第280話 海の国 その5 第三王女と姉妹
「皆さん、先ほどは私のメイドが本当に失礼をいたしました。主としてお詫び申し上げます」
案内された僕たちはカナレアのものだという庭に到着して席につくと、彼女は深々と頭を下げて僕たちに謝った。
「セシル、何をボサッとしてるの。アンタも謝りなさい」
「も、申し訳ございませんでした……」
カナレアの隣には僕を襲ったメイドとその頭を掴んで下げさせている、彼女を取り押さえた黒髪で首くらいまでのショートヘアの長身メイドが、一緒になって頭を下げていた。
「いえ、仲間に危害を加えられたワケでも無いですし、それはもう大丈夫ですから頭を上げてください。
ただ、理由だけは教えていただけると助かります」
僕がそう言うと、両隣にいたイリトゥエルとルミアが不満げな表情を浮かべたが、流石に王女様が頭を下げてるのに文句を言うわけにはいかない。
「寛大なお心に感謝します。ただ、私にも理由が分からなくて。
セシルがお使いには自分が行くと言って招待状を持っていき、今日も出迎えに行ったのは存じているのですが……セリカは何か知っていたの?」
「私は少し前から妹の様子がおかしかったことと、予定していた時刻までに来なかったので、もしかすると何かあったのかと思っただけです」
どうやら二人は姉妹らしい。三つ編み戦闘メイドがセシル、長身メイドがセリカという名前みたいだ。
感じ取れる力とセシルを取り押さえた事からも恐らくは、いや確実にセリカの方も戦闘メイドなのだろう。
「では本人の口から聞くしかありませんね……。
セシル、いつもは真面目なあなたが、どうしてあんな事をしたの?」
「……以前から聞いていた少年が今も信じるに足る人物なのか、そして実際にこの目で実力も確認しなければ、カナレア様をお助けすることなどできないと思いまして……」
「それにしたってセラーナ姉さん相手じゃあるまいし、客人相手に無属性の上位魔法まで使ったら、下手をすれば死んでたかも知れないでしょうがっ!」
「あうっ」
セシルがゆっくりと口を開いて説明すると、話を聞いたセリカはお怒りなようで、モルド神父を思わせるゲンコツを妹の頭に落とした。
セシルの話の内容からは、まだ何が何やらわからないがそれよりも。
……今、何か凄いこと言わなかった?
「あ、あの、今なんて言いました? 二人以外にもお姉さんがいるとか?」
「えぇ、セリカとセシルは四天星の『夜帳』、セラーナの妹ですよ」
「「「ええぇっ!?」」」
僕たちはチームワークもバッチリに揃って驚くと、カナレアと姉妹二人はキョトンとした顔でこちらを見ていた。
「道理であの戦闘力……私はようやく納得しましたよ~」
「セリカさんの方も只者ではないと思っていましたが姉妹三人、揃って優秀なのですね」
「僕、今でもここで生きてることを天に感謝するよ」
カクカクと頷きながら納得している二人と、空を見上げて祈りを捧げる僕。
しかし、そこに更なる追撃が加えられる。
「カナレア様、お食事の用意が整いました」
「ひめさま、おしょくじもってきた~」
「ありがとう、二人とも。皆さんに紹介いたしますわ。こちらもセラーナの妹たちで、セーレンとセロノリスと申します。
この子たちを含めて五人姉妹が全員、ハイワーシズに忠義を誓い、仕えてくれています」
食事をのせたカートをゴロゴロと押して来たのはセシルよりも年下と思われる、長い黒髪を三つ編みにして一つに束ねたおっとりした少女と、同じく黒髪を二つのお団子にした、カナレアよりもだいぶ年下の小さな女の子だった。
こうして見るとたしかセラーナが二十代前半だったから、セリカが二十歳前後、セシルが十代後半、セーレンが僕と同じか少し下で十代前半、セロノリスが八歳前後といったところだろうか。
そんな事を考えていた僕がポカンとしているのに気付いて口を閉じると、イリトゥエルとルミアは二人揃って四人を見たまま固まっていた。
「先ほどのこともそうですが、お騒がせしてごめんなさい」
「いえいえ。いやぁ、しかし驚きました、本当に。
セラーナ様に四人も妹さんがいたとは……」
「彼女たちの両親は早くに亡くなってしまい、セラーナもその実力を買われて四天星になっていますからね。
当時はまだ幼いセロノリスもいましたし、セリカは私の側仕えになっていたので、それならまとめて私の所に来れば姉妹四人が一緒に暮らせると思いまして。
セラーナもたまに様子を見に来るのですよ」
照れくさそうにそう言うカナレアによると、両親が海の事故で亡くなった後、生活力の無いセラーナの代わりにしっかりしたセリカが家を切り盛りしていたが、しかしその彼女もカナレアに仕えるようになって、セラーナも生活費は稼いでくれるものの任地があって家を空けるため、一時期は大変だったらしい。
