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転生の糸使い [830万PV突破・400万字、900話以上の大ボリューム!]  作者: 青浦鋭二
第1部 教会の孤児編 (襲撃・修行・エルフの里・黒骸王・巡回の旅・王都攻防戦)

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第37話 誘拐 その6 買い物とお守りと首飾り

またもや姫は周囲の予想外の行動に。

そして買い物に向かいます。

 姫君の言葉には、誘拐の件があってまだ安心出来ないと護衛の騎士や側仕えたちが難色(なんしょく)を示したが、今回は姫の方が折れなかった。


 結局はセントリングの騎士団長やラジクも、護衛として同行することで姫の意見が通された。

 自国内なのに自分達の知らないところで、これ以上の厄介事が起きては困る。とのことだ。


 文官や将軍は他に用件があるので来なかったが、それでも姫の護衛と側仕(そばづか)え、僕、ラジク、騎士団長と数人の騎士を加えて大所帯(おおじょたい)となった一行は、店の並ぶ東門の大通りに到着すると買い物を始めた。


 姫自身もお忍びで来ており、護衛や側仕えをまいて街中を見物するくらいだったので、とても楽しそうに店の商品を眺めていた。

 王族なら商人を呼びつけて、品物を持って来させるのが普通らしいので、こういう買い物は新鮮なのだそうだ。


「さぁ、あなたへのお礼なのですから、何でも言ってくださいな。遠慮は無用ですわ」


 姫は何でも来いと言わんばかりに……いや、実際に言ったが、何をどの程度買ってもらうことにしたら良いのか僕には見当がつかなくて、姫のワクワクしたような視線が痛い。


「自分が欲しいものをいくつか挙げてみろ。相手は王族だ、この辺りの商品で高いと文句を言うことも無いだろう。

 あまり遠慮したり相手の財布を気にしては、この場合は逆に失礼になる」


 困っているとラジクが、王族のお財布事情を教えてくれた。

 王族クラスのお金持ちの気持ちは、どこまで行っても庶民かそれ以下の僕の金銭感覚ではわからないので、ラジクが言うのなら納得するしかない。


 僕は商人にいくつか品物について質問し、ひとまず前日に眺めていたハイワーシズの薬と、白い珊瑚(さんご)の髪飾りを選んだ。

 薬は最近になって、腰が痛いと言うようになったヒルダに。

 髪飾りは昔から面倒を見てくれて、いつも心配をかけているアマリアに、それぞれプレゼントしたいと思ったのだ。


「へぇ、殿方(とのがた)なのに髪飾りが欲しいんですの?

 あっ、もしかしてどなたかへの贈り物かしら?」


「はい。僕には姉代わりとなって小さい頃からよく面倒を見てくれているシスターと、祖母のように優しく、でも厳しい老齢のシスターがいます。

 その二人には特に迷惑や心配をかけているので、その恩返しがしたいのです」


 手に取った品物を見た姫が不思議そうに尋ねるので、僕はアマリアとヒルダについて話した。


「なるほど、よく分かりました。しかし、それだけでは(わたくし)のお礼の気持ちには足りませんわ」


 姫は品物を選んだ理由には納得したが、量や金額には納得してないようで更に追加を(うなが)した。


 この二つだけでも結構高いと思うけど、まだ足りないのか。

 じゃあモルド神父と師匠にも何かお礼をしたいなぁ。


「師匠は何か欲しいものはありますか? あと、モルド神父の好みそうなものって何か分かりますか?」


 僕は近くで店を眺めていたラジクに、本人と神父の好みを尋ねた。

 神父は自分の話をあまりしないので、結構長く共に暮らしている僕でも、趣味嗜好(しゅみしこう)が分からないのだ。


「ほう、俺にも何か贈ってくれるのか? うーむ、ならばハイワーシズの魔法剣が欲しいな。

 昨日の現場に落ちていた物に似たものがあれば、なお良い。あれに興味があったのだ。

 しかし、モルド殿の好みは俺にも分からんなぁ」


 おっ、ラッキー♪ と言わんばかりの顔でラジクが答える。


 魔法剣!? 普通の魔法剣よりは安い小さめのナイフとは言え、そこそこのお値段ですけど……師匠は遠慮しないですねっ!

