第73話 六色の黒骸王 その2 王の力と怒り
リッツソリス内に残っている護聖八騎の4人が揃い、モルド神父も加わって黒骸王との戦いは続きます。
五人がかりで黒骸王に挑んでいるが、一向に討伐出来ずにいた。
閃光を放ち雷の尾を引きながら、ヴォルグラント殿が光属性の魔法剣を黒骸王に叩き込む。動きの速い雷や光の属性身体強化と魔法剣を合わせ、二つ名の由来となった『閃剣』だ。
しかし、それにも黒骸王は素早い動きで反応し白い盾で防御する。しかも直後に盾から黒い竜巻を放ち、ヴォルグラント殿を切り裂きながら吹き飛ばす。
盾を掲げた反対からはノルドアクスが炎を纏った斧を振り下ろすが、白い剣で受けられ黒骸王の口からは黒い雷がノルドアクスに向かって放たれる。
その黒い雷をアイゼンフォート殿の鉄の壁が阻むと同時に、黒骸王の正面からはアルテミア殿が光の矢を放ち背後からは俺が爆拳を叩き込むが、黒骸王の体表面を黒い氷が覆い、矢は弾かれ爆拳は氷を砕くに留まる。
振り向いた黒骸王は、こちらに黒い火球を放って爆風で吹き飛ばし、地面に剣を突き立てると、離れたところにいたアルテミア殿の周囲から、黒い岩槍が一斉に突き出して、彼女は傷を負いながらもどうにか直撃は回避する。
その隙を突いて鉄の壁を飛び越え、頭上から炎の斧を振り下ろしたノルドアクスと、同時に背後から鉄の槍を飛ばしたアイゼンフォート殿の攻撃を、黒骸王はヴォルグラント殿のように黒い雷を纏い超高速の動きで回避し、着地したノルドアクスを黒い闇の魔法剣で斬り、一気に間合いを詰めてアイゼンフォート殿を黒い炎を纏った盾で殴りつけ、吹っ飛ばした。
「ぬぅ…なんという戦い方だ。あれほど多彩な属性を持っていると、こうも戦闘の幅が違うものか」
「あの硬さと言い動きと言い狙うのが大変よ。本当にウンザリするわね…」
「ワシ、殴られたの久しぶりじゃ。血が滾るのぅ」
「アルテミア殿、一旦回復して貰って良いだろうか。ノルドアクスがなかなか重傷だ」
「何を言ってるヴォルグラント、俺はまだまだいけるぜ。でもアルテミアの癒しならいつでも大歓迎だ。
ついでにお前とモルドの傷も治してもらえよ。俺ほどではないにしても、2人ともなかなかボロボロだぜ?」
「はいはい、今は時間がないから軽くで我慢してよ。アイゼンフォート様、三人の回復をしますので、一瞬で良いので時間を作って下さい」
自分の傷を癒しながらアルテミア殿が言う。彼女は弓の名手だが、レストミリア殿とも親交があり、彼女から治癒術の手解きも受けているらしい。
「殴られたワシの傷はスルーか!?」
「いや、爺さんの防御力ならそんなもの、かすり傷だろ?」
「確かにそうじゃが、寂しいこと言うのぅ…了解じゃ」
そう言ってアイゼンフォート殿は、黒骸王の四方を囲むように分厚い鉄の壁を出現させ、最後に上から蓋を落とす。閉じ込めるのではなく、押し潰す辺り抜かりがない。
その間にアルテミア殿は弓に光の魔力を溜め、それを3人に放つ。攻撃かと一瞬身構えたが、放たれたそれは矢ではなく光の塊のようで、命中すると相手の傷を癒す回復魔法だった。
「離れていても癒せるとは。こんな回復魔法は初めて見たな。さすがは護聖八騎と言うところか」
「さすがアルテミアだ。また頼むぜ」
「そりゃあ怪我をしたら癒してあげるけど、まずは攻撃を受けないように気をつけなさいよねっ」
「感謝する。では我々もいこう」
視線を戻すとアイゼンフォート殿の鉄の壁には、更に巨大な岩のドームが加わっていて、強固に周りを固めていた。
「おうおう、案外早かったのぅ。ここまでする必要も無かったか」
「いや、助かる。アルテミア殿は回復魔法や支援攻撃も行っていて、一番魔力の消費が激しいだろう。魔力が減ってきているなら回復薬があるが、今のうちにどうだ?」
「たしかにそろそろ欲しいわね。でもモルド殿、いただいて良いの?」
「これは教会の…俺やラジク殿の弟子からの貰い物だ。自分も戦うと言っていたが、さすがにこのような戦いに連れて来られるほどではないので、置いてきた。その時にせめてこれを持っていけと言われてな」
「へぇ、話には聞いていたけど本当にそういう子がいるのね。じゃあ、ありがたくいただくわ。
…なにこれ、凄く効くじゃない!」
