第43話 魔石収集 その5 帰路とアマリアの指輪
ジグは2人の協力のもと、どうにかグレートホーンを倒しましたが、かなり疲弊しています。
グレートホーンをどうにか倒してホッとひと息つく。
「トライホーンならまだしもあんな大きいのを相手にしては、さすがに魔力温存とか言ってられませんでした。
しばらく休みたいのですが……あぁ、ダメっぽいですね!」
二人に自分の希望を話しているあいだに、南の方角からこちらに押し寄せてくるモンスターの群れを発見したので、却下される前に自分から言うことにした。
「モルド神父、あの群れってグレートホーンの死骸か何かを狙ってるんでしょうか?」
「うむ。一番の狙いは恐らく魔石だろうが、これぐらいのモンスターになると素材にも魔力が多く含まれているからな。
それを取り込むだけでも自分たちの力になるから、滅多に無い機会に群がってきてるのだ。
特にトライホーンにとっては、次の群れのボスになるための一番の近道だしな」
「あぁ、だからトライホーンが多めなんですね……」
僕は神父の言葉を聞きながら、遠くからこちらに迫ってくるモンスターを見る。
うわぁ、何だろうあの数は。本当に嫌だなぁ。
「ふふふ、グレートホーンは可愛い弟子に譲ったからな。あれは俺が片付けよう。
魔石集めを考えてもわざわざ追いかけ回すよりは、向こうからやって来てくれる方がこちらとしては好都合だ」
僕が心底嫌そうにしているのを見ていたラジクは、剣を抜き腕を回しながら言う。
「ラジク殿、それではこちらの獲物が無くなってしまう。せめて半分はこちらに回していただきたい」
「ぬぅ、たしかにそれもそうか。では仕方がない」
「あっ、でも二人とも。反対からもグレートホーンに蹴散らされていたモンスターが、こちらに向かって戻ってきてますよ。
これなら二人で手分けしてやれば良いのでは?」
「ふむ、あちらからも来たのなら問題ないな。では教会の皆のためにも働いてこよう。
お前はここで待機し、我々が討ち漏らしたものがこちらに来るなら、その都度排除するように」
そうして師匠と神父はそれはもう嬉しそうに、モンスターの群れへと突っ込んでいった。
南北からモンスターの群れが殺到していたはずだが、そのどちらからも討ち漏らしは来なかった。
二人はさぞ活き活きとしていることだろう。
僕は待機しながら、たまに東西からやってくるモンスターを狩っていった。
「いやぁ、弱くともあれだけの数がいれば、やはりそれなりに歯応えがあるものだな」
「うむ、これくらいならリハビリに丁度良い」
しばらくすると戦う前よりも若干ツヤツヤした二人が戻ってきた。
グレートホーンを僕に倒させるために、二人はだいぶ我慢していたのだろう。楽しかったようで何よりだ。
その後は倒した群れの死骸を目当てにして、時折やってくるモンスターを追い払いながら、三人で荷馬車に素材や魔石を積み込んでから夕食をとり、交代で見張りをしながら寝ることにした。
翌朝も起きてから食後に狩りをして、荷馬車が一杯になったところで帰ることにした。
行きとは違って荷台には乗れないので、帰りは歩きになる。
草原での狩りやモンスターのこと、戦闘中の僕の立ち回りのこと、今まで知らなかったことや反省や改善点、良かった点などを話しながら歩く。
途中でスウサの集落と砦に立ち寄り、モンスターが来なかったかどうかを確認した。
どちらにも若干は迷惑がかかったようなので、僕たちは謝って素材を少し譲り、集落では再度結界を張り直してから、また帰路につく。
砦も集落も草原に隣接しているため、モンスターが来ること自体は珍しい事ではないらしく、素材を渡したり結界を張ると逆に喜ばれたくらいだった。
でもまぁ、昨日のは明らかに僕らの影響だと思うからね。さすがに何もしないのは気が引けるよ……。
その後は街道をひたすら歩き、夕方頃になってようやくリッツソリスに到着した。
「ところでグレートホーンの素材や魔石は、どんな感じで分配するんですか?
