第76話 六色の黒骸王 その4 総攻撃とラジクの限界
モルド達と交代で戦うことになった、騎士団長が率いる部隊のラジク視点でのお話。
これまでの厳しい戦いを援軍が来るまで耐えていたモルド殿や、護聖八騎の3人と他の騎士達は、一度下がって治癒術士たちの治療を受けることになり、代わりに団長が率いる部隊を前面に押し出して、俺達はその支援をすることとなった。
最近は書類仕事ばかりだと団長はボヤいていたが、鍛練は欠かさなかったようだ。
『エル・ファイアー!』
団長は青白い炎を放つと、同時に間合いを詰めて横から炎剣で薙ぎ払い、それが盾で防がれれば盾から放たれた黒い竜巻を姿勢を低くしてかわし、そのまま雷を纏った足で蹴って、黒骸王の体勢を崩し更に斬りかかる。
「グガアァァッッ!」
その攻撃を身体を覆った黒い氷で防御した黒骸王は、正面にいる団長に向かって口から黒い雷を放つが、2人のあいだには光の薄い壁が現れ、壁を貫通した黒い雷は威力を大幅に下げて命中する。
しかしこれは雷を纏った団長の身体には届かない。
どうやら完全に阻む普通の盾魔法よりも、相手の攻撃力を削ぎ落とすのに特化した、柔軟性のある盾魔法なのだろう。
そうして団長は黒骸王の攻撃に怯むことも、防御の姿勢をとることもなく、そのまま攻撃を続ける。
しかし防御と同時に風を生み出す盾と、盾で防げなかった攻撃には、身体を覆う黒い氷で対処する黒骸王の守りには、団長の嵐のような攻撃をもってしても、なかなか突破することができないでいた。
雷の属性身体強化で相手を撹乱し、炎の魔法剣で戦う姿は、今や閃剣と呼ばれるほどになったヴォルグラント殿が、まだ騎士になったばかりの時に手本としただけあって、凄まじいものだ。
しかも闇属性の敵に対して自分が矢面に立って戦い、光属性を持つ騎士たちに自らの防御を完全に任せる戦法は、部下を信じていなければ出来ず、また黒骸王の攻撃を確実に阻む部下の技量も、見事としか言いようがない。
対する黒骸王も強打を決めることは出来なくとも、団長の凄まじい攻撃を単独で全て防いでいる。ハッキリ言って両方とも信じられない光景だった。
「まったく、互いになんという化け物なんだ…。
しかし見ているだけでは意味がない、団長が相手の守りを突破できないのなら、更に俺達が攻撃を加えて、奴の守りを突破するのだ、行くぞ!」
俺は部下達にそう言うと、団長の攻撃に対して黒骸王が防御に入る瞬間を待ち、隙を見つけると同時に風の刃を放つ。
しかしそれは黒骸王の体表面に命中しても、切断するには至らなかった。
「ぬぅ、まともに当ててもあれほどの硬さでは厳しいか…」
ダメージを与えるにはどうしたら良いのか考えていると、身体は団長に向けたまま、黒骸王が頭だけでこちらを振り返り、口から黒い雷を放ってきた。
「うわっ!」
思わずそんな声が出てしまったが、俺は盾魔法がほとんど貫かれるとの報告を受けていたので、足裏に魔力を溜めて横っ飛びで回避する。
「人間なら出来ないことでも、骨だけなら当然の動きか…。
団長、生半可な攻撃では支援にもなりません!魔力を溜めて準備をするので、どうにか隙を作って下さい!」
「了解した!他の皆もタイミングを合わせて一斉にやれ!それまでは抑えてやる!」
団長はそう答えると更に攻撃速度を増して、標的を他に移らせないよう、黒骸王を自分に釘付けにする。限界を超えた動きなのか、団長が動くたびに血が霧のように舞っている。
俺をはじめとした騎士達は一斉に魔力を溜め始め、あちこちで魔力の輝きが増し、バチバチと音を立て始める。
