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転生の糸使い [830万PV突破・400万字、900話以上の大ボリューム!]  作者: 青浦鋭二
第2部 海の国編 (初任務・火焔馬・海の民・ハイワーシズ)

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第271話 ハイワーシズへ その2 不変の変化と魔力の節約

 グランドセイルを出発した翌日。

 僕たちは朝食を食べながら、リッツソリスを出てから遭遇した戦闘について話していた。


「モンスターに関してはほとんどが水棲だったし、そろそろ水属性を手に入れてたりしないかなぁ。アレがあると出掛けた先で凄く助かるんだよね」


ひょうでひゅねぇ(そうですねぇ)いひとぅえふひゃんの(イリトゥエルさんの)きょおり(こおり)……」


「あぁ、ルミアは飲み込んでから話して?」


「むごごっ!」


 朝から酔い止めを飲んで調子が良い反面、相変わらずお行儀の悪いルミアの口元を僕が糸でグルグル巻きにすると、イリトゥエルがポーチから各属性の魔石を取り出した。


「それなら確認するのが一番早いですね」


 そう言いながら自分から一つ一つ魔力を込めていくと、属性の数こそ増えていないものの光と氷属性が強まっていた。


「おぉ、他の属性に比べて使える人がそんなに多くないのに、イリトゥエルは氷属性がどんどん伸びるんだね」


「エルフは風と光の適性が高いので元々その二つの属性は強いですし、氷は弱かったぶんだけ伸び(しろ)が残っていたのかもしれませんね」


 謙遜したイリトゥエルは僕に魔石を渡しながら、それでも嬉しそうに微笑む。

 僕はそれを受け取って魔力を込めるが、こちらは以前と変化が無かった。


「うぅん、結構頑張ってたと思うんだけどダメかぁ……」


「うむむうぅ……」


「ジグの場合は既に風、光、雷、火と四つも属性を持ってますし、そのいずれも標準かそれ以上の強さなのですから、普通なら充分過ぎるほどですよ?」


「むぐぐっ!」


「まぁ、師匠もずっと風だけしか無かったみたいだし、これ以上を望むのは贅沢を通り越して罰当たりってものかぁ」


「むごご! むぐこぐご!」


「うるさいよルミア、早く飲み込んで……って、あっ、ごめん」


 僕たちが話している間に、ルミアはちゃんとご飯を飲み込んだにもかかわらず、口には糸を巻きつけたままだったのに気付いて、僕は慌ててそれを消す。


「何だか最近、私の扱いがぞんざいではありませんかねぇ~?」


「そ、そんなことはないよ。でも本当にごめんっ」


「ほら、口の周りを拭きますから、こっちを向いてください」


「やっぱりイリトゥエルさんは優しいですねぇ~。ジグさんはイリトゥエルさんの爪の垢でも煎じて飲めば良いのですよ~」


 イリトゥエルに甘えながら、ルミアがこちらに少し冷たい視線を送る。


「わ、悪かったって。ほら、ルミアも調べてご覧よ」


「ぶ~、まぁ今はこれぐらいで許してあげます。

 とは言っても私は元が永劫不変(えいごうふへん)の存在である神なわけですから、属性は既に固定されてるはずで……」


 いたたまれなくなった僕は魔石をルミアの前に置くと、口を尖らせた彼女は魔石を握る。

 すると青い魔石に魔力を込めた時、ルミアが珍しく目を見開いた。


「あ、あれれ? これはおかしいですねぇ……」


 スンナリと魔力を通せた事に驚いた彼女は、そんなはずは……などと言って、自分のポーチからも魔石を取り出す。


「これで仕切り直して……ってあれぇっ!?

 一体何が、どどっ、どうしてこんなことに……」


 またも抵抗なく魔力が込められて魔石が青く輝くと、ルミアは素っ頓狂な声をあげ、立ち上がってオロオロし始めた。


「そんなに変なことなの?」


「属性が増えたなら良いことではありませんか?」


「えっ、いやその、で、でも私たち神々は……」


「今は完全な神ではないんじゃ?」

「でも今は半分人間でしょう?」


 狼狽えてしどろもどろになっているルミアという、本当に珍しいものを見ながら僕とイリトゥエルが同時に言うと、数秒のあいだ固まっていたルミアはポンと手を打つ。


「あっ、そうでした~。今の私は半分人間でした~」


 納得納得♪などと言いながらルミアは席につくと、先ほどまでの慌てようが嘘のように落ち着いて、食事を再開した。



 その後、ルミアは新たに獲得した属性を試すべく甲板に上がると、僕は既に甲板で待っていたプロディサウラとの手合わせを始める。


「では今日も付き合ってもらうとしよう……来いっ!」


「はあぁっ!」


 僕が跳びかかって右の回し蹴りを繰り出すと、プロディサウラはそれを左腕で防ぎながら僕を右足で蹴ってくる。

 それを左手で受け止め、勢いを利用して右方向に跳ぶとプロディサウラの左側に回り込んで、今度はその鍛え上げられた脇腹に左の正拳突きを叩き込む。


 しかしプロディサウラは体を回転させてそれを(かわ)すと、僕の背後から唸りをあげて右のバックブローが襲い掛かってきた。


「うっひぃっ!」


 後方の斜め上から振り下ろされるそれを、僕は前方に転がるようにして避けると、そのあまりの威力にブォッ!と風を切る音が聞こえた。


「良い判断だが、体勢を崩しすぎだ」


 転がって立ち上がる途中の僕を、追跡しながらそう言ったプロディサウラがローキックを放つ。

 もちろん威力を逃がせないよう、その蹴りも薙ぐのではなく打ち下ろすかたちで襲い掛かってくる。


「ちぃっ!」


 たとえ防御して受けて止めても被害が大きいと判断した僕は、咄嗟にジャンプするとプロディサウラの蹴りがその両足に当たり、僕の体がまるでオモチャのように空中で回転した。


