1 迷子の先の青年
お盆らしい話にしました。
よろしくお願いいたします。
道に迷った先で出会った青年は、不思議な人だった。
「ちょっと待っててね。今、お茶でも持ってくるから」
「あ、いえ。おかまいなく」
慌てて言ったが、青年は聞いちゃくれなかった。
「気にしないでよ。せっかくのお客様なんだから」
青年はにっこりと笑うと、紺色の着物を翻して部屋の奥へと引っ込んだ。
青年とはいったが、彼は年齢不詳だった。十代後半にも見えるし、見ようによっては四十代前半にも見える。普段から着物を着ているらしく、歩き方一つとっても上品だ。黒々とした髪やなで肩、すらりとした体型は、和装によく似合っていた。
取り残された私は、案内されたばかりの縁側に座り、青年を待つことにした。
「どうしたもんかな」
私はぼんやりと庭を眺めた。
縁側から見えるちょっとした庭は、草花も、盆栽も、丁寧に手入れされている。制服姿の私は、あまりに場違いなんじゃないだろうか。
「なんか訳のわからないことになっちゃったな」
私は小さく溜息を吐いた。
その時、足元にふわりとしたものが触れた。見下ろすと、小さな白猫が私の足にすり寄ってきている。
「かわいい」
この家の飼い猫だろうか。赤い首輪の子猫は、どこか懐かしい気がする。
私はそっとその子を持ち上げた。やっぱり、会ったことがある気がする。
――いったい、どこで会ったんだろう。
「おまたせ」
不思議に思っていると、コップを持った青年が戻ってきた。
「すみません、わざわざ」
「良いの、良いの。……あれ、シロと仲良くなったの?」
「シロ?」
「この猫の名前だよ。かわいいでしょ、シロ」
青年は自慢げに微笑んだ。
「もっとも、君も知ってるかもしれないけど」
「え?」
「だってほら。こんなにも懐いているんだから」
青年の言う通りだった。シロは私の腕の中で、リラックスしているように見える。
記憶を探ろうとすると、頭が鈍く痛んだ。何かがおかしい。
青年は心配そうに私を見た。
「大丈夫? 水分不足かもよ。お茶飲んだら?」
「すみません。ありがとうございます」
私は青年にお礼を言うと、コップに手を伸ばした。
ご意見いただけると嬉しいです。