 それにしても師匠も、モルド神父の好みそうな物は分からないのか……。



 魔法剣を加えても、姫はまだ納得してない様子だった。

 僕はモルド神父の義手を思い出し、姫の隣にいる護衛騎士に質問しても良いか尋ねた。

 姫が許可したので、騎士が何かとこちらを見る。


「ハイワーシズでは戦闘などで腕を失った人には、どのような処置をするのでしょうか?

 恩人が魔族との戦闘で利き腕を失い、今は義手を着けているのですが、日常生活に支障がない程度の強度しかなく、とても戦いに耐えられるものではないのでハイワーシズに戦闘でも通用する義手があるのなら、それを所望(しょもう)したいのです」


「うぅむ、我が国でも義手の強度は同じようなものだな。それに使い手の実力が高ければ高いほど、要求される強度も増すしな。力になれずすまない」


 僕は欲しい理由を伝え、騎士は少し考えた後で仲間にも聞いてくれたが、残念ながらハイワーシズにもそういった物は無いらしい。


「そうですか……。ありがとうございます」


「あっ、待てよ。そういえば昔、酒場でその手の(うわさ)を聞いたことがあったな……。

 たしか、特殊な金属と幾つかある素材を使い、本人のものか同じ属性の魔力を膨大(ぼうだい)に使用して作り上げた魔道具なら、義手や義足として本物の手足と全く同じように使えると聞いたことがある。

 それらがどのような素材なのか、どうやって手に入れるものなのかも不明で、その話が事実かどうかもわからないものだが……」


 僕は一度は落胆(らくたん)したが顔には出さないようにお礼を言い、どうしようかと考えているとその騎士は、ふと思い出すように教えてくれた。


「あ、ありがとうございます!」


 火のない所に煙は立たないはずだ。

 僕は少しでも希望があることを今は喜ぶべきだと思い、その騎士に(ひざまず)いてお礼を述べた。

 我ながら現金なものだと思う。


 三つの贈り物と情報だけでも僕としては充分だったが、姫はまだ足りないと言わんばかりのご様子だ。

 僕は少し考えると師匠と同じナイフ型の魔法剣と、緑色の真珠(しんじゅ)のような魔石がついた髪留めを選んだ。


「姫君には大変感謝いたしております。しかしこれ以上はいただけません。庶民には既に、充分過ぎるほどの褒美(ほうび)です」


 魔法剣と魔石の付いた装飾品ということで、それなりの値段はする。これで充分だと思って僕は跪くと、姫にお礼を述べた。

 護衛騎士も、このくらいでそろそろと言って僕の意見に賛成してくれた。


「まぁ、そうですね。これ以上私の気が済むようにして、強引に押しつけるわけにもいきませんわね。

 そういえば今度は、その髪留めをどなたに贈るんですの?」


「はい。これは身分の(へだ)て無く、下々(しもじも)の者にも感謝の気持ちを示してくださる、慈悲深(じひぶか)寛大(かんだい)な姫君に、僕からの感謝の気持ちとして贈らせていただきたく思います。

 ……買っていただいた物を贈るのは大変失礼かと思いますが、恥ずかしながら僕には、何かを贈れるような持ち合わせがございません。

 ですから、せめてこの髪留めに僕の魔法を込めて守りの魔道具にし、これから先、姫に害を(およ)ぼす者があれば、盾の魔法で御身(おんみ)をお守りしたく思います。

 もし護衛の方々が警戒し止めろと仰るなら、もちろんその通りに致します」


 姫は僕や騎士の意見を受け入れたが、またもや男なのに女物の品を買った理由を聞いてきたので、僕は跪いたまま自分の考えを伝えた。


 この一年で習ってきた魔法の使い方や座学に、盗賊団との戦いの際に見たお守りの魔道具。

 そして髪留めに付いているのは僕と同じ風属性を持つ魔石。これなら出来るはずだ。


 僕の真剣な目を見ていた姫は(うなず)こうとしたが、護衛騎士に止められた。騎士団長も流石にそれはマズいと言いたげな様子で見ている。

 しかし、そんな時でも相変わらず楽しそうなのは、いつも通りのラジクだった。


「では試しに一つ作ってみて効果を確認してはいかがですか?

