第81話 六色の黒骸王 その7 戦後と今後の話
いつものように気絶して、目覚めてからのお話です。
黒骸王の消滅から四日後の朝、僕はようやく目を覚ました。身体には薄らと桜色の魔力が感じられるようになっていた。
そのあとヒルダとアマリアのお説教をたっぷり聞き、モルド神父もやって来て更に小言攻めにあい、アマリアを迎えに来たレストミリアの診察を受けてから、ようやく動き回ることを許可された。
少し疲れた顔をしているアマリアと、やつれた様子のレストミリアは、僕が寝ている間にも騎士団を中心とした、負傷者の手当てに忙しかったそうだ。
起きてからしばらくは、初めて身体強化を使った時のように全身に痛みがあったが、モルド神父曰く「慣れればじきに痛みも引くはず」とのことだ。
モルド神父の右腕には新しい義手が装着されていたが、今回はレストミリアの右眼の調査で忙しいサイモンは、前回のように病み上がりの神父に無茶を言うこともなく、すんなりと渡してくれたそうだ。
レストミリアがやつれていたのは、負傷者の手当て以外の部分に主な原因があるのだろう。僕を診ているレストミリアを、モルド神父は少し同情しているような目で見ていた。
今日も負傷者の治療をするために街へと向かう、レストミリアとアマリアを見送り、食事を終えて教会の外に行くと、いつも通りラジクが立っていた。
「おお、やっと目覚めたか。具合はどうだ?」
「まだあちこち痛いですけど、歩き回るぶんには問題ないです。師匠の方こそボロボロだったと思うんですけど、相変わらず回復が早いですね」
「ふふふ、聞いて驚け。俺はここ最近で二回も風属性が強まってな。早く鍛練したくて治癒術士の治療と併用して、霊樹の回復薬も使ったのだ」
「えぇっ、戦闘中でもないのに勿体ない…」
「おい、驚くところはそこじゃないだろう…」
「まぁそれもそうですけど…。ところでその二回って何なんですか?」
「ダリブバールでゲイルロックを倒してから、元々強めだった風属性が増して、今回の黒骸王との戦いで、強力な風属性を得たのだ。ふふん、どうだ凄いだろう」
「そんな子供みたいに胸を張らなくても…。
でも確かに凄いですね。属性ってそんなにポンポンと強まるものなんですか?」
「人によるとしか言えんな。若い頃から伸びる者もいれば、俺のようにある程度の年齢になってから伸びる者もいる。
俺の場合は若い頃にも一度伸びているし、まさかこのタイミングで伸びるとは思っていなかったから、嬉しい誤算というやつだ。
それにしても風以外の属性が増えないな…」
「早熟型とか晩成型みたいな感じですかね。
でも師匠が嬉しそうで、それに無事で良かったです」
「ああ、今回の戦いはかなり厳しかったからな。俺も一度は諦めかけたが、限界を超えるキッカケがあってな。そのお陰で今もこうして生きている」
「へぇ、それって何なんですか?」
「う、うーん、それは内緒だ」
ラジクは僕の頭をわしゃわしゃと撫でるが、理由は教えてくれなかった。でもその表情は嬉しそうなので、僕もそれ以上は聞かないことにした。
「ところで師匠、騎士団の方はどうですか?だいぶ被害が出ていたと思うんですけど…」
「たしかに死者も出てはいるが、それでも治癒術士やお前達のお陰で、あれほどの化け物を相手にした割には少なかったと思うぞ。
護聖八騎が前線で支えて、負傷者を交代で下げては回復させたのが良かったようだ。
ん?…どうした?」
「いえ、その…結局今回の事って、僕が遺跡で封印を解いたのが始まりだったと思うので、どう責任をとったら良いのかなと…」
「あぁ、その事か。お前が寝ている間の報告会議でも話が出ていたな。
扉を開いただけでは黒骸王は蘇らなかったこと、スカルピオンの討伐は鉱山の重要性から見ても必須だったこと、後から王宮魔導師によって行われた調査でも、封印がある限りは恐らくアンデッドは湧き続けた可能性が高いことから、お前個人へのお咎めは無しだ。
それと結果として黒骸王との戦になったが、他国の侵攻でも無い限り、首都の守りを担う先生…いや、アイゼンフォート殿以外の護聖八騎が、首都にいること自体が少ないので、たまたま4人もいる時に迎撃出来たのはタイミングとしても最良に近かったこと。
最近は大きな戦いが無くて、首都防衛用の対軍魔道具に魔力が満たされていたこと等から考えて、他の3人にもお咎めは無いらしい。
余程の重傷者でもない限りは、すでに回復して任務に復帰しているから気にするな」
「でも防げなかった被害の補填や謝罪は…」
「それについては、まぁその…お前が寝ている間に、エルフの里長がイリトゥエル殿を伴ってやって来て、里の救援に対する謝礼の秘薬や素材を献上したのだが、その数が予想より多くて王はご機嫌でな。
それに加えて彼らからの言葉もあって、深く追及なさることはしなかったようだ。
後で話したときに聞いたのだが、里長は元々少ない量を渡すつもりだったそうだ。
しかし、王が今回の戦いの事を話して、俺からダリブバールの戦いで得た賞金の一部を渡すことを伝えたところ、王に無理難題を突きつけられた時の備えに持ってきていた、交渉用の素材や秘薬までありったけ出してくれたのだ」
「里長とイリトゥエル様が…?一体王様に何て言ったんですか?」
「王が話の種として黒骸王のことを詳しく話したら、困ったときにはお互い様だということと、事の発端となったお前に関しては、里に守りの魔道具を譲ってくれた恩があることや、…その…なんだ…お前にはエルフの指輪を授けてあるから寛大な措置を、とな。
あの2人に言われたうえでたっぷり献上品を渡されては、王も特に不満は無かったようだ」
「…師匠、なんか話をねじ曲げたり、端折ってませんか?」
「やはりわかるのか。何というか…主にイリトゥエル殿なんだが、これから先も献上品が欲しいのなら、未来の里長候補に手を出すな。といった意味の話をかなり柔らかく遠回しに伝えて、王に対して暗に脅しをかけたのだ」
イリトゥエル様は豪胆なのか無謀なのかわからないが、それを聞いた僕は眩暈がした。しかも里長候補ってどういうことなんだ…。
「本当にイリトゥエル様が、王様に向かってそんなことを言ったんですか…?
