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転生の糸使い [830万PV突破・400万字、900話以上の大ボリューム!]  作者: 青浦鋭二
第1部 教会の孤児編 (襲撃・修行・エルフの里・黒骸王・巡回の旅・王都攻防戦)

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第88話 巡回の旅路 その6 反乱と微笑み

 息を切らして走ってきた漁師から、リザードマンの反乱について聞かされた僕たちは、衝撃を受けた。


 話によると、集落に着いたアルテミアは漁師の仲介のもと、リザードマンの(おさ)に王の言伝(ことづて)と、それを記した正式な書類を渡し、話し合いも順調に終えたそうだ。

 しかしその後、長から集落の北の荒れ地からたびたび襲って来る、大型モンスターの討伐を依頼された。


 順調に進んだ話し合いの後にそれを断れば、結んだ約束等が反故(ほご)にされかねないと考えたアルテミアは、漁師に先に戻って僕たちに事情を説明するように言って、自分は単身で討伐に向かったらしい。


 アルテミアが去った後、漁師はリザードマンの中でも特に人間に友好的な、長の息子に声をかけられた。

 話を聞くと今のリザードマンの長とその側近は、裏で反乱を企てているとのことで、モンスターの相手をしているアルテミアを後ろからも攻撃して挟み撃ちにし、討ち取ろうと考えているそうだ。


 人間と友好的な関係を望む長の息子は、昔ならいざ知らず数を減らしているリザードマンが、今になって反乱を起こしても成功するわけがない。

 それに戦うより共存して、自分たちも繁栄していくことが大切だと言って、必死に反対したが聞き入れてもらえず、自分には止められないが他に騎士がいるなら、この事を伝えてアルテミアを救って欲しいと言われたらしい。


「あのアルテミア殿が容易くやられるとは思わんが、数に任せて攻撃を受け続ければ、どうなるか分からん。どちらにせよ戻るには舟が必要だし、すぐにでも救援に向かうべきだろう」


「ラジク殿の心配もわかるけど、私としてはキレたアルテミアが何をするのか想像すると、逆にリザードマンの方が心配になるくらいさ。

 あの子は黒骸王みたいな単体の化け物より、対多数に向いてるからね。

 でも万が一って事もあるし、助けに行くのは賛成するよ」


「助けに行くのは無論賛成なのだが、敵の規模が不明な場所に、戦闘に不慣れな者を連れていくのは危険だと思われる。アマリアにはここに残ってもらいたいのだが…」


「私もアルテミア様の事は心配ですし、助けになるなら行きたいと思います。けれどもし神父様が、足手まといになると言うのなら仕方がありません…」


 相変わらずアマリアの安全第一なモルド神父と、自分もと思う気持ちと、足手まといになりたくない気持ちのせめぎ合うアマリアだった。


「あの、話の途中ですみません。僕はリザードマンについて詳しくないんですけど、何となく泳ぎが得意そうだと思うんですが、その辺りはどうですか?」


「たしかに彼等は亜人種の中でも、かなり泳ぎが得意な種族だ。水中戦闘の能力も随一と聞くぞ。しかしそれがどうかしたのか?」


「多分ですけど、水中戦闘が得意なら僕たちが向かったら、湖の途中で襲われたりしないのかなぁとか思いまして」


「あぁ、たしかにそれはあり得るね。この地域に限定すれば、リザードマンはかなり強い。

 船が破壊されてしまえば、こちらはなすすべ無しさ。一応そういうのを防ぐ手立てもあるけど、苦戦するとは思うよ。

 逆に陸上にいるうちなら、それほど脅威にはならないだろうけど。

 その辺りを考えるなら、動くなら早い方が良いと思うよ。アルテミアが戦っているあいだなら、こちらに戦力を回す余裕は無いはずだからね」


 レストミリアの意見を聞いて皆が頷く。

 話し合いの結果、すぐに向かうことで意見がおおよそ固まったのだが…。


「ならば早く行くとしよう。しかしアマリアを1人で残すのも不安があるな…。

 リザードマンは火に弱いから俺が行くのが良いとは思うが、アルテミア殿に何かあれば治癒術士のレストミリア殿や、騎士として現場の取り扱いが出来る代行も必要になるから、ラジク殿も行かねばならんか…」


「モルド殿、ジグの糸は相手を拘束するのに必須なので、連れて行かないと困るよ。まさか現場の判断だけで、敵対したリザードマンを皆殺しにするわけにもいかないからね」


「ぬぅ…」


「モルド神父、また悪い癖が出てますよ。

 アマリアはもう立派な大人です。それにアルテミア様を心配する気持ちは同じなんですから、あとは各々の意志で決めたら良いのでは?

