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転生の糸使い [830万PV突破・400万字、900話以上の大ボリューム!]  作者: 青浦鋭二
第1部 教会の孤児編 (襲撃・修行・エルフの里・黒骸王・巡回の旅・王都攻防戦)

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第62話 大森林の異変 その8 イリトゥエル視点のその後

岳竜との戦いは片がつき、場面はエルフの里へと戻ります。

ちょうどジグが空中から風の刃でザグエルを攻撃し、気を失ったところからです。

 私はイリトゥエル。エルフの里長の娘で今は父上が出撃したあと、里の留守を預かっています。

 そこに兄上……いえザグエルが現れたうえ戦士長の裏切りが発覚し、共に里を守っていた同胞たちは倒れ、現在は残された私をジグが庇い戦ってくれています。


 強力な炎魔法を発動させたザグエルに対して、ジグは考えがあるから建物の中に避難しろと言い、私はその言葉に従いましたがやはり心配です。

 入口付近で様子を窺っていると、ザグエルの放った魔法を足に受けながらもジグは反撃し、深手を負わせていました。


 しかしそこで気を失ったのか、着地の体勢をとらずに落ちていきます。


『リル・アクア・ボール!』


 私は地面に衝突する前に水球を生み出し、ジグの体を受け止めました。

 彼の両足は酷い火傷を負っていて、身に着けている首飾りが淡く光って回復し始めていますが、到底間に合いそうにありません。

 私も急いで回復魔法を使い癒していると、ザグエルの声がしました。


「ギリラウを倒しただけでなく、俺にここまでの傷を負わせるとは……! 人間の分際で許さん、許さんぞぉぉぉっっ!」


 ザグエルは全身を血で赤く染めながらも、その眼は気を失ったジグを真っ直ぐに捉え、文字通り全身を怒りに燃やして炎を纏いながら、こちらに向かってきていました。


「彼に手出しはさせません! 『アイシクル・ランス!』」


 私は接近を阻もうと氷の槍を放ちましたが、ジグの回復もしていたため残る魔力は少なく、ザグエルを包む炎を突破することは出来ませんでした。


「どけぇいっ!」


「きゃあぁっっ!」


 前に立ち塞がった私に対してザグエルは火球を放って吹き飛ばし、倒れたままのジグのそばに立つとニヤリと笑って剣を振り上げました。


「身の程を弁えない人間のガキめ……死ねぇ!」


「お、お願い……やめてっ!」


 ワイバーンに追われていた見ず知らずの私を救い、優しい言葉をかけ、あまつさえまだ子供の身でありながら大森林までやってきたジグ。

 これまで関わりの無かったエルフに協力してくれた彼を死なせるわけにはいかないと、私は必死で手を伸ばしますが魔力は底をつき、立ち上がろうとしても体は言うことを聞いてくれません。


「ぐあぁっ!」


 凶刃(きょうじん)がジグの身に迫り私は思わず目を瞑りましたが、そのとき(まぶた)を閉じていてもわかるほど目の前が明るくなりました。

 そしてザグエルの声がして私は何が起こったのかと目を開けると、ザグエルは少し離れたところに倒れており、ジグの(かたわ)らには一人の騎士が立っていました。


「いやぁ、間に合ったとは言えない程度に被害が出てしまっているようですが、まずはエルフの姫とラジク殿の弟子が無事で良かった。

 あと少しだけお待ちください。すぐに片付けますから……おっと、あの者は捕らえた方が良いですか?」


 辺りを見回して倒れた同胞たちの姿を見ながら、その騎士は私にザグエルへの対処について尋ねました。


「は、はい。今回の件の詳細を我々が知り、協力してくださった方々に説明するためにも、出来れば無力化して捕らえたいと思いますが、もちろん危険が伴いますから無理にとは言いません」