 刺客(しかく)の自爆から姫君を守りきった盾魔法です。実際に目にすれば気が変わるかもしれません。

 もしダメだと判断されたなら、こちらは単なる髪留めとして渡せば良いのですし」


 騎士たちは反対しつつも興味はあるらしく、ラジクの言う通りにすることにした。

 そして試作用に魔石のついた髪留めをもう一つ買い、皆で街の北西にある練兵場(れんぺいじょう)へと向かった。


 高級品である魔石がついた髪留めを、実験に使うためにポンと買えるんだから、騎士や王族って本当に凄いよねぇ。



「では始めます。『ウインド・シールド!』」


 練兵場に到着した後、僕は少し離れたところで風の盾を出し、盾の効果を説明してから試しに攻撃するように騎士に言う。


『ファイア・ボール!』


 騎士は火球をこちらに飛ばすが、盾はそれを倍の速さで弾き返し、騎士は身に着けていた盾で防いだ。


「おおぉ……」


 それをハイワーシズやセントリングの騎士、そして騎士団長が感心し興味深そうに見ていた。


 その後も剣で斬りかかったり、矢を射かけたり、各属性の初級魔法を撃ち込んでみたり、ハイワーシズの騎士たちはもう夢中な様子だ。


 いや、様々な攻撃に対して盾がどういう反応をするのか知りたいのは分かるけど、楽しんでない?

 これ、姫の安全確認のための作業だよね? 目的を忘れてないよね?


 散々試した挙げ句、最後に強めの魔法を試したいと言われた。

 結構疲れてきたんだけど、大丈夫かなぁ……。


 騎士がこちらを向いて手の平に魔力を溜めている。

 え……バチバチ鳴ってるけど、もし防げなかったら僕、死んじゃわない?


「くぅ、どうしてこんなことに……はあぁぁっっ!」


 身の危険を感じたので、盾に魔力を多めに注いで待ち構える。


「ではゆくぞ!『エル・ファイアー!』」


 魔法名を唱えた騎士の手の平から、凄まじい勢いで青白い炎が放たれた。

 それは炎の奔流となって風の盾にぶつかる。


「うひっ……」


 僕は思わず変な声が出てしまったが、風の盾は激しい攻撃に揺れながらも蒼炎(そうえん)を弾き返した。


『エル・アクア・ウォール!』


 魔法を放った騎士の近くには他の騎士がいたが、弾き返された蒼炎を見ると慌てて、自分たちも水の盾魔法を出現させて防いだ。

 炎と水がぶつかると周りに蒸気(じょうき)が立ちこめ、やがて視界が晴れた。


「よし、盾の強度は確認した。これなら魔道具を作って試しても良いかもしれぬ」


 それらをずっと見ていた騎士たちリーダーらしき人が、頷いて許可を出した。


 それから僕は風の盾を出現させ、それを小さく小さく圧縮した。

 すると内部で小さな台風が渦巻いているような、ビー玉サイズの魔力が手の平に収まり、それを試作に使うための髪留めの魔石に刻みつけた。

 すると緑色の魔石は先程の魔力のように、風が渦巻(うずま)いたような模様に変わり、僕の魔法のイメージや構成が刻まれたと分かった。


 それを身に着けた騎士が離れたところに立って他の騎士が斬りかかると、髪留めが光り騎士を中心とした風の盾が出現して、斬りかかった騎士を弾き飛ばした。


 魔法も何度か撃ち込んだが、盾はびくともしない。

 姫が襲われた時を想定して、護衛の騎士が近づけるのか確認したいと言われたので、祈りの結界のように中の人に害意が無ければ入れるはずだと教えたところ、すんなり入れることが確認された。


 しかしその後、なかなか解除されないのでどうしたものかと思っていたら中にいる騎士に、あるタイミングから自分の魔力が吸い出されるような感覚があると言われた。


 僕の経験上、魔力を注ぎ続ければ盾は維持されるので、恐らく体内の魔力が魔石に吸われるのに抵抗すれば止まると伝えると、盾は程なくして消えた。


「ふむ、これは姫様にとってなかなか有益な守りとなるだろう。発動しても味方は(そば)に近づくことが出来るうえ、害はない。

 たとえ敵に囲まれていても、王族の持つ豊富な魔力なら他の者より盾を長く維持できるし、攻撃を返し続ける事で敵に被害も与えられる。

 いくら秘密裏(ひみつり)に襲おうとも自動発動し、物理攻撃は弾かれ、魔法を跳ね返されては派手な音がするので万が一、姫がお一人の時に襲われても危機を知らせることが出来る」


