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転生の糸使い [830万PV突破・400万字、900話以上の大ボリューム!]  作者: 青浦鋭二
第1部 教会の孤児編 (襲撃・修行・エルフの里・黒骸王・巡回の旅・王都攻防戦)

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第79話 六色の黒骸王 その5 希望と絶望

自分の周りにいる人達が傷付いている姿を見ながらも、どうにか堪えて治療を続けていたジグですが、モルド神父のいる前線の危機を知ると、とうとう感情が抑えきれずに魔力を暴走させてしまいました。

 胸が締め付けられるような焦燥感にかられながら、体内で暴れる魔力を身体強化に変換させて、僕は爆発の起こった前線へとひた走る。

 すると空中に黒く巨大なドクロが浮かんでいて、まだ数人が戦っているのが見えた。

 騎士が説明していた、黒骸王の中身らしい。


 その周りには、先ほどの爆発によって倒れた騎士達が倒れていて、まだ動ける者が負傷者を連れてどうにか下がろうとしていた。


 騎士たちは魔法を放って撃ち落とそうとしているが、表面を覆う黒い氷によって攻撃は阻まれていた。


「オオオ、我かラ逃げヨウとシてモ無駄ダ。大人シく喰わレロ」


 そして黒骸王は、逃げようとする者から先に攻撃するつもりなのか、撤退を開始した騎士に向かって口を開く。


『くっそぉ、間に合え!ホーリー・レイ!』


 僕は走りながら魔力を溜め、その口に向かって光の熱線魔法を放つ。

 攻撃態勢の時には防御できなかったのか、それは口の中に直撃して、口内の魔力と共に爆発を起こした。

 予想していなかった方向からの攻撃に騎士達が振り向くが、やはり黒骸王を前に余裕がないのか、敵ではないと確認すると戦闘を続けた。

 しかしその中にモルド神父の姿は無く、嫌な予感は増していく。


「アルテミア様!姿が見えませんが、モルド神父はどこにいるのですか?」


「ジグ!?何でこんなところに…いえ、来てしまったのなら協力してちょうだい。

 モルド殿は味方を庇って負傷したわ。今はアイゼンフォート様の後ろにいるはずよ、治療をお願い」


「わかりました。ありがとうございます!」


 戦っている騎士のなかでも、後ろから弓で援護しているアルテミアを見つけて、僕は神父の居場所を尋ねると、その少し先の鉄の壁で守られた所にモルド神父は倒れていた。

 僕が駆け寄ると、モルド神父の義手はすでに無く身に着けていた防具も壊れ、身体の数カ所に何かが突き刺さったような傷があった。


「とうとうここまで来てしまったのか、この馬鹿者め…」


「今は喋らず大人しくしていてください。お説教なら後でいくらでも聞きますから…」


 こちらを見たモルド神父が荒い呼吸の間に弱々しく言うが、僕は神父の首に首飾りをかけて回復薬を飲ませ、ありったけの魔力を込めて回復魔法をかける。

 少しすると治療が効いてきたのか、モルド神父の呼吸が整ってきた。


「言いたいことはあるが、まずは助かった。しかし…」


「戻れとか帰れと言うのは無しです。僕はもう決めましたから」


「一体、何を決めたというのだ?」


「戦います。例え役に立てることが少なかったとしても、師匠や神父をこんな目に遭わされて、僕だって怒っていないわけではないんです。

