなかった。

「シロ!」

 声を張り上げると、かすかに声が聞こえた気がした。

「シロ! どこにいるの!?」

 私は必死に辺りを見回した。いったい、どこにいるんだ。

 濁濁と流れる川に目をやった瞬間、私は息をのんだ。

 シロが遠くで流されている。

「シロ!」

 私は必死で走った。

 泳げないシロは、毛を濡らして必死でもがいている。しかし川の流れは激しく、シロの必死の動きは役に立っていない。一向に岸に近付く気配もなく、シロは浮き沈みを繰り返している。

「シロ、今行くから!」

 私は叫ぶと、靴を脱ぎ捨てて川に飛び込んだ。

 濁った川が私の動きを奪う。シロを何とか視界に留めながら、必死になって泳いだ。思い切り手を伸ばし、シロをつかもうとする。

 あと、もうちょっと。

 水の音以外、何も聞こえなかった。雨は強くなる一方で、早く助けなきゃ、と思いばかりがつのる。

 ああ、シロに追いついた。

 そう思った瞬間。

「あすかちゃん!?」

 激しい川の流れが襲い、私たちは川に飲み込まれた。息が苦しい。

「ちょっと、あすかちゃん!!」

 岸から誰かが自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。

 ――その音を最後に、何の音も聞こえなくなった。


あすかちゃん、無謀すぎる……!

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