第34話 誘拐 その3 異国の騎士と王宮への呼び出し
自爆しようとする誘拐犯に捕まったジグ。ピンチです。
「死ねえぇぇぇっっ!」
そう叫んだ誘拐犯の狂気に満ちた顔が、僕の目の前で沸騰したお湯のように、ボコボコと歪み始めた。
するとそこにラジクの叫ぶ声が聞こえる。
「力が弱まったら盾を張れ!」
それと同時に誘拐犯の体を真横から、前後に両断するように風の刃が走って僕を掴んでいた腕の力が抜けた。
「くおぉぉっっっ!」
すかさず僕は距離を取ると、自分と少女を覆う風の盾を張る。
すると真っ二つになった誘拐犯の体が膝から崩れ落ちながらも爆発し、周囲に雷を放った。
風の盾に雷が幾筋もぶつかり、どうにか凌ぎきったが本当に間一髪だった。
「大丈夫か!? 間に合って本当に良かった。無理するなと言ったのにお前はまた無茶をしおって!」
師匠は心配しながらも、珍しく怒っているようだった。
「すみません。均衡を保ったり遠巻きにしていられる相手でもなくて……。
でも本当に助かりました。師匠、ありがとうございます」
僕はその場にへたり込んで、ラジクにお礼を言った。
「あのような状態になったということは、またトドメを刺さなかったな? あれほど言ったのに、お前という奴は……。
まぁ昨日の今日では無理もないか。今のところは無事を喜ぶとしよう。だが、きっと次は無いぞ」
ラジクはそう言うと、まだ倒れている女の子の様子を見に行った。
その時、周囲から武装した十人ほどの集団が現れた。セントリングの騎士とはまた違った鎧姿の騎士のように見える。
僕は更に敵が来たのかと思って、すかさず立ち上がり剣を構える。
はっきり言って勘弁して欲しい。ナイフを両断したり風の盾で雷を防いだ事で、魔力をかなり使っている。もう余力なんて無いのだ。
威勢良く立ち上がって剣を構えているが、こんなものハッタリだ。
すると集団のリーダーらしき人が、ラジクに話しかけた。
「我々は交易船に乗ってやって来たハイワーシズ王国の騎士です。姫様の救援とご助力、誠に感謝する」
どうやら敵ではないらしい。僕はホッと安堵すると、騎士の言葉が頭の中でグルグル巡る。
……えっ、姫!? なんでお姫様がこんな所にいるのとか、騎士なのになんで護衛してないのとか、色々と気になることがあった。
でも、今はとにかく戦闘後の消耗が激しいので、僕は早く帰りたかった。
表情が丸出しだったのか、ラジクがこちらを見るとやれやれといった顔をする。
「私はセントリングの中級騎士ラジク。そちらの子は私の弟子のジグ。ハイワーシズの騎士とこうして会えたことを光栄に思います。
色々と気になることも有りますが、ここは安全ではないでしょう。まずはリッツソリスに戻り、それから事情をお聞かせ願いたい。
それと弟子は私が来るまで誘拐犯と戦い足止めしていたので、出来れば休ませてやりたいのですが、よろしいか?」
「それもそうですな。姫様の体調も調べなくてはなりませんし、今日は我々も船に戻り明日以降、問題がなければ改めてお話をさせていただきたい」
ラジクが言うと異国の騎士はそう答えた。
その後、僕を教会に送り届けてモルド神父に事情を説明したラジクは、これから騎士団長や将軍と共に王宮へ行き、そちらでも報告をしなくてはならないそうで急いで街へと戻っていった。
自分視点での話もするようにと言われ、モルド神父に一通り説明するとラジクの時と同様に、トドメを刺さなかった事を追及された。
「ジグ、俺は昔から……それこそ奴が四天王になる前から、何度もルナメキラと戦ってきたがトドメを刺しきれなかった。
奴は手強く狡猾でそれも仕方がない事だと、撃退するだけでも素晴らしい戦果なのだと周りからは言われていた。
だが、アベル将軍が奴の手にかかった時も倒しきれず、教会が襲われ皆が狙われた時にも、あと一歩の所で倒しきれなかった。
そしてそれを今でも後悔している。俺は利き腕を失い、奴に自らトドメを刺す機会は恐らく永遠に失われた。
お前には俺と同じ後悔をしてほしくはないし、ラジク殿もきっと同じように思っているだろう。
簡単な問題ではないのも分かるが、あとはお前次第だ。我々の言ったことを、肝に銘じておきなさい」
モルド神父も師匠と同じような、後悔と悲しみを思い出しているような表情で言い、僕は黙って頷くしかなかった。
その日の夕食は予定通り豪華なものとなった。
子供たちは大喜びではしゃいでいる。