 僕の力じゃ倒せないにしても、倒せる力がある人を助けるくらいは出来るはずです」


 僕の言葉を聞きながら、モルド神父は黙って僕の眼を見ている。


「…死ぬかもしれんのだぞ?」


「死にたくはありませんけど、安全なところで待っていたり、このまま何もしないなら死んだ方がマシです。

 とりあえず、神父の怪我はある程度の良くなりましたし、騎士様たちに回復薬を配って回りますよ。必要なら回復魔法をかけたり、弓で援護もします」


 モルド神父の眼を僕も真っ直ぐに見ながら言う。


「本当に…いつのまにかアマリアも、そしてお前も、もう子供ではなくなっていたのだな…。ならば好きにしろ」


「でも、後からお説教はするんでしょう?」


「ふっ……それとこれとは別だからな、当然だ。

 さぁ、他の皆を手伝ってくるのだろう?今の俺が持っていても仕方がないから、これは他の者に渡してやれ。そしてこれ以上状況が悪くなる前に、もう行け」


「はい!」


 僕は首飾りと、モルド神父の持っていた回復薬を受け取ると、薬を飲んで消費した魔力を回復させ、身体強化で走り回り騎士達に薬を渡し、また飲ませていく。

 手元にあった回復薬は使い切ってしまったが、少しずつ分け与えたことで、どうにか全員が自力で動ける程度には回復しつつあった。

 すると後衛の方からレストミリアがやって来た。


「ジグ、キミは全く無茶をするね。あの後アマリア様がどんなに動揺していたか、見せたいくらいだったよ。

 まぁ、キミとモルド殿の心配が頭の中でせめぎ合ってる感じだったけど、酷く混乱していて恐らく身体強化を使えたなら、同じように飛び出していただろうと言えば、わかりやすいかな?」


「だいたい想像はつきますね…」


「とは言え、ここはアマリア様には危険すぎる。まぁそれはジグにとってもそうだけど…結果を見ればキミの暴走は正解だったのかもしれないね。

 これなら、私が無理に範囲回復を使わなくても良さそうだ」


 周りを見渡し、少しずつ回復して自力で動き始めた騎士達を見てレストミリアはそう言う。

 その後、負傷者を攻撃しようとする黒骸王の口に魔法を叩き込んで阻みながら、撤退する騎士達を援護した。

 それが終わると戦況を把握しに、2人でアルテミアの所に向かった。


「負傷者を庇いながらは大変だったから、あなた方が来てくれて助かったわ。本当にありがとう。

 現状はアイゼンフォート様に防御を任せっきりで、ノルドアクスを中心に攻撃、私が合間に注意を引いたり攻撃を阻んだりして、どうにか戦線を保たせているわ。

 黒骸王もあの姿になってからは素早さも失って、

 空中を漂いながら攻撃や防御をするに留まっていたんだけど、一度だけ大量の魔力を放出させた大爆発で、辺りを吹き飛ばしたのよ。アレさえ無ければ優勢だったのに…。

 モルド殿が回復したら少しは楽になるのだけれど、彼の状態はどうなの?」


「薬と魔法によって危険な状態からは脱しましたけど、他の騎士と同じように自力で撤退することは出来ても、戦うのは厳しいと思います…」


「そう…。ところでミリアはどうしたの?

 後衛にはクロエがいるから大丈夫でしょうけど、あなただってまだ本調子ではないでしょう?」


「こんなのでも私は治癒術士長だからね、そんなに寝てばかりもいられないさ。

 それとしばらく前に、賢者サイモンにお願いをしたから、合図を待っているのさ」


「サイモンってあの変人賢者?

