表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
054  作者: Nora_
3/9

03

 日曜日。

 大体お昼頃にあのお店へ向かったら外で既に萩内さんは立っていた。

 寒い中待たせてしまったことを謝罪して早速移動開始。

 さて、今日はどんなところに行くんだろうと少しのソワソワとワクワクを感じていたら、


「はい、ここが私の家だよ」


 なぜだか家を紹介されてしまった。

 知ることができたことで今後役立つことがあるかもしれない! とはならず。


「あの、お礼の件は……」

「ああ、お金を使ってもらうのは申し訳ないからさ、ご飯でも作ってもらおうと思って」

「あ、それならできますよ、人並みにですけど」


 お金を利用せずに済むのならそれに越したことはない。

 どうせ水木金とテストを終えたらあのお店利用を再開するわけだからお金はあった方がいい。

 中に入らせてもらうとお世辞にも広いとは言えないけど小綺麗な空間だった。

 調理道具の場所云々や調味料云々の場所を聞いて調理開始。


「はい、できました」

「へえ、なにこれ?」

「冷蔵庫にもやしとキュウリがありましたのでそれでサラダを作ってみました」


 調理って言えないか、もやしを茹でたら後は切ったキュウリとかと一緒に調味料を入れて混ぜただけだから。

 ま、まあ、冬でもあれだ、野菜はしっかり摂らないといけないからね。

 え、栄養がない? あー……急なお願いだったからしょうがない、スーパーに寄ってきたわけではなく冷蔵庫内にある食材だけでなんとかしなければならなくなった場合にはこんなものだ。

