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 途中で支配人様の体調が悪くなってしまったみたいで本日の授業は突如として終了した。執務室からフラフラになりながら出ていく支配人は熱にうかされているようで目を回していた。


 どうしましょう、そんな気分を害するほどガッカリさせてしまったのかもしれない。そこから体調までおかしくなってしまったのかもしれない。


 はっ!もしかして「こんなに頭悪いやつを教えてなければいけないのか」と頭を痛めてしまったんだろうか?



 不安でたまらなくなり思わず執務室前の廊下でしゃがみ考え込む。



 違う、とは言っていたような気がする。

 それにまだ二度と来るなとは言われていない。

 うん、大丈夫。また明日改めて謝罪と、どのように対応すればいいのかちゃんと聞こう。今日のことは家に帰って振り返って反省点を出して…。

 そうだわ!執務のお手伝いだけではなくて、他にもなにか役に立って少しでもご迷惑だけをかける存在にならないようにしないと...!



「あの…どうかされました?」

「あっいえ!」



 しゃがみこんでいたせいで周りに心配をかけてしまったみたいで数人がこちらを見ている。

 慌てて立ち上がりなんでもないと伝える。声をかけてくれた女性はほっとした様子で頭を下げる。



「そうですか。では失礼しますね」

「ありがとうございます」



 そうか、もうお昼の時間も回っているし従業員の方々起き出しているのね。

 まだ営業時間では無いからか、シンプルなドレスに房結い上げていない髪がさらりと背中で揺れている。

 彼女は私を気にしつつ執務室のドアをノックした。

 もちろん中は不在。返事はなかった。



「あ、支配人様でしたら体調を崩されたみたいで今日はもう自室にお帰りになられ、今は誰も居られませんよ」

「え?!…そうなんですか…どうしよう」

「なにか、お困り事ですか?私でも良い内容でしたら相談のりますよ?」



 どうしよう、と彼女の声が聞こえてしまったのは仕方がない。

 余計なお節介かもしれないが明らかに支配人不在の報告で顔色が悪くなったし、このまま放置は出来ない。



「貴女は…支配人のお客様ですよね?そんな方に相談なんて…」

「お客なんてとんでもございません。お手伝い兼生徒ですので気にしないでください。あっもちろん無理にとは言いませんし、立場は部外者ですので!」

「生徒…?では貴女リュウ様に弟子入り志望された方ですか?」

「ご存知なんですか?」

「もちろん。この館の中での噂話はよっぽどの事がない限りすぐに広がりますの」



 クスっと口元に手を当て笑う彼女は可愛らしい、笑顔が綺麗なお姉さんだった。



 ではここでは話しにくいからと従業員専用の休憩室に連れていってもらう。

 大きなテーブルに、応接セットまで完備されていてドリンクコーナーまであり、過ごしやすいに考えられたお部屋だ。

 挨拶をしながら入室すると、既に数人の方がテーブルにて朝食?昼食?を摂っているようだった。



「おひようマァリ、その子がもしかして?」

「そうよ、支配人様の」

「やっぱり!初めまして!私グリシャって言います!昨日はどうもー」

「初めましてロゼリアと申します。昨日と言うと...もしかして玄関先で案内してくださった方ですね!」



 ロングヘアが綺麗な困っていたお姉さんがマァリさんで活発そうで、昨日対応してくれた方がグリシャさんですね。

 よし、覚えたわ!私人の顔覚えるの得意なんです。



「まぁ…これはまた可愛らしいお顔に、羨ましいぐらい艶めかしい身体の持ち主ね...。これは店出ししたらすぐに華称号貰えるレベルね」

「グリシャ!そんなふうに見ちゃダメよ!通達貰ってるでしょう?」

「あぁ、あの通達ね。そっか彼女が...」

「あ、あの?」



 通達の件や、華称号などの単語が分からずきっと聞いてはいけない話をしているのだと察し口を挟む。

 出来ればうっかり聞いてはいけない話を聞かないようにしたい。



「あら、ごめんなさいね。気にしないでくれると嬉しいわ」

「畏まりました。ではご挨拶から再スタート致しましょう?」

「ふふっありがとう。ロゼリア様、よろしくね」



 なんだろう、このお店の方みんな可愛らしいのかしら?レベルが高いわ。さすが「王族御用達」と言ったところかしら。

 そのまま流れで3人でソファーに腰をかけて1対2で向かい合い本題へと入る。



「実は執務室に行ったのは手紙を書いてもらうためなのよ」

「お手紙ですか?」

「そっか、知らないよね。私たちお客様のご迷惑にならない限りお手紙をお送りしてるのよ」



 内容は、お店に来てくれてありがとう、また来てくださいと言ったところらしい。



「お手紙を書くを支配人様が行っているのですか?」

「違うわ。書簡の方に書いていただくことになってるの」

「そうなんですね」



 ではなんで執務室にいらっしゃったのだろう?あの部屋には支配人しかいなかったはずですが...。


 ロゼリアが来ることになったと通達があり、元々執務室で働いていた人物は別の部屋に追い出されていた、なんてことは一切知らないロゼリアだった。



「その書簡の方が書かないといけない内容なのですか?」

「あー、実は私もマァリも文字が書けないんだよね」

「それで代筆されているのですね!理解しました!」



 文字を読み書きするためには学習できる環境がないと難しい。日常生活で使う言葉などは読み書きできるだろうが、ここはやはり「王族御用達」だ。庶民のような言葉遣いでは不備があるのだろう。