「それはそうだろう。エルフの里の霊樹の葉から作った物らしいからな」
「なにそれ、凄く興味があるわ。今度会わせてちょうだい」
「まぁ構わないが…」
そんなやり取りをしている時だった。休んでいたレストミリア殿が復帰したようで、前線に出てきた。
「やぁやぁ皆さんお揃いだね。敵の姿が見えないけれど、どうしたんだい?」
「おうおうレストミリア殿、それならワシが抑えておる。ほれ、あれじゃ」
「これまた厳重に閉じ込めてあるね。これからどうするつもりだい?」
「ミリアが来たなら、浄化魔法で一気に削ってもらえるわね。モルド殿、さっきの回復薬がまだあるなら、ミリアに少し分けてあげて。
大変だろうけど回復しながら大技の連発で一気に叩けば、戦力差も少しはマシになるわ」
「うむ、それは構わないが、レストミリア殿は大丈夫なのか?」
「しっかり休んだし、来る途中でクロエからも太鼓判を押されたから大丈夫さ」
「俺もアルテミアに賛成だ。あれと戦うのは出来るだけ短い方が良い」
「そうだな。先生が抑えているうちに準備を整えて、我々が奴を止めている間に攻撃してもらうとしよう」
「話はまとまったかのぅ?先ほどからずっと、もの凄い力で壁が押し曲げられていて、ワシそろそろ限界じゃよ」
「ふむ、急ごう。レストミリア殿、これを。
足止めは我々に任せて、大きいのを頼む」
魔力の回復薬を渡してレストミリア殿が魔力を溜め始めると、皆が岩のドームを取り囲む。
するとドームが割れ、中にある鉄の壁がひしゃげているのが見え、直後に天井を突き破った黒骸王が出てきた。
「我ヲまた閉じ込めルとは、やってクれタな人間ドモ…」
そう話す黒骸王は先ほどまでとは様子が変わっていた。身体をビクンビクンと動かし、流暢だった発音も少しおかしくなっている。
「もしかして長いこと封印されてたから、また閉じ込められて怒ってるんじゃろうか?」
「先生、理由はわかりませんが、先ほどとは明らかに様子が違います。皆、警戒を!」
ヴォルグラント殿が呼び掛けた直後、黒骸王は身を震わせながら「ガアァァァッッッ!」と叫び、全身から黒い魔力を全方位に放った。
しかもそれは周囲だけではなく、城壁の向こうの街にまで及ぶほどの広範囲で、薄い膜のような巨大なドーム型に広がっていた。
「身体には何も影響が無いようだが、これは一体…?」
周囲から多数のアンデッドが湧き出したことで、疑問はすぐに解消された。
黒い雷を地面に落としたときのように、しかもそれを広範囲に使ったのだ。
街の中でも同じ事が起こったようで、城壁の向こう側が騒がしくなり始めていた。
我々以外の騎士達が総出で戦うが、数が多すぎる。黒骸王だけでも手一杯なのに乱戦になれば、一気に形勢が悪くなる。
「この辺りだけでも私が一気に浄化するから、皆はこれまで通りにあの化け物を抑えてくれるかい?」
どうしたものかと迷っていると、魔力を溜めていたレストミリア殿が、やれやれといった表情で言う。
「でもミリア、一点集中しているならともかく、こんな広範囲を浄化するなんて、かなりの無茶なんじゃ!?」
「仕方がないよ。もし城壁の中にまでアンデッドが湧いたなら、恐らくラジク殿の遊撃隊や騎士団長の部隊も、住民の守りや敵の掃討に向かってるはずだし、クロエ達もこっちだけでなく、街からも負傷者が出れば動けないからね。
ここの事は、ここにいる者で片づけるしかないさ」
「…わかったわ。援護する」
「よし、そうと決まったならワシも全開で行くかの。そうじゃのぅ…黒骸王はワシとヴォル坊とアルテミア嬢で抑える。ノル坊とモルド殿、お主らはレストミリア殿の守りじゃ」
「「「「了解!」」」」
封印から解放されたばかりで空腹な黒骸王は、本来の力を取り戻すために魔力や魂を喰らう食事をしたいところですが、闇の魔力で吸収しても戦いで消費するため、思うようにはいきません。
しかし、その状態かつ五人がかりでも倒しきれず、戦況は一進一退です。
レストミリアが合流しましたが、黒骸王が新たにアンデッドの軍勢を呼び出したため、そちらの対処に力を割かなければなりません。
次回は、街の中の様子をラジクやジグ視点の閑話で描くか、引き続きモルド達の方を描く予定です。




