第30話 実戦 その2 トスウェの森の盗賊団
森で怪我をした女性を発見し、盗賊の居場所を聞き出しました。
ラジクは腰に着けていた小さな鞄から、緑の液体が入った小瓶を取り出し、女性の足に刺さっていた矢を引き抜くと、中身を傷口に少しずつ垂らした。
すると傷口はシュウウウと音を立て、傷口が痛むのか女性が、うっ…と顔をしかめたが、我慢するように言ったラジクはそのまま液体をかけ続け、しばらくすると傷口は塞がっていた。
「教会の襲撃の後から開発され、最近完成したばかりの新薬だ。傷口は塞がっているが、これは表面的なものだから無理はしないように。
それとジグ、彼女の周りに結界を張ってくれ」
「わかりました」
傷口を確認しながらラジクが言うと、頷いた僕は小さいがその分、祈りと魔力を注いだ結界を張る。
その中で待っているようにと女性に告げ、ラジクは僕を連れて女性が教えてくれた、盗賊団の砦の方向へと索敵しながら森を進んでいく。
しばらく進むと遠くに小さな建物が見えてきた。
どうやらあれが盗賊団の砦らしい。ラジクに言われた僕は、索敵魔法を前方に大きく広げ砦一帯の様子を探る。
砦の周囲には柵があり入口は南側だ。柵と砦の間を見張りが数人巡回していて、砦の中には武装した人間が二十人ほどいた。
砦の北東側には檻らしいものがあり、何人かがその中に閉じ込められているようだった。
砦と入口の間の広場には、人が積み重なって倒れている。恐らくは奴等に殺された人たちだろう……。
「師匠、あれが盗賊団の砦のようですね。ここからどうします?」
「俺が正面から行く。お前は北に回り込んで戦闘が始まったら、裏手から忍び込んで捕虜となっている人達を助け出せ。
それが終わったら砦から離れたあと、先程の女性がいたところへ向かえ。そこで合流だ。
全員がすんなりと逃げられるならそれが一番だが、もし捕虜が怪我をしていたり、途中で盗賊に気づかれた場合には無理に離脱を考えず俺が行くまで風の盾で防御しろ。
あぁ、それと大丈夫だとは思うが一応、周囲の罠にも気をつけるように」
怒りで魔力が暴れ出すのを抑えながら僕が尋ねると、同じく索敵していたであろうラジクはそう言って指示を出した。
「了解です」
僕はラジクと離れ、索敵魔法を使い罠を避けながら砦の北へと回り込むと、裏手の見張り達に発見されないよう戦闘が始まるまで潜伏する。
うーん……この索敵魔法は便利だけど、連続使用すると魔力の消費が結構負担になるなぁ。
霧にした魔力を垂れ流しつつ長時間かけて探るよりも、薄い魔力の膜でも作ってそれをドーム状に周囲に一瞬で広げて、地形だとか周囲にいる人間やモンスターの位置を把握した方が、魔力の消費が減るかも。
イメージとしてはピコーンと鳴る潜水艦のソナーみたいな感じかな?
霧の方より探索時間が圧倒的に短いから、索敵後に敵が移動したり攻撃を感知するには向かないけど、単に相手の位置や地形を知るだけなら一瞬で事足りる。
それに霧の方は自分の周囲の狭い範囲にだけ留めれば、そこに攻撃が達した反応があれば、対応は身体強化でどうにかなると思うんだよね。
後で合流したら師匠に聞いてみようかな。
そんなことを考えているうちに、砦の入口の方で騒ぎが起こり始めた。どうやらラジクが突入したらしい。
裏手に立っていた見張り達も、騒ぎを聞きつけて正面へと向かっていった。
僕は周囲に敵がいないかを再度確認してから、柵を風の魔法剣で音も無く切断し、中に侵入して捕虜の檻へと向かう。
そうして物音を立てずに接近すると、檻の中の人たちに静かにするように言って鍵を切断し、砦の裏の方へと案内する。
途中で一旦振り返って広場の方を見ると、ラジクが盗賊を次々と斬り伏せていた。
あの分なら大丈夫そうだと思っていたら、砦の上の櫓に弓兵がいて、ラジクを狙っているのを見つけた。
僕はすかさず魔法を放つと風の刃は弓兵に当たる直前、見えない壁にでも当たったようにバシュッ!と音を立てて打ち消された。
初級魔法で、更に気づかれないように魔法名を唱えなかったとは言え、これまで厳しい訓練をして魔力量を増やし威力も上がっているはずだ。
にもかかわらず自分の攻撃を簡単に防がれた事に驚いていると、突然の攻撃を受けた弓兵も驚きながらこちらを見た。
