第49話 ダリブバールの大盗賊団 その2 エルヴィレ防衛と真の狙い
エルヴィレを守るために森を抜け、2人は盗賊団を捜しますが、その前にダリブバールの衛兵に盗賊団の動きを知らせます。
書いてるうちに「あれ? イスフォレの盗賊団というよりはダリブバールの盗賊団じゃない?」と思ったのでサブタイトルを変更しました。申し訳ございません。
日没まではまだ時間がある。僕たちはエルヴィレより先にダリブバールへ向かった。
そこでは盗賊団の動きや襲撃の計画を伝え、周辺の警戒や避難してきた者がいれば受け入れるための準備を整えるようにと、ラジクは衛兵に指示を出していた。
真面目な顔をして騎士をやっていれば、本当に様になる人だね。
その後、僕たちはエルヴィレの村へと向かったが、すでにだいぶ日が傾いてきていた。
村に到着すると村長に会い、これから起こると予想される事を説明して全員でダリブバールに避難するか、それとも建物に籠城して盗賊団が討伐されるのを待つか、相談して決めるように伝える。
「皆で避難させないんですか?」
「うむ、そこは迷いどころだ。とりあえずどちらかに決めねばならん。半々に分かれて待避と籠城などされては俺たちだけではさすがに守り切れんからな。
それに余所者が村を捨てろと言っても、素直に従えるかと言えばそれも難しいと思う。
騎士として命令することも出来るが、村長から話をして皆でどちらかを選んで全員がそれに従うのなら、その方が良いからな」
時間も無いのだしラジクが一声かければ良いのではと思ったが、確かに住民にしてみれば自分たちで決めた方が、心の整理もつきやすいのかもしれない。
「僕としては建物に皆で籠城してもらって、結界や盾魔法で守っているうちに盗賊団を排除っていうのが、一番楽そうに思えますね」
「俺もそう思う。しかし戦う手段を持たない者の中には逃げたいという気持ちも湧くだろうし、逆に逃げたり籠城している途中でも家や家畜、畑なんかに手を出されれば、頭に血が昇って武器を手にするかもしれん。
まずは自分たちで方針を決めさせて、それをしっかりと守らせることが大切だ」
「なるほど……」
他の誰でもない自分たちの選択なら我慢もしやすいし、一人が熱くなって飛び出そうとしても周りが止めるということだろうか。
僕らがそんな話をしながら待っていると、話し合いを終えた村長や村人が集まってきた。どうやら籠城することにしたらしい。
「よし、ならば村で一番大きな建物に入り、家や土地が荒らされても決してそこから出ないように。
村の衛兵はそこで出入口を固め、出ようとする者があれば力ずくで止めろ。これは騎士としての命令だ。
皆のいる建物には結界を張って侵入できないようにするし、敵は俺たちが必ず排除する。だから安心していい」
ラジクは村人たちにそう告げると、僕に結界を張るように言う。
その後、村人たちは食糧や水を持って集会場のような建物に集まってきた。
僕は祈りを捧げて結界を張る。結構な量の魔力を注ぎ込んだので、多分大丈夫だろう。
……本当は村全体を守れれば良いけど僕一人では無理だし、守る場所をしぼらないと強度も下がるからね。
そうして日が暮れて辺りが暗くなってきた。
村や畑の北には柵を隔ててエルフの大森林が、西にはイスフォレ川があるけれど、村の東と南はほとんど無防備で草原が広がっている。
僕とラジクは灯りを全て消させて、真っ暗な村の中で盗賊を待ち構えていた。
するとその草原の方から、数十本の松明の灯りが見えてきた。
僕は身体・視力強化をして手の平にも魔力を溜める。松明の灯りもあってこちらから相手は丸見えだが、盗賊たちは暗がりにいる僕たちには気づいていない。
『メニア・ウインド・カッター!』
そして暗がりから風の刃をいくつも放つと、盗賊たちは次々と倒れ大混乱に陥った。
「よし、では行ってくる」
そこにすかさずラジクが斬り込み、更に盗賊の数を減らしていく。
松明の光に照らされて血飛沫が舞う光景を見ていると、なんだか違和感を覚えた。
何かがおかしい。思ったよりも手応えが無い……?
