(^ω^)江戸の駕籠屋のようです。
駕籠とは、人の座る客席を一本の長い棒で吊るし、それを二人か四人ほどの大男が担いで運ぶ、江戸時代のタクシーのような乗り物でございます。
ひとえに駕籠といっても、その種類は様々。最上級のものは法仙寺駕籠と言いまして、漆塗りが施された美しい駕籠ではありますが、それに乗れるのは豪商や医者と言ったお金持ちぐらい。江戸の庶民がもっぱら使うのは、四つ手駕籠と呼ばれる、竹製の座席に茣蓙の垂れ幕をおっ被せた、なんとも簡素なものでございました。
そんな四つ手駕籠でも、運賃は一里で約四百文。現代的に言いますと、まぁ大体4kmで1万円ほどでしょうか。日本橋から吉原までタクシーを走らせますと、運賃は2,500円くらいになりますので、おおよそ4倍の値段と考えてもらえればいいでしょう。なかなか気合の要る額ですね。そんなものですから、庶民が駕籠を使うというのは、よっぽど特別なことだったわけです。
さて、嘉六と晴八の二人は、江戸の街を駆ける駕籠舁き。共に六尺を超える大男で、何年も二人で一つの四つ手駕籠を担いでいた。
しかしこの二人、駕籠の運びとなると阿吽の呼吸だが、いつも喧嘩ばかりしている変わり者。今日も仕事始めに駕籠を置いたまま、町中だというのになにやら言い合いを始めた。
( ^ω^)「ちょっといいかい、晴八つぁん」
('A`)「なんだ嘉六」
( ^ω^)「ずっと前から思っていたんだがよ」
('A`)「なんだお前、奥歯に物が挟まったような言い方だな。俺はそういうのは嫌いなんだ。はっきり言え」
晴八は気が短く、歯に衣着せぬ物言いをする男だった。対して嘉六はと言うと、あっけらかんとしているが、どこか間の抜けた男だ。晴八にせかされた嘉六は「なんで、いつも晴八つぁんが前を担いでんだ?」と疑問を呈した。
('A`)「……はっ!なんだ嘉六。そんなこと気にしてやがったのか」晴八は鼻で笑う。「いいか、俺はお前より二つ年上だ。つまり俺が先輩で、お前が後輩。先輩が後輩の先を歩くのは当たり前だろ?」
( ^ω^)「でもよ、晴八つぁんも俺も駕籠舁きになったのは同じ年だろ?そんなら先輩後輩っつうのは関係無ェんじゃ?」
('A`)「細かいけぇことをいってんじゃあねぇべらぼうめ」
( ^ω^)「細かいこたぁねぇよ。いいか晴八つぁん。駕籠の後ろは大変なんだぜ?まず、晴八つぁんが進む方向に合わせなきゃならねぇし、晴八つぁんがはねた泥は被るし、それに、お客さんが駕籠の後ろに体重をかけるから、肩が痛くてしょうがない」
嘉六は、さも嘉六に言い負かされるというのも気に食わない。晴八は言った。
('A`)「そうは言うが嘉六。駕籠の前も大変だぞ。行き先までの道順を知ってなきゃならないし、江戸の街に沢山居る町人や侍、馬なんかを避けて走らにゃいかん。どんくせぇお前にできるか?」
( ^ω^)「ああ、できるに決まってらぁ」
('A`)「それにな、お客さんは大体、落語や歌舞伎の時間に合わせて到着したがるだろう?そのペース配分を考えてるのも前を担ぐ俺の役目なんだぞ。お前にできるか?」
( ^ω^)「簡単カンタン、屁の河童よ」
('A`)「どうだか。お前のようなトンマにゃ無理だと思うがね」
なんともしょうもない喧嘩だが、二人は大真面目。しかし、そんな喧嘩も町の華でもあった。
(゜Д゜)「毎度ご苦労なこって」長屋の瓦を修理する大工は、物見気分で喧嘩を眺めて手が止まっている。
( ・∀・)「よくもまぁ飽きないもんだ」軒先の鳥の巣掃除をしていた長屋の大家も傍から見ながら呆れ顔。
(゜、゜*)「飯を食ってる最中でもあの調子だから困るわ」食事処の看板娘は、喧嘩ばかりして食べるのが遅い二人をよく思っていないらしい。
するとその時、どこからか「おい、お主ら」と声がした。若い女のような細い澄んだ声。「そこの駕籠舁き、お主らじゃ」
( ^ω^)「ん?」
('A`)「どうした?」
言い争っていた嘉六と晴八は、呼び止められて声の方を向く。しかし、そこには誰も居なかった。それでも声は話を続ける。「お主ら駕籠舁きは、どこへでも運んでくれるというが、本当か?」
