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054  作者: Nora_
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「――ミフユさんが私のことを知っていたのはツクシちゃんと友達だったからですよね?」


 今日は3人で商業施設へとやって来ていた。

 カズミは同僚さんに付き合っていまは別行動をしている。


「そうですよ」

「ストーカー行為をしていましたからね、あの時はすみませんでした」

「いえ、あなたが怖くないということはツクシさん経由でわかっていましたから」


 意味はないけど気になっていたことを説明しておく。


「ふふ、カズミちゃんから聞きましたよ」

「言ったんだ……お喋りさんめ」

「もうそんなこと言わないであげてくださいね、タキさんのことが好きなんですから」


 まあそれは私もカズミのことを好きだからわかる。

 同僚さんと仲良くしていると複雑だし、ミフユさんと仲良くしているのを見ると心が揺れる。

 こっちの気持ちなんて全然わかってくれてない、目の前でイチャイチャしてくれやがって。

 ……私だってできることならキス以上こともしておきたい。

 けれど未成年と成人の間には果てしない壁があって阻まれてしまっている。

 あと、そういう要求を拒んでいるとどんどん心が離れていくともネットで見た。

 そうでなくても彼女の機嫌次第で簡単に捨てられてしまう側の人間としては不安で仕方がないわけで。


「ミフユさんはツクシちゃんのこと好きなんですか?」

「実は、はい……最近は濃い時間を過ごさせていただいて……どんどんその気持ちが大きくなっていくんです。カズミちゃんと過ごしていたタキさんもそうでしたか?」

「いえ、どちらかと言うとカズミに求められた形になるので……でも、最終的にはそうですね、好きなんだと気づきましたよ。あの人といるのが元々好きだったのも大きかったと思います」


 ああ、実に不思議な時間だ。

 最初は喋ってくれすらしなかった人がスラスラ話してくれていて、でも特別な相手ではなくて。

 自分の彼女は私を放っておいて同僚さんと過ごしていて、とはいえミフユさんといるのも悪くなくて。

 これが理想なはずだったのだ、それがどうしてこうなったんだろうか。


「はぁ、はぁ……ちかれた……」

「お疲れ様」

「ありがとぉ、ミフユは優しくて天使に見えるよ」


 どうせ私は優しくなくて美人でもないよ。

 ミフユさんは突っ伏して寝ている彼女の頭を撫でてあげていた。

 いいなあと思えるぐらいには微笑を浮かべているミフユさんが素晴らしく。

 だからついつい調子に乗って頼んでしまう、ミフユさんはそれでもしっかり撫でてくれた。


「ちょ、なにやってるの!」

「え、つ、ツクシさんっ?」

「駄目だよ、私以外にそういうことしたら!」

「ご、ごめんなさ――」

「ミフユさんは私のだから! たとえタキちゃんにでも譲ることはできないのっ、それじゃあね!」


 ああ、行ってしまった、私にとっても癒やしの存在が。

 こちらには疲弊で突っ伏した女と、優しくなくて美人でもない女だけ。

 

「カズミ、帰ろうよ」

「その前にトイレ、タキも来て」

「まあいいけど」


 大人しく個室に入ってしようとしたら別の意味でされてしまった。


「疲れを吹き飛ばすにはこれが1番だから」

「本当に?」

「うん、タキがいいならもっとしたい」

「……あんまりベタベタにしないならいいよ」

「うん」


 大人しくされるがままになってこちらはギュッと目を瞑っておく。

 なんらかの魔法にでもかかっているのか、しているとあっという間に体が熱くなってぼうっとなる。

 カズミは結構激しくやるから耐えるだけで精一杯だ、あの日までは一切やってこなかったのにな。


「はぁ……やばいね」

「うん……ここでやるべきではないと思う」


 やばいね、間隔をしっかり保とう、こう話し合って結局その度に失敗している。

 私も私で求めてしまっているのだ、彼女の愛情を他のどの行為よりもストレートに感じられるから。

 トイレに人が入ってくる度にビクリとふたりで驚いたりもしてみた。

 それでもそうかからない内にトイレから脱出して、もちろん手や口周りを洗ってから帰路に就く。


「ミフユさんは恐ろしいってわかったよ」

「なんで?」

「だってカズミも信用しているし甘えるから……」

「まあ関わりが長いからね。あ、そうそう、これ使うよ」


 なんでも券か、前回はもったいないからって突っぱねたんだよねと思い出す。


「はい」

「で、願いは?」

「後ろ見てみて?」


 受け取って確認してみたら、


「ずっと一緒にいる券って面白いね」


 とても綺麗な文字でそう書かれてあった。

 

「タキは不安がっていたからさ、少しでもって思ったんだ」

「じゃあこれを渡せばいいんだね?」

「そうそう、よし、これで一緒にいることになります――って、券の効力がなくてもいるけどね」


 捨てずに取っておいてくれたことが嬉しいし、こういう形で利用してくれたことをありがたいと思う。

 やはり一方通行な気持ちよりも相手に届いている状態の方が嬉しいにきまっているから。

 でも、こちらばかり満たされちゃっていいのかな? 家事とかをしておけば返せていられるかな?

 その旨を説明したらカズミは胸を張って言った。


「大丈夫、いてくれているだけでありがたいよ」


 って。

 彼女がそう言ってくれるならと自信が持てた。

 これからもこうして支えて、彼女に支えてもらって、お互いに楽しい時間が過ごせればいいなと私はそう思ったのだった。

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