それと前に、似たようなことをモルド神父にも言われましたけど、未来の里長候補ってどういうことですか!?」
「一般的に他種族にエルフの指輪を渡すのは、同胞として迎え入れるという証だが、それは主に許しを出す里長から渡されるものだ。
そして里長以外の者が指輪を渡す場合、エルフ同士なら結婚する者同士が交換するものだ。
しかしお前の場合、それを渡してきたのが里長の娘なのだから、エルフの中から配偶者を選ぶのではなく、その指輪を持つ相手を自分のパートナーの、第1候補として考えているという意思表示だぞ…つまりは次期里長候補の筆頭に選ばれたということだ」
「え、でも次の里長はイリトゥエル様なんじゃ?それに僕は孤児なんですよ?」
「血筋のうえではそうだが、里長夫妻は同等の扱いを受けるから、彼女の夫となれば里長と呼ばれてもおかしくないのだ。
それに、孤児かどうかなんてものは人間が勝手に持っている価値観で、心を許されたり実力を示していれば、他種族には一切関係ない。
身分差を言い訳に出来たハイワーシズの姫の時とは違うのだ。むしろ、種族間の壁をすでに越えていて周囲の反対も無いぶん、里長になるための障害は少ないと言える。
まぁこれから、他に自ら名乗りを上げる者がいれば、最終的には競い合って決めることになるとは思うが…そればかりはわからんな。
イリトゥエル殿の気持ちを優先させるという判断だって、あり得るのだから」
「感謝の気持ちとしてって言うから受け取ったけど、そんな意味があったなんて…」
「一応、その言葉の通りの可能性もあるぞ。
恩を感じているからこそ、お前を助けるため王にそのように言っただけの可能性も残っている。
しかしそうでなかったとしたら今回、王にも話を通したことで、着実に外堀を埋められてるな…」
「王様にもイリトゥエル様にも、そうそう会えるわけじゃないですし、出来ることは無さそうですよね…。
とりあえずそれについては考えないことにします。まずはアマリアや神父やミリアさんが、責任を問われる事がなくて安心しました。
僕も怒られないのはありがたいですけど、それでも被害に遭ったり亡くなった人には、償うために何かしたいですね…」
「そう言うと思っていたから、一応考えてある。しかしそのためには、まずしっかり休め。
体調を万全にしてから、お前にはこれまでの訓練に加えて、アルテミア殿の弓術指導、モルド殿からは新たな魔力の扱い方を学ばねばならんからな」
「それだとこれまで訓練してきた項目が増えただけで、今までと大して変わらないですし、何も償ってないと思うんですけど…。
もしかして騎士にでもするつもりなんですか?」
「それは良い考えだと思うがお前の力を発揮させるには、騎士よりも本人が望んだとおり冒険者となり、我々が方向性を示しつつ自由にやらせる方が良いのではないかと、お前が寝ている間に皆で話し合ったのだ。
今回はお前が前線にいなければ、下手をすると全滅していたからな」
「それは大げさだと思いますけど…」
「いずれにしても、騎士となり上からの命令で任務に就くのと、自由に動ける冒険者とでは、お前のやる気が変わってくるだろう?
日々訓練している一番の目的は、お前が大事に思うものを守るためなのだから」
「それはそうかもしれませんが…」
「なら、まずは力をつけろ。無力では何も出来んし救えん。お前は自分の手の届く範囲の事だけを考えておけ。
もしそのうえで余裕があれば、他の者を助けてくれれば良い」
「…はい!」
僕は話を終えると師匠の言うとおりに、まずは体調を万全にするために休むことにした。
責任問題に関してはエルフ側からの働きかけもあり、不問になりました。
実は裏では、今回の働きを見た騎士団による、ジグの取り込みを図った動きがありましたが、これはラジクと、弟子の弟子を取り上げたくないアイゼンフォート、戦う理由をレストミリアから聞いていて、これから教え子となるジグを気遣ったアルテミアの働きかけで、未然に防がれています。
アマリアに関しては、治癒術士全体がファンクラブと化していて、本人の意に添わない意見はなかなか出てこないみたいです。
どちらかというとアマリアの心配をしたレストミリアが、戦闘訓練をねじ込もうとして、一番アマリアの嫌がる(もしくは引く?)ような事をしている感じです。