「かしこまりました」


 私の考えを聞いた騎士はそう言って微笑むと、ザグエルへ近づいていきました。

 一方で私は、許可もないはずなのにどうしてこの騎士は結界内に入ってこられたのかと疑問に思いました。

 すると戦闘中に吹き飛ばされた味方の一人が離れたところに倒れていて、こちらを向き安心したような表情で事切れていたことから、その者が死の淵で騎士の侵入を許可したのだと悟りました。


「き、貴様ぁ……突然現れて、いったい何者だ!」


「申し遅れた、私の名はヴォルグラント。

 セントリングの騎士で、このたびのエルフの里への襲撃に対して助力に参った者です」


「ヴォルグラント……? あの『閃剣(せんけん)』が何故こんなところに!?」


 騎士が名乗るとザグエルはたじろぎます。

 無理もありません。『閃剣』と言えば護聖八騎(ごせいはっき)の一人にして、国内最速の騎士と言われている人物なのですから。


「それについては今回、私はアイゼンフォート殿に勝手についてきただけなので、王命でも何でもなく本当にたまたま来ただけですね。

 途中で二手に分かれて私はこちらに、アイゼンフォート殿は戦闘が行われている方へそれぞれ向かいました」


「『閃剣』だけでなく『黒鉄要塞(くろがねようさい)』までも……?」


 ヴォルグラント様だけでなく護聖八騎がもう一人来ていると知り、ザグエルの表情が更に強張ります。


「えぇ。ですからあちらの方もすでに片がついたはずです。先ほどまで聞こえていた戦闘音も静まってますしね。

 それと、これ以上あなたが刃向かうのなら今回は閃剣ではなく、『黒餓剣(こくがけん)』を見ることになります。どうしますか?」


「……護聖八騎(ごせいはっき)が相手では、俺が何をしても無駄であろう」



 戦いの趨勢(すうせい)は決したと悟ったのか、ザグエルは諦めたようにそう言うと両手を挙げ、降参だと言ってゆっくり近付いてきます。


「理解していただけているようで良かった。こちらとしても仕事が楽になります。姫、この里には何か拘束できる魔道具はありますか?」


 話を終えるとヴォルグラント様が、こちらを振り向きそう尋ねました。

 私は思い当たるものがあったので答えようとしましたが、その時ヴォルグラント様の後ろにいたザグエルが落ちていた剣を拾い、振り上げるのが見えました。


「あっ!」


 私は咄嗟にそれしか声が出せず、ヴォルグラント様が斬られてしまうと思いました。しかし、その剣は何も無い空中で弾かれ、彼に届くことはありませんでした。


「なっ!? 一体何がっ!」


 ザグエルも私と同様に何が起こったのかわからない様子でしたが、次の瞬間にはいつの間にか抜かれていたヴォルグラント様の剣から、無数に伸びてきた黒い手に絡め捕られていました。


「やれやれ、大人しくしていればお互い楽だったのに。仕方がない、動けない程度に魔力を吸わせてもらおうか」


 そう言うと黒い手が暗く光り、逃れようと暴れていたザグエルは、どんどんと動きを鈍くして遂には意識を失いました。


「さて、もう拘束する必要も無くなりましたし、皆が戻るまで私はこちらで負傷者の治療にあたりますね」


 そうしてヴォルグラント様はまだ息のあった者たちの治療を始め、私も回復魔法は使えませんでしたが薬などを使ってそれを手伝っていると、やがて岳竜との戦いに出ていた部隊が戻ってきました。


 想像していた通りに苦戦したようでしたが、その被害は予想以上に大きく、改めて岳竜の恐ろしさを思い知りました。

 そして戻った部隊にも魔力切れを起こした者が多かったため、部隊がもっていた物資や里の医薬品だけでは足りず、それほど魔力を消費していないヴォルグラント様は皆の治療に動き回って大忙しになり、中でも特に重傷だった者には里の秘薬を薄めたものを与えることになりました。