「ほ、他にもいるぞ、捕虜を逃がしてる!」
僕の姿を確認すると弓兵は叫んで、ただちに他の盗賊にも知らせ、それを聞いた仲間の盗賊が何人かこちらに向かってくる。
僕は柵の向こうに捕虜の人たちを逃がし、中から出ないように言ってから、ちょうど柵の外側にくっつくように風の盾を張った。
「ふへへ、死ねぇっ!…………ぎゃあっ!」
先程の弓兵がこちらに向かって矢を放つと、風の盾は矢を弾き返して見事に命中し、弓兵は櫓から落ちた。
魔法は防いだのに矢は当たるのか。ますます意味が分からないと思ったが、そればかりを考えてもいられなかった。
僕は盾のギリギリ内側にある切断した柵の間に立ち、万が一盾が消えても囲まれたり、複数人から同時に攻撃されないようにした。
「なんだこの小僧、どうやって入りやがった?」
「んなこたぁどうでもいい、さっさと死……なぁっ!?」
こちらに向かってくる数人の盗賊たちを見ると、武装は軽鎧に斧や槍や剣だった。盗賊が僕に斬りかかると盾に阻まれ、バキィッ!と音を立てて武器が弾かれる。
「へっ、テメェの力じゃ足りねえって事だろっ……ぐあぁぁぁっっ!」
他の盗賊が今度は槍をこちらに投げつけてきた。しかしその槍は弾き返されて投げた盗賊に突き刺さる。
「な、なんだこの魔法は……」
「止めとけ、迂闊に攻撃するな!」
それを見ていた残りの盗賊たちは、どうしたものかと攻めあぐねているようだった。少し離れてこちらの様子を見ているが攻撃してはこない。
睨みあいをしていれば、そのうちラジクが向こうを片付けてこちらに来るとは思ったが、正直言って風の盾を張り続けるのは、ここまでに散々索敵魔法を使っていたのでちょっと厳しい。
風の盾は鉄壁の守りの代償に、消費する魔力が結構多いのだ。
盗賊たちの向こう側で戦うラジクの方を見ると、向こうに残る盗賊はあと一人のようだった。
しかしその一人は盗賊団のリーダーなのか、他の盗賊とは装備が違うし体格もかなり大きい。もしかするとモルド神父よりも大きいのではないだろうか。
左手に持った盾でラジクの剣を防ぎ、右手の武器……持ち手に長い鎖がついていて、鎖の先には無数の棘がついた鉄球が繋がっているそれを、振り回してはラジクに向かって叩きつけていた。
ラジクの風の魔法剣なら鎖だろうが鉄球だろうが、スンナリと切ってしまえそうな気がするのだが、地面に叩きつけられて動きの止まったそれをラジクが斬りつけても、なかなか切断することは出来ていなかった。
そういえば以前、魔力を通した武器や防具、身体強化した相手など、魔力を纏ったものは魔法剣に耐性が有るから、たとえ魔法剣でも木や弱いモンスターのように簡単には斬れないって言ってたっけ。
それになんだか師匠の顔は若干楽しそうにも見える。久しぶりに手応えのある戦闘なのかもしれない。それなら弟子として邪魔するべきじゃないね……。
そう思っていると僕と同じく、周りの盗賊たちがラジクの方を見ながら笑う。
「へっ、あの騎士も随分と強いようだが、お頭にかなうはずが無い。お頭は500万ゴルの賞金首だからな。
あの騎士が片付いたら次はお前の番だ。あの商人たちのように殺してくれと言うまで痛めつけてから、ゆっくり殺してやるからな。
しかし、来たのが野郎二人で女騎士がいないとは残念だ。お前らが片付いたら、逃げた女も捜さなくちゃなぁ……」
盗賊は心底楽しそうに笑いながら、折り重なった死体の方を指差して言った。
その言葉にドクンと心臓が大きく鳴った。
頭に血が昇り、暴れる魔力を押さえきれない。
こいつらは人間じゃない、ケダモノ以下だ。
こいつらを自分が殺してきた人達と同じような目に遭わせて、それから二度と悪事が出来ないようバラバラに粉々にしてやりたいと、そう思った。
「おっ、ようやく殺される覚悟ができたか?」
盾から一歩外に出た僕を見て盗賊が武器を構えるが、それを無視して姿勢を低くし、前方に風の刃を放つ。
地を這うようにして扇形に広がった風の刃は、ニタニタ笑いながらこちらを見ていた盗賊たちの両足を脛の下の辺りで切断し、地面に這いつくばらせた。
「えっ…………足が……あしぎゃあぁぁぁっっ!」
続いて僕は両手を使い、次々と無数の風の刃を上空に打ち上げると、それらに向かって戻ってこいと強く念じた。
