第281話 海の国 その6 髪飾りと贈り物
王女を目の前にし、只者ではない四人のメイドに囲まれながら、僕たちはそれでも用意された料理を堪能した。
特にセリカの作ったオオドクトゲザカコのムニエルは絶品で、食材の味はもちろん彼女の卓越した料理の腕にはイリトゥエルも目を見張り、ルミアに至っては感激して涙を流したほどだ。
それに美味しい料理を食べながら、僕があの誘拐事件の後にどうしていたか、冒険者になった僕たちがこれまでどんな経験をしたかを話したり、カナレアがハイワーシズに戻ってからこの城で、どう過ごしていたのか聞くのもなかなか楽しい時間だった。
「美味しかったぁ。ごちそうさまでした」
「本当に、本当に見事なお料理でした」
「あぁ~、私は今この時だけは死んでも悔いはありま……そうだセリカさん、ここを辞めて私のお嫁さんになりませんかね?
一生…いえ、死してなお貴女を永遠の存在として、幸せにしてみせますよ~」
僕とイリトゥエルがナプキンで口元を拭いながら満足していると、ルミアはウットリしていたのも束の間、かなり真面目な顔でセリカの方を見てお馬鹿なことを言った。
……というかルミア、死んでもってことは彼女を天界にまで連れて行くつもりかい?
それとも彼女を料理の女神か何かにでもするつもり?
「お褒めにあずかり光栄ですが、私は身も心もカナレア様に捧げておりますので」
ニッコリと微笑んで答えたセリカだが、その言葉にはキッパリお断りの意思が込められていた。
まぁ相手は見た目ただの冒険者で、彼女もその正体を神だと知らないわけだし、当然と言えば当然だ。
「そうですか~。せっかくイーテクッカを蹴落としてでも、食の神の座をセリカさんに差し上げようかと思ったのにぃ~」
「ルミア、やめて。ホントにやめて」
「こ、こら! セリカさんの料理が素晴らしかったのはわかりますが、ルミアったら冗談が過ぎますよっ!
うふ、うふふふふふっ!」
料理なのか食べ物なのか分からないけれど、とにかく現在いる神様を一人蹴落としてでもと言って、心の底から残念そうにしているルミアに向かって僕が真剣にお願いし、イリトゥエルは笑って必死に誤魔化す。
「み、皆さんに喜んでいただけたようで何よりです。
では食事も終わったことですし、皆さんにあれを」
「「「畏まりました」」」
流石は王女だけあってスルースキルも高いらしいカナレアは、ルミアの言葉をしっかり冗談だと認識してくれた。
そして少し姿勢を正すとメイドたちに話しかけ、セロノリス以外の三人はその場を離れると、それぞれ細長い箱を持って戻ってきた。
「ジグ。改めて攫われた私を助けてくださったこと、本当にありがとうございます。
そして今回もイサプレアの戦いにご協力いただき、また海の民の件でもご尽力くださった皆さんに、私からお礼の品をお贈りいたしたく思います。
どうか受け取ってくださいませ」
カナレアがそう言うと、メイドの三人は僕たちの前に箱を置き蓋を開ける。
するとその中には黒曜石のように黒く輝く刀身と、同じく黒い柄や鍔には見事な装飾が施され、柄頭には風属性と思われる緑の魔石がはめ込まれた、反りのあるナイフが入っていた。
「カナレア様、これは……?」
「先ほどもお伝えした通り、お礼ですが?」
「いえ、そういうことではなくて」
「お礼は既に受け取っている、と?」
「はい。誘拐事件の際には僕の周りの人たちに贈るものだけでなく、この貴重な首飾りまで賜り、そのお陰でこれまでに何度も僕自身や大切な人たちの命を救われました。
それにイサプレアや海の民の件については、セントリングも無関係ではありませんでしたし、何より友達のために僕たちがしてあげたいと思ったことですから……」
僕は自分たちが普段食べられないような、高級で美味しい食事までご馳走してもらったうえ、更にこんな値の張りそうなナイフまで受け取るわけにはいかないと思ったが、首を振るカナレアはもちろん納得していないようだ。
「先ほど私たちはこの二年であったことを互いに話しましたが、その中にはお伝えしていないこともあります」
カナレアはそう言うと布に包まれた何かを取り出した。
「これは私が帰国してから三度、この身を守ってくれました」
カナレアは布の中からそれを取り出すと大切そうに、愛おしそうに見つめる。
するとその中にあったのは魔石が粉々に砕けて無惨な姿になった、試作品も含め僕の盾魔法を刻みつけた二つの髪飾りだった。
「一度目は帰国してから少し後に、二度目は他国に嫁いだ姉の結婚式の帰路の海上で、そして三度目は彼女たちが私の側仕えになる少し前に……。
そのいずれも城の外に出ている最中に襲われましたが、この二つの髪飾りは側仕えや護衛の騎士たち諸共、見事に私を守ってくれました」
誇らしげに、しかしどこか悲しそうに言いながら、カナレアは僕を見る。
そういえば食事中の彼女は城の中での事は話していたが、どこかに行って何かを見たとか、遊びに行ったなどという話は一切しなかった。
仲の良い姉がいたことやメイド姉妹たちとの楽しい思い出には触れたが、それは全て壁に囲まれたこの城の中での話だ。
「ですから一国の王女の命を救ったお礼としては、その程度の物ではまだまだ足りないのです」
困ったように微笑むカナレアの声が少し遠くなる。
体が熱い、もしかして僕は怒っているのだろうか?
