第68話 魔女の指導 その3 光魔法と最奥の扉
更に進む一行ですが、アンデッドのひしめく中でレストミリアの講義が始まります。
僕達は前衛と後衛に分かれて進み途中にもスケルトンは現れたが、モルド神父とレストミリアが加わったうえに役割分担までしていると、これまでの戦闘より遥かに楽になった。
よく考えると全員が光か火の属性を持っているから、アンデッド系のモンスターに対してはかなり有利だったようだ。
しかもそのうち2人は、『爆拳』と呼ばれ片手でもモンスターの群れを相手に出来たり、『万能者』と呼ばれ何でも出来ると言われる人なのだから、スケルトン達にしてみれば災難以外の何ものでもないだろう。
かなり安定した戦闘になったので、途中からはレストミリアによる、新しい光属性魔法のレクチャーが始まった。
「まずは光魔法からだね。これはイメージとしては太陽の光や、自分の思い描く聖なる光を思い浮かべて、
『ホーリーライト』と唱えれば良い。
アンデッド系のモンスターなら、その光だけでもダメージを与えられるし、単純に目潰しとしても使えるよ」
僕とアマリアがスケルトンへ向かって試しに使うと、2人分の光を浴びたスケルトンは瞬く間に浄化された。
「本当に眩しい…これは他の戦闘でも使えそうですね」
「なかなか役に立つけど、仲間がいるときは合図してからにしないと、仲間まで被害に遭うから気をつけるようにね。
それと次は光による幻影魔法だ。これは光をねじ曲げて、実際の場所とは違うところにいるように見せる魔法だよ。まぁ言葉だけじゃ分かりづらいだろうし、まずは手本を見てみると良い」
そう言うとレストミリアはモルド神父に手の平を向けて、
『リル・ミラージュ!』と唱えた。
すると少し離れたところに、もう1人のモルド神父が現れた。2人の神父に挟まれたアマリアが、ちょっと嬉しそうである。
「これは対象を増やす場合は更に、ミル・ミラージュ、エル・ミラージュと唱える呪文が変わっていくよ。
単体ならリル、複数ならミル、更に増えるとエルになるんだ。試しにやってごらん」
僕はアマリアに、アマリアは僕に向かって幻影魔法を唱えると、お互いの分身が生み出された。
アマリアが増えたことで今度はレストミリアが鼻血を噴き出して倒れ、僕が回復魔法をかける羽目になった。
相変わらずのミリアさんにアマリアは引いていたけど、鼻血を出すか出さないかの違いがあるだけで、モルド神父が増えたときには自分も似たような反応をしていたのは、そろそろ自覚するべきだ。案外この師弟も似た者同士なんだよね…。
「最後は光属性の中でも珍しく、アンデッド以外にもかなり効果的な魔法だよ。これは光を収束させて熱に変え、対象を焼いたり破壊したり出来るものなんだ。
イメージとしては、ガラスのコップに水を入れてそこに日が当たると、光が集まっていたりするだろう?それをもっとたくさん集めていくと、凄く熱くなるんだ。その光を真っ直ぐな雷のようにして放つことで、相手に攻撃出来るわけだ。
そうだなぁ……光属性の雷というのが近いかもね。
これは少し難しいから、まずは手本を見せようか」
そしてレストミリアが『ホーリー・レイ!』と唱えると、スケルトンナイトへと一直線に向かう光が放たれたが、あまりの速さに目の前が一瞬光ったようにしか見えなかった。
しかしその威力は凄まじく、スケルトンや身に着けていた鎧には、光が通過したと思われる直径数十センチほどの穴が開いていて、その穴の縁はまだプスプスと燻っていた。少し遅れてスケルトンが消滅すると、今度は僕達が試す番だ。
先にアマリアが試してみたが、なかなか上手くいかないようだった。攻撃魔法の経験不足もそうだが、科学的なものがほとんど無いこの世界では、イメージがしにくい類の魔法なのかも知れない。レストミリアの手本も、速過ぎて一瞬しか見えなかったし。
次に自分が試すと、レストミリアほどの威力や規模では無かったものの、直径数センチのレーザーのような光が奔り、スケルトンを難なく貫通し浄化した。
その点は転生者としてアドバンテージがあるからね…。ズルいかもしれないけどゴメンよ、アマリア。
そうしてスケルトンを倒しながら進むと、やがて目の前には装飾が施された、大きな扉が見えてきた。
「あ、なんだか立派な扉ですね。もしかしてここが最深部でしょうか?」
「ふむ、中に何があるか分からんからな。1度休息を挟んでから入った方が良さそうだ。戦闘慣れしている我々はともかく、アマリアにはキツかろう」
「私は…まだしばらくなら頑張れますが、中に入って戦闘になるのなら足を引っ張りたくないですし、休めるなら今のうちに休んでおきたいです」
「たしかにアマリア様には疲労の色が見えますね。
