第27話 訓練開始 その5 属性身体強化と限界の少し先
風の盾を練習した後、午後からの身体強化訓練のお話。
昨日、一日のアクセス数が初めて500件を突破&ブックマークが10件を突破。二日前の時点でのデータですが、総アクセス数が2500件を突破しました。
本当にありがとうございます。
その記念と言ってはなんですが、ささやかながらお礼の気持ちを込めて、番外編や閑話として作るには分量が足りなかった、街のお使いでのアマリアによる公開処刑の様子を加えました。
少しではありますがもし良かったら、そちらもお読みください。7話目の 襲撃 その1 の冒頭部分になります。(初投稿当時の話です。今は最初から書いてあります)
午後からの訓練は、身体強化と属性を組み合わせたものだった。モルド神父の爆拳は、まさにその2つを組み合わせて生まれたものらしい。
「まずは魔力を解放して体の表面に纏わせる。そして同時に纏わせる以外の魔力は体の中で高速循環させる。これで属性身体強化の土台が出来る。
そして自分の属性を思い浮かべる。お前なら風か光を身に纏うようにイメージするんだ。それが出来たら今度はその状態を維持し続ける。まずは動かずにその場で維持するだけで良い。やってみろ」
僕は言われた通りにしてみる。何となくイメージしやすかったので纏うのは風にしてみた。
それまで静かに体を覆っていた魔力がイメージによって風に変換されると、ブワッと周囲に風が巻き起こる。
風の盾の時には結界のイメージがあったからドーム型を維持するのが簡単だったが、体の表面に風が纏わり付くなんて経験がなかったので、風が散ってしまわないように留めるのが案外難しかった。
何度か試してみた後でモルド神父が、ルナメキラ戦で見せたボコボコと煮え立つ溶岩を全身に纏った姿を思い出してやってみると、どうにか上手くいった。
お手本を実際に見られる機会があるのは、学ぶにあたって凄くありがたい。
属性身体強化を維持するのはどうにか出来るようになったが、それを使って動き回るのはなかなか難しかった。
動きに意識を向けて油断すると、今度は風が霧散してしまうのだ。普通の身体強化と同時に単に魔力を纏うだけなら割と簡単なのに……。
うーん、コツが分からないなぁと僕はしばらく考える。今回のモルド神父は、これ以上のアドバイスをくれる気が無いようだ。
新しい発想を思いつくのは難しいし、それならこれまでに習ったことを利用すれば出来るって事かなと、記憶を辿ったところでハッと思いついた。
身体強化をし、体の表面に魔力を纏わせる。
そしてその魔力の外側に薄い膜を張って、体と膜のあいだの魔力を風に変換してみた。
金属の卵のイメージで身体強化をして、その周りを同心円の丈夫な風船で包んでいる感じだ。
「うむ、どうやら出来たようだな。身体強化の応用に良く気づいた。慣れれば感覚だけで、すんなり出来るようになるはずだ。
今日はその状態でスピードを抑えながら、長距離走を行うように」
ようやく完成したところでモルド神父が、次の練習メニューを告げた。
しばらく走っていたが不慣れなせいか、これがなかなか疲れる。魔力を属性に変換するのは、単純に魔力を使ったり飛ばすよりも燃費が悪いようだ。
こんなものを使いながら戦闘していたのだから、モルド神父や師匠は、やはり普通の人や兵士とは違うのだと改めて思った。
先は長いけど、それでもやると決めたのだから、進むしかないね……。
そうしておおよその魔力を使い果たした頃に休憩時間となった。
中庭で休んでいると兵士に守られながら、シスターや子供が何やら急いだ様子でこちらに走ってきた。
南の森は滅多にモンスターが現れない安全な森だが、稀に出てくることもある。
今回は鳥型のモンスターが現れたので、遠目に見えた時点ですぐに引き返して来たそうだ。
「よし、良い機会だからジグ、お前が狩れ。俺とラジク殿や兵士たちは結界の中から見ていることにする」
