第40話 魔石収集 その2 戦闘好きの執念と小旅行
モルド神父と魔石集めに行くことになりましたが、ラジクはなんだか不機嫌なご様子。
翌日、剣術の鍛練のためにラジクのもとに行くと、珍しく不機嫌そうな顔をしていた。
盗賊団の頭を僕が不意討ちした時よりも、今回は明確に怒っているみたいだ。
「師匠、おはようございます。どうかしたんですか?」
「……理由はお前が一番わかっているだろう」
「はて、何かしでかしたつもりは無いのですが?」
「今朝、モルド殿に聞いたぞ。なんでも魔石を集める計画があるそうだな?」
「ん?……あぁ~。そうですけど何か問題がありましたか? 何か師匠との予定が入っているということも、今は無かったと思うのですが」
「問題しか無い! なぜ俺を誘わんのだぁっ!?」
僕がここ数日の予定を思い出しながら尋ねると、ここにきてとうとうラジクの不満が爆発した。
そして自分がどれほど魔石集めに行きたいかを切々と語られた。
「いや、でも師匠には盗賊団の件の後にも非番の日に護衛をしてもらったり、王宮にも一緒に行ってもらってますし。
最近ずっとご迷惑をかけていますから、そろそろゆっくりしてもらいたいなと。
それに今回はモルド神父が乗り気なので、師匠も行くとなると教会の守りが不安ですし……」
「なるほどそういうことか。よし、わかった!」
納得してもらえたようで安心した。
そしてその日の鍛練も午前、午後と問題なく終わり、更に二日後。
午前の鍛練を終えて昼食に向かう僕に、ラジクが話しかけてきた。
「ジグ、魔石集めに行く日は決まったのか?」
「はい。モルド神父が仕事の調整と出発の準備をして明日になりました。師匠がいるので、僕たちも安心して出かけられます」
「そうかそうか。では明日を楽しみにして……ん? 今なんと言った?」
「え? 師匠も楽しみに?……え?」
話が噛み合ってない事に気付き、僕たちは互いに目をぱちくりと瞬きさせる。
「おいおい。俺も行くことになったとモルド殿から聞いてないのか?」
「えっ、そんなの聞いていませんよ! というかそもそも師匠がいなかったら、教会の警備はどうするんですか!?」
僕たちは互いに何言ってるんだと言わんばかりの表情で話していると、僕の質問を聞いたラジクが得意気な顔をした。
「それは代わりの騎士を数人手配したから問題無い。
盗賊頭の賞金がまだ残っていたのでな。
それと俺が手に入れた魔石のうち半分を騎士団に納めることで、騎士団長にも代わりの騎士を出してもらえるように話を通した。
そういえば何だかいつもより協力的だったな。練兵場でお前の盾魔法を見ていたし、もしかすると魔石を使って何かするつもりなのかもしれんな。
それと騎士団に渡さない残り半分の魔石とモンスターの素材全てを、教会に納めることでモルド殿からも了承を得たのだ」
「は、はあ……なるほど~」
そう自慢げに言って胸を張り、輝く笑顔を見せる師匠に僕は開いた口が塞がらなかった。
いつも責任や面倒事は嫌だと言っているのに、この人は戦いの事となるとここまで手を尽くすのか。
しかも騎士団と教会に魔石を半分ずつ渡して素材も全部教会に納めるのなら、自分は完全にタダ働きなのに行きたがるなんて、とても正気とは思えない。
盗賊団の時にも思ったけれど、改めて師匠の戦闘好きを実感したよ……。
その後、昼食を終えて午後の鍛練の時、モルド神父にラジクが同行することついて尋ねる。
「あぁ、たしかお前と魔石集めの話をした翌朝だったか。
午前の訓練の前に留守を頼む旨を伝えたのだが、翌日には騎士団への根回しも終えたので同行したいと言われてな。
ラジク殿が集めた魔石の半分とモンスターの素材、それに代わりの騎士数人の中に上級騎士まで用意されては、こちらとしてはダメとは言えなかったのだ。
俺としても想定外で、なかなか驚いたのだぞ」
師匠は上級騎士まで動かしたのか。それとも騎士団長に話して、魔石を納めるのが効いたのかな。いずれにしても凄い執念だ。
しかしまぁ、モルド神父も師匠の行動にはさすがに引いてるみたいけど、そこは似たもの同士。立場が逆なら同じ事をしそうだよね……。