「団長!」
「おう!」
準備が整ったことを告げると、更に姿が消えたと思うほど加速した団長は、ガガガガガァァン!と一瞬で5連撃を叩き込む。
黒骸王の白い鎧が一部ではあるが初めて吹き飛び、大の字に大きく仰け反りながら空中に浮き上がった。
攻撃後に剣を落とし、どうっと両膝をついた団長の身体からは、無理矢理の加速に耐えられなかったのか、岳竜の超高速移動後のように血管が破れ、全身から血が噴き出す。
しかも足には黒い氷が1本刺さっていた。あれほどの攻撃を受けながらも、最後に足の止まった団長の隙を、黒骸王は逃していなかった。
団長が作った好機を逃さず、黒骸王に向かって皆は一斉に攻撃を放つと、着弾と同時に膨大な魔力と様々な属性によって、大爆発を引き起こした。
「ぐふっ、まだ安心するな…同じ火力の攻撃を力の限り続行しろ!」
血を吐きながらも団長が更なる攻撃命令を下し、皆は更に三度、魔力を溜めて一斉攻撃を行った。
やがて巻き上がった土煙が晴れると、そこに黒骸王の姿は無かった。
「奴がいないぞ?」「やったのか…?」と皆が辺りを見回すが、姿は発見できない。
「くっ…あの程度で倒せるなら、ここにいた護聖八騎だけで倒せるはずだ…警戒を怠るな!」
団長はまだダメージから完全に立ち直っておらず、少しフラフラとしながら剣を構える。
するとあちこちの地面から、突如として強大な闇の魔力が無数の手の形をして溢れ出た。
それは騎士達を捕まえると魔力を次々と吸っていく。
そして一際大きな手が1本現れると、団長の守りを担っていた光属性を持つ騎士達の背後に現れ、彼らを捕らえると他の手は集まって人の形に変化して、捕らえた騎士達を一瞬のもとに斬り伏せた。
現れたのは白い鎧と盾を失い、全身のあちこちと同じようにヒビ割れ欠けた王冠を被って、白い剣をダラリと持った黒骸王の姿だった。
かなりのダメージがあるように見えるが、騎士達の魔力を吸収したせいか、魔力だけが異常なほど溢れ出ている。
「クカカカカ!ようやクまトモな食事がデキたぞ、久シく忘レテいた味ダ…。
しカシ全く足りヌ。傷ヲ癒シ力を取り戻スニはまダマだ贄ガ必要ダ!」
「化け物め…よくもやってくれたな」
歓喜に打ち震える黒骸王へと、団長が怒りをあらわにして向かっていく。
しかし姿はともかく、魔力を増した黒骸王とは対照的に、団長の傷は酷く魔力の消耗も回復してはいない。
俺や他の騎士達は団長を引き留め、代わりに黒骸王へと挑むが、総攻撃によって消費した魔力は残り少なく、俺をはじめとした騎士達はまともにダメージを与えられる状態ではなく、次々と魔力を吸われて倒れていく。
それでも諦めるわけにはいかないと、俺は魔法剣を使わずに剣術で挑むが、多少の身体強化を使ったところで黒骸王の力にはかなわず、吹き飛ばされて倒れた。
「く…やはり敵わんか…」
「大人シクしてイれば楽二しテヤる。そレに我二喰わレルノは名誉ナことダ。誇ルガ良イぞ」
ガシャガシャと音を立てて近付いてくる黒骸王に、俺が抗うすべはもう残っていなかった。
しかし、このまま目を瞑って諦めようかと思った時、いつかの訓練の休憩中に、弟子が言っていた言葉がふと頭に思い浮かんだ。
「僕が戦う決心をした理由は、アマリアやモルド神父のこともそうですし、家族を守りたいと思ったのはもちろんですけど、それ以外にもあるんですよ。
本人に言うのは何だか恥ずかしいですけど…。
師匠はよく知らない僕達のために、ボロボロになりながらも戦ってくれたじゃないですか。