僕はいつものようにモルド神父が始末するのかと思っていたが、モルド神父は僕に倒すように言う。
……いや、今の僕は魔力がカラッポなんですけど。
そう抗議したが聞き入れられなかった。鬼神父め。
皆はモルド神父に呼ばれて中庭に集まり、こちらの様子を見ていた。
ヒルダやアマリアは危険だと言ってモルド神父に止めるように言ったが、今回ばかりは神父が折れなかった。
モルド神父が何やら小声で話すと、二人は諦めた様子で心配そうにしながらも見守ることにしたようだ。
兵士たちは興味深そうに、そしてラジクはなんだか楽しそうにこちらを見ている。もちろん結界の中で。
「モルド殿にも考えがあってのことだ。
飛行型のモンスターには身体強化でもそうそう届くまい。倒すには魔法を当てるしか無いが、今のお前は魔力は尽きているらしいな。
それを承知で送り出すのだ、解決するためには今まで教えてきた剣術と知識と……まぁ頑張って魔力を使えば良い」
恨めしそうな顔をした僕を、笑顔で結界から送り出すラジクが別れ際に、アドバイスのようなものをくれた。
モルド神父に考えがあるのはわかったけど師匠、尽きてる魔力を使えってそんな無茶な。
僕が結界の外に出ると、それまで結界に弾かれて侵入できなかったモンスターは、こちらに狙いを変えて襲いかかってきた。
「うわっ!」
僕が身を低くして、空から襲い掛かってくるモンスターの攻撃を避けると、結界内のアマリアや子供達が小さく悲鳴をあげる。ヒルダも顔色が悪そうだ。
心配なのはわかるけど刺激の強い光景を見せるのは、子供たちの情操教育や、年を重ねたヒルダの心身には悪そうだ。
せめて皆が見てない時にやるわけにはいかないのだろうかと、モンスターの攻撃を回避しながら僕は思った。
身体強化が無くてもこの程度なら避けられるし、攻撃してきた所を狙って剣で斬るのも難しくは無さそうだなと考えながら、何度も襲いかかってくる黒い鳥の様子を窺い、急降下してきたところを真っ正面から斬り伏せた。
すると黒い鳥は真っ二つになり地面に墜落したが次の瞬間、それぞれからニュッと体が生えてきて二羽に増えた。
「あっ! これってもしかして、シャドウバードなの!?」
その様子を見ていた僕は驚いて、思わず声が漏れた。
休憩中の座学で聞いたことのあるモンスターだったが、実物を見て分裂するまで失念していた。
シャドウバードはカラスに似た鳥型モンスターで、攻撃を受けたり切断されたりして体の一部が離れると、そこからまた体が再生して増殖する。
倒すには体内のどこかにある核をピンポイントで砕くか、全身を一瞬で消し飛ばすような、高威力の攻撃を当てなければならない。
体内のどこにあるかが全く分からない核を狙うのは難しいし、核を外すと増えるのでこれ以上、迂闊に斬るわけにもいかない。
攻撃を回避しながらシャドウバードの特徴を順に思い出していると、攻撃が当たらないと判断したらしいシャドウバードは空中で力強く羽ばたくと、こちらに無数の羽根を飛ばしてきた。
「あぁ、そういえばこんな攻撃もするって言ってたね……たしか羽根の付け根に毒があるんだっけ。
スタンバードといいシャドウバードといい、この世界の鳥って毒持ちすぎじゃない!?」
次々向かってくる羽根を見ながら、独り言を言いつつ僕は必死に避ける。
いつまでも避けているわけにはいかないし、体力もいずれは尽きる。どうしたら良いのだろう?
そう考えていた時、ふと師匠の話を思い出した。
頭と魔力を使って……? 頭については、恐らく休憩中に教えたことを思い出せって事なのだろう。
では魔力は? ここから魔力を使うにはどうしたら良いんだろう。回復手段も無いなら、作ったり生み出すしかない。
魔力は時間が経ったり眠れば回復するんだから、魔力を使っていない今も、僅かずつでも回復しているはずだ。
ならその魔力の源は体の中にはまだ隠れていて、搾り出せば多少は出てくるのではないか?
