表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生の糸使い [830万PV突破・400万字、900話以上の大ボリューム!]  作者: 青浦鋭二
第1部 教会の孤児編 (襲撃・修行・エルフの里・黒骸王・巡回の旅・王都攻防戦)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/952

第80話 六色の黒骸王 その6 神の桜糸と浄化の光

ノルドアクスとアイゼンフォートの力によって、黒骸王の攻撃をどうにか凌いだものの、主力の騎士達はもう力を使い果たして戦えません。

 爆風を防ぎきった壁が崩れる向こう側には、巨大なドクロの形を保てないのか、グニャグニャと歪みながら呻き声をあげ、浮遊する黒骸王の姿が見える。


 一方で僕とレストミリアは、半分ほど残った壁に隠れつつ、護聖八騎の3人に回復魔法をかけ、黒骸王の様子を窺っていた。


「さすがに足止めなんてもう出来ないね。

 これはもう、一か八かで撃ってもらうしかないかな…」


「もし外れたらどうなります?」


「サイモンへの注文は浄化に特化した魔法だから、地面に着弾しても大爆発とはならないよ。

 でも外れたら黒骸王はそのままだし、当然ここにいる皆は全滅する。私達の魔力や魂を喰らって回復した黒骸王が、移動した先で何をするかは考えたくもない。

 そうなるくらいなら私は今すぐ引き返して、アマリア様だけでも逃がしたいね」


「外れた場合はそうしてください。僕も神父も文句は言いません。

 でもそんな賭けに出る前に、ギリギリまで足止めの方法を考えてください」


「アテが無いこともないんだけどね…。それを扱えるかはキミ次第だよ」


「え、僕ですか?」


「魔力が極端に減ってる今だからこそ見えるんだけど、ジグの中には風と光の他にも、属性だけじゃなくて性質そのものが違う魔力が見えるんだ。

 教会襲撃の後、私がジグの治療をしていた時には薄らと見えていただけで、その正体が分からなかった。

 エルフの里の時には、私は他の人達の治療で忙しくてキミを見ていなかった。

 でも今はそれが魔力…と言って良いのか分からないけれど、何らかの力ではあるとわかるよ」


「教会で初めて祈りを捧げた時や、ルナメキラが来て皆に危険が迫ったときに、桜色の魔力が出たことはありますけど、単に僕の属性というか魔力が、そういう色をしているだけなのかなと…。