「出来れば今日中に手紙送りたかったんですけど...」

「あぁマァリ最近お客少ないもんね」

「ふふ、そんなこと、ないと、思いますがね?」

「だね、...ごめんなさい。怒らないで...」

「あ、あの」



 楽しそうにお話する2人の邪魔になってしまうが小さく手を上げる。

 突然なくなってしまった授業、さらにご迷惑をかけてしまったかもしれないとおう肩身の狭さ。出来れば汚名返上したいと思っていましたが、それはここの場面では?!



「私が代わりに書きましょうか?」

「え?」

「いいの?」

「迷惑でなければ、ですが...」



 2人目を合わせてる。ししゃしゃり出すぎてしまったかしら...。でも自分で出来ることを探そうと思った矢先に転がってこのお話。是非出来ることならお手伝いさせていただきたい。



「こちらは大助かりなんですが、それこそロゼリア様のご迷惑になりませんか?」

「いいえ!まったく!こちらの営業時間が始まる前までしたら時間は空いてますし!」



 昨日決めた決まりごとのひとつ。

 営業時間内にはこの館から退出すること。

 こういった店だから来る人全員が善人ではないから、と気遣って貰った。あと、万が一にも見知った貴族がくると立場敵に困るんじゃないかと。

 確かにあんなやつでも婚約関係だ。変に弱みを握られるとも限らないし。



「じゃあお願いしよう...かな?」

「任せてください。ではどうしましょう?どこで書けばよろしいでしょうか?」



 するとこの休憩室に文机があり、文字が書ける人は自分で手紙を出せるようになっていた。



「この引き出しに何種類か紙も置いてあるのよ」



 言葉の通り、色鮮やかな数種類のレターセットがきちんとしまわれている。

 羽ペンもシーリングのロウソクなど何不自由なく置かれていて改めてこのお店に対して尊敬する。


 この休憩室だって、どんな人がいつ起きてきてもいいように、キッチンに人がいて、清潔で寛げるソファーなども配置され談笑できるようになっている。


 こんなに従業員のことを考えられているなんて素晴らしいわ。

 嬉しい気持ちになりウキウキと便箋等を選ぶ。



「ではこちらの色を使いましょう!マァリ様にピッタリな色ですわ。なんて書けばよろしいでしょうか?」

「そうですね...では...」



 言われた通りに文字を走らせる。

 が途中でふと思いつく。



「マァリ様、私がお教えしますのでご自身で書いてみませんか?」

「え?私が、ですか?」

「はい。文字さえ覚えてしまえば今後役に立つと思います」

「でも私、本当に庶民の方でも下の出で...何も分からないんです」

「大丈夫です。言葉遣いもお綺麗ですしきっと素敵なお手紙描けるようになりますよ」

「ぺ、ペンの持ち方すら分からないですのよ?」

「私もそうでしたから大丈夫ですよ」



 では早速、と机を譲りちょっと嫌がるマァリを座らせる。

 持ち歩いていた鞄からメモ用に持ち歩いていた不要紙を取り出してまず手本になるよう手紙の文章を書く。



「この文字の下に真似をするように書いてみてください。ペンの持ち方は、こうです」



 戸惑いながらも言われるままペンを持ちインクをつけ紙に文字を書く。



「すごい、...震えるわ」

「大丈夫ですよ。あ、そろそろペンにインクを付け足してください。出来れば文字の途中ではなく、そう、その辺りです」



 難しい部分では手を添えてペンを導く。幼い頃メイドのカトリーナに教わったみたいに。



「出来た...けど、こんなガタガタな文字では出せないわね」

「今回は難しいかもですが練習すれば綺麗な文字かけると思いますよ」

「うん、...がんばってみようかしら。また教えてくれる?」

「はい!私がこちらにお邪魔できる回数は限られていますができる限りお教えいたしますわ」



 嬉しそうに微笑むマァリの様子に達成感を感じる。私でもここで役に立てそうなことがあってよかった。

 ほっとしているとグリシャも教わりたい、多分ほかにも文字を覚えたい子は多いと思うからその人たちも一緒に教えてくれないかと願われ、もちろん快く了解した。



 それじゃあ明日は文字の練習になるような参考書を持って来ましょう!


 楽しみがまたひとつ出来たわ!



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