いや違う、数が少ないのだ。
全員が松明を持っているとは思わないが、それでも強化された視界に見える盗賊は、多くても三十人程度しかいない。
「師匠、情報よりもかなり人数が少ないです!
何か見落としがあったか、伏兵がいるかもしれません!」
「了解した!」
ラジクはそう言うと最後に残っていた盗賊を斬らずに、剣を突きつけて質問する。
「俺たちが得ている情報では、お前たちは百人近くいるはずだ。残りはどこに行った? 大人しく言えば楽に死なせてやる」
「どうせ死ぬんだ、そんなもの言うわけないだろう!
……でも逃がしてくれるというのなら話してやっ…ぎゃあぁっ!」
話の途中でラジクは盗賊の耳を切り飛ばした。
「俺を相手に交渉できると思うな。
特に今日はダメだ。逃がしてやると約束した盗賊に裏切られたばかりだからな。
早く言わなければ、その分お前が痛い思いをするだけだぞ」
そう言って更にもう片方の耳を切り飛ばす。
視力強化をしているのに斬る瞬間がほとんど見えない。
怒っているようにも見える師匠は、もしかすると少し焦っているのかもしれない。
「うぐっ……殺すなら殺せ! それに俺が話したところでどうせ間に合わん。
せいぜいお前らの悔しがる姿をあの世から笑っ」
話す気が無いと判断したラジクが盗賊にトドメを刺し、盗賊の言葉を繰り返す。
「今からでは間に合わんということは、本当の狙いはここではないのか? それとも……」
「師匠、まずはこの村の周辺を範囲を広げて索敵してきます。師匠は村人に説明してきてはどうですか?」
「うむ、そうだな。まずは出来ることをしよう。何かあれば狼煙を上げ、決して無理をしないようにな」
僕は盗賊の残した言葉を呟きながら考えるラジクに提案すると、ラジクは頷いて村の集会場へと向かう。
僕は盗賊が来た方向だから何も無いとは思いつつ、一応確認のために索敵魔法を草原へと伸ばす。
「ん……あれ?」
すると、少し先の草むらの中にモゾモゾと動くものを捉えた。駆け寄ってみると、ヒイッ!と声を挙げたのは盗賊の生き残りだった。
胴体の防具はバッサリと袈裟斬りにされていて、出血はしているものの体にはそれほど深い傷はなかった。
「し、師匠!」
僕は慌ててラジクを呼び止め、盗賊に事情聞く。
するとその盗賊はトスウェの時のような、魔法防御のお守りを持っていたので生き残ったようだ。
しかし、あの頃よりも僕の魔力が上がっていたからか、今回は完全に防がれずに攻撃が少し通ったらしい。
……いや、単にお守りの品質の違いかもしれないけど、そこはポジティブに考えることにする。
いずれにせよ、それで威力を軽減して致命傷は免れたが、周りの仲間がバタバタと倒れていくのを見て、自分は死んだふりをしてやり過ごすつもりでいたらしい。
「盗賊は捕まれば死刑が確定してるけど、場合によっては治癒術士の人体実験に使われて、全身を切られたり病気にさせられては癒され、すぐに死ぬことも出来ずに苦しんで、それはもう長い時間をかけて実験台にされ続けるらしいよ。
僕は回復魔法を習ってるから聞いたことがあるんだよね。良かったら処刑されなくて済むように、人体実験の方にしてもらえるように頼んであげようか?」
そう言って僕は盗賊の傷を少し癒してみせる。
ラジクはその話を興味深そうに聞いていたが、本当にそんな事をしているのかと言いたげな眼をしてこちらを見ている。
別に嘘は言ってない。レストミリアの座学でも教えられた内容なのだ。
少し……いや、かなり大げさだけど、そこは怖がってもらわないと困るからね。
「は、話す! 話すからひと思いに殺してくれ! 人体実験だけは止めてくれっ」
回復魔法で傷が治るのを見ていた盗賊はみるみる顔色が真っ青になり、自ら計画を話し始めた。