すると風の刃はそれに従って上昇したあと方向転換し、地面に向かって急降下してくると地面に這いつくばっている、盗賊たちの両手首を切り飛ばした。
「もうお前たちは何もできない……僕がさせない。
他人の物を奪うことも、人を傷付けることも、そして誰かを殺すことも、もう無い。
師匠も僕も最初は捕縛のつもりだった。でも捕まえるのは更生や償いが可能な『罪人』であって、ケダモノ以下のお前たちは違う。
……この場で全て殺処分だ」
そう言いながら風の刃を放ち続けて四肢をジワジワと、肘や膝に向かって切り刻んでいく。
盗賊たちは今はもう、半分以下の長さになった手足をバタつかせ、泣き叫びながら命乞いをしていた。
自分たちが散々してきたことなのに何を今更と、僕は余計に腹が立ってきた。
するとそこに、盾の中にいた人たちから声がかけられる。
「待って! まだ殺さないでください! 奴等は私たちの仲間を数人、奴隷商人に売り渡したのです。
連れて行かれた仲間の行き先を聞き出さなくては、追うことも出来ません!」
僕は血が昇っていた頭がスーッと冷えていくのを感じた。
というかマズい、冷や汗が出てくる。自分が怒りに任せて相手にしたこともそうだが、僕は止血の仕方を知らない。このままでは話を聞く前に失血死させてしまう。
「そうだっ、師匠なら……!」
困り果てた僕はまだ戦っているラジクの方を見ると、身体強化を全開にして一気に突っ込んでいく。
「だあぁぁぁぁっっっ!!」
そしてルナメキラを初めて蹴り飛ばした時と同じように、盗賊の頭の背中に全力を振り絞ったドロップキックを叩き込んだ。
「があっっ!?」
不意を突かれ、反り返るような姿勢で吹っ飛んだところをラジクに深々と袈裟斬りにされ、盗賊の頭は倒れた。
「お前なぁ……盗賊相手とは言え一対一のところに、しかも後ろから不意打ちするのは流石に感心せんぞ?」
「盗賊たちだって師匠一人を相手に、最初は複数人で攻撃していたので気にすることは無いと思います。
それより向こうの盗賊たちを止血できませんか? 急いで聞き出したいことがあるんですが、失血死させてしまいそうなんです!」
ラジクに窘められたが、どちらかと言うと楽しみを邪魔された事への文句に聞こえたので、そこはサラッと流してこちらの要求を伝える。
モルド神父もラジク師匠も戦闘好きだからなぁ。
でもこっちはかなり急いでるんだよね。
「あの回復薬を使えば出来ないこともないが、あれは結構高いんだぞ?」
ラジクはそう言いつつ、這いつくばる盗賊たちの元へと急ぐ。
「あの盗賊の頭は500万ゴルの賞金首らしいですから、きっとお釣りが来ますよ」
僕はラジクについていきながら、そう言って首を竦めた。
盗賊たちをどうにか止血し、やったことについて死罪は免れないが大人しく情報を全て差し出すなら、これ以上は苦しませずに処刑してやるとラジクが告げる。
「も、もう切り刻んだりしないなら大人しく話す! だから俺からその小僧を遠ざけてくれ!」
貧血で土気色をした顔の盗賊たちが、半狂乱でラジクに懇願していた。
いい気味だと思う半面、辺りに散らばる手足や血の跡を見ると、自分のしたことを思い出して吐き気がしてくる。
捕虜にされていた人たちのお礼の言葉で少し救われた気分になるが、それでも気は重かった。
その後、盗賊から話を聞いたラジクは何故か青の狼煙を上げた。
すると少しして周囲の森から、ぞろぞろと騎士たちがやってきた。その中には結界で待っているようにと言った女性も一緒に連れられていた。
ラジクがリーダーらしき人と話し終えると、その指示のもと騎士たちは盗賊と商人を連れ、一直線に南の方角にある街道へと向かい始めた。
その一部始終を見ていた僕は、それでも何が何やらわからなくてポカンとするしかなかった。
「まぁ、帰りながらゆっくり説明するとしよう」
僕のところに来たラジクは頭をかきながら、そう言って歩き出した。
盗賊達の所業にお怒りではありますが、久しぶりの戦いにラジクはちょっぴり高揚感。
ジグも怒りに任せて盗賊達を攻撃しますが、冷静になり現場の惨状を見ると、内心穏やかではありません。
盗賊団は無事に全滅。
ですが今回の件には何やら裏事情があったようなので、帰り道に師匠から話を聞きます。




