目覚めの良い朝
小鳥の鳴く声。
明るい陽射しの気配。
大好きな紅茶の香り。
ぱちりと自分でも音がするように唐突に彼女は目覚めた。
のぞき込むは金の瞳。
彼女の大好きな瞳だ。
世界の賢者と呼ばれる竜人であり貴人である彼と恋仲になるのには色々と悩んだこともあった。
しかし彼の傍に居れるなら些末なことだとその選択をして数か月、彼女は満ち足りていた。
かつてないほどすっきりとした頭、よく眠ったなぁと伸びをすれば体がまるで重しをつけられたかのように重い、いやバキバキと音すらたてそうなくらい凝り固まっていた。
おかしい。
いつもの目覚めと違う。
そしてよくよく考えればのぞき込んでいた金の瞳は不安に揺れていた。
人間の身ではまだ理解できない点が多い彼に声をかける。
「ねぇ、ミュット、私に何かした?」
問いかけにぴくりと肩を揺らしたのは間違いのない、黒の反応。睨みつけるように彼を見れば、一言。
全てをあきらめたかのような、優しく甘い声で彼は言葉を紡いだ。
「おはよう、テルマ。100年の眠りはどうだった?」
ただの朝の挨拶のように言われた言葉は理解できない単語を含んでいる。そんなテルマを慈しむように金色の瞳が彼女を見つめる。その瞳は相も変わらず美しかったが、よくよく見れば目元にはしわが数本刻まれており、美しい髪の艶も気のせいだが少し陰りがあるよう。
嫌な予感と不安。
そんな彼女の気持ちを全く汲む気もないように彼は満足そうに微笑んだのだった。
未来の話ですがここから過去に戻ります。
結構な長いお話になる予定ですが、
お付き合いいただけると嬉しいです。