第72話 六色の黒骸王 その1 四人の護聖八騎と爆拳
ここからしばらくは、主にモルド神父の視点で描きます…多分(汗)
教会の皆を兵舎に送り届けたあと、自分もついていくと言うアマリアやジグを説得し、俺は北門へと向かっている最中だ。
いつもの防具を纏い、腰にはハイワーシズの短剣と兵舎でジグから渡された各種の薬がある。
「同行を許可しない理由はわかりましたから、せめてこれを使ってください。神父は回復魔法が使えないんですから」
ジグの言葉と、その隣で心配そうに何度も頷くアマリアの姿が浮かぶ。
何だかんだで魔法を習得し、日々成長している2人を誇らしく思う反面このまま成長すると、このようなときに戦いの場に出ることになる可能性が高まるのは、それが例え2人の望んだことだとしても少し憂鬱だ。
比較的安全だと思っていた近場の遺跡でも、かなり危ういところだった。
力を持つなら半端にではなく、せめて自分を守れるような強さがなければ、逆に危険が増すだろう。
もし無事に戻れたなら、アマリアの訓練についても1度、本人やレストミリア殿と話し合った方が良いのかもしれない…。
そう考えているうちに内城壁の横を過ぎ、北門が見えてきた。既に北門は破壊され戦闘は始まっていて、騎士達が門の内外を行き来している。
「騎士団長、微力ながら俺も手伝います。
それと相手の情報ですが、ラジク殿やレストミリア殿からは聞いていますか?」
「おお、久しぶりだなモルド。あの2人からはそれぞれ、事の経緯と相手の属性数、お前達の身体強化に迫れるほどの速さも持っていると聞いた。
正体は分からないが6つの属性とあの姿から、我々は便宜上あれを『六色の黒骸王』と命名した」
「情報が伝わっていて安心しました。
して、その黒骸王を倒すのに何か考えはあるのですか?」
「今のところはまだ何も。今は治癒術士と連携し、光と火属性持ちの騎士を全面に押し出して、とにかく黒骸王の魔力を削り、ダメージを蓄積させているところだ。
他の騎士達は支援や周囲の警戒にあたらせている。お前も確か火属性があったし前衛を頼みたい。もちろんその腕だ、無理のない範囲でな」
「わかりました。では行きます」
全体の指揮を執る騎士団長と別れて、俺は門の外へ行く。橋の向こうではヴォルグラント殿を先頭にして、激しい戦いが繰り広げられていた。
1人の騎士に黒骸王の剣が振り下ろされるところを、横から火球を撃ち込んで、黒骸王が吹き飛ばされたところで合流する。
「やぁモルド殿、ご助力に感謝する。
今は攻め手は私とノルドアクス殿、主な守り手をアイゼンフォート殿、遠距離攻撃隊をアルテミア殿、治癒術士隊をクロエ殿、周辺警戒の遊軍をラジク殿が率いている」
「ぬ…レストミリア殿はどうした。何かあったのか?」
「遺跡での戦いで消耗しているようだから、クロエ殿が無理やり休ませたらしい。
彼女の力は戦いが長引くほど必要になるから、我々としてもその判断には賛成した」
「ふむ、遺跡でもかなり強力な大技を使っていたから、休んだ方が良いだろうな。
それにあの副長は優秀だ。レストミリア殿の穴埋めをして、しっかりと役目を果たすだろう」
そう話していると、他の騎士達の攻撃を盾で防いだり剣で切り裂きながら、黒骸王が土煙の中から出てきた。
「忌々しい者共め…大人しく魔力を、魂を差し出せば良いものを」
「そう言うお前こそ、遺跡に戻って大人しくしていてくれれば、我々としても楽なのだがな?」
「ん?お前は我が目覚めたときにいた者だな。先ほどは喰い損ねたが、次は逃さん」
黒骸王は黒い魔力を纏うと、一気に距離を詰めてきた。振り下ろされる白い剣をこちらも魔法剣で受けて、右手から火球を放つ。
しかし義手には魔力が通りにくく、込めた魔力の半分以下の威力しか出ない。
身体に当たった火球は打ち消され、黒骸王は更に攻撃を続けてきた。
左手で魔法を放てば威力は以前のままに撃てるが、魔法剣を右手に持っていると、腕力が足りずに剣を受けきれない。
「ぬぅ…なんと戦いにくいことか」
防御で手一杯になっていると、防いでいた魔法剣を左手ごと盾で弾かれ、ガラ空きになった身体に剣が迫る。
すると黒骸王の頭上から巨大な斧が振り下ろされ、それに叩き潰された黒骸王の剣先が逸れ、俺はギリギリで回避することができた。