「こんのぉっ!」


 僕は世界が一瞬で反転した直後、甲板に両手をついて逆立(さかだ)ちの姿勢をとると、蹴りを振り抜いて右半身を曝け出しているプロディサウラに向けて、足を振り抜く。


「ぬぅっ……」


 その蹴りを右の肩で受けたプロディサウラがこちらを振り向こうとすると、僕は逆立ちの姿勢のままその右足に組みついて、両手を使い全力で引っこ抜くようにして膝を折らせた。


「うっ、おぉぉっ!」


 足をとられて体勢を崩したプロディサウラが甲板に右膝をつくと、僕は背後からタックルして倒し、首に腕を回してロックし絞めあげる。


「はぁ……はぁ…ど、どうだっ!」


「ふぐっ、くっ、ぬぅぅぅっ!」


 首が絞まって苦しいプロディサウラはどうにか腕を外そうとするが、こちらもかなり全力で絞めているのでなかなか外れない。


「降参するなら僕の腕を三回叩くことだっ!」


「ぐっ……ふははぁっ!」


 見物していた人たちがザワついてきたので僕はギブアップを呼び掛けるが、プロディサウラは僕の腕を掴みながら立ち上がり、苦しそうにしながらも笑うとその場で高く跳び上がった。


「えっ、ちょ、まさか……」


 そうして空中で回転したプロディサウラはあろう事か、首元にしがみついて離れない僕を下にして真っ逆さまに落ちていく。


「くっそぉぉっ!」


 ズドォォッン!と甲板に衝撃が走る。

 ぶつかる直前で腕を放した僕は、頭から甲板に激突したプロディサウラの姿を少し離れたところから見ていると、フラつきながらもプロディサウラの巨体が起き上がる。


「やるではないか。まさかワシがあのような形で転がされるとは思わなんだ」


「いやまぁ、魔力が使えるなら組みついた時点で蜂の巣にされるんでしょうけど、純粋な体術だけならこういうのもありかなと」


 僕はヒスティリスが自分と初めての訓練の時に使った関節技と、プロディサウラの纏う岩鎧を思い出しながらそう言うと、彼は満足げに頷く。


「魔力が尽きれば大抵の者は魔力切れで倒れるが、戦いの中にはそのギリギリを維持して、単純な格闘や身体能力で勝敗を争う場面もあるだろう。

  それについ最近のワシのように魔力が封じられたり、隠密行動のために使えないこともあれば、そのような時にも役立つであろう」


「それに体を鍛えて基礎能力を上げておけば、魔力を用いた戦闘にも役立つ、と?」


「うむ。どうやらお主は師匠に恵まれているようだ。それを忘れず今後も励め…よ……」


 腕を組んで頷いていたプロディサウラの頭から(ひたい)を伝って一筋の血が流れると、彼は白目を剥いてひっくり返った。

 どうやら身体強化も無しに硬い甲板に頭突きするのは、いくらプロディサウラでも無茶だったらしい。


「わぁぁっ! なんでそんなになるまで痩せ我慢してるんですかっ!?『キュアエル!』『キュアエル!』」


「あらあら、コレは大変ですね~。目を覚まして差し上げなくては……『アクア・ボール!』」


 慌てて回復魔法をかけていると、水魔法の練習をしていたルミアがやって来て、まだ白目のプロディサウラの顔にバシャッと水球をぶつける。

 ちなみにその後ろにはルミアが水魔法を利用して捕まえたらしい魚を、一匹ずつ丁寧に氷漬けにしているイリトゥエルがいて、あちらの練習も問題なく終えたようだ。


「って違ぁう! ルミアも怪我人にそんな事してないで、イリトゥエルを手伝いなよっ」


「これほど丈夫な人間に対して、更に上位回復魔法をかけたんですから、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ~。

 ジグさんは慣れてるから特に気にしてないかも知れませんが、普通はこの程度の怪我なら中級のキュアミルはおろか、少し時間をかけても良いなら下級のキュアリルでも充分なくらいなんですからね~?」


 僕はルミアの言葉を聞いて手元を見ると、たしかにプロディサウラの怪我は既に完治していて、怪我に対して魔法の回復力が大幅に上回っていると思われた。


「あはは、そういえば化け物みたいな相手と戦ってばかりで、その辺りの手加減をしたり魔力の配分を考えた事って、最近はほとんど無かったかも……」


「自分より強いものを相手に威力を抑えていては打ち負けますけど、相手の実力や怪我の程度などはキチンと見分けて使えないと消耗も激しいですし、倒したり救える人数も限られますからね~。

  それにジグさんは年齢に対して力を付け過ぎなくらいですから、今後自分より大幅に劣る者を相手にしたとき、攻撃の