第33話 誘拐 その2 一対一の攻防
誘拐犯を追い掛けて森に入ってからのお話。
街を出て真っ直ぐに東の街道を進み、そこから街道を南に逸れ、イスフォレの森に少し入った所でようやく僕は誘拐犯に追いつき、すかさず白二本の狼煙を上げた。
誘拐犯は真っ黒な外套を身に着けフードを被り、顔は目もと以外を黒いマスクで隠していて全身真っ黒だ。
そして気絶しているらしい金髪の小さな女の子を脇に抱えていて、その子はピカピカな装飾品を身につけ高そうな服を着ていることから、かなりのお金持ちと予想できた。
……もしや身代金が目当ての誘拐なのだろうか?
「その子を返して」
こちらの要求を簡潔に伝えるが、誘拐犯は黙ってこっちを見ているだけだった。
このまま睨みあいをしていれば、狼煙を見た衛兵や師匠が来るかもしれないが、それまで大人しくしているとは思えない。
僕は少し低く構えて、いつでも攻撃に入れるようにした。
すると誘拐犯は女の子を地面に降ろし、外套の中から二本のナイフを取り出して両手に一本ずつ構えながら、僕に突進してきた。
「くっ!」
身体強化で加速された動きは素早く、僕もすぐさま剣を抜いて防ぐが、二本のナイフは次々と色々な方向から斬りつけてきて、僕はそれを剣で受け体を捻ってどうにか回避するので精一杯だった。
「こん……のぉっ!」
そうして隙を突いて強打を叩き込み、なんとかナイフを弾くと一旦距離をとって仕切り直す。
この誘拐犯、昨日の盗賊なんかよりかなり強い。
一応、剣は常に身に着けているけど、今日は訓練が休みだったから防具はない。防御していてはそのうちやられそうだから、こっちのペースで戦わなきゃ。
『ウインド・カッター!』
僕は風の刃を数発放ち、誘拐犯を牽制する。
てっきり回避するかと思っていたが、誘拐犯はこちらに突っ込んで来ながら、ナイフで風の刃を切り裂いた。
「なっ……それ魔法剣なのかっ!」
驚いた僕はそう言いながら、思い切り後ろに飛び退いて誘拐犯のナイフをかわす。
身体強化といい魔法剣といい、どうにも普通の人じゃない。しっかりと訓練している誘拐犯だね。
そう考えていると誘拐犯はこちらに手を向け、その手の平からはパリッと電気の火花が散る。
『リル・サンダー!』
そして魔法を唱えると次の瞬間、目の前が光ると同時に僕に向かって雷が飛んでくる。
ちなみにその声から相手が男だと判明した。
「うあぁっっ!」
不意を突かれた僕は回避できずにまともに受けると、全身に痺れるような電気が走る。
凄く痛いがルナメキラに吹っ飛ばされた時ほどではない。
初級の雷魔法だから、そこまで威力はないのかもしれない。
でも何発も撃たれたら確実にやられる。特に雷魔法は属性魔法の中でもトップクラスに速いらしいから、不意打ちでなくてもそうそう回避出来るとは思えない。
僕は属性身体強化して風を纏い、風の魔法剣を構えて誘拐犯に突進した。
『ライトニング!』
「くっ……うおぉぉぉっ!」
先ほどよりも威力の高い雷魔法が飛んできたが、それは体を覆う風に阻まれて、痛いが動きを止めない程度にしか貫通してこなかった。
そのまま連続で斬りつけるが、二本のナイフで受けられる。
邪魔なナイフだ。せめて一本になれば良いんだけど、どうにかならないかな?
「弾き飛ばせないなら斬るしか無いか……」
そう考えて属性身体強化を解除し、ほとんどの魔力を剣に集める。剣の刀身が緑に輝き、剣が風を纏う。
これならどうだと言わんばかりに攻撃するが、身体強化を使っていない僕の攻撃は、強化している誘拐犯には容易く避けられてしまった。しかも雷魔法のおまけ付きだ。
「ちぃっ!」
電撃を剣でなぎ払いながら、攻撃を当てるためにどうしたら良いか考える。身体強化みたいに持続して他の魔法を使うと、剣の威力は落ちてしまう。
一瞬だけ発動して敵の目の前に行けるような方法が、何か有れば良いのだけど……。
……あっ、閃いた。
僕は足の裏に魔力を溜めて風を圧縮させていく。それをそのまま留めてから剣に魔力を注ぎ、地面を蹴ると同時に一気に爆発させた。
「はあぁぁぁっっっ!!」
「!?」
僕は目を見開いた誘拐犯の目の前まで一気に迫り、誘拐犯は頭上から振り下ろされる僕の剣を二本のナイフを交差させて受けようとしたが、風の魔法剣はそれをギンッ!と音を立てて両断した。
「ぐはあっ」
剣はその勢いのまま、誘拐犯の体を左の鎖骨から右腹部にかけて斬った。
そして僕も突進した勢いに任せて、誘拐犯に体当たりするかたちで激突した。
「はぁ、はぁ、居場所を知らせなきゃ……」
師匠から定期的に上げろと言われたので、僕は起き上がると誘拐犯がまだ動かないのを確認してから、再度狼煙を上げた。
そうしていると誘拐犯はフラつきながらも立ち上がり、血をボタボタと垂らしながら、また雷魔法を放とうとする。
しかし傷が深いせいか発動までに時間がかかり、撃った後はまた倒れるほどだったため、僕は簡単に避けることが出来た。
「その傷じゃもう戦えないでしょ。観念して大人しくしていれば、命は助かるかもしれないよ」
僕は投降するように言うが、まだ立ち上がろうとしている誘拐犯には聞こえているのか分からなかった。
それを見ながら僕は、地面に横たわったままの女の子の所へ行く。呼吸もしているし特におかしな様子はない。普通に眠っているようだった。
ちょうどその時、遠くからラジクの呼ぶ声が聞こえた。狼煙を見つけて追い掛けてきたみたいだ。
こっちですと叫び手を振って、ようやくこれで一安心だと思ったその時だった。
誘拐犯が体から血を流しながら、こちらに素早く向かって来るのを視界の端に捉えた。
「させないっ!」
もう目前に迫っていたため充分な魔力を込める時間が無かった僕は、咄嗟に左手を伸ばして女の子だけに小さな風の盾を張った。
「また……また貴様かぁっ!」
女の子に伸ばした手を風の盾に弾かれた誘拐犯は、怒り心頭な様子で今度はこちらに向かって飛びかかってきた。
深手を負っているとは思えない動きだ。無理に身体強化を使っているのだろうか。
そして僕に抱きつくとクククッと笑う。
大きく見開かれた目が爛々と光っていて、僕はゾッとするような寒気を感じた。
このままにしておいたら絶対にロクな事にならないと、本能的に悟った。
「くそっ……は、離せ!」
身体強化を使って引き離そうとするが、お互いに強化している状態では簡単にはいかなかった。
僕の後ろに腕を回してガッチリと抱え込んでいた誘拐犯の全身から、バチバチと雷のような魔力が溢れ出す。
それはまるで記憶の中にあった、ジェネラル・オーガが炎を纏いラジクに掴みかかろうとした時と似たような光景だった。
「まさか自爆する気っ!?」
「くくく……死ねえぇぇぇっっ!」
慌てた僕がもがきながら言うと、誘拐犯は狂気に満ちた表情を更に歪めながら叫んだ。
白い狼煙が初めて使われました。
教会襲撃が起こったときにサラッと説明してますが、白は人間や相手が正体不明の場合に上げる狼煙ですね。
苦戦の末、どうにか倒したと油断したところで、ピンチです。