魔力が搾り出せたなら魔力弾で倒せるとは思うし、僕にはこれ以外に取れる手段が今は無いだろう。
でも二羽それぞれに当てられるかは分からない。ならまずは二羽のシャドウバードを一カ所に集めて動きを封じてから、まとめて一気に叩くしかない。
そう決心して僕はシャドウバード達の動きを観察しながら、引き続き攻撃を回避する。
そう言えばシャドウバードが飛ばした羽根は、分裂して新たに増えることは無いみたいだ。本体からある程度の肉が別れなければ、分裂自体は出来ないのかもしれない。
なら剣で串刺しにしてしまえば分裂することもないし、二羽まとめて魔力弾を当てられるかも。
思いついたら試さねば。もうだいぶ息も上がってきていて時間がない。
遠巻きに羽根を飛ばしていたシャドウバード達もようやく魔力が減ってきたのか、再び自ら僕に襲いかかるようになってきた。
バラバラでは仕留められないと思ったのか、二羽同時に攻撃してくる。こちらにとっては非常に好都合だ。
「はぁっ!……どりゃあっ!」
まずは先に急降下してきたシャドウバードを、僕は下から掬い上げるようにして貫き、背後に迫っていたもう片方を、振り向きざまに剣を持ち直しながら上から突き刺して、そのまま地面に思い切り剣を突き立てた。
そして後ろに飛び退き手の平に魔力を集めるが、もちろんいつもより集まりが悪い。
これ以上魔力を使うのを体が拒否しているようだった。でも今は魔力を搾り出さなければならない。
「くっ……はあぁぁぁぁぁっっ!!」
抵抗する全身から無理矢理に魔力を集め、手の平で束ねる。
これ以上は絶対に集められないだろう。確実に倒すためには威力を上げなければ。僕はソフトボールほどの大きさの魔力弾を、更に属性変換する。
目の前がチカチカしてきて気を抜くと倒れそうだ。あともう少しだ、踏ん張れ自分。
手の平にあった魔力弾は、やがて小さな竜巻に形を変えた。
「はぁ……はぁ…喰らえぇっ!」
それを剣で地面に固定されているシャドウバードに向かって、思い切り投げつけた。
小さな竜巻は突き立てられた剣に当たると、その場で小さな竜巻となり、シャドウバードごと地面を穿ち消し飛ばした。
周りのものを吸い寄せたり巻き上げることも無いので、竜巻と言うよりは風のドリルのようだった。
「はぁっ、はぁっ、ど、どうだ……」
やがて竜巻が消えると、地面にはポッカリと穴が開いていた。シャドウバードは無事に倒せたらしいが、残った剣は結構ボロボロだった。
僕はそれを見て、練習用に師匠から貰った物だったのにどうしようなどと思っていると、目の前が真っ暗になった。
訓練の内容はどんどん難易度が上がり、消費する魔力も増えてきています。
訓練で鍛えたりモンスターを倒したりして、魔力量は順調に増えていますが、それでも追いつきません。
既に一般人や並みの兵士の魔力量なら遥かに超えているのですが、モルド神父やラジクの求める水準には、まだまだ足りません。
今回の戦闘はその点を補うための荒療治として、魔力の限界を少し超えさせ、これまでに鍛えてきた鍛練の習得状況を確認する、剣術、座学知識、魔法などの総復習みたいなものですね。
先生達の予想以上に頑張りすぎた結果、最後に気絶してしまいましたが……。
ジグの戦いをハラハラしながら見ていたうえ、最後の気絶でアマリアはもう真っ青。
もちろんモルド神父もラジク師匠も、ヒルダの「いきなりやれと言って放り出すなんて! せめてこれから何をするか、何を目的としているか教えてから訓練させなさい!」と、お説教が待っています。
それを実戦で考えながら戦うのが大事で、そのための訓練だとは分かっていても、まだ12才のジグにそこまでやらせるのは、ヒルダとしては納得し難いのです。




