第71話 閑話 騎士団長への報告と優秀な部下
どうにかリッツソリスに逃げ帰った後の、レストミリア視点のお話。
ぜぇ…ぜぇ…。
アンデッド退治に向かった先で、とんでもない化け物の封印を解いてしまった結果、私達は脱兎のごとく逃げる選択をして、息も絶え絶えにどうにか街へと戻ってきた。
「はぁ、はぁ…じ、じゃあ私は報告に行ってくるよ。モルド殿、2人をよろしく」
「承知した、後ほど俺も合流しよう。では2人とも、教会に戻るぞ」
アマリア様を抱きかかえるなどという、滅多に訪れない至福の時間であったのに、背後に迫る危機のせいで幸せを噛みしめられず、私はとても歯痒い思いをしたが、まずは無事に逃げ切れて安心した。
教会に戻っていく3人と別れて、私は北門の兵舎付近にいて指揮を執っている、騎士団長の元へと向かう。
「ディアブラス騎士団長、滅茶苦茶な狼煙だったにも拘らずこの対応、本当にありがとうございます」
「レストミリア、あれを上げたのはお前だったのか。聞きたいことは色々とあるが、まずは説明を頼む」
騎士団長は全身に銅色に輝く鎧を纏い、緑の髪に口髭を生やした、40代後半の騎士だ。
「はい。鉱山で発見された遺跡ですが、その最奥には封印された扉があり、ちょっとした手違いでその封印が解除されてしまいまして。
中にはスカルピオンが1体いたのですが、私とモルド殿、それとラジク殿の弟子と、亡きアベル将軍と治癒術士長であったマリア様との間に生まれた、娘のアマリア様とで討伐いたしましたところ、その部屋だけではなくスカルピオンも封印の守り手だったようで、中から黒いスケルトンが現れました。
我々だけではとても相手に出来そうになかったので、すぐに逃げたのですが追いかけられまして、もうすぐこちらに来るはずです。
それと奴は、スカルピオンの外殻から冠や鎧、剣と盾を作り出して装備しています」
「ううむ、既に色々とツッコミたいところだが…続けてくれ」
「それと私の眼で見たところ魔力量は当然膨大ですが、それ以上に属性保有数が光と水を除いた6つという化け物で、正確には火、雷、風、土、氷、闇を持っています。
恐らく護聖八騎が揃っていないと、かなり苦戦すると思われます」
「それは困ったな…。今のリッツソリスにはヴォルグラント、アイゼンフォート、アルテミア、ノルドアクスしかおらん」
「『閃剣』と『黒鉄要塞』、『嵐穿弓』に『破断裂斧』ですか…。
普段なら有り余るほどの戦力ですが、あとの4人は今どこに?」
「全員を首都に集めていられるほど、まだ国内外の情勢は安定しておらん。
西の帝国や南のアニマナイトへの警戒はもちろん、今はフォータルキャビルにグランドシェルが出て、冒険者が出払っているからな。その分の穴埋めにも派遣している。
むしろ、ここに4人も残っていたのが不思議なくらいだ」
「それはそうかもしれませんが…。しかし、手が足りなければどうします?冒険者の援軍も頼めないなら、被害は増えますよ。
いくら兵士の人数を揃えても無駄ですし、実力の突出した者だけで戦わないと、闇属性のアンデッドには餌を与えるだけです」
「だから一般の衛兵は下がらせて、騎士団が相手をする。最悪の場合は近衛の…王直属の騎士に出てきてもらうことなるが、出来ればそれは避けたいものだな」
騎士団長の表情が曇る。王直属の騎士達の実力は高いが、本当に王族最優先の者達なので敵を倒すためなら、街の人間や建物の被害がどれほど出ようと構わず、効率最優先で動くのだ。
出来る限りは私も関わりたくないし、内城壁の中で大人しくしていてほしいものだ。
「一応、後からモルド殿が合流しますが、彼は先の教会襲撃で片腕を失っていますから…」
「そうだな…本当に惜しいことをした。あのラジクがいたとは言え、もう少し騎士を置いてやるべきであった。