 それに近衛と同じく、王宮に直接の被害が出ない限りは、そうそう動かないはずの王宮魔導師が動いてくれるの?」


「対価として、この眼の調査をチラつかせたからね、サイモンなら必ず飛びついてくるよ。

 あちらの準備が整えば早馬が来るから、それを確認してから黒骸王を足止めできれば、こちらから白の狼煙を1本上げて、それを合図に大きいのを叩き込む手筈になってるんだ。

 ただし連射は出来ないはずだから、一発のみだけどね」


 レストミリアは金色の右眼を指差しながら、得意げに説明した。

 負傷者を迎えに来た部隊長と話していたのは、そういうことだったらしい。


 合図を待つ間、僕はアルテミアと共にエルフの弓で攻撃し、レストミリアは前衛の回復や支援をしていた。


「凄いわねジグ、腕前と言うよりは弓のお陰の気もするけど、それを差し引いてもなかなかのものよ」


「ありがとうございます。アルテミア様はこれが何かわかるのですか?」


「ええ、私の祖先にはエルフが混じっているから、指輪の話だけなら幼い頃から聞いてるわ。でも本物を見たのは今が初めてよ。

 でも、まだまだ弓の性能に頼った部分も多いし、荒削りね。もし弓の扱いを教えてくれる人がいないなら、私が今度教えてあげるわ。…お互いに無事だったらの話だけど」


「アルテミア様に教えを受けられるなんて光栄です。弓の先生はいないので、とてもありがたいです」


「じゃあ決まりね。お互い無事にここを乗り切りましょう」


 レストミリアが加わったことで前衛が回復を受けられるようになり、戦況は少し良くなったようだ。

 しばらく膠着状態が続いていたところに、街の方角から早馬がやってきて、レストミリアに準備が整ったと伝えた。


「よし、サイモンの対軍勢用魔法の発動準備が整った!皆で黒骸王を足止めできれば、勝負が決まるよ!」


「おうおう、ではワシも魔力を使い切る覚悟で、奴を閉じ込めてやろうかのぅ。ノル坊、お主も協力せい」


「はぁ、はぁ…全く人使いの荒い爺さんだ。ずっと前衛で黒骸王に張りついていた俺は、もういっぱいいっぱいだっつうの」


「中級騎士のラジク坊主が、あの黒骸王の頭を吹き飛ばしたというのに、護聖八騎と呼ばれるお主が、それ以上の働きを出来んでどうするんじゃ?」


「ちぃっ、なら見てろよジジイ!俺1人でも抑えてやらぁっ!」


 ノルドアクスとアイゼンフォートが魔力を溜めるあいだ、他の騎士達が黒骸王に攻撃を集中させて時間を稼ぐ。


「ジグ、私達も大きいのを叩き込んで、あの2人が魔力を溜める時間を作るわよ!

