第28話 訓練開始 その6 魔法剣と防具と2人の人外
ジグはまた気絶。
そして訓練再開です。今回は新しい訓練を開始します。
目が覚めるとやはり孤児院の医務室だった。
あちこち動かしてみたが体に異常は無いようだ。そうして痛みや異常の確認をしていると、医務室にはやはりヒルダが入ってきた。
「おや、目覚めたのですね」
前にもこんな事があった気がする。凄いデジャヴだ。
僕はどれくらい寝ていたのかヒルダに尋ねると、シャドウバードを倒したのは昨日で、今は翌日の夕方だそうだ。結構長く眠っていたようだ。
昨日倒れた後、モルド神父は僕を医務室に運びラジクと共にヒルダのお説教を受け、今日の昼間は南の森にモンスターがいないか確認に行っていたそうだ。ラジクは当然、警備任務だ。
ヒルダの話を一通り聞いた後、そろそろ夕食であることと、アマリアが心配していたので顔を見せてくるようにと言われ、僕は食堂に向かった。
するとアマリアには前回と同様に「無茶をして!」と怒られた。
でもそれは仕方がない。無茶なことでも乗り越えなければ強くはなれないと言うと、兵舎で話した僕の考えや覚悟を知っているせいか、それ以上は何も言わなかった。
そして翌日。
体調にも問題ないので午前の訓練に行くと、もう具合は良さそうで安心したぞとラジクが笑い、剣を一振り僕に差し出した。
「師匠、これは?」
「一昨日の戦闘で、練習用に与えた剣は使い物にならなくなったからな。新しいのが必要だろう。
練習用のは完全に普通の剣だったが、今回のは魔力を込めるのにも適しているし、魔法を受けたり切ったりしても良いような作りだ。
俗に言う魔法剣だな。お前にやろう」
僕が尋ねると、普通の剣でもそれなりの値段がするし、ましてやこれは魔法剣だというのにラジクは普通の顔で答えた。
「いや、これって結構高価な物なんじゃ……本当に貰っちゃって良いんですか?」
「それはまぁ、その……無茶をさせたお詫びと、厳しい訓練にもよく耐えてしっかりと成長しているからな。これはそのご褒美のようなものだ」
僕が尋ねるとラジクは頭をかきながら説明した。
ヒルダのお説教が効いているのを実感したが、それ以上に頑張りを認めてくれているのが、とても嬉しかった。
「わかりました。師匠、ありがとうございます」
新たな剣を手にした僕を連れて、ラジクは午前中の訓練のために前回と同様にイスフォレの森へ行き、魔法剣に魔力を通して扱う訓練をした。
最初は何もしないでモンスターを狩ってみる。その状態ですら、前の剣よりもかなり斬れ味が良かった。
次は風に属性変換した魔力を通して同じモンスターを狩ったが、斬った瞬間は何の手応えも無かった。
しかしモンスターは真っ二つになっていて、僕はこんなにも違うものなのかと驚いた。
「風属性は斬撃において他の属性よりも優れている。ただ、他の属性にもそれぞれ強みがあるから、同じ量の魔力を込めて同じものを斬りつけても、属性の違いで結果は随分と変わるので、状況に合わせた使い分けが大事だ。
まぁこれについては、複数の属性がある者だけが気にすれば良いことだがな」
「へぇ、そんなに違うんですね」
ラジクの説明を聞いて属性の違いを理解すると、残りの訓練は属性魔法剣に慣れるために、ひたすらモンスターを相手に戦った。
午後からはモルド神父との訓練だったが、午前中に張り切りすぎて魔力があまり残ってなかった。
けれど、ラジクと神父との間では既に予定が組まれていたらしく、イスフォレの森からの帰り道にラジクから、午後からは魔力を使わずに行う訓練だと聞かされて、僕は少し安堵した。
午後になりモルド神父の所に行くと、何やらずっしりとした箱を渡された。開けてみろと言われたので箱を開くと、中にはモルド神父が戦闘時に着けていたような防具が入っていた。
「お前もだいぶ成長したし、そろそろ必要かと思ってな」
モルド神父は簡潔に言う。
少しはラジクの言い方を見習ってほしいところだが、不器用な神父らしい言い方に思わず笑ってしまった。
ぶっきらぼうだが、たしかに成長を認めてくれているのが伝わってきてラジクの時と同様に、とても嬉しかった。
「モルド神父、ありがとうございます。早速つけてみますね」
「うむ」
防具は僕の体にピッタリだった。
そして、まだ僕は身体強化での戦闘には不慣れで、攻撃や防御の際に体を痛めるかもしれないとの配慮から、モルド神父の物に比べて保護する面積が多いようだった。
特に大きな違いは、手の甲の側に金属のプレートがついた手袋がある事だ。敵を殴るときに拳を保護してくれそうで、これは非常にありがたい。
防具を着けて体を動かしてみたり、あちこちを眺めていると、モルド神父が今日の訓練の内容を説明し始めた。
「今日戦う相手は俺だ。魔力も剣も一切使わず、己の肉体を武器に力と技のみで、体力の続く限り戦うのだ」
「えっ……」
僕はモルド神父の言葉に、思わず顔が引きつるのを感じた。
絶対にそこらのモンスターと戦うより辛いよ!