それって凄いことだと思いますし、格好いいなと思ったんです。
教会で身体強化を使ってルナメキラに向かって行けたのも、師匠や他の騎士様たちの戦いぶりを見ていたのが大きいんですよ。
つまりこうやって訓練し始めたのは、師匠のお陰でもあるわけですね」
頭を掻きながら少し恥ずかしそうに言う、弟子の姿が目に浮かんだ。
いつも何だかんだと文句を言いながらも、最終的にはやれやれ…といった顔をしてついてくる弟子を、俺がこのままやられて好き放題させた挙げ句、無惨に殺させるわけにはいかない。
それに後衛に下がった者達が、まだ回復しきらないうちにコイツが向かえば、甚大な被害が出る。
何としても止めなくてはならない。
「魔力が無いならどうする…か。
…ふふふ、あれはたしかシャドウバードの時だったな。
あのとき俺は、魔力のほとんど尽きている弟子に向かって、頑張って魔力を使えと言ったのだから、当然師匠の俺が出来なくては格好が悪いよな…そうだろう、ジグよ…!」
風では浄化できない?…それがどうした。
風属性馬鹿?…これを極めると誓ったんだ。何が悪い。
魔力が尽きた?…なら身体中から搾り出せ!
敵わない相手?…そんなものは弱気ごと斬り伏せろ!
「何ヲ言ッテいる?恐怖デ頭がオカしくナっタノか?」
俺は魔力を搾り出し掻き集めて剣に込め、それを透けるほど薄く、何であろうと断ち斬れる鋭い風の剣をイメージして練り上げていく。
若いときには何度も挑戦した限界突破だが、いつしかやらなくなり、久しく試していなかったと実感する。
全身が一気に熱を帯び、無理な魔力の使用に体が悲鳴を上げ、今にも意識を失いそうだ。
「サぁ、お前ノ魂はドんナ味ダ?」
「そんなに喰いたければ、代わりにこれをくれてやる!うおぉぉっっ!」
俺はグッと力を込めて意識を保ち立ち上がると、足裏から魔力を爆発させて突進する。
黒骸王はそれを白い剣で受けると、ギンッ!と音を立てて、俺の剣が折れた。
「クハハッ!ムダな悪アガきヲっ…!?」
その様子を見ていた黒骸王が油断して笑うが、俺は構わず剣を突き出す。
魔力を付与した剣は折れたが、魔力そのものは風の太刀として確かに存在し、白い剣を真っ二つにして、そのまま黒骸王の眉間を貫いた。
「クガッ!きサま、いっタいナニを…!」
続いて勢いのまま体当たりして地面に倒れ込み、力を更に込めて後頭部まで貫き、風の太刀は地面に達した。そして刃となった風を爆散させて、黒骸王の頭部を内から吹き飛ばした。
その爆風で自分も吹き飛ばされ、黒骸王の頭の上半分が消し飛んだ光景を最後に、俺の意識は途絶えた。
騎士団長とラジクの率いる部隊によって、黒骸王の鎧は砕け、盾も消滅し、大きなダメージを与えられましたが、そのためにかなりの無理をした団長はほとんど戦闘不能に。
総攻撃に耐えきった黒骸王は、ボロボロになりながらも残り少ない騎士達の魔力を吸収して、どうにか回復を図りますが、破損の激しい全身から魔力が漏れ出る状態に陥っています。
ラジクや団長はこれを、黒骸王が更に強力になったと考えていますが、実はこれは人間やモンスターで言えば出血している状態です。
魔力を吸収して輸血した先から、魔力を体内に留めておけず、出血しているようなものです。
そして威厳がないとか、日頃の砕けた態度はともかく、弟子が格好いいなと思った師匠でありたいラジクは己の限界に挑み、黒骸王に立ち向かって白い剣と頭部を破壊し、見事に今の自分を超えました。




