12 魔界大綱引き大会①
翌朝、宝来尊はシラネの声に目が覚めた。
天蓋付きの巨大なベッドだ。一生のうちに自分が使う事になるなんて、全く思いもしなかった。
「おはようございます。朝食のご用意が出来ておりますので、食堂までお越しください」
「おはよう。直ぐに行くよ」
宝来尊は洗面台で顔を洗うと、食堂に向かう。
今朝は初めから二人分が用意されていた。どうやら宝来尊の性格を理解して貰えたようだ。
メニューはパンとスープとサラダに目玉焼き。和食ではないが、ホテルの朝食の定番に近い。目玉焼きは予想以上に大きかったが、何の卵かは聞かずに食べた。味が美味しければ問題ない。
「ところでさ、シラネは昨日は何処で寝たの?」
「わたくしは自室がありますので、いつものようにそちらで」
「あ、あーそうか、そうだよな」
キョトンと返すシラネの表情に、宝来尊は慌てて愛想笑いを浮かべた。失言に近い発言に、顔から汗が一気に吹き出す。
「そう言えば先代は、毎日寝所にサキュバスを伴っておりました。もしかしてミコトさまも、その方が宜しかったでしょうか?」
「い、いや違う、問題ない。シラネは今まで通り、自室で寝てくれ」
シラネは一瞬目を細めて微笑むと、畏まりましたと頭を下げる。
そのとき隣の玉座の間で、インターホンの音が鳴り響いた。
〜〜〜
宝来尊が玉座に着くと、正面の中空に巨大なウインドウがパッと開く。
そこには黒髪オールバックで青い皮膚の男性が、昨日と同じ燕尾服姿で立っていた。
「何用か?」
シラネが画面を見上げながら、凛と澄み切った声で使者に応じる。
「おはようございます、シラネさま。新生魔王さまはおられますでしょうか?」
「こちらで、お聞きになっておられます」
「おはようございます、魔王さま。我が主人より言伝を預かっておりますので、お伝え申し上げます」
「分かった、聞こう」
シラネに小声で促され、精一杯威厳を持って宝来尊が応える。
「両陣営の親睦も兼ねて、魔界大綱引き大会の開催を進言させて頂きます。我が主人の提案、努々お断りなきよう宜しくお願い致します」