なんなら、この前のシャドウバード戦の方が楽な気さえするよ!
「どうした? 早くかかってこい」
モルド神父が若干楽しそうに僕を呼ぶ。
突っ立っていても仕方がない。やるしか無さそうだ。気合いを入れ直し、僕は戦闘態勢に入る。
「はい……じゃあ、いきますっ!」
僕が攻撃し始めると、モルド神父はそれを回避したり丁寧に捌くだけで反撃してこなかった。
理由を聞くと、良い点や悪い癖を見極めて今後の指導に役立てるのだそうだ。
こっちは結構全力なんだけど……。
剣術の時もそうだが、僕の先生たちって若干……いや、かなり人の域からはみ出してる部分があるから、たまに自信を無くしそうになるよ……。
そう考えていると、最近聞いた話を思い出す。
休憩中、教会に現れたオーガとの戦いについてモルド神父に話した時に、師匠であるラジクのことを聞いた。
実はあの人、身分的には中級騎士で上の方らしいけど、実力や功績で言えばとっくに上級騎士なのだそうだ。
しかも国内の騎士の中でも、特に優れた上位八名に送られる称号である『護聖八騎』にも選ばれるくらいの人らしい。
堅苦しいことや面倒事が嫌いなのと、出世よりも自分が強くなることが大事な性格なので、その手の話は断っているそうだ。
仕事とは言え騎士がオーガとの戦闘中に兵士を庇って重傷を負ったり、重傷を負いながらもそれまで関わりなんて無かった教会関係者を命懸けで守ったり、自分から教会の護衛任務に志願したり、教会の人間をはじめとして孤児の僕にも気さくに話したり、僕やモルド神父と一緒にヒルダに怒られたり……。
変わった人だとは思っていたけど、いや、改めて考えると本当に変わった人だ。うん。
でも、初めて騎士としての公の評価を聞いたときはかなり驚いた。普段の姿からは想像できない一面だったのだ。
自分の師匠のことを思い出していると、訓練中にボーッとするなとゲンコツが落ちてきた。
なんだかとても久しぶりの感触だ。左手のゲンコツも、以前と変わらずしっかり痛かった。
その後は真剣に、そして全力でモルド神父に挑んだが結局全て避けられ、防がれ、捌かれた。
しかもモルド神父は左手しか使ってないのに。
あまりに悔しかったので、途中からは身体強化を使う許可を貰い、さすがの神父も避けることは出来なくなっていたが、それでも全て防ぎきられた。
やっぱり僕の先生たちは、人の域からはみ出している。
2人からのプレゼントと、認められたことが嬉しかったジグです。
ラジクの話についてはどこで書こうかと悩んだのですが、モルド神父の強さは知られていても、ラジクの方はなかなか機会が無く、それでもどんな先生達にジグが教わっているかを表現したくて、このタイミングになりました。
2人はジグにとって、今は途方も無く高い壁であり、未来の目標であり、いずれは越えなくてはならない対象なのです。