その声は、なんと、駕籠から聞こえてくるのだった。嘉六と晴八の二人は、駕籠が急に喋ったと思い、びっくりして尻もちをついてしまった。しかし、よくよく考えれれば、竹で出来た駕籠に口なんてものがあるわけがない。ということは、駕籠の中に誰かが乗っているのだ。二人が喧嘩している間に、ささっと駕籠に入ったのだろう。
(;'A`)「お、おい。なんだ、いきなり。一体いつから駕籠の中に?」
狼狽しながらも晴八が訊ねると、声の主はつっけんどんに返事をした。「いつでもよかろ。少し疲れたから、家まで運んでもらおと思っただけじゃ」
(;'A`)「駕籠に入る前に、一言声をかけてくれよ。肝を冷やしちまったじゃねぇか」
「何度も声はかけた。お主らがあんまり馬鹿な喧嘩をしておるもんだから、気がつかなっただけじゃ。ほれ、さっさと駕籠を担がんか。日が暮れてしまうぞ」
(#'A`)「……おいおい、お客さん。行き先も言わねぇで、駕籠を舁けなんて大層なことを言うじゃねぇか」晴八は、その声の高慢ちきな物言いに舌打ちをした。
「わしの家じゃと言ったじゃろう、全く話を聞かん奴じゃ。ほら、そこ。そこのちょいと高いところが家じゃ」
(#'A`)「高いところ?おいおい、なんだその曖昧な言葉は。はっきり言ってくれねぇと、こっちも駕籠の舁きようが無ェ」
「眼下に暮らす者の話す言葉はよく分からぬのじゃ。なんじゃ、江戸の駕籠舁きは口だけ忙しなく、手も脚も動かさんのか?」
(#'A`)「あぁ!!?テメェ、どこの金持ちの娘か知らねぇが、ナメた口を聞きやがって!」あまりにも高飛車な声の主に、短気な晴八がそう長く耐えられるはずもなかった。彼は声を荒らげると、先程から一言も発していない嘉六を向いた。「おい、嘉六!こいつをさっさと駕籠から引きずり出しちまおうぜ!」
しかし、嘉六は指で顎先の毛を弄びながら、なにやら真剣な顔で考え事をしている。「おい、嘉六。聞いてんのか?」晴八がそう声をかけると、嘉六は顔をぱぁっと明るくして、手を叩いた。
( ^ω^)「分かった、分かったぞ晴八つぁん!」
('A`#)「なんだお前、急に大きな声出しやがって……何が分かったんだ?」
( ^ω^)「決まってらぁ。そのお客さんの行きたい場所だよ!」嘉六は駕籠の前に立つと、にやりと笑って晴八を見た。「行き先を知ってる方が前を担げるんだろう?」そう言うと、彼は一人勝手に駕籠を引きずって走り出した
(;'A`)「あ!おい、ちょっと待て!あぁ、もうこの大馬鹿野郎が!」
晴八は大慌てで駕籠に追いつくも、結局駕籠の後ろを担ぐことになってしまった。
((('A`)わっせ、わっせ、わっせ、わっせ((( ^ω^)
駕籠舁き嘉六と晴八が江戸を駆ける。嘉六は初めての"前"役だったが、意外にも運転上手。人や馬や野良犬なんかをするりと避けながら、軽やかに駕籠を運ぶ。
さて、先走った嘉六が脚を止めたのは、江戸の歓楽街であった。駕籠の中の声が訊ねる。
「ここはどこじゃ?」
('A`)「おい嘉六、ここは遊郭じゃねぇか。なんでここが"高いところ”なんだよ!」
晴八は声を荒らげる。だが、嘉六はしたり顔でこう言った。
( ^ω^)「そりゃあ晴八つぁん。遊女のことを"高嶺の花”と呼ぶじゃあねぇか。つまり、駕籠の中に居わすは花魁様なんだよ。自分の店に行くのに、俺たちの駕籠を使ったってことだ!」
人差し指を振りながら嘉六の弁に、晴八はなるほどと口をすぼめる。この二人、学はあまりない。
「いや、ここはわしの家じゃないが」だが、駕籠の中の声はきっぱりと言った。
('A`;)「違ェじゃねぇか!そもそも行き先は、"遊郭"じゃなくて"家"だ馬鹿!」
自分の事を棚に上げて、晴八が嘉六の頭をバシンと叩く。すると、その衝撃で嘉六の頭に次の行き先が浮かんできた。
(^ω^ )「分かった、分かったぞ晴八つぁん!」そう叫ぶと、嘉六は棒を舁き、またもさっさと駕籠を引きずりだしたのだった。
('A`;)「おい、馬鹿野郎!ちょっとは人の話を聞け!」
