第93話 巡回の旅路 その11 ダリブバールにて
船を下りた直後、僕たちを呼ぶ声が聞こえた。
振り向くと何やら荷物を抱えた数人のリザードマンが、水面から飛び出してきた。
「こんなところにどうしたの?まさか集落に何か…」
「いいえ、違います。集落には何も問題ございませんアルテミア様。ただ周辺を見回っていたところ、このようなものを見つけたので何か役に立つのではと思い、長の指示でお持ちしました」
そう言ってリザードマンたちが差し出した荷物を荷解くと、中にはサードアイズ・ジャイアントが身に着けていた鱗の鎧や盾と、グレイジーナが落としたと思われる魔道具の残りが1つ入っていた。
「見つけたのなら売り払って、集落の資金にでもしたら良かったのよ?」
「いえ、我々はすでに過分なご配慮をいただいております。それに皆様も先の戦闘で防具を損傷したり、回復薬を消費しているかと思いますので、その補填としてどうか受け取って欲しいと、長が申しておりました」
「そう…。ならありがたく貰うとするわ。ザドルには感謝しますと伝えてちょうだい」
リザードマンたちは戦利品を渡すと再び川に飛び込み、あっという間に泳ぎ去って行った。
グレイジーナの魔道具は、レストミリアによって危険が無いか調べられた後に、戦闘力などを考えてアマリアが身に着ける事になった。
派手な金色の腕輪だったが、シスターの服で隠れるので問題無いだろう。
鱗の鎧と盾に関しては街の工房に持ち込んで、皆の防具の修理代にすることにした。
ダリブバールの南部から中央部にかけては船着き場に近いため、富裕層や豪商の所有する住居や店が多く、そのぶん盗賊団による被害も大きかったらしい。
逆に北部は平民街や職人街のため、火を放たれていたものの襲撃そのものは少なく、被害も割と軽かったようだ。
そう言えば、前にダリブバールに来たときは盗賊の排除に夢中だったから、北部の状況はあまり把握していなかったよ…。
僕たちは街中を歩いて北にある鍛冶工房へと向かった。交易の要であることとリッツソリスからの人的、金銭的支援もあり、復興は急ピッチで進んでいた。
初めて見るリッツソリス以外の大きな街に、アマリアはもう首の関節がフル稼働している。
あんまりキョロキョロしているので、足下が疎かになってたまに躓いてしまい、それをニンマリしながら見つめるレストミリアと、心配そうにしながらも何だか嬉しそうなモルド神父が、微笑ましく見守っていた。
街の中央部に差し掛かるとアルテミアは、自分の鎧を脱いでラジクに預け、先に工房へ行って欲しいと言い残して、新しく就任したダリブバールの執政官の元へと話をしに行った。
「この前の襲撃で一目散に逃げた先代の執政官は、もともと汚職の疑いがあったところに街を捨てて逃げたからな。あれからすぐに捕まって処刑されたのだ。
そして一緒にいた何人かの豪商も、以前から汚い稼ぎ方をしていて評判が悪かったうえ、証拠も出てきたので共犯として財産没収の処分が下された。
街を率先して守るべき者達の腐敗を一気に処理できたお陰で、今後のダリブバールはより良い方向へと変わるだろう。
彼らから巻き上げた多額の資金で、復興の手助けがされているしな」
ラジクが歩きながら、ダリブバールについて説明してくれた。最後にニヤッとしたので、豪商たちから金を巻き上げて復興資金に充てるように進言したのは、恐らくラジクなのだろう。
僕もそれは凄く良いことだと思う。そのまま国庫に入るよりは、ダリブバール住民にとってこれ以上無い使い道だもんね。
そうして歩いていると時折、襲撃の際に助けた人たちがこちらに気づいて、口々にお礼を言ってきた。
僕はなんだか照れくさくなって、ラジクの後ろに隠れることにしたが、今回の訪問の理由を伝えると、旅をするには便利な干し肉などの保存の利く食糧を次々に渡された。
復興途中で大変な人達から貰えないと断っても、命を救ってもらったお礼だからと言われて、最終的には押し切られてしまった。
巨人の鱗装備に加えて、大量の食糧の袋や樽に囲まれて途方に暮れていると、アルテミアが荷馬車に乗って追いついてきた。
「あら、皆こんなところで何を立ち往生して…っていうかその荷物は一体どうしたの!?」
「いやぁ、断り切れなくてな。かくかくしかじか…と言うことだ」
「まぁ良いんじゃない?復興途中なのはたしかにそうだけど、すでに一部で交易は再開されているし、資材や食糧も不足しているわけではないみたいよ。