しかしあの時のリッツソリスには、護聖八騎がヴォルグラントしか残っていなかったし、相手がルナメキラでは無理もなかった。それは今さら悔やんでも仕方があるまい。
それはそうとお前も報告を終えたなら、そろそろ治癒術士長としての仕事をした方が良いのではないか?」
「それもそうですね。ウチの部下達はとても優秀ですから、私が留守にしていて指示を出さなくても、キチンと準備を終えているとは思います」
「あまり副長に面倒を押しつけるものではないぞ。まぁそれはともかく我々の後ろは任せた。
お前の報告が正しければ、俺も団長として前線で戦うことになるからな」
「わかりました。くれぐれも気をつけてくださいね」
そうして私は、騎士団長への報告を終えて治癒術士の詰め所に向かい、部下の元へと戻る。
案の定、私がいなくてもしっかりと準備を整え、いつでも動ける状態で待機していた。
「戻ったよクロエ。相変わらず私がいなくても問題無いね。いっそのことキミが治癒術士の長をしてくれたら嬉しいんだけど…」
「寝言は寝てから言ってくださいね。
それに今は、そんなことを言っている場合ではないのでしょう?」
「いやぁ、かなり緊迫した状況からようやく抜け出せたものだから、少し気が緩んじゃったよ。
じゃあ情報の共有をしてから、私達も騎士団の支援に向かうとしようか」
私は騎士団長に話したことを初め、更に予想される被害について触れ、治療するにあたっての注意点などを皆に伝えた。
「さて、じゃあ行こうか。分かっているとは思うけど、後衛とは言え気を抜かないようにね。
特に最近の岳竜との戦いを知っている者や、その話を聞いている者は、あれ以上だと思っておくように」
皆が頷いて移動を開始すると、隣にいたクロエが私の顔を覗き込んでいた。
「クロエ、私の顔に何か付いてるかい?」
「いえ、そうではありませんが…。
レストミリア様、顔色が優れませんね。少し休まれてはいかがですか?」
「うーん、まぁそうかもしれないけど、休んでいる場合ではないと、クロエも分かっているでしょ?」
「ここで無理をなされて途中で倒れられる方が、周りにはよほど迷惑というものです。
先ほどの報告を聞きましたが、遺跡でも随分と無理をなされたご様子です。
この回復薬を飲んで、出来れば短時間でも良いので眠ってください」
「でも…」
「でも…ではありません。レストミリア様の力は絶対必要になりますから、いざという時のために休んでおいてください。きっとそれが皆のためになりますから」
いつも真面目で厳しいが、何だかんだで私のことを考えてくれるクロエの眼に、今は不安の色が濃く浮かんでいる。
彼女は治癒術士としても一流だ。自分では気づいていない疲労も、彼女には見えているのかもしれない。ならばその判断には従った方が良さそうだ。
「わかった、じゃあ少しだけ休ませてもらうよ。もし何かあれば叩き起こしておくれ。私は眠りが深いからね」
「はい、その時は部屋に魔法を撃ち込んででも、起こして差し上げます」
私をベッドに寝かせて回復薬を飲ませると、クロエはそう言って悪戯っぽく笑い、皆の後に続いて戦闘の始まった北門へと向かっていった。
ハイワーシズとの話し合いの席や、ラジクとの会話などで時折出ていた、騎士団長の見た目やお名前が判明。
護聖八騎からも新たに2人の二つ名が登場。
以前、アマリアやジグと訓練中のレストミリアを叱り引き摺っていった、治癒術士のお名前も初登場。クロエは治癒術士の副長で、自由なレストミリアのお目付役兼、右腕的な存在で、ちなみにレストミリアとは同期です。
フラフラするレストミリアを支える苦労人で、レストミリアを制御できる数少ない人間の1人です。
なんだか今回は初登場が多かったですね。
次回はモルド神父の視点で戦闘開始の予定(仮)です。




