第75話 六色の黒骸王 その3 神に挑む光と援軍
舞台は再び北門外での戦い、モルド神父の視点に戻ります。
これまで以上に強さを増したスケルトンが溢れかえり、それを周囲の騎士達が必死に抑えるなか、我々はレストミリア殿の準備が整うまでの時間稼ぎと、その護衛を行うことにした。
『エル・メニア・アイアンゴーレム!』
『エル・ミラージュ!』
『流星嵐光弓!』
アイゼンフォート殿が複数の金属で出来たゴーレムを作り出し、ヴォルグラント殿がそれをさらに幻影魔法で増やす。
アルテミア殿は宙に矢を放つとそれは分裂し、黒骸王に向けて風と光の2属性をもった矢が降り注ぐ。
それに対して黒骸王が盾をかざすと黒い風が巻き起こり、ほとんどの矢を弾き飛ばす。
続いてゴーレムが殺到して乱戦となる。重量と数にものを言わせた力押しだが、黒骸王は黒い氷を纏って防ぎ、剣で薙ぎ払い黒い雷を放っては、ゴーレムを次々と斬り伏せ、砕き、破壊していく。
そのゴーレムの群れに混じって、神速の動きで後ろに回り込んだヴォルグラント殿が、黒骸王の背中を閃剣で深々と斬りつけた。
これまで鉄壁の守りを見せていた黒骸王に珍しく決まった強打を見て、彼自身も少し意外そうにしている。
しかし「ヌアァァッ!」と怒声を上げた黒骸王が次の瞬間には振り向いて、黒い炎を纏った剣を横薙ぎに振り抜き、ギリギリで防御したヴォルグラント殿が吹き飛ぶ。
更に身体の浮いた彼に向かって黒い竜巻を放ち、空中で切り裂かれているあいだに身体強化で距離を詰め、剣や盾を連続で叩き込んで、最後には手の平から黒い石柱を伸ばして地面に叩きつけ、深手を負わせた。
あまりにも一瞬の出来事で他の2人も反応が出来ないでいたが、着地した黒骸王がトドメを刺す前に、どうにか鉄の壁で閉じ込め、回復魔法の矢で癒して応急処置をしてから、後衛の治癒術士隊のもとに連れて行った。
一方こちらにも赤いスケルトンが群がってきている。
『エル・ヴォルウォール!』
『破岩砕斧!』
こちらは溶岩の壁でレストミリア殿を囲い、敵の接近を阻みつつ攻撃の余波が及ばないようにすると、ノルドアクスが魔力を溜め斧の刃の反対側についた、巨大な鉄球部分を地面に叩きつける。
すると辺り一帯の地面が割れ、周囲のスケルトンが飲み込まれていく。
『エル・メニア・ヴォルガノン!』
そこへ大量の溶岩球を撃ち込んでスケルトンを殲滅するが、スケルトンは倒せど次々に現れる。
『断海炎斧!』
そのスケルトンの群れに向けてノルドアクスは、炎を纏った斧を横一文字に薙ぎ払うと巨大な炎の刃が放たれ、スケルトンの集団を真っ二つにした。
『裂襲槍斧!』
そして今度は斧の先端についた槍の穂先を地面に突き立てると、真っ二つにしたものや新たに向かってくるスケルトンの足下から、地面から鋭利な岩槍が飛び出して貫き砕いた。
『エル・ファイアー!』
ノルドアクスが大量に出したスケルトンの残骸を、俺は青い炎で焼き払い浄化する。
「よし、モルド殿。準備ができたよ!」
レストミリア殿の準備が整ったので囲んでいた壁を消すと、彼女の両手のあいだには眩く光る白い水晶のような球体が浮いていた。
かなりの魔力を込めたのか彼女の額には汗が滲み、顔色は蒼白だった。
「はぁ…はぁ…。神々が使うという天罰の魔法に、無属性を持たない私がどこまで近づけたのか楽しみだ…。
いくよ!名付けて『イミテイト・ネメシス!』」
そして黒骸王を抑えているアイゼンフォート殿に合図すると、レストミリア殿は両手を内側からの破壊にどうにか耐えて、ひしゃげ始めた鉄の壁に向けて放つ。
着弾直前にアイゼンフォート殿が壁を消すと、同時に危険を察知した黒骸王は上空に高く飛んだ。
地面に着弾したレストミリア殿の魔法は、そこから白く輝く光のドームを形成して、先に黒骸王が生み出したものと同じくらいの大きさにまで広がっていき、その光に触れたアンデッドの軍勢を次々に浄化していった。
空中でその光を浴びた黒骸王の身体は、表面から黒い煙が立ち上り、ブスブスと音を立てて燻っていたが、浄化・消滅には至らない。
「く、くっそぉ…私の力じゃやっぱり及ばないかぁ…」
その光景を見ていたレストミリア殿は弱々しく言うと、両膝をついてばったりと倒れた。
「いかん、魔力の使いすぎじゃ!このままでは危ない、アルテミア嬢は早く回復薬を飲ませて後ろに下がらせるんじゃ!