他のは三人でそれぞれ倒したものを、おおよそに分けて置いてますから簡単ですけど……魔石を割ります?」
「ん? いや、グレートホーンはお前が倒したんだから、お前のもので良いだろう。
それに実際に戦ったのは我々なのだから、わざわざ騎士団に良い部分を渡すこともないぞ?」
僕が尋ねるとラジクは当たり前のように言う。
「いや師匠、それは騎士団所属の騎士様の発言とは思えないんですけど……」
「何を言っている? 弟子の手柄を横取りすることこそ、騎士のすることではない。
それにグレートホーンの魔石は必ず教会の役に立つ。それはここで何かあった場合に、護衛についている俺の仕事を助ける事にもなるからな。こちらで使うのが一番だ」
「それはまぁそうかもしれませんけど……。でも僕に飲ませた回復薬だって相変わらず自腹なんでしょう? せめてその分だけでも手元に残したらどうですか?」
「うむ。ジグの言う通り今回は賞金首もいなかったことだし、せめて回復薬の分くらいは持っていくと良いだろう。
その方が我々としても気が済むし、もし今後もラジク殿の持つ薬が必要になるなら、この子のためにもなる」
「弟子のためと言われると俺にはどうしようもないなぁ。では、ありがたくいただくとしよう」
僕だけでなく神父に言われては、ラジクも断りにくいようだった。
そうして冒険者ギルドで素材を売り荷馬車を返すと、ラジクは自分で集めた魔石の半分を持って騎士団本部へと向かった。
僕とモルド神父は工房へと立ち寄り、皆が身に着けるための装飾品の作製を依頼し、それに使う人数分の魔石を渡してから、残りの魔石が詰まった袋を背負い、今は教会に戻る途中だ。
「結構余りましたね。この大きなグレートホーンの魔石と、他の残りはどうするんですか?」
「考えてはいるのだが、さてどうしたものか。
小さいものに関しては、また必要になった時にお守りや他の用途にも使えるから、そのまま残しておけば良い。
だが、グレートホーンの魔石は他とは大きさも品質も違うからな。お守りにして、誰か一人に渡すわけにもいくまい」
「僕としては今後も、ルナメキラに一番狙われそうなアマリアに持っていてほしいと思いますけど、アマリアとしては特別扱いされるのは嫌かもしれませんね……」
ただの髪飾りとは違って命を守るものとなると、アマリアの性格を考えれば自分よりも幼い子供たちや、何かあれば真っ先に戦うであろう神父や僕に、それを使うようにと言って聞かない気がする。
それは承知しているようで、モルド神父も眉間に皺を寄せて考え込んでいる。
僕や神父にとって皆は家族だけど、やはりその中でもアマリアは特別な存在なのだ。だからこそ彼女に持っていてほしいのだ。
アマリアについて考えていると、彼女の指輪のことを思い出した。
「そういえばアマリアの指輪って両親の形見とは聞いていますけど、指輪についている赤いのは宝石なんですか?」
「いや、あれは火属性の魔石だ。アベル将軍が施した炎の盾魔法が込められている、小さいが質の高い品だ。
だから肌身離さず着けているように言ってある。幸いにも今まで発動することは無かったが、今後はどうなるか……」
僕が気になって尋ねると、モルド神父は憂いを帯びた表情でそう話す。
「例えばの話ですが、お守りを二つ持っているとどうなるんですか?」
「両方同時に発動が可能だ。その後、魔石に込められた魔力を使い切れば、それを持つ者の魔力を消費して継続するようになる。
無論、魔力消費も二つ分だがな」
「ではアマリアが二つ持っていても、充分に使いこなすのは難しいかもしれませんね」
「……いや、実は本来のアマリアの魔力量はそこそこ多いのだ。
俺が将軍の死後にアマリアを引き取りに行った時、それまでアベル将軍に仕えて、奥方の死後は家の事やアマリアの面倒を見ていた者から聞いた話だが……。
将軍はもちろん魔力量が多かったし、奥方も体は弱かったがアマリアを産む前は、光属性を持った非常に優秀な治癒術士だったと聞いている。
その二人の娘なのだ、生まれつき他の者より魔力は多い。
あの指輪のリングの裏には更に小さな魔石が埋め込まれていて、そちらが魔力を抑える働きをしているのだ」
色々と初耳だ。父親は優れた将軍で母親も優秀な治癒術士ってことは、アマリアって実は結構良いとこのお嬢様なのではなかろうか。
それに魔力量も多いなら普通にお守りを持たせておけば良いのに、何故わざわざ抑えているのだろう。
「魔力を抑えたらお守りの発動にも不便があるのに、何故そんなことを?」
「魔力量が多いと何かと目立つからな。グレートホーンの死骸に群がるモンスターを見ただろう?