 騎士のリーダーらしき人は盾の性能を検証すると、満足げに太鼓判(たいこばん)を押した。


 そうして姫に贈る髪留めにも魔法と魔力を注ぎ、お守りとして渡すことになった。試作の髪留めも、予備として受け取ってもらうことになった。


 すると姫は、側仕えを介してこれほどのお守りを受け取るのは失礼だと言い、反対する側近たちの意見を退(しりぞ)け、自ら受け取るという意見を曲げなかった。


 そうして僕は試作の物と新たに完成したお守りを、跪いて両手で捧げ持ち、姫に差し出す。

 手を伸ばしそれらを受け取った姫は、こちらを見て微笑む。


「そういえばまだ名前を聞いていませんでしたね。(わたくし)を刺客から救い、更にこのようなお守りを下さる貴方(あなた)の、お名前を教えてくださいませ」


「はい、僕はジグと申します」


「ジグ……。こちらもまだ名乗っていませんでしたね。私の名はカナレア。ハイワーシズの第三王女です。

 私が(さら)われた際の貴方の勇気ある行動と、更にこのようなお守りを下さるお気持ちに、深く感謝いたします。

 それと貴方がこの先ハイワーシズに来ることがあれば歓迎いたしますので、立ち寄った際には必ず私のもとに来て下さいませ。約束ですよ」


 姫はそう言ってこちらに一歩近づき、驚いた護衛騎士が止める間もなく、その身に着けていた首飾りを素早く外して僕の首にかけた。

 それは金色の鎖に厚めのメダルが付いた首飾りで、メダルの裏側には帆船(はんせん)の模様が彫られ、表の中央には小さな青い魔石が埋め込まれている。


「なんと、姫様!?」


「まさか証まで下賜(かし)なさるとは……」


 この首飾りが何なのか分からないが周囲の驚きようからは、普通に考えれば僕が受け取れるような物ではないという事だけは理解できた。

 僕は一体、これをどうしたら良いのだろう?


「その首飾りは、身に着けている者がハイワーシズ王族に(ゆかり)があり、また庇護下(ひごか)にあると示すものです。

 そして魔道具として治癒と守りの機能もありますが、私にはもっと優れたお守りがありますから、それはジグ、貴方に差し上げます」


 周りと同じく僕も呆然としていると、姫が顔を少し赤らめながら早口で教えてくれた。


 急にどうしたんだろう? でも雰囲気的(ふんいきてき)に、断るに断れないよね……。

 チラッと師匠の様子をうかがうと、貰っとけという感じで黙って頷いている。


「姫様のお気持ち、ありがたく頂戴(ちょうだい)いたします。身に余る光栄、決して忘れません」


「カナレアです。名乗ったのですから、もう姫はやめてください」


 僕が(かしこ)まってお礼を述べると、姫はこちらを真っ直ぐに見てそう言う。


 この場合って名前で呼んでも良いのかな? 後で側近の方々に怒られたりしないかなぁ。

 でも今は姫様の前だし、無視も出来ないか。


「はい、畏まりました。カナレア様」


 僕の返事を聞いたカナレア姫はニコッと、満足げに微笑んでいた。

またもや前話との配分を失敗してしまいました。


お礼のお礼のお礼を、やり取りする結果になってしまいました。そして姫様の名前が判明。


相変わらず予想のできない、カナレアの行動に振り回される側近達。

そこに、生まれ変わっても基本の考え方が現代日本のもので、今の世界の身分の違いがあまりピンときていないジグが絡むと、更に予測不能です。


そしてもう黙って見ていようと決めた騎士団長と、楽しむラジクでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この作品の凄いところは小さな山場と戦闘が細かく作られていて飽きさせないところだと思います。 誘拐のストーリーでは戦闘もドキドキしましたが姫様に貰うだけでなく贈ろうとするジグの強さと優しさが…
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