それで彼らの気が済むなら、これから更にスッキリした気分で仕事に励むことが出来るし、私たちも助かるわ。ちょうど執政官から荷馬車を借りてきたから、タイミングとしてもピッタリだったわね」
ラジクが説明するとアルテミアは納得した様子で、荷馬車に物を積み始めたので皆で手伝った。
荷馬車に揺られて工房に到着し防具の修理を依頼すると、工房長は驚いた様子で鱗装備を見ていた。
「騎士様、これは火山に生息する火竜の眷族・サラマンダーの鱗ですよ…。希少価値が高いですから修理代として受け取るには多すぎます。
代金代わりに素材をいただいても、だいぶ余るかと思いますが…」
「あら、そんなに良いものだったのね。じゃあどうしようかしら?」
「我々は基本的に、騎士団から防具が支給されるから、新調する必要はないしなぁ…」
「私も似たようなものだよ、治癒術士隊でもある程度支給されるね。ちなみにご主人、残った素材でどれくらいの装備が作れるんだい?」
レストミリアの質問に、工房長は僕たちを見回して少し考える。
「そうですね…騎士様のような全身鎧なら1つ。そこの大きな男性と少年のような軽装鎧なら1つずつと、更に薄くて軽い胸当てが1つと言ったところでしょうか」
「じゃあ修理した残りは、モルド殿とジグの防具を新調して、胸当てをアマリア様が身に着けてはどうかな?」
「「えっ?」」僕とアマリアが同時に言う。
「おお、それは良いな」「私も異論無いわ」と騎士二人は賛成していた。
モルド神父は「うーむ…」と唸っている。
「何か問題でもあるのかい?」
「そんなに高いものを貰うのは気が引けるというか、腰が引けるというか…」
レストミリアの質問に僕が答えると、アマリアも隣で頷いている。
「モルド殿は何を悩んでいるんだい?」
「いや、俺の分に使うよりは、アマリアの防具をもう少し充実させたいと思ってな…」
「それは却下だね。主に前線で戦うことの多いモルド殿と、主に後衛にいるアマリア様とでは、必要な強度が違うからね。
アマリア様を気遣う気持ちは私にも分かるけど、先の戦いで真っ先に戦線離脱した事を考えても、モルド殿の装備を充実させるのは大事なことだよ」
「ぐっ…ぬぅ…わかった」
レストミリアの言葉に辛うじて、ぐうの音は出たけれど、それ以上は反論できなかったらしいモルド神父は、大人しく提案を受け入れることにしたらしい。
「そういうことだからジグも状況次第で、前中後衛のどこになるか分からないんだから、良い防具は持っておくことだね。
アマリア様も、今はほとんど防具なんてつけていませんから、この機会に胸当てくらいはつけてくださいね?」
「「…わかりました」」
話がまとまったので依頼を済ませると、僕たちは荷馬車を工房に預けて街の外に行き、街の北にあるダリブバールの森へと狩りをしに向かった。
騎士二人は工房長の厚意によって代わりの防具を借りている。
「工房長は最優先かつ、職人全員フル稼働で仕事にあたってくれるとは言ったけど、それでも装備が完成するまでは先に進めないから、皆が狩りをしているあいだに、私はエルヴィレに行って視察を済ませてくるわ」
「一人では何かあったときに困るかもしれん。
そうだな…一緒にジグを連れて行くと良い。エルヴィレには前にも一度行ったことがあるしな」
「じゃあそうさせてもらうわ。ジグもそれで良いかしら?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ私たちは狩りをした後は荷馬車のところに戻って、宿でも取っておくよ。もし合流出来なければ工房にでも伝言を残しておくよ」
「わかったわ。じゃあ行きましょうか」
「…二人とも気をつけてね」
「ちゃんとアルテミア殿の言うことを聞くようにな」
「分かってますよモルド神父。それにアマリアの方こそ気をつけて。じゃあまた後で」
そうして僕たちは二手に分かれて、それぞれ狩りと視察に向かった。
ダリブバールやエルヴィレの視察を終えるところまで行きたかったのですが、三つ目巨人の防具が勿体ないなぁとか、そろそろアマリアの防具や新しい装備が欲しいなぁと考えたり、
実際にラジクやジグによって救われた人達のことや、盗賊団壊滅後の戦後処理として話していた部分についても触れたくて、だいぶ書きたいことが増えてしまいました。