(^ω^ )))わっせ、わっせ、わっせ、わっせ('A`)))
さて、お次に嘉六が脚を止めたのは、古ぼけた寺であった。駕籠の中の声が訊ねる。
「ここはどこじゃ?」
('A`)「おい嘉六、なんだって寺に?ここの寺には五重塔なんてものは無ェぞ?」
声を荒らげる晴八に、嘉六はしたり顔でこう言った。
( ^ω^)「そりゃあ晴八つぁん。お寺には墓があるじゃあねぇか。つまり、このお客さんは幽霊だって訳だ。墓地といやぁ、幽霊の"家"みたいなもんだ、なんたって骨が埋まってんだからな。それに、幽霊と煙は高いところに登るっつうだろ?」
軽妙な嘉六の弁に、晴八はなるほどと頷いた。彼は竹を割ったように素直だった。しかし、たしかに声の主の喋り方はいささか古風で、まるで大昔の人間のようだった。
「いや、わしは死んでおらんぞ」駕籠の中の声は言った。
('A`;)「違ェじゃねぇか!そういやコイツの家があるのは"高いところ"で、骨が埋まってんのは"土の中"じゃねぇか!」晴八が嘉六の頭をバシンと叩く。「あとな『馬鹿と煙は高いところが好き』だ。分かったか馬鹿!」
すると、その衝撃でまたも嘉六の頭には次の行き先が浮かんできた。
( ^ω^)「あい分かった!今度こそ分かったぞ晴八つぁん!」そう叫ぶと、嘉六は棒を舁き、またもさっさと駕籠を引きずりだしたのだった。
('A`;)「おい、いい加減にしねぇか!付き合わされる身にもなってみやがれ!」
( ^ω^)「三度目の正直って奴だ!」
('A`)「仏の顔も三度までだからな!」
二人はまた、駕籠を舁いて走り出した。
((('A`)わっせ、わっせ、わっせ、わっせ((( ^ω^)
( ^ω^)「ここがお客さんの家だ、晴八つぁん!」
(;'A`)「お、お前、ここは……」
さて、嘉六が脚を止めたのは、お江戸の中心、つまりは江戸城の門前であった。
「ここはどこじゃ?」駕籠の中の声が訊ねる。
(;'A`)「おい嘉六、ここは将軍様の御所じゃねぇか。たしかに天守は高いけれどよ!」
( ^ω^)「そりゃあ晴八つぁん。つまりだな、このお客様は"お姫様"だったのさ。下々の暮らしを見物しに城下町に出たは良いものの、御御足が疲れてしまったから、こうして駕籠を使ったって訳だ!」
自信満々に語る嘉六に、晴八は「たしかに、それが正解で間違いねぇ!」と何度も頷いた。たしかに、お姫様だと言うのなら、声の主の不遜な態度も、古風な口調も、納得がいく。
駕籠の中の声は言った。
「いや、わしは"お姫様"ではないが」
('A`#)「違ェじゃねぇか!」晴八が嘉六の頭をバシンと叩く。「これで分かったろ!お前に駕籠の前を担ぐなんて土台無理だ!」
(;^ω^)「じゃあ晴八つぁんは分かるっていうのかい!?」
('A`#)「知るか!行く先も分からねぇ奴を乗せてやる義理は無い!」晴八は駕籠の前を担ぐと、「ついてこい!」と嘉六を呼び、さっさと走り出した。
(^ω^;)「おい!どこに行くのさ晴八つぁん!」
しかし、晴八の返事はなかった。
('A`#)))わっせ、わっせ、わっせ、わっせ(^ω^; )))
二人はとうとう、駕籠の中の客を乗せた場所に戻ってきたのだった。
(^ω^;)「……どういうことだ晴八つぁん」
(#'A`)「行き先も分からねぇ奴は客じゃねぇや」晴八は駕籠の中の声に話しかけた。「そういう訳だ、金は要らねぇから、とっとと駕籠から出ていけ」
すると、駕籠の中の声は大きなため息を吐いた。「はぁ、全く。駕籠舁きが聞いて呆れるな。これでは自力で帰ったほうが早かったわ」
傲岸不遜な声の物言いに、ついに嘉六と晴八の堪忍袋の緒は切れてしまった。
(#'A`)「何だとこの野郎!元はと言えばテメェが悪いんじゃねぇか!」
(#^ω^)「そうだそうだ!自分は姿も見せねぇで駕籠の中で優雅に過ごしてたくせに!」
二人が怒って駕籠の茣蓙をバっと上げると、一羽の雀が翼を羽ばたかせて、二人の顔の合間を飛んでいった。
( ^ω^)「は?」
('A`)「え?」
阿呆面の二人を尻目に、雀はチチチと鳴いて長屋の軒先に止まったとさ。