第283話 海の国 その8 現状と黒幕
自分の住む地域でも日中は暑くなってきました。
皆さんも熱中症はもちろん、コロナにも充分お気を付けくださいませ。
僕たちが見守るなかでカナレアが話したのは、第三王女としての彼女を取り巻く環境についてだった。
現在のハイワーシズを治め、カナレアの父でもあるアルセイル王はまだ三十代後半の比較的若い王だ。
王と王妃の間には娘が四人いたが、生まれつき体の弱かった第一王女は数年前に病で亡くなり、第二王女でカナレアが結婚式にも参加した姉は去年、セントリングと同様に友好を結んでいる他国に望まれて嫁いだそうだ。
ちなみにカナレアの下には第四王女がいるがまだ十歳にも満たず、こちらも第一王女と同じくあまり丈夫ではないらしい。
なかなか男児に恵まれない王は側室も多く抱えているようだが、王の方に問題があるらしくなかなか子供が産まれない。
王妃との相性が一番良いらしいが産まれたのは四人とも女であり、また姐さん女房である王妃の年齢的にもそろそろ出産は危険なことから、もし跡継ぎが産まれるのであれば、それは側室の中からだろうと予想されている。
そして王の方に問題があるからにはいくら側室が多くても、このまま男の跡継ぎが産まれない可能性があるわけで……。
「はは~ん。さてはこのままだとカナレアさんが女王として即位する可能性があることで、それに不都合を感じている人物がいるわけですね~?」
「えぇ、ルミアの言う通りです。
そして、それに加えて跡継ぎの第一候補である私を亡き者にすることで、ハイワーシズを切り崩そうとする他国の手も伸び始めているようです……」
イリトゥエルとカナレアの間に友情が芽生えたことで、神友の友達は神友という謎理論を展開したルミアは、もうすでにカナレアとの距離を詰めていた。
それを見たメイドたちは最初こそ表情を曇らせたが、カナレアが凄く嬉しそうなので不問とすることに決めたらしい。
カナレアが襲われたうちリッツソリスでの誘拐は、第一王女の夭逝によるハイワーシズ内のゴタゴタだったようだ。
しかし第二王女が嫁いだことと、ダリブバールの盗賊団の首領であったゲイルロックから齎された情報をラジクが得て騎士団に、騎士団からセントリング王そしてハイワーシズへと情報が渡ったことで、ハイワーシズ内部の各王女派閥による争いは、大規模な粛正をもって一気に解決したようだ。
「では現在のハイワーシズは王と王妃を除いて、ほとんどカナレアの派閥で纏まっているってことですよね。
そうなると他に王女を害そうとする人物などいるのですか?」
イリトゥエルの疑問はもっともだ。
第一王女は既に亡く、第二王女も他国の人間になり、まだ幼く病弱な第四王女を担ぐ者もいないなら、あとはカナレアの元で一つに纏まれば良いだけだ。
他国からのちょっかいもこのメイド達に囲まれ、王城内にいるなら問題はなさそうだし……ん?
「もしかしてつい最近、王城内で起こった襲撃も?」
「えぇ。これ以上セントリングとの繋がりを深くして、外の憂いを減らしたくない者の仕業ですね。
外交特使として派遣されたウィルヘルム大臣が我が国で殺されれば、同盟の話など簡単に無かったことに出来ますし、外に眼を向けなくてはならないとなれば、そのぶんお父様も国内に注意を向けていられなくなりますから……」
そのうえ最近になって急速に力を付けてきたセントリングとの決裂は、確実に王の求心力を損なわせて立場も弱くすると、カナレアは憂いを隠し切れない様子で話す。
注意を散漫にさせておいて自分たちが有利に、そして動きやすい環境が整うようにしているのか。
貴族同士の政争とか、仲の良い姉妹を置き去りにした跡目争いとか、そういうのはドロドロしてて本当に嫌だなぁ。
……でも、そんなものにカナレア様が巻き込まれてるのは、もっと嫌だなぁ。
彼女にはこの首飾りのお陰でアマリアや師匠、ミリアさんやイリトゥエルだって救われてるし、僕の贈った髪飾りが三度助けたなら、それこそ僕自身だって何度も命を助けられている。
「事情は分かりました。それでその、犯人の目星はついてるんですか?
王様の立場を悪くしてカナレア様の命も狙う、その相手って一体誰なんですか?」
「それは……」
僕が尋ねるとカナレアはゆっくりと口を開く。
しかし、彼女が話し始める前に鎧の擦れる音と共に、数人の足音が聞こえてきた。
「カナレア! はははっ、我が愛しき姫よ! 今日もまた城に引き篭もっていたのか?」
やって来たのは護衛と思われる騎士を数人連れた、金髪で髭を生やした男だった。
歳は五十代か、もしかすると六十近いだろうか。しかし第三王女であるカナレアを呼び捨てにするうえ、この金髪に護衛と貴族の身なりということは……。
「はい。今日は私の大切な友人を招いて、昼食を共にしておりましたの。大叔父様もお元気そうで何よりですわ」
「そうであったか……ん? それはもしや以前、セントリングでお前を助けたという?」
男は僕たちの方を見ながら何やら思い出すような仕草をすると、ハッと気付いて僕を窺うように見る。
「えぇ、その時の殿方です。今は冒険者としてお仲間と共に行動し、我が国にはお仕事で来ています」
「ほぅ、この者が……いやぁ、我が国の至宝、海の宝石と謳われるカナレア姫を助けていただき感謝する!