 それにそんなに心配なら、アマリアから片時も離れずに、自分でしっかり守ってください。

 その方がよっぽどアマリアも喜びますよ」


「んなあっ!?」


「守るのは当然だが、言い方を考えんか馬鹿者!」


 自分の心配をしてくれる神父には、アマリアもなかなか強く出られないし、そんなアマリアを見てどうしたら良いか決めかねているモルド神父には、こうしてハッキリと言わないとダメなのだ。


 そう思って僕が、せっかく気を利かせて言ったのに、何故かゲンコツが落ちてきた。解せぬ。

「んなあっ!?」の状態で固まるアマリアをそのままにしておき、僕たちは準備を始める。


 これから行く先は危険なので、船頭には事情を話して船を借り、漁村で待ってもらうことにした。

 すぐに準備は終わり、フリーズから立ち直ったアマリアを乗せて、僕たちはリザードマンの集落へと出発した。


 船に乗りモルド神父が船を操作している。

 船は帆船タイプだが、帆を畳んで備え付けられた魔石に魔力を注げば、推進力を得て比較的自由に動かせる。

 川を下る時には流れに任せつつ、帆を操って船頭が動かしていたが、モルド神父なら魔力の方が速いのだ。


 僕はまだ顔を赤くしたままのアマリアに、ギュウーっとつねられた(ほほ)をさすっていると、ラジクがレストミリアと話していた。

 

「それにしてもレストミリア殿は、アルテミア殿の実力を随分と評価しているのだな?

 あの若さで護聖八騎に選ばれるほどだから、もちろん強いのだろうが、俺が騎士団で見聞きした範囲では、支援が得意なタイプと思っていたが…」


「ラジク殿、黒骸王との戦いでは前衛がいたから支援に徹していただけだよ。

 アルテミアは本来、1人で戦うのが一番得意なのさ。なんせ仲間を気にしなくて良いからね。

 どうしても強い相手の時だけ、堅い前衛が1人欲しいって言うくらい、味方の数が少ない方が実力を発揮できるんだよ。

 もちろん黒骸王みたいな化け物は無理だけど、相性的にはジグとコンビを組めば、かなり凄いことになると思うよ」


「それほどなのか…ならば近いうちに是非、手合わせ願いたいものだな」


「彼女も忙しい身ではあるけど、ジグの訓練のためには時間をとっているから、その時なら良いかもしれないね」


「おお、良いことを聞いた。礼を言う」


「いや師匠、僕の訓練の邪魔をしないで下さいよ?」


「ほ、他の者の戦いを外から見るのも、大事なことでゃろう!?」


「……どもったうえに噛んだから、全く説得力が無いですよ。でもまぁ、アルテミア様本人から了承を得られれば、反対はしません」


 そんなやり取りをしているうちに、もう対岸が見えてきた。モルド神父の魔力を燃料にしているだけあって、船の速度はかなり速かったみたいだ。

 しかし僕たちが接近しているのにも拘らず、集落にほど近い船着き場には、見張りもいないようだった。


 僕たちは警戒しつつ上陸して、集落へと入っていく。すると集落の更に向こう側、北に広がる荒れ地の方から土煙が上がっていた。


「向こうにいるようだな。急ごう、アマリアは離れないように」


「俺が先陣を切ろう。モルド殿はアマリア殿の守りを。ジグは周辺警戒、レストミリア殿は後ろを頼む」


「「了解」」


 そうしてラジクを先頭に、モルド神父、アマリア、僕、レストミリアが続く。

 集落から北の荒れ地に向かう道には、武器や防具が散らばっていた。

 そして周辺にかけている索敵魔法によって、建物の中に多数のリザードマンが潜んでいるのがわかった。ほとんど全ての建物にいるので、反乱など本当に有ったのかと疑うレベルだ。