 モルド神父も知っていますけど、特に何も言いませんでしたし」


「モルド殿はその辺りに詳しくないから、何かしら判明してない属性でもあるのかと思っているのかもね。でも私はこの右眼を手に入れてから、研究や調査をしてたんだ。

 生き物が持つ魔力は風なら緑、光なら白、水なら青というように、属性に対応した色をしているけど、桜色の魔力を持つ属性は、ただ1つの例を除いて存在しないはずだよ」


「それって一体…」


 僕達が話していると、先ほどより姿形が定まってきた黒骸王が、ゆっくりとこちらに近付いてきた。


「のんびり話している時間は無さそうだね。

 私が時間を稼ぐから、ジグは例の魔力をどうにかして発現させてほしい。

 なんの訓練もしていない子が魔族を相手に生き残れたんだ。今ならもっと色々なことが出来るはずさ」


「でも僕、どうやればそれを使えるのか…」


「初めて祈ったときと、襲撃のとき、その二つには何かしらの共通点があるはずさ。それをよく思い出すんだ。

 もし無理なら言っておくれ、さっき言ってた賭けに出るから。

 それとモルド殿にも協力してもらおうか、ずっと気絶していたのなら、多少は回復しているだろう。

 さぁさぁモルド殿、そろそろ起きてくださいよ!敵が目の前まで迫ってます」


「ぬぅ、不覚。いつの間にか気絶していたのか。順調に回復していたと思ったのだが…」


「疲労がピークに達していたところで傷が癒えて、緊張の糸が切れたのでしょう。

 充分休んだと思うなら、私と一緒に時間稼ぎをしてください。事情は動きながら話します」


「…ふむ、わかった」


「ジグ、行く前に一つだけ伝えておくと、私が調べた数々の文献の中でも、桜色の魔力…いや、この場合は神力か。それを持つのは導きの神ただ1人だったよ。

 何かしらの原因があって、その力を授かったのかもしれないし、一時的に借りられたのかも知れないね」


 レストミリアがそう言うと、2人は飛び出して黒骸王に攻撃を開始して、僕から引き離していく。


「導きの神って…どこかで聞いたことがあるような。それに桜色の魔力も、僕以外の人が使っているのを見たことが…」


 初めてシスターや神父が祈るのを見たときから、今までの記憶を徐々に探っていくが、思い当たる話や光景は浮かばない。

 そもそも貧乏だった教会には本などほとんど無く、おとぎ話をシスターがしてくれても、映像や絵で視覚的な情報を記憶することは無いのだ。


 すると記憶にある光景は、自分が実際に見たことのあるものしか有り得ない。

 でも神様に会ったことがある人なんて、火の神から溶岩の魔力を授かったモルド神父くらいしか、周りにはいなかったはずだ。

 神の眼と呼ばれる右眼を手に入れたレストミリアでさえ、知らないうちに授かっていたくらいだ。


 それほど希少な経験を自分がしたことなんて、生まれ変わる前に……ん?


 記憶の片隅に眠っていた、自分に向かってグッと親指を立てて柔らかく微笑む眼鏡美人の姿、そして自分がこの世界に送り出されるときに現れた魔法陣と、そこから立ち上る薄らと桜色をした光の柱の記憶が鮮明に蘇る。


 ………あった!確かに神様と会ったことがある!


「おお。いたよ桜色の魔力の持ち主!たしか導きの神って言ってたし、間違いないよ!」


 名前は何て言ってたっけ……うーん。

 あっ、たしかル、ル、……そう、ルミア様だ!


 しかし神様との接触はたしかにあったけれど、それは前世での話だ。生まれ変わった後まで影響があるとは思えない。


「こっちで神様に関係していることなんて、祈りの結界だとか、選別の儀式くらいしか身の回りには無いよね…」


 ルナメキラを目の前にして悠長に祈っていたわけでもないし…。

 あ、でもあの時は魔力が暴走して身体が熱くなってたっけ。それに助けを求めても、神様が何にもしてくれない事に対して、かなり不敬な事を考えていたかも。

 普通の祈りとは違うけど、神様のことを考えながら魔力を放出していたのは、ある意味で祈りを捧げて神様にお願いしながら、魔力を捧げるのに似ているかもしれない。


 それに街の薬品工房の女主人も、元は男だったけど真摯に祈り続けて、選別の儀式で魔力を捧げた結果、自分の想いに神様が応えてくれたって言ってたっけ…。

 そうなると、神様に祈りと魔力を捧げれば、またあの力を借りられたりするのだろうか?


 共通点はそれくらいしか無い。まずは試しにやってみよう。僕はその場に跪くと、いつも教会でするように神に祈りを捧げる。


「祈りと魔力を捧げますので、どうか僕に力をお貸し下さい…」


 しかし何の反応も無い。捧げる魔力量が少ないのだろうか?本当に残りわずかな魔力では、これ以上は倒れて動けなくなるから、勘弁してほしい。


 こうする間にも黒骸王の相手をしている2人は、苦戦を強いられている。

 いくら弱体化していても、ただでさえ負傷し消耗している2人では、そうそう抑えられる相手ではないのだ。


 黒骸王の放った火球の爆発で、モルド神父が目の前に吹っ飛んでくる。左足に大きな怪我を負い、これ以上動き回っての撹乱は無理そうだ。

 そうして1人になったレストミリアも、懸命に浄化魔法で応戦しているが、長くは保ちそうにない。


「このままじゃ2人ともやられてしまう…。

 神様、お願いですから助けてください…!」


「ジグ、お前はこの期に及んで神に頼っているのか?教会にいる者としては良い行動だが、戦場にあって戦う者なら、己の力を頼みにしなくてどうするのだ…」


 モルド神父は全身に力を込めてどうにか立ち上がり、レストミリアに襲いかかる黒骸王を魔法で牽制しながら話す。


「ですが神父…」


「レストミリア殿から話は聞いている。しかし本当に神々は俺達の願いに応えてくれるのか?