見習いたちはそれを見てはしゃぐのを我慢しているが、その我慢も時間の問題だろう。
成人した神父やシスターもそんな光景を見ながら、ニコニコと微笑み食事を楽しんでいた。
僕は皆から盗賊討伐の様子について聞かれたので、残酷な描写を削除した、刺激の少ないダイジェスト版を話すことにした。
この配慮には、おおよその事実を知っているモルド神父や、戦いが凄惨なものであることを知っているヒルダも、ご満悦な様子だった。
一応、最後に実際の現場は物語とは違うし、人には気軽に話せないようなこともたくさん有るし命懸けで、痛くて怖くて、格好いいものではないんだよとは言っておいたけど、幼い子供たちにはまだ難しかったみたいだ。
食事を終えると疲れが出てきて、僕は早めに寝ることにした。
しかしその夜は、自爆寸前の誘拐犯の顔が頭から離れず、疲れているのになかなか眠れなかった。
翌日、浅い眠りから覚めて朝食を食べているとラジクがやって来た。
「ジグ、体調はどうだ? 昨日の影響は無いか?」
「師匠、おはようございます。眠りは浅かったですが、特に異常は無いみたいです。
それと昨日は皆で豪華な食事を楽しめました。教会への寄付、本当にありがとうございます」
僕がそう言うとラジクは周りからもお礼を言われ、なんだか照れくさそうにしていた。
皆との挨拶を終えると、ラジクは僕を連れてモルド神父のいる孤児院長の執務室へと向かい、昨日のことやこれからのことを話し始めた。
昨日襲われたのは交易船に乗ってお忍びでやって来ていた、ハイワーシズという国の姫君らしい。
これがなかなかのお転婆で、リッツソリス内を観光していた時に人混みの中で、側仕えや護衛の目を盗んで脱出し、一人でウロウロしていたところをハイワーシズ内の派閥争いに利用するため、交易商人に紛れて隙を窺っていた敵対派閥の配下の者に誘拐されたそうだ。
護衛の騎士たちは姫が姿を消したのに気づいて捜していたが、不慣れな街中では思うように行かず、セントリング側に協力を依頼した頃には、もう街から連れ去られた後だったらしい。
ラジクは自分が見た事や東へ逃げた誘拐犯を僕が追っていること、狼煙を上げるように言ってある事などを近くの衛兵に伝えてから教会に戻り、衛兵から情報が届いたセントリング側から、ハイワーシズの騎士に情報が伝えられ現場に来たそうだ。
ちなみに姫はあれから少しして目を覚ましたらしい。体にも特に異常は無いそうだ。
それと誘拐犯の使っていたナイフがハイワーシズのものであったことから、交易商人たちの取り調べがされ派閥争いが原因だと分かったらしい。
「いやぁ、姫君が無事で良かったし、原因も分かって一件落着ですね。あとは向こうの問題でしょう?
昨日は結局休めませんでしたし、今日が振替休日になったりしますかね?」
「何を言ってるのだお前は。まだ終わっていないではないか」
「休むのはまだ先だな。なんせお前は俺と共に王宮に行き、騎士団長や将軍、ハイワーシズの騎士たちの前で昨日のことを説明しなきゃならん。
姫は気絶していて誘拐犯は粉々、俺はだいたい片付いてから合流したのだから、お前しか知らないことだらけだからな」
僕が良かった良かったと言いつつ休みがあるのか尋ねると、モルド神父がそんなわけあるかと言い、ラジクが追い撃ちをかける。
「そ、そんな……。僕に王宮に行けとか無理ですよ!?
礼儀なんてな~んにも知らないんですから無礼討ちになりますよ! 師匠に説明してそれを伝えてもらうんじゃダメなんですか?」
「大丈夫だ。王宮と言っても王族の前で話すわけじゃない。
それに助けた側なんだから、多少の無礼には目を瞑ってくれるだろう……多分。それに俺もついてるから安心しろ」
僕が必死で反論するも、ラジクがフォローになっているような、なっていないようなことを言いながら、僕の手を引いて連れて行こうとする。
「えっ、ちょっ、ホントに行くんですか!? 助けてくださいよモルド神父っ!」
僕はズルズルと引っ張られながら助けを求めたが、神父は諦めろと言わんばかりに目を瞑り、首を振っていた。
なんとか自爆に巻き込まれずに済みました。
誘拐された姫も無事です。
モルド神父は、ジグや大切な人たちを守って右腕を失ったことには後悔していませんが、今に至るまでにルナメキラを倒しきれなかったことには、ひどく後悔しています。
そしてつらい戦いの後には、楽しく美味しいご飯。
ですが楽しいことの後には、面倒事がやってきました。
人生、山あり谷ありですね。