 私は奴の視界を塞ぐようにするから、あなたは大きいのをお願い。狙いは口よ!」


「はい!」


 僕は弓にあらん限りの魔力を送り込み、弓を引く。隣にいるアルテミアの身体からは風が巻き起こり、弓が白く光り出してバチバチと魔力が迸っていた。


「これで勝負がつきますように。神よ、私達に力をお貸し下さい。

 …はぁぁっ!『浄光嵐穿弓(じょうこうらんせんきゅう)!』」


 周囲の風や光が弓に収束していき、アルテミアが風と光を纏った矢を放つと、それは一瞬にして数百本に分裂して上下左右に分かれて、黒骸王へと殺到していく。


 僕も直後に光の矢を放つと、先にアルテミアの矢が命中して、ドクロの姿で空中にいる黒骸王の全身に突き刺さり、浄化の力でブスブスと黒い煙を上げた。

 そしてその痛みに耐えきれず、ドクロが空中でぐらぐらと揺れ悲鳴を上げる。

 その開いた口に向かって僕の放った光の矢が突き進み、命中すると爆発を起こした。


 するとそれを合図にして、アイゼンフォートとノルドアクスが魔法を発動する。


『エル・アイアンジェイル!』


岩堅獄牢(がんけんごくろう)!』


 矢を浴びて空中をのたうつ黒骸王の周囲を、鉄柱を組み合わせた檻が囲み、更にその上から分厚い岩で出来た四角い箱が包んだ。


「よし、じゃあ合図の狼煙をっ…」


 レストミリアがそう言って狼煙を上げようとしたした瞬間、空中にあった堅牢無比と思われた岩と鉄の檻は、内部から溢れ出した黒い魔力によって吹き飛んだ。

 そしてその魔力は檻の破壊だけに留まらず、黒い塵のように辺りを舞い始めた。


「くそっ、あれを脱出するのかよ…。

 それにやべえなこりゃ。また爆発するぞ!」


「もう止められないし、防げないわよ…」


 ノルドアクスが膝をつきながら、アルテミアがフラつく足で何とか踏ん張りながら言うと、直後に黒い塵が火を噴いて爆発し、皆は爆風に吹き飛ばされ地面に倒れた。

 しかし凄まじい爆風にもかかわらず、僕の身体はそれほど怪我を負っていないようだったが、目を開くと理由は目の前にあった。


「う、うぅ…ア、アルテミア様…?」


 そこには僕を覆うようにして倒れているアルテミアがいた。


「がはっ……あぁ、無事で良かったわ。非常用のお守りのお陰で、どうにか命拾いしたわね…。

 あなたのお守りは余程品質が良いのね、私が壁になったとは言え、よく壊れずにいるものだわ」


 アルテミアは血を吐きながら、胸元にある魔石の砕けたブローチを手に取って言う。


「なんで僕を…」


「バカね、騎士が民を守るのは当たり前でしょう。それにあなたには弓を教えるって約束したんだから、ここで死なれちゃ私の楽しみが無くなっちゃうのよ。

 ミリアが楽しそうに話しているのを見て、私も弟子が欲しかったんだから」


「すみません、僕が来たばっかりにこんな怪我をアルテミア様に…」


「何を言ってるの、あなたの薬と魔法と、そして働きのお陰で、どれだけの騎士達が助かったと思っているの。

 あなたにも、そしてアマリアにも皆感謝しているわ。自分たちのしたことを誇りに思いなさい」


「…はい…!」


 僕はアルテミアに首飾りをかけ、起き上がって辺りを見回すと、黒骸王は依然として空中に在りながらも、それ以上の動きを見せていなかった。

 魔力を大量に消費したから反動が来ているのか、もしくは回復を図っているのかもしれない。


 そして他の騎士達も爆発に巻き込まれていて、特に僕達より黒骸王の近くにいた、ノルドアクスとアイゼンフォートは重傷だった。

 レストミリアはモルド神父の近くにいて、壁魔法を使ってある程度防御したのか、傷を負っているものの2人とも無事だった。


「シブとイ奴らめ、次デ終わリニしテやル…!」


 重傷の2人をレストミリアが回復していると、止まっていた黒骸王が身を震わせて、再度黒い塵をばらまき始めた。


「うひっ、また同じのがきたらさすがに耐えられないよ…」


「ぐぬぅ…レストミリア殿!皆を回収してワシの後ろに!」


「は、はい!『エル・アクアハンズ!』」


 黒骸王を呆然と見ていたレストミリアだったが、アイゼンフォートの指示にすぐさま反応して老騎士の後ろに移動すると、無数の水の手を生み出して皆を捕まえ、一気に自分のもとへと引き寄せた。


「じ、爺さん、アンタも重傷なうえに魔力も残ってねぇだろうがっ、その年でそんな無茶をしたら死んじまうぞ!ここは俺が…」


「重傷で魔力が無いのはお互い様じゃろう、それにお主の盾魔法では防げぬ。

 何より若者を守るのは年長者の務めじゃ、これは教え子には譲れん。

 この歳でも限界など超えてみせるわ。師の魔法をよく見ておれノルドアクス!『エル・アイアンウォール!』」


 僕達を包む鉄の壁が現れると、直後に轟音が響き渡った。爆発の衝撃に地面が揺れ、鉄の壁が軋む。


「ジジイ1人に無理をさせて見てられるわけがねぇ…!」


 ビキビキと音を立ててヒビ割れていく壁を見て、ノルドアクスは更にその内側に岩の壁を作り出した。


 やがて轟音が鳴り止み、壁がバラバラと崩れていく。限界を超えて魔力使った2人はその場で倒れ、壁の向こうには姿を保てなくなりつつあるのか、ドクロの形が崩れ始めた黒骸王がいた。


 しかし、すでに護聖八騎の3人はすでに戦える状況になかった。

少し長くなりましたが、ここで切ります。


トドメとなり得る攻撃を当てたい皆と、それに全力で抗う黒骸王の攻防は、ギリギリで黒骸王に軍配が上がりました。


他の騎士達の被害も大きく、モルドも満足に戦えず、護聖八騎は倒れ、現場に残り多少なりとも動けるのは、もうジグとレストミリアのみです。

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