もし機会があるのなら冒険の話など聞きたい。滞在中に時間があるなら、是非ワシの招待も受けていただきたいものだ。ふははははっ」
男は僕の肩を掴んで嬉しそうに笑うと、ご機嫌伺いに来ただけだからと言って土産を渡し、すぐに去って行った。
「二人はどう思う?」
「間違いなく黒でしょう。カナレアの苦労がまた少し分かった気がします……」
「そうですねぇ。終始隙を見せない完璧な笑顔でしたが、ジグさんのことを聞いたときにほんの一瞬だけ、仮面が剥がれましたね~。
イリトゥエルさんの言う通り、私も間違いないと思います~」
僕が尋ねると、自分より経験もあって勘も鋭い二人は即答する。
僕も何となくではあるけれど嫌な感じがしたので、二人には同意だった。
「わ、わかるのですか?」
「二人と違って僕のは勘です。感じとしては何となく、あの笑顔が胡散臭いなぁってくらいでしたから」
カナレアもメイド達も驚いた様子でこちらを見ているが、本当に凄いのは僕じゃなくてイリトゥエルとルミアだ。
そしてカナレアの説明によると男はツォゴモスと言って、現在のハイワーシズ王族の中では王と王妃、そしてカナレアに次いで地位の高い王族のようだ。
先王の末弟で、もしアルセイル王とカナレアがいなくなれば、王妃や幼い第四王女よりも王族の血を引く男性として、恐らく彼が王位に就くことになると思われる。
先代の時代には末弟として継承権からほど遠い位置にいたが、ハイワーシズの現状なら機会はあるし、自身が王位に就けばその息子や孫に継承していける。
動機としては充分すぎるほどだ。
「それでこのお土産ですけど、セリカさんが確認しますか~?」
「いえ、見るまでもなく処分します。このような手でカナレア様をどうにかしようとするとは思えませんが、万が一があってはいけませんから」
ルミアの質問に答えるとセリカはカナレアの許可を得て、お土産である液体の入った小瓶を地面に落とす。
すると小瓶を突然現れた土の手が摑み、しばらく蠢いた後に中身は土に飲まれ、小瓶は砂のように細かく砕かれていた。
「さて、これからどうしましょうね~?」
「相手が分かっているのならカナレアから直接、国王陛下に申し上げるわけにはいかないのですか?」
「お父様もお母様も、相手が自分たちの叔父では証拠も無しに事を起こすことは出来ません。
それにあのツォゴモスは常に巧く立ち回り、決して尻尾を掴ませてはくれないのです」
ハイワーシズ王族の中では重鎮で立場も強く、王や王妃も簡単に手出しは出来ない。
それに用心深い彼は必ずトカゲの尻尾を用意して、危なくなればそれを切り捨てて証拠を掴ませないようだ。
「とは言え、何かしらの指示は出すはずです。それならあの者に張り付いて様子を覗っていれば、いずれは証拠を掴むことも」
「ムリムリ、あの護衛の騎士を見たでしょ? あれも相当ヤバいよ。バレたら斬られちゃうって」
イリトゥエルが案を出すが、たとえセラーナやケルガーの隠蔽魔法でも光魔法を使われては解除されてしまう。
それに護衛の騎士の中に一人だけ、他とは桁違いの雰囲気を持つ男がいた。今までに経験した感覚としては、フルトネールに一番近いだろうか。
ほんの一瞬だけど目が合った瞬間に、僕は背中に変な汗が浮かんだのを思い出す。
「私たちはカナレア様のお側を離れるわけにはいきませんし……」
「ふっふっふ……ようやく出番が来たようですね~」
メイドの四人も含めて僕たちがどうすれば良いのか悩んでいると、ルミアが何か企んでいるような顔で笑う。
「何か方法があるの?」
「私に任せて下さい。……まぁ、実行するのはジグさんですけどね~」
胸を張って自信ありげなくせに、ルミアは僕にそう言ってニヤリと笑った。
お説教の後には何やら真面目な話が待っていました。
ハイワーシズ王族やカナレアを取り巻く現在の状況、その説明と敵の親玉が登場しましたが、証拠は何もありません。
相手の立場も強く、その近くには強力な護衛が。
しかし、なかなか厳しい状況のなかでルミアには何か秘策があるようです。
ということで、これからどうなるのか。
次回も是非ご覧ください<(_ _)>