◇◇◇◇◇
そうして翌日となった。
僕とモルド神父と満面の笑みを浮かべたラジクは、目的地であるスウサの大草原へと向かった。
大草原はリッツソリスを出て街道を真っ直ぐ南に進み、スウサの砦や集落を越えた先にある、街道の両側に広がる大変広大な草原だ。
草原の向こうには街道を挟んで大きな山が二つ見えるが、モルド神父曰く、それらの山にはゴブリンが数多く生息しているらしい。
帰りは魔石だけでなく、モンスターの素材もあって荷物が多いと予想されるので、冒険者ギルドから荷馬車を借りて行くことになった。
スウサの砦は徒歩で半日ほどの距離にあるので、僕たちは朝早くに出発し、荷馬車は神父と師匠が交代で操作することになった。
僕らが大草原で狩りをした結果、モンスターが北にあるスウサの集落の方へ逃げる可能性も考えて、先に集落で祈りの結界を張ってから草原の中へと進んでいった。
そんなこんなで現在は、僕と師匠が荷台で揺られている。
「やけに楽しそうだな。このぐらいの距離なら訓練であちこち出掛けているのではないか?」
「そうですけど今日は珍しく荷馬車ですし、泊まりで出かけるなんて今まで無かったですからね。ちょっとした旅行みたいで楽しいんですよ。
師匠の方こそ騎士団の任務なんかで、何日もかけて遠出することは無かったんですか?」
鼻歌交じりの僕を見て珍しいと思ったのかラジクが尋ねる。僕は簡単に理由を説明すると、逆に聞き返してみた。
「あることにはあったが、魔王討伐以降は大規模な戦闘もあまり無かったから、大抵は日帰りで済んでしまうな。
教会の襲撃はここ十年ほどだと、最も大きな戦闘の一つだったくらいだ。
まぁ特別な任務ともなれば他種族の生活圏まで行くこともあるから、数日から長ければ数週間かかることもあるようだ。
しかしまぁ俺の場合は最近ずっと教会にいるから、ここ一年以上はどんなものか、お前もわかっているだろう?」
「師匠はあんなに戦闘が好きなのに、教会の警備任務についてて良かったんですか? 普通の騎士よりも戦闘の機会が無いと思うんですけど」
ここ最近の戦闘事情についてラジクが話すと、僕は新たな疑問が湧いてきた。
こんなに戦いが好きなら、今の教会警備はラジクにとって退屈ではなかろうか?
「何を言っている? 書類仕事をほとんどしなくて良くなって、毎日お前の訓練で体を動かし、ちょくちょくモンスターのいる所にも出向いて戦える。
それに同僚への報酬や騎士団にとって良い条件を提示できれば、たまにワガママを言って盗賊討伐や魔石集めと称し、今回のように自分の好きなように戦えるのだ。
加えて教会は堅苦しい態度をとらなくても良いし、弟子のお前は吸収が早いし、俺には無い発想で新しい発見もある。
ハイワーシズの姫の時のような面白いことも、他の騎士たちは体験できないのに自分は特等席で体験している。
どうだ、俺にとってこれ以上の職場はそうそう無いだろう?」
「……言われてみれば、それもそうですね」
熱く語るラジクの言葉に僕はもの凄く納得した。
今までのことをよく考えてみたら、たしかにその通りかもしれない。
本当にやりたいことをやって、師匠は今の環境を目いっぱい楽しんでいる気がする。
真面目にしていたら凄く格好いい人なのに、普段はそれを見られないのが少し残念だけど。
逆に言えば師匠が真面目にならなきゃいけない時って、本人も周りもかなり危険な時だと思うから、なるべく今のままでいてもらいたいくらいだ。
そんな話をしていると、荷馬車が止まってモルド神父が顔を出す。
「二人とも、目的地に着いたぞ」
「はーいっ」
「おぉ、案外早かったなぁ」
神父の言葉を聞いて僕たちは荷台から降りると、まずは結界やテントを張り、狩りをするための拠点作りを始めた。
結局はあの手この手で同行できるようにしたラジクと、その執念にやや引き気味なモルド神父。
師匠の執念には驚いたジグですが、引き気味なモルド神父に関しては、人のことを言えないよと思っています。
荷馬車に乗った小旅行の行き先はスウサの大草原。
初めての場所で初めてのモンスターとも遭遇するかも?