「今回の報酬にと望まれていたエルフの秘薬を、ここで使うことになるとはのぅ。王が知ればお怒りにならんか?」


「アイゼンフォート殿、そうは言っても里長のご厚意ですし、現場の状態を見れば使わないわけにもいかないでしょう」


 岳竜を撃退して下さったという、こちらも護聖八騎のアイゼンフォート様が少し困ったような顔で言うと、まだ魔力の回復しきらず顔色の悪いレストミリア様が答えます。


「まぁそれもそうじゃがレストミリア嬢、数が限られている秘薬を使ってしまって、もし王が一番に欲しがっている物が手に入らねば、何のために救援を送ったのかと責められるのはラジク坊主とお主なんじゃぞ?」


「先生、ちゃっかり自分を除かないでください。任務外で来ているヴォルグラント殿は良いとしても、王の呼び出しを受けた時にはもちろん、我々と一緒に先生も怒られてもらいますよ」


 お二人が話していると全身傷だらけのラジク様も加わり、やれやれと言った表情で言いました。


「ぬぅ、ヴォル坊だけズルいのぅ。まぁ仕方がない、諦めて皆で王を(なだ)めるとするかのぅ」


「あ、あの、その事に関してなのですが……。

 里長も私も使った分の秘薬は、里を守ってくださった方々個人への治療に使うものとして考えており、今回の件の報酬には数えておりません。

 セントリング側の協力への対価としては、今後新たに作り出した秘薬や霊樹の素材を優先してセントリング王に献上することで、今回の報酬にと思っていますので……」


 さすがに里を救ってくださった方々に対し、王族の叱責を受けるような真似はさせられません。

 私はお三方に父や私の考えを伝えました。


「おうおう、それは助かるのぅ。ワシらも叱られずに済んで良かった良かった」


「イリトゥエル殿、それだとエルフの里は困らないのか?

 あちこちに被害が出ているし、復興するにも秘薬や素材による利益は必要なのでは?」


「ラジク様、森や里の修復は皆が元気になり魔力があれば出来ますし、最終結界の外側の里の被害も少なくはありませんが、それは時間をかけて行えば良いのです。エルフは長命なので、時間はいくらでもありますから。

 何より、命をかけて我々を救ってくださった方々へのお礼を優先させられないようでは、それこそエルフの恥かと思います」


 私の言葉にラジク様は、ふむ……と言いながら少し申し訳なさそうな顔をしていました。


「それとセントリングへの救援の対価とは別に、このたびの戦いに参加した方々への感謝の気持ちとして、我らエルフから霊樹の葉を贈ります。

 もちろん戦死された方々の分も用意してありますので、遺族の方々へお渡しくださいませ。

 秘薬は実からしか作れませんが、葉を使った薬も効果が非常に高く、また売却してもまとまった金額になるはずです。

 それでも命には代えられないと思いますが、今の私たちに出来るのはこれが精一杯です……申し訳ございません」


「いやいや、こちらこそ気遣いに感謝する。

 見知った者が亡くなったのは悲しいことじゃが、こちらに出た被害は戦いに身を置く者として力が足りなかった結果じゃ。お主らが気に病むことではない。

 そして今後はワシらもエルフも、より一層協力しあって共に栄えていければ、此度(こたび)の彼等の死は無駄にならんと思うが、どうじゃろう?」


「ありがとうございます。私も里長もこれを機に、セントリングとの友好的な関係がますます深まればと思います」


 そうして私たちは今後について話し合い、ザグエルの尋問や負傷者の治療が終わり、大森林の中を見回って安全が確認され次第、報酬を渡して騎士たちはリッツソリスに戻るという方向で、話がまとまりました。

その7の後書きで倒したと書いていましたが、ザグエルはしぶとく生きておりました…。何とかヴォルグラントが間に合い、ザグエルは捕らえられて一件落着です。


ジグはまだ意識を失ったままです。

主人公なのに最近は影が薄いですね。

次回は恐らく目を覚ますはずです(笑)

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― 新着の感想 ―
次期族長イリトゥエルの戦後対応が理想的すぎる… たくさん教育を受けて成長してきたのでしょうね。 きっとジグを支えるよきヒロインになりそう(小並感)
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