「おいおい久し振りだなモルド、話には聞いていたが本当に右腕を失ってたのか。お前ほどの男がこの体たらくじゃ、涙が出てくるぜ」
目の前に現れたのは自分と同年代で、左耳のあった場所から顎にかけて抉られたような傷痕があり、茶色の髪に赤い眼をして、身の丈よりも長く持つ者の姿を半分は隠してしまえるほどの、巨大な刃の斧を担いだ、身長2メートルを超える剛力無双の騎士だ。
「ノルドアクス、返す言葉もないが助かった。礼を言う」
「へっ、古い友人に、改まって言うことでもないだろう。こんなものはお互い様よ」
ノルドアクスは自分の左耳の辺りを、チョンチョンと指差しながらそう言う。
すると倒れていた黒骸王が素早く立ち上がり、口から黒い雷が迸り始めた。
俺とノルドアクスは、すぐさま飛び退いて盾魔法を唱えようとするがその直前、口や目を中心に複数の光の矢が黒骸王の頭部に命中し、雷は黒骸王の口内で炸裂して倒れた。
「そんな化け物を目の前にして、のんびり話してる暇なんて無いでしょ!2人ともさっさと態勢を整えなさい!」
そんな叱責の言葉のした方を見ると、少し離れた所に立っていたのは20代前半くらいの、首くらいまでの黄緑色の髪と、同じ色の勝ち気そうな眼をして、弓を構えた女騎士だった。
「すまないアルテミア殿、助かった」
「すまんすまん。でもアルテミア、そんなに怒ると可愛い顔が台無しに…いぃぃっ!?」
「馬鹿なことを言ってないで、早くヴォルグラント殿と合流なさい!」
俺が素直に謝るのに対して、ノルドアクスは余計なことを言ったせいか、足下に矢が撃ち込まれて更に叱られていた。
我々がヴォルグラント殿と合流し態勢を立て直すと、黒骸王はゆらゆらと起き上がる。
「次から次へと邪魔な者共が湧きおって…。
そんなに我の食事を邪魔したいのかぁぁっっ!」
黒骸王はそう叫ぶと剣を掲げ、辺り一帯に黒い雷を手当たり次第に落とし始める。
それは盾魔法でも防げず、次々に騎士達を倒していった。
しかも雷が落ちた地面からは、赤いスケルトンナイトが湧く始末だ。
「我の呼び掛けに応えし亡者よ、その邪魔な者共を蹴散らし、喰らうことを許す」
黒骸王の言葉を理解したのか、赤いスケルトンナイト達は一斉に攻撃を開始した。
それは普通のスケルトンナイトよりも強く、浄化への耐久力にも優れていた。
騎士達がスケルトンナイトに応戦しているあいだに、俺とノルドアクス、ヴォルグラント殿とアルテミア殿は、黒骸王を自由にさせるわけにもいかず、その相手をする。
ヴォルグラント殿が雷の属性身体強化で撹乱し、アルテミア殿が要所要所で光の矢を撃ち込んでは、黒骸王の攻撃を阻みダメージを与え、体勢が崩れたところを俺の爆拳と、ノルドアクスの火属性を纏った巨大な斧で、強打を叩き込む。
黒骸王も負けじと、ヴォルグラント殿を盾で弾き飛ばし、アルテミア殿に黒い氷槍を放ち、俺とノルドアクスを黒い風魔法で斬りつける。
攻撃を受けると魔力を吸われるので、この黒い攻撃はかなり厄介だ。
「おうおう、さすがにお主らが連携しておると、化け物相手でもそこそこ戦えるようじゃのぅ。どれ、そろそろワシも加勢するか」
苦戦しつつも黒骸王の魔力を削り、ダメージを与え足止めしていると、黒鉄の老騎士が前線に出てきた。
「アイゼンの爺さん、助力はありがてぇが街の守りは良いのかい?」
「ノル坊に心配されんでも、後ろにはディアブラスもおるから問題なかろう。
レストミリア殿の見立てでは、護聖八騎が総出でかからねば倒せんとのことじゃが、ワシだってまだ成長期じゃし、それならお主らくらいの若者はもっと成長期で腕を上げておろう?
いくら苦戦して援軍を呼んだとて、他の者は間に合わんのじゃから、ここはワシらだけでコイツをどうにかするしかないじゃろう」
「おいおい、爺さんはまだ強くなる気かよ!?」
「確かにアイゼンフォート様の言う通りよ。
ミリアの見立ては正しいのかも知れないけど、だからと言って、今ここに無いものを期待しても仕方が無いわ」
「うむ、ここにいる俺達でやれることをやるしかあるまい」
「先生も来て下さったなら防御は任せられますね。では更に火力を上げて、皆で削るとしようか」
黒骸王との厳しい戦いは、新たにアイゼンフォート殿を加えて、更に激しさを増していった。
いよいよ黒いスケルトン改め、黒骸王との戦闘に入りました。
アルテミアとノルドアクスの詳細も少し判明しましたね。




