10 夕飯①
「それではミコトさま、お時間も宜しいようですので、夕食の支度を始めさせて頂きます」
移動用魔法陣で玉座の間に戻ってくると、シラネがそう提案した。
「シラネが作ってくれるの?」
「はい。と申しましても家庭料理レベルですので、ミコトさまのお口に合うかどうか…」
「いやいや、是非お願いします」
シラネの手料理が食べられるなんて、考えただけでもウキウキする。それだけでも、この仕事を受けた甲斐があるというものだ。
「はい。それでは準備を始めますので、暫くお時間を頂きます」
シラネは宝来尊の様子にクスッと笑うと、玉座の奥の部屋へと入っていった。
あそこが食堂なんだろうか。
そういえば、まだこの城の事を充分に把握していない事に気付き、宝来尊は時間潰しも兼ねて玉座に腰を下ろす。
それから背もたれへと身体を預け、ゆっくりと目を閉じた。
どうやら背後の部屋は、魔王専用の寝所と食堂になっているようだ。そして下の三階が、配下用の居住スペースとなっており、大食堂もそこにある。
一階二階は迷宮になっており、まあ恐らく侵入者対策という事か。
そうして地下には、トレーニングルームや娯楽施設、大浴場が設置されていた。
「まさかアイツ、ずっとトレーニングしてる訳じゃないよな?」
無意識にボソッと呟く。それから「ないない」と首を横に振った。
聞いた限りは三億年。いくら何でもそれは無い。
そんな事を考えていると、奥の部屋から良い匂いが漂い始めた。途端にお腹が、空腹の意思表示を高らかに鳴らす。
考えてみたら母親以外の女の子の手料理なんて、一度も食べた事がない。しかもそれが絶世の美少女ときたもんだ。
「いやいや違う。俺はロリコンじゃない!」
思わず緩んだ自分の頬を、宝来尊は両手でパシンと強く叩いた。
「ミコトさま、ご用意が出来ましたので、コチラにお越しください」
そのとき玉座の背後から、シラネの澄んだ声が響き渡る。
「はーーい」
宝来尊は何とも間の抜けた返事を返すと、嬉しそうに玉座から立ち上がった。