それにモルド殿、この扉には何やら封印処理が施されているみたいだよ。まるでこの中にいる何かを、外に出さないためのものみたいだ」
「ふむ、それならアマリアやジグもいることだし、今回の我々の探索はここまでにしておいて、残りは騎士団や冒険者に任せても良いかもしれんな…」
レストミリアとモルド神父は、そう言いながら相談している。
「へぇ…、ミリアさんの右眼ってそんなことまで分かるんですね。本当に便利で羨ましいなぁ。僕の眼には何も見えないですよ」
僕は扉の周りに結界でも張ってあるのかと、扉を指先でツンツンと突いてみた。すると扉に触れた途端、体内の魔力がゴッソリと吸い出された。
「うわっ!」と思わず声が出て僕は後ろへ下がるが、扉は黒い光を放ちながらギィィと音を立てて開き始めた。これはヤバイ、絶対に怒られるやつだ。
僕は恐る恐る振り返り他の3人を見ると、モルド神父は眉間に皺…いや、もはや渓谷を刻んでいて、アマリアも青ざめた顔をしている。
いつもは割と飄々としているレストミリアですら、今は額に手を当てて、やれやれといった仕草をしていた。
「あの…なんというか、すみません…」
「この馬鹿者!迂闊にもほどがある!」
無駄だとは思っていたが一応謝ると、案の定モルド神父の左の鉄拳が、問答無用とばかりに頭に落ちてきた。
「モルド殿、そんなことをしている場合ではないかもしれないよ」
レストミリアが視線を扉の奥へと向けながら言うと、中からガシャガシャという音が聞こえてきた。扉が開ききると向こう側には広い部屋があり、壁に付けられた魔石が次々と灯っていき、部屋の中を照らし出した。
「あぁ、これは厄介だね…スケルトンロードやキングの方が、まだマシだったよ」
「俺の記憶には無いモンスターだが、レストミリア殿はご存知なのか?」
「うん、まぁ私も書物で見たことがある程度だけど、あれはスカルピオンと言ってアンデッドの一種さ。
12本の脚に反り返った長い3本の尻尾、堅い外殻と強靱かつ巨大な2本の鋏…見た目の特徴も一致するし、恐らく正解だと思う。
何でこんなところに封印されてるのか、分からないくらいの代物だよ…」
部屋の灯りに照らし出されたモンスターは、骨のような素材で出来た巨大なサソリのような姿をしていた。
見た目の違いとしては脚や尻尾の数が多いことと、何よりその大きさだった。
虫嫌いな自分にとって身体だけでも数メートル、頭から尻尾の先までになると10メートルにも届くかと思われるサソリなんて、もはや悪夢でしかなかった。アマリアもすでに涙目だ。
「あれが外に出るのは阻止しなくてはならんか…。しかしレストミリア殿、あれは我々だけでどうにかなるものなのか?
アマリアやジグは言わずもがな、俺も右手は義手なのだが」
「モルド殿の溶岩の魔力なら浄化も出来るだろうし、爆拳で外殻を割れるなら勝機はあると思うよ。
でもあの3本の尻尾には猛毒があるというから、絶対に全て回避しなくてはいけない。
それと2本の鋏に掴まれれば、恐らく人間など難なく真っ二つになるだろうね…。
一応、私は解毒魔法も使えるし、鋏に関しても属性身体強化で、ある程度までなら耐えられるかもしれないけど、どちらにも保証は無いからね」
「要するに、攻撃を受ければ即終了となる可能性が高いという訳か。…難儀なことだ。こんなことならラジク殿にも、同行してもらえば良かったな」
「たしかに彼なら喜んで戦いそうだけど、モルド殿の表情も言葉の割には、なかなか楽しそうだよ」
「…否定はせんが、今回は何より安全第一だ。
前衛は我々が、ジグとアマリアは後ろに下がって支援にあたれ。
万が一、我々が倒れることがあれば構わず逃げて、ラジク殿から騎士団に話をしてもらうように」
「でも神父様っ……わかりました。ミリアも気をつけてくださいね」
アマリアは何か言いかけたがモルド神父の目を見ると、指示に従うことにしたようだった。
アマリア様が心配してくださった!と言って喜ぶ、レストミリアの姿は目に入っていないらしい。
「ジグ、万が一の時には、お前がアマリアを引きずってでも連れて行くのだぞ」
「はい、わかっています。でもまずはそうならないように、2人とも気をつけて下さいね」
そして頷いた2人は、スカルピオンに向かっていった。
新たに他の光魔法を習い、順調に習得していきましたが、訪れた遺跡はお墓ではなく、強力なモンスターを封印するための施設でした。
道中のスケルトンもスカルピオンのための備えであり、また侵入者が封印を解かないようにするための守り手だったようです。
まさか、軽く触れただけで封印が解けるとは思っていなかったジグですが、やってしまったことは仕方がありませんね(汗)