庶民どころか孤児出身の自分とは全く違う環境で、僕には想像もつかない苦労や不安にさらされながらも、目の前にいる少女は必死に耐えてきたのかも知れない。
そう思うと常に堂々としている一つ年下の王女様が、その小さな体でいつも気丈に振る舞っているように思えて、僕は彼女を害そうとする者に怒りを覚え、同時にまた彼女を守るために何かしたいと思った。
「……わかりました。ではこれはありがたく頂戴いたします」
僕は体内で活性化しつつある魔力を押さえ込み、ナイフを取り出すと一緒に入っていた鞘に納めて立ち上がり、それを腰に差す。
するとそれを見ていたイリトゥエルとルミアも立ち上がり、同じように身に着けていた。
「セーレンさん、セロノリスちゃん。カナレア様の持つ装飾品の中には、宝石の代わりに魔石が使われているものがありますか?」
「はい。たしかにございます」
「ではそれを大至急、全部ここに持ってきて下さい」
「し、しかし……」
僕の問いに答えたセーレンは、自分の主と僕を交互に見ながら困惑した様子でいると、セロノリスがその手を掴む。
「わかった~。このおにいちゃんならだいじょぶだよ。レンねえちゃん、はやくいこ~」
「えっ、ちょっとノリス、引っ張らないでっ」
無邪気に手を引くセロノリスに引っ張られながらも、カナレアが頷いたのを確認するとセーレンは妹に続いて走っていく。
「ではお二人が持ってくるのはジグさんに任せますから、カナレアさ……様が現在身に着けている装飾品については、私とイリトゥエルさんがやって良いですかね~?」
「うん。出来るのなら、そっちは女の子がやった方が良いだろうからお願いするよ。セリカさんとセシルさんも手伝ってあげて下さい」
そこは流石に空気を読んで、王族には様を付けたルミアの問いに僕が答えると、意味を理解したカナレアは二人に向けて頷く。
セリカとセシルが土魔法で囲いを作ると、五人はその中で身に着けているものを外しているようだ。
「風の盾は僕が刻むから、二人は僕の持ってない属性でお願い」
「「は~い」」
二人に伝えた僕は一応、その囲いから目を背けて待っていると、ほどなくセーレンとセロノリスが大きめの宝箱のような、豪華な箱を持って戻ってきた。
「はぁ…はぁ……こ、これで全てです」
「ノリスつかれた~」
「いきなりで申し訳なかったね。でも助かったよ。ありがとう二人とも」
二人は重たそうな箱をテーブルの上に乗せると、僕はその中にあるものを取り出しては盾魔法を刻んでいく。
それを見た姉妹は額に汗を滲ませながらも、どこか嬉しそうだった。
美味しい食事を堪能した三人は大満足な様子。
セリカをいたく気に入ったルミアは同僚を蹴落としてでも、彼女に神の座を与えようなどと言い出しますが、本人も主も戯言として聞き流してくれました。
(ちなみにたとえ本当だと分かっても、主の命令でない限りセリカは靡きそうにありませんが(笑))
そんな中でカナレアからは特別な短剣が贈られましたが、彼女にもまだ話していないことが色々とあるので、その一端を知ったジグは若干キレ気味で魔道具を量産することを決意。
王族と庶民では環境も立場も違うとは言え、年下の女の子の命を狙う存在がいることに怒っているようです。
イリトゥエルとルミア、それにカナレアもジグの気持ちを理解して行動していますが、実は怒ったジグ本人は気付いてませんでしたが、周りからするとかなり圧力を感じるほどの魔力を放出していたので、メイドたちはそれを見て刺激しない方が良いとの判断もしてます。(セロノリスだけは子供の持つ直感のようなもので無害と判断しています)
一歩間違えば国際問題ですが、そこはジグに対するカナレアの信頼のお陰でしょうか。
そんなわけで次回は盾魔法を刻んでから、出来れば今回もまた書けなかった本題に行きたいところですが……やはり予定は未定です( ̄▽ ̄;)すみません。