 とりあえず建物に隠れている彼らは、年寄りや子供などの非戦闘員だったり、武装していないことから反乱を良しとしない者だと判断できたのと、皆かなり怯えている様子なので刺激しない方が良いと思って放っておいた。

 これに関してはアマリア以外の3人も気づいているようだったが、何も言わないということは問題無いと判断したのだろう。


 更に進んで集落を抜けると少し先の荒れ地に、アルテミアが立っていた。近くには大型のロックウルフのようなモンスターが倒れていたので、どうやら討伐は完了したようだ。

 しかし反乱を起こしたという、リザードマンの姿が一切見えない。


 周囲には風のドリルで地面を穿ったような穴がいくつかあり、血溜まりになっていて戦闘の痕跡が色濃く残っているが、クロコサーペントを圧倒したアルテミアと、ロックウルフの上位種程度の戦いで、ここまで荒れるとは思えない。


「あら、あなた達も来たのね。皆揃って一体どうしたの?」


 僕たちが漁師から聞いた話を伝えて事情を話すとアルテミアは、そういうことね…と納得して微笑んだ。

 それは普段の真面目で優しい彼女からは、あまり想像できないような暗い微笑みで、少し悲しそうな、何かを諦めたような表情だった。


「たしかに彼らは長の息子の言う通りに、討伐依頼を囮にして私を後ろから攻撃してきたわね。

 でも、相手の実力も計れない長に(そそのか)されて、自分が誰を相手に、何をしているのかも、よく判っていない者が多数を占めていたようだから、分かりやすく教えてあげたのよ…」


「それでアルテミア殿はどうしたのだ?

 集落にはあれほどの人数が残っていたのだから、皆殺しにしたわけでもあるまい?」


「も、もちろんそんなことはしないわよっ!

 私はただ、やって来た中でも害意の強い、特にやる気のありそうなリザードマンだけを、見せしめに何人か選んで、こんな危ないことは止めなさいと他の者に教えてあげただけよ。

 ほら、そこにある穴が彼らの墓穴(はかあな)よ」


 そう言ってアルテミアは地面に穿たれた穴の血溜まりを指差す。


「しかし足跡を見るに、そこそこの人数が固まっていたのではないのか?

 これほど密集した状態で、人混みの中の標的のみを狙えるものなのか?」


「ラジク殿がどうかは知らないけど、私にとってそんなのは、弓で遠距離狙撃も出来るようにいつも訓練しているんだから簡単よ。

 むしろその後が問題だわ。私の話も聞かずに皆して逃げちゃったから、どうしようかと考えていたところなんだから」


「それなら良い考えがあるよ。せっかく教会の神父や、女神のようなシスターがいらっしゃるんだから、説明してもらえば良いさ。

 武装した騎士よりは説得しやすいと思うし」


「モルド殿の見た目もそうだし、更に武装した神父ではダメだろう。この中でそういった格好をしてないのはアマリア殿だけだから、彼女にお願いしてはどうだろうか?」


 レストミリアが提案するとラジクがそう答えた。

 たしかにモルド神父の見た目は神父に見えない。他の皆は僕も含めて少なからず武装しているので、警戒心を煽るかも知れない。


「わ、私に出来ることがあるならやります…!」


 皆の視線を浴びながら、オロオロしていたアマリアはやがて決心してそう言った。

大ごとになるかと思われたリザードマンの反乱ですが、アルテミアが力の差を分からせたこともあってすぐに終わり、護聖八騎に戦いを挑むというのは、こういう事だと見事に示しました。


種族を問わず民を守るために騎士を目指したアルテミアは、あまり見せしめのような事をしたくはありませんでしたが、立場や力量差を分からせず、あやふやにして今後更に被害が広がるのだけは絶対に阻止するべく、心を鬼にしました。


次回はアマリアが頑張る予定です。

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