 それにほら、もやしの消費期限って早いから? うん、こういう機会に使用しておけば期限が切れて捨てるようなことにもならないから悪い話ではないだろう。


「もっとオムライスとか普通ので良かったよ?」

「ぶ、無難を攻めるのも大事ですけど、野菜の摂取は必要ですっ」

「あはは、そっか、じゃあ食べさせてもらおうかな」


 わかめスープを作ったりしてせめてもの感を足していく。

 もうね、これだと逆に負担になっている気がして落ち着かなかった。

 元々そういうつもりなら連絡してくれれば良かったのにと内でため息をつく。

 そうすればお買い物にだって行っておいたし、萩内さんが好むものを提供できたのにさ。


「うん、美味しいよ、もやしもキュウリも食感が良くていいね。ただ、これは夏に食べたいものかな、あっさりしているから汗をかいた後なんかに食べると気持ち良さそう」


 確かに冬なら温かい食べ物の方が良かったか。

 私も最初は無難に攻めようと思った、ただそれだとつまらないと言われかねないからこうしたわけで。

 あ、いやまあ消費期限が近いから消費したかったのは本当だけど。


「ところで、久辺さんは今日お仕事ですか?」

「ミフユ? ううん、家で本でも読んでるんじゃないかな」

「ああ、それなら簡単に想像できます」


 寧ろ読書以外のことを疎かにしていそう。

 本のためなら時間をたくさん使える人だから空腹感より優先していそう。

 それどころかずっと集中しすぎて気づいたら暗くなっていたとかありそう。


「テスト勉強は捗ってる?」

「はい、やる時はやるタイプなので」

「懐かしいなあ、私なんかろくに勉強なんてしてなかったけど」

「え、意外ですね、なんでも完璧にやるタイプだと思っていましたけど」

「ないない! 赤点じゃなければいいって考えて自由気ままだったよ、私」


 私も少し前までは久辺さん以外どうでもいいって考えて動けていたんだけどな。

 ツクシちゃんが誘ってくれたりもしていたけど優先したいことがあったから断っていた。

 それなのにまだ友達でいてくれているのは本当にありがたいことだと思う。

 私は自分でもノリが悪い人間だと自覚しているから、他者からしたら余計にそう感じるのだろうと考えている。

 それなのに近づいて来てくれるのは優しさだ、本当にいい子と出会えて良かった。

 ま、本人的には違うのかもしれないとしても私はそう思っておけばいい。


「もう今年も終わりだねえ」

「そうですね」


 最近はよく灰色に染まっている。

 あの時見上げた夜空が綺麗に見えたのは、気持ちがまだ死んでいなかったからだろう。

 それでも雨が降るというわけではないから別に構わない。


「あー、クリスマスどうしようかなー」

「それこそ久辺さんと過ごしたらどうですか?」

「いまあの子といるとツクシちゃんまで付いてくるからね」

「いいじゃないですか、賑やかで楽しそうで」


 それこそあそこのお店で集まって盛り上がったら楽しい時間が過ごせるはず。

 萩内さんはそういうのを探しているわけだから理想だと思うけど。


「大木ちゃんはどうするの?」

「朝早くからお店を利用して、夜は家でゆっくりするでしょうね」


 両親もたまにはふたりで食事とかに行きたいだろうし、その場合は行ってもらうつもりだ。

 こちらは小さいケーキでも買ってきてひとりで静かに楽しめばいい。

 幸い、ひとりで寂しいと思ったことがないので、悪くないプランだろう。


「しょうがないからミフユでも誘うかー」

「はい、それがいいと思います」


 食べ終わったお皿を受け取って洗い物。

 なんとなくだけど時間が経つのって早いなとぼけっと考えていた。

 入学式の日のことをいまでも鮮明に思い出せる。

 どもったら、変な返事になったら、自己紹介の時ミスりませんように。

 失敗はしなかったけど変な声だったと母に笑われてかあと全身が熱くなったことも。


「お、大木ちゃん水!」

「あ――すみません」


 泡を流して勝手に拭かせてもらう。

 とにかく、そんな私がもう就職先も決まっていてもうすぐ卒業? 早い、早すぎる。

 2年の秋頃に行った修学旅行時は久辺さんのことでいっぱいで純粋に楽しめなかった。

 恐らく依存していたんだと思う、本人からしたら全く喋ったことのない相手にストーカーみたいなことをされて怖かっただろうな

 でも、いざ実際に話せたらすぐにこれだ。

 恋をしていたわけではないだろうけど、努力する自分が好きだっただけなんだ。


「大木ちゃん?」

「なんですか?」

「あ、えっと、これだけじゃやっぱり2500円分には到達しないよねって」

「そうですね、それは私もそう思っていました」


 手料理とは言えないのも大きい。

 おまけに、自分が関わって作られた物に価値があるとは考えていない。


「だからさ、いまからどこかに行こうよ」

「ふたりきりでですか?」

「前も気にしていたけど誘うのおかしい?」

「え、だって萩内さんが言ったんですよ? 久辺さんといなければ関わらない的なことを」

「あ、クリスマスのことをなしにしたからか」


 別に帰っても勉強ぐらいしかやることないからいいんだけどさ。

 それでも、積極的に萩内さんといたいとは考えていないから。

 久辺さんとはこうなったから次はってすぐに変えるのは失礼だという話。

 

「まあ行こうよ、ちょっとそこの商業施設にでもさ」

「わかりました」


 それでやって来た私たちだったけど……。

 休日、しかも日曜日ということもあって激混みだった。

 冗談でもなんでもなくお祭りみたいな光景が広がっていて、思わずうへぇとため息をつく。

 自分も利用しているくせにここしか来るところないのかとツッコミたくなったぐらい。


「すごい人だね、はぐれないように手を繋いでおくよ」

「はい」


 うーん、さすが格好いい系の女の人の行動力は違うぜ。

 腕を掴むのではなく手を握るなんて、チョロい人間だと勘違いしてしまうからやめた方がいい。

 こういう人は嫌でも人を集めてしまって疲れてしまうなどの話をよく聞く、が、自分にも責任がある気がした。

 そりゃあね、優しくされたら気になって行ってしまうでしょって話。

 目的のお店は決まっているのかぐんぐんと進む萩内さん、身長差があるから歩幅の大きさの違いもあって合わせるのは結構大変だぞ……。


「着いたよ」

「家電屋さんに行きたかったんですか? あまり高いのはちょっと……」

「1000円ぐらいのイヤホンが欲しくてね」


 音質にはこだわらないタイプなんだと教えてくれた。

 ちなみに私は音楽プレーヤーに付属されていたイヤホンをずっと利用している。

 こちらも高音質と言われても違いがよくわからない耳なので、それで満足できているわけだ。

 よく考えたら消える物にお金をかけるのはもったいないのでは?