 弱い者から奪い取る悪辣な盗賊、人間を滅ぼそうとした魔王軍、侵略を止めない隣国、それらを神々が放っているのは何故だ?

 真摯に祈りを捧げても、無惨に殺された者達がいるのに、それでも神を信じるのか?

 たしかに俺は、過去に神を名乗る者から魔力を授かったし、彼らは存在している。気まぐれに願いを叶え、力を授けてくれることもある。

 しかし本来、力は決して外に求めるものではなく、鍛練を重ねて力をつけ、自分の内から搾り出すものだと俺は思っている。

 神々が与えるのは、我々の中に眠る力を呼び起こすための、キッカケなのではないのかと俺は考えている」


「僕には何が正しいのか分かりません…」


「それは俺とて同じだ。今のはあくまで俺の考えだからな。でもお前はこれまでに二度、普通では有り得ない魔力を感じた。

 その時、お前は何を考えていた?単純に力を欲していたのか?」


「たしかにルナメキラの時、僕は力が欲しかった。でもそれは自分のための力じゃなかったと思います。

 それに最初に魔力を感じたときは、神父達の無事をただ祈っていただけです」


「ならば神々に願うのは、神そのものの助けでも、敵を倒す力でもないだろう」


「…はい、僕は守るための力が欲しい。

 危険や恐怖、不幸や災いを遠ざけ消し去る力が。

 傷付いた人を救い、せめて自分の手が届く範囲だけでも、助けを求める声に応えられる力が欲しい。

 それが自分の中にあるのなら神様、どうかそれを使わせてください…」


 僕は、ただ神の力による救いを求めるのではなく、自分の本当に望むものを口に出して祈る。

 残り少ない魔力を惜しまず、想いの全てを捧げて祈ると、やがて全身が熱を帯びてきた。

 目を開くとそこには、身体から立ち上る桜色をした魔力があり、これまでに無かった事が起こる。


 それは女性の声で直接、頭の中に響くようだった。


「声が…頭の中に女の人の声が聞こえます」


「俺には何も聞こえないが…どう聞こえるのだ?」


「糸を…。導きの糸を(つむ)げ、と」


「それは恐らく昔の俺が、溶岩の魔力を授かった時にも聞こえたものと同じようなものだろう。

 もしそうなら使い方を知らない俺達に示してくださった、神の言葉として従うしかあるまい。

 俺もそうして使えるようになったからな。

 まぁ俺の時はもっと直接的な物言いだったが…」


 僕は神父の言葉に頷くと魔力をより合わせて、細く柔らかい線のような糸を思い浮かべて形にしていく。

 そして手を振ると桜色の糸が勢いよく伸びていき、レストミリアに魔法を放とうとしていた黒骸王に巻き付いていく。


 糸によって塞がれた口内で魔法が爆発したが、巻き付いた糸は切れることもなく、そのまま黒骸王を拘束した。しかも糸には光属性でもあるのか、黒骸王の体の表面から黒い煙が上がり始める。