その後、家には雇われた乳母が来るようになって生活が少し落ち着くと、セシルは普通の仕事やメイドに向かない自分は冒険者になると言って、短期間で五級冒険者にまでなったが、ソロで無理をしたのが災いして大怪我を負い、回復までに一年近くを必要としたようだ。
その間にセーレンがカナレアのメイド見習いとして働き始めたことと、カナレアの身辺警護をしないかという打診があり、姉たちが家にいないならばとセロノリスも城に召し抱えられたため、怪我の治ったセシルもそれに従ったらしい。
「お料理も来てしまいましたし、まずはお話よりも先に食事にしましょうか」
「待ってました~!」
次々現れる姉妹に圧倒されていたルミアは、そこでようやく普段の調子を取り戻した。
その声にハッとしたイリトゥエルも、王女の提案を受け入れることにしたようだ。
「分かりました。ではカナレア様の仰せのままに。
あっ、それと……」
僕は頷くと手土産の事を伝え、イリトゥエルに頼んで給仕をしてくれる姉妹のうち、セシルに仲直りの証としてオオドクトゲザカコの氷漬けを預けた。
カナレアはもちろん姉妹たちも、王族ですら滅多にお目にかかれない程の珍しい魚を見て、少し驚いていた。
毒のある魚の調理をまだ幼い妹や、料理の出来ない妹には任せられないと言ってセリカが離れると、護衛にはセシルが残り、セーレンとセロノリスが主に給仕を担当してくれた。
料理人はいるようだが、毒持ちで外部から持ち込まれた食材でもあるので、信頼の厚いセリカが検査するのかも知れない。
「それにしてもセシルさんは素晴らしい腕前でしたし、彼女をあっさり取り押さえたセリカさんの実力も相当ですよね~」
「セラーナ様が四天星に数えられるほどですし、もしかしてセーレンさんやセロノリスさんも……?」
食事を楽しみながらご満悦のルミアが話を振ると、イリトゥエルも下の妹二人を見て尋ねる。
「いえいえ、私は姉さんたちのように戦うことは出来ません。得意なのはメイドとして、カナレア様の身の回りのお世話をすることですね」
おっとりとした雰囲気のセーレンはそう言いながら、両手に持ったナイフで肉を切り分ける。
……あの、セーレンさん? ナイフ捌きが速過ぎて見えないんですけど!
僕にはあなたの中の戦闘能力の基準が、明らかにおかしいことだけは分かりましたよ。
「ええと、じゃあセロノリスちゃんは……」
「よいしょっ……と。えっ、ノリスはふつーだよ?」
背伸びして僕の皿に追加のパンをのせてくれていた少女が、首をかしげてこちらを見る。
「あっははは……そうだよね~」
「ジグさんったら、そんな小さな子にまで何を期待してるんですか~」
「そうです。ジグは自分が早いうちから訓練していたからと言って、他もそうだとは思わない方が良いですよ?」
僕だけでなくルミアやイリトゥエルも安心して、笑いながら軽口を叩いていた。
すると屋外ということもあって、テーブルに蜂のような虫が飛んできた。
「あっ、むし。おしょくじをよごしちゃダメー、ひめさまをさすのはもっとダメー!」
セロノリスは虫を指差しながらそう言うと、その人差し指の先から細いレーザーのような熱線が撃ち出されて、ジュッと音を立てた直後に虫は、この世から跡形も無く消えていた。
「「「…………」」」
「さ、みんなたくさんたべてねー」
僕たちが今日で何度目になるか分からない驚きに固まっていると、セロノリスは何事も無かったかのようにトングを持ってそう言った。
それを見ていたセシルは妹が魔法を上手く使えたことに満足しているようだし、カナレアとセーレンも慣れたもので「あらまぁ、ウフフ」といった感じで微笑んでいた。
「あっ、うん。ありがとう、セロノリス『さん』」
「い、いただきます」
「わぁ、さすがに王宮の料理は美味しいですねぇ~。
は、ははは……」
僕たちは色々と考えないことにして、とりあえず目の前に並べられた豪華な食事を楽しむことにした。
セラーナの妹として新しい人物が四人も出てきました。いずれも四天星の妹であり第三王女に仕えるだけあって、普通とは違うようです。
覚え方は姉妹の上から順に、名前のセの後にラリルレロが順番に来ます。
セ『ラ』ーナ
セ『リ』カ
セシ『ル』
セー『レ』ン
セ『ロ』ノリス という感じですね。
ちなみにこの姉妹はメリルとも仲良しですし、カナレアからは家族と同じように扱われているので、彼女たちもそれに見合った忠誠を誓っています。
キリが良くてここまでにしましたので、セシルの行動やカナレアの用件はまだ明らかになりませんでしたが、次回で書けるかと思いますのでこちらもお楽しみにです( ´∀`)b