 オレンジジュースを例えば1ヶ月我慢すれば31日計算として計9300円の消費を抑えられるということになる。

 まあ実際は1ヶ月間全て利用なんてできていないからそれの半額ぐらいの話ではある。

 毎月その額貯金できたら全然違うなと小学生並みの感想を抱いた。


「これかな、大木ちゃんはどれがいい?」

「私だったらこのライムグリーンのやつにします、派手なので」


 昔はあったんだよ、派手な靴色とかを選んだ方が勝ちみたいな風潮。

 もちろんそれはかなり範囲の狭いローカルのものだろうけど、筆箱とかも改造したりしてね。

 女の子なんかノートにキラキラしたの貼り付けてきゃーきゃー言われていたからね。

 いま小学生時代に戻ったら空気が読めない人間第1号として存在できるかな、嫌だけど。


「意外なチョイスだ」

「そうですか? 案外好きですよ、自分が地味ですからね」

「ならそっちにしようかな」

「え、自分の好みに合わせてくださいよ、そのために来たんですから」


 というか今日の分を全部渡せばもうちょっといいのが買えるはず。


「どうぞ」

「え……全部?」

「それでも2500円ですけどね」

「貰えないよ、それに私社会人だし。しかも冗談だからね? ただどんな感じなのが趣味なのか探るために来ただけだよ――あ、これはまあ買うけどさ」


 か、買うのか、そんな派手な物を。

 私の好みを探るとか面白いことをするものだ。

 知りたいのであれば性癖まで答えてあげられるけどね。


「よし、帰ろうか」

「そうですね」


 なぜだかまだ手を繋ぐのは継続だったらしい。

 萩内さんの手は頼りがいのある感じだ、握られているとホッとする。

 側にいるだけでここまで安心感を与えることができるなんて格好いい、まるでお父さんみたい。

 もし私にこれぐらいの能力があれば――少しは人気者になれるかな?


「あれ、大木……さん?」

「あ、久辺さん、こんにちは」


 おぉ、あのお店以外にも行く時ってあるんだと正直思った。


「ミフユはなにしに来たの?」

「えっと……探している本がなくて商業施設内の大きい本屋さんならあるかなって」

「いまは凄く混んでいるからひとりだと大変だよ?」

「え……だ、だったらカズミちゃんが付き合ってくれれば……」

「いいよ、そういうわけだから大木ちゃん、またね」

「はい、今日はありがとうございました」


 結局お金を受け取ってくれなかったけどどうしよう。

 テスト週間の貴重な日曜日を使って本人と会えたのにこれって。

 なにも返せないで終わってしまうのはなんとか避けたいところ。

 でも、もう再度中に入ろうとしているし手を握っているしで邪魔をするのも違うか。

 じっとしているぐらいなら家で勉強でもした方がいいからと帰ることにした。

 

「ただいま」

「おかえりなさい、随分早かったわね」

「うん、一緒に行った人の友達が来てね、別れて勉強しようと思ってさ」


 母は明らかに大げさな反応を見せた。

 受験生の時の話を持ち出されても困る、もうそんなに若くはないのだから。

 それに私はいつだってそれなりに真面目にやってきたつもりだ。

 お菓子があるということだったので手を洗ってからそれを持って2階へ。


「同性と手を繋いのだのとか初めてだ」


 幼小時代のそれはノーカウントとして、そこからは1回もしていなかったから。

 時間が経ったうえに洗ったはずなのに、あの人の温もりを感じて少し気恥ずかしかった。

 それでも切り替えが上手いのも私のいいところだ、数分後にはプリントとにらめっこ状態に。

 今日は得意の科学を攻めていく、得意なのを磨けば100点も有り得るかも?

 が、100点いったでしょうと考えているとしょうもないミスをしていて97点とかも有り得るのが現実だ。

 大体はそんな感じ。


「タキ」

「なに?」

「後でご飯を作るから手伝ってちょうだい、そうすれば1000円あげるから」

「え、お金は別にいいよ、そんなのなくたってお手伝いぐらいするよ?」


 なんかお金が絡んでなければなにもしない人間みたいな扱いになってる?

 もしそうなら悲しいし、これから頑張ることで評価を変えてほしいと思う。


「そう? ならお願いしようかしら、呼びにくるから」

「はーい」


 さて、それまでは勉強を頑張っちゃうことにしましょう。

 好きでもないけど嫌いでもないからきっと捗ってくれるはず。

 ここに誰かがいてくれればもっと楽しくなるんだけどなあ。

 今度またツクシちゃんでも誘ってみようか、全然集中してくれなさそうだけど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