ノル坊、モルド殿、ワシらは今のうちに奴を叩くぞい!」
「「了解!」」
「わかったわ!ミリアしっかりして、これを飲むのよ。本当に無茶をするんだから…!」
周囲のスケルトンはほぼ全滅したが、他の騎士達の被害は思いのほか大きく、彼らも一旦前線から下がり始めていた。
護聖八騎のノルドアクスだからこそ次々に倒していたが、赤いスケルトンは数も多く、その強さも遺跡で我々が遭遇したものとは、比較にならないほどだったのだ。
アルテミア殿がレストミリア殿を連れ、後衛の治癒術士隊のもとへ行き、騎士達も大半が下がったので、前線には我々3人と僅かな騎士しか残っていなかった。
しかし黒骸王もかなり消耗しているらしく、攻防は再び一進一退の状況になる。
しかし時間が経つにつれて、無尽蔵とも言える魔力を持ち闇属性の吸収も扱える黒骸王が、ジワジワと優勢になってきた。
「そろそろ厳しいのぅ。レストミリア殿の範囲魔法で片がついたし、ディアブラスやラジクの隊が、そろそろ合流しても良さそうなものじゃが…」
「じ、爺さんにしては、珍しく弱気じゃねぇか…」
「ノルドアクス、お前も息が上がっているぞ。休みたいのなら俺に任せて引いても良いんだぞ?」
「ふぅ…ボロボロのお前に心配されちゃお終いだぜ。隻腕のお前や年寄りが頑張るって言うのに、俺が引くわけにもいかねぇだろ?」
「ちょっと後ろの様子が気になっただけじゃよ。なぁに若いもんには負けん。ワシもまだまだいけるぞ」
アイゼンフォート殿が頭数が減った分を、再度ゴーレムを出現させて黒骸王を足止めし、隙を突いてノルドアクスが近接攻撃を叩き込み、更に俺が離れたところから魔法を撃ち込んで戦いながらそう話していると、黒骸王の背後から全身に矢の雨を叩き込んで、アルテミア殿が戻ってきた。
「戻ったわ。クロエに任せてミリアの容態も安定したみたいだし、ヴォルグラント殿もどうにか処置が間に合ったから心配ないわ。
でももう戦闘に参加するのは難しそうね。
ミリアから返してくれと言われたから、回復薬を持ってきたわ。はい、これ。
それともうじき、ラジク殿と騎士団長の援軍が来るわ。
あとモルド殿に言って良いのか、わからないんだけど…」
俺は回復薬を受け取ると、迷っている様子のアルテミア殿を見る。
「む、何かあったのか?構わんから言ってくれ」
「たしかジグとアマリアと言ってたわね。ミリアから話に聞いていた赤髪のシスターと、あなた方の弟子の回復魔法を使える少年が、クロエ達の所にいたわ。
彼らが治癒術士達を手伝う分、援軍と共にクロエ達も前線で回復と支援にあたるそうよ」
「アマリアとジグが!?あれほど止めたのに、なんということだ…」
「でも2人の魔力はなかなか多いようだし、これまでの治療で消耗していた治癒術士達にとっても、かなりありがたいわ。実際に見たけど腕も悪くない。
正直、ミリアの代わりにクロエが前線に来てくれるのは、かなり助かるわ」
アルテミア殿は矢で弾幕を張り、黒骸王を釘付けにしながらそう言う。すると騎士団長とラジク殿の率いる部隊が到着した。
「ヴォルグラントの援軍要請が来た後に、アンデッドの軍勢が消滅したかと思えば、今度は騎士達が一斉に引いてきて何事かと思ったぞ。かなり苦戦しているようだな?」
「おうおう、ようやく来たかディアブラス。
赤いスケルトンは下手をすると、下級騎士に匹敵する強さじゃったからのぅ。仕方があるまいて」
「先生、それは本当ですか?
街の南部と北部でスケルトンの強さが違ってはいたようですが、中心地のスケルトンがそれほどとは…」
「ラジク坊主め、何を嬉しそうにしておる。
敵が強いと喜ぶのは相変わらずじゃが、そんな考えであれを相手にしたら、すぐに泣きベソをかくはめになるぞ」
「それは皆さんの姿を見ればわかりますよ。
先ほどヴォルグラント殿の状態も見ましたからね、全力であたります」
「ここは我々が引き継ぐから、お前達は一旦下がって回復に努めろ。久しぶりの前線だ、ここは俺の隊が引き受ける。ラジクの隊は支援攻撃だ。
…お前の気持ちはわかるが、そんな顔をしてもここは譲れんぞ?
不服があるのなら、せめて火か光属性を身に付けてからにせよ。この風属性馬鹿め」
騎士団長が指示を出すとラジク殿が、
「そんな殺生な!」と言いたげな顔をしたが、騎士団長の言う通り風属性に特化したラジク殿では、黒骸王には正面からあたらない方が良いだろう。
我々は指示に従って一旦下がることにし、援軍は騎士団長を先頭にして黒骸王へと向かっていった。
黒骸王にも少し疲れが出てきたのか、攻撃も当たり始めダメージが効いてきましたが、常に最前線で黒骸王と斬り結んでいたヴォルグラントと、アンデッドの軍勢を消滅させた反動が出た、レストミリアは戦線離脱。
ようやく援軍が到着したところで、残った四人と他の騎士達は一旦下がって一休み。
次回はラジク視点の戦闘の模様か、ジグ視点の後衛のお話の予定です。