 しかし空中で黒骸王が暴れると、ぐんぐんとこちらが引っ張られていく。


「はぁ、はぁ、そ、その糸の色…。どうやら無事に自分のものに出来たみたいだね」


「ど、どうにか。それよりもミリアさん…くっ、身体強化が出来るなら耐えられるかもしれませんが、今のままじゃ抑えられません!」


「その力はジグにしか扱えないけど、もし特性が糸なら何かに縛り付けて、固定したら良いんじゃないかい?」


「ああっ、その手が…はぁっ!」


 先端は自由に伸び縮みさせられるようで、糸は巻き付いたまま伸びていき、周囲の岩や木に巻き付いて黒骸王を縛り付けた。

 なおも暴れる黒骸王に対して、僕は更に糸の本数を増やしていく。


「固定できたなら、合図を送っても良いかい?」


「はい!この力がどこまで使えるかも、どれだけ抑えていられるかも分かりませんし、早い方が良いです!」


「よし、じゃあ私が言ったら最低限だけ残して、糸を解除しておくれ。あれほどの量が巻き付いたままじゃ、下手をすると黒骸王を守るかたちになりかねない」


「わ、わかりました!」


 僕の言葉を聞いたレストミリアは、すぐに白い狼煙を1本上げる。

 すると城壁の向こうから、空へと真っ直ぐに伸びる光の柱が出現した。

 それは上空で方向を変えると、こちらに向かって真っ直ぐに落ちてきた。

 ちょうどUの字を逆さまにしたような軌道だ。


「よし、今だ!」


 レストミリアの合図と共に糸を減らすと、途端に黒骸王は巻き付いた糸ごと僕を引っ張り逃れようとする。


『エル・ヴォルガノン!』

『ホーリー・レイ!』


 しかしそこへ2人の放った魔法が炸裂し、逃げようとする黒骸王を一瞬押しとどめた。

 その直後に、直径10メートル近い光の柱が直撃して、断末魔を上げながら黒骸王は跡形も残さず消え去った。


「ようやく終わったんでしょうか…。

 すみません、危うく逃がすところでした」


「さすがに賢者の魔法だ、討ち漏らしはあるまい。最後の最後で詰めが甘かったが、よくやった」


「もし生きているなら、私の眼に引っかかるはずだけど、それも無いから安心して良いよ。

 それに初めてこの力を使ったんだから仕方がないよ。私達がフォロー出来たんだし、気にしなくていいさ。

 ところで身体に異常は無いかい?前回に比べて格段に鍛えているとは言え、負担がかかることには違いがないと思うんだけど…」


「元々底をついていたところに魔力が補充された感じですから、今のところ身体は軽いですよ。

 まぁ前回も、そう思っていた後に反動が来て酷い目にあったので、これからどうなるのかは分かりませんけど」


「どちらにしても長居は無用だね。早く皆を治療して、私も休みたいよ」


 そう言いながらレストミリアが青い狼煙を上げた。桜色の魔力は糸以外に使えないらしく、せっかく魔力があっても皆の治療には役に立たなかった。

 レストミリアが治療する傍らで、役に立たない僕たち2人は座って見ているしかなかった。


「かなりの量の魔力があるのに勿体ないなぁ…」


「その魔力に関しては、追々試していけば良い。応用次第では使い方の幅が広がるはずだ」


「神父の魔力もそうだったんですか?」


「ああ、最初は溶岩球しか出せなかった。

 しかし、慣れていけば少しずつその魔力の特性が分かるし、試さねば判明しないことも多いだろう。

 今は発現したときの感覚を忘れないようにして、焦らず時間をかけて身体に慣らすのだ。無理をすれば反動で寝込むどころでは済まんぞ」


「わかりました。それにしても、同じような経験をした神父がいて助かりますね。

 神父の時には、誰か教えてくれたんですか?」


「いや、俺の時は完全に手探りだった。

 反動で寝込むどころでは無かったのは、俺の経験談だ」


「あぁ、無理をして酷い目に遭ったんですね…。じゃあ大人しく従っておきます。苦しいのや痛いのは嫌ですからね」


 そんな話をしていると、遠くにクロエの率いる治癒術士隊がやってくるのが見えた。

 これでようやく安心できると思ったら、気が抜けたらしく桜色の魔力はスウッと引いていき、途端に身体が重くなった僕は気を失った。

主人公が眠っていた力を解放させ、黒骸王との戦いもようやく勝負が決して、タイトル通りに糸を使うようになりました。


まだ制限も多く、使いこなすには時間がかかりそうではありますが、これから使い道は増えていきます。


当初の予定では名前の出ていた騎士の何人かが、お亡くなりになる予定でしたが、書いているうちに愛着が湧いてしまって、退場させられませんでした。

騎士団そのものの被害は大きいので、これから後進を育てたり、人手不足を補うために頑張ってもらうことにします(笑)


相変わらず、戦闘後には気絶するのがお約束になっておりますが、主人公には毎回無理をさせているので許してくださいませ…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生
糸使い

魔法
魔族
魔王
男主人公
コメディ
冒険
シリアス
亜人種

人外
ハッピーエンド
― 新着の感想 ―
ついにタイトル回収ですね!! しかもまだ序の口だから、これからの応用発展が楽しみです。 しかしまさしく総力戦と言うにふさわしい戦いだったなぁ 封印の経緯とかも語られるのか(資料失伝してるから無理か)…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