騎士団に討伐要請が出されたことを察知した盗賊団の頭目は、まず三十人ほどをダリブバールの森からエルヴィレ村の東の草原に移動させて、村を襲うように命令した。
この時点で自分に従わず盗賊団を離れると言った者には、騎士団が来て情報を得ても良いように計画の半分しか話していなかったらしい。
そして自分は残りの盗賊を率いてエルヴィレ草原の南端、ダリブバールの東を流れるイスフォレ川の東岸に潜んでおく。
そしてエルヴィレ襲撃に対してダリブバールの衛兵が救援に向かい、ガラ空きになったところを襲ってそのまま奪った船で逃げる計画のようだ。
「その作戦だとエルヴィレを襲ったお前たちは、捨て駒も同然ではないのか?」
「俺たちはエルヴィレで食糧を手に入れたら、北の大森林に潜んで騎士団をやり過ごす予定だった。
そして大森林の南端沿いを東へ進んでから南に進路を変えて、エルヴィレ草原や更に南の荒野を抜けて、レクイ湖の辺りで川を下ってきた頭目たちと合流するつもりだったんだ」
「たしかに騎士団はエルフの領域である大森林に入ってはいかないが、それはエルフとの約定で我が国の人間を、エルフ側の許可なく立ち入らせないと決まっているからだ。
しかし一度でも無断で入ってしまうとエルフの法が適用されるし、相手がたとえ騎士団であろうと全力で排除しに来るぞ。
大森林には探知の結界が張られていて、出入りするのは容易いが森の中にいる限り、エルフ側には居場所が筒抜けらしいからな。
恐らくお前たちは一日と経たずに全滅しただろう。まぁ、お前たちの頭目とやらがそれを知っていたかはわからんが……」
盗賊の話を聞いてラジクがエルフの森について説明すると、盗賊はガックリと肩を落とした。
「ははっ、どっちみち俺達は無事では済まなかったんだな……。もういい、楽にしてくれ」
「うむ、お前の話は役に立った。約束は守ろう」
そう言ってラジクは盗賊の首を刎ね、僕はそれを黙って見ていた。
「敵とは言えあの状況では、まだお前は殺せまい?」
「……そうですね。完全に敵対行動を取っているならまだしも、仲間に裏切られていたかもとしれないと思って落胆している相手を、僕はまだ割り切って殺せないと思います」
僕は倒れた盗賊を見ながら、すみませんと謝る。
「いや……そもそもお前くらいの年頃の子供が騎士の俺と共に行動し、このような事をしているのが例外中の例外なのだ。
本来はわれわれ大人がしなくてはならないことを、自ら望んだとは言え、まだ子供のお前に背負わせているのだからな。
将来的に……いやもっと早く覚悟をせねばならないことは確かだが、それでも俺やモルド殿が心を痛めていないわけではない。
だからそう気に病むな。
必要な時にはもちろん子供だからと言ってはいられないが、代われる部分は俺たちが代わってやるからな」
ラジクは僕の頭をポンポンと軽く叩きながら言う。
「はい……。ありがとうございます、師匠」
「よし。では村人たちに事情を話して、残りの盗賊共を片付けに行くか。
ダリブバールは空になっていないからな。俺たちが向かえば奴らの背後を突けるだろう」
それから僕たちは村人たちに、ここの盗賊は倒したことやダリブバールが狙われていること、まだ残党が来る可能性があるので盗賊を始末したら知らせるから、それまでは結界の中にいる方が良いことを伝え、ダリブバールへと向かった。
そして川に架かる橋を渡り、急いで道を南下していると遠くから火の手が上がっているのが見えた。
村は無事に守れましたが、そこにいた盗賊は囮の模様。
盗賊団の本当の目的であるダリブバールへと向かいますが、そこには丸ごと残してきた衛兵がいるはずなのに火の手が上がっていて、2人は急いで現場へと向かいます。