アマリアが生まれたときは魔王軍との戦争中で、街にいてもいつ襲われるか分からなかった。
その頃からすでに今の指輪とは別の子供用のお守りを身に着けて、幼い頃からモンスターや魔王軍に狙われないように魔力を封じていたらしいのだ。
アベル将軍の望みは、娘が平穏に暮らす事だったからな。
そして魔王軍が倒されてもモンスターや魔族はいるし、普通に生活したとしても魔力量が多く、更に選別の儀式で戦闘向けの恩恵を授かってしまえば、危険な仕事につく可能性があった。
それは将軍の望みではないし、アマリア自身も成人前に教会の平穏な暮らしが好きだと言っていたからな。
その望みを叶えたかったし、教会にいる分には俺が守れば良かった。お守りとしての指輪に頼る必要も、今までは無かったのだ」
「なるほど……」
僕は草原で見た光景を思い出し、モルド神父が色々と考えていた事も知り、色々と納得した。
「アマリアはそのことを?」
「もちろん知らない。それに今からでは遅い。お前くらいの年から鍛えているなら良いが、アマリアはもう今年で十八歳だ。たとえ今から訓練したところで、危険の方が遙かに大きい。
それに俺はアマリアにわざわざ危険に近付いて欲しいとは思わない。それはお前もだろう?」
「はい。僕もアマリアには戦いは似合わないと思いますし、危険からは遠ざけたいです」
たしかに普段のアマリアからは、戦う姿なんて想像できなかった。
彼女は料理や家事をしたり、子供たちと一緒に過ごしている方が絶対に似合うと思うし、本人もその方が好きだと思う。
「ならば今の話は胸の奥にしまっておいてくれ。皆を守るために戦うと言ったお前だから話したのだ。他言は無用だ」
「……わかりました。
あ、じゃあ今回アマリアに渡すお守りには、回復魔法を付与して渡せば良いと思うんですが、神父はどう思います?」
「おぉ、それは良いと思うぞ。用途が違うなら先に発動するのは盾魔法だ。それを突破される事態は考えたくないが、怪我を治せる手段があるのは心強い」
僕の提案に神父は大きく頷く。
「それとグレートホーンの魔石なんですけど、これは魔道具の材料として使って、中庭にでも配置すれば良いと思います。
僕の盾魔法でも良いですけど風と土ではイマイチ相性が悪いですから、それならモルド神父が相性の良い土の盾魔法を込めて、教会や孤児院に何かあれば中庭を中心に発動するようにしてはどうですか?
モルド神父が込めた魔力で防いでるあいだに、皆が中庭に集まれば魔力を注いで維持できますし、教会襲撃の際にはジェネラル・オーガに結界が破られましたけど、モルド神父の盾魔法なら強度も違うでしょう?」
「ふむ……それはなかなか名案かもしれんな。
俺の土属性については隠しているが、教会に理解のある兵士たちやラジク殿には口止めすれば良いだろう。
たとえサイモンや他の者に漏れたとしても、教会と孤児院を守る方が優先だ。
アマリアに渡す回復魔法のお守りについては、明日にでもラジク殿に相談して、知り合いに治癒術士がいるなら話をつけてもらおう。
報酬としていくつか魔石を渡しても良いかもしれぬ」
よし、それでいこう。と互いに頷くと、僕とモルド神父は足早に教会へと帰っていった。
モンスターの群れが押し寄せ、予想より魔石も素材もたくさん手に入りました。
無事に街へと戻り換金を終え、装飾品の作製も目途が立ちました。
帰り道ではモルド神父からアマリアの思わぬ秘密が語られましたが、彼女をよく知る2人は戦闘になど向いてないことを重々承知で、今後もアマリアを戦わせるつもりなんて、これっぽっちもありません。
とりあえずグレートホーンの魔石の使い道も決まり、魔石収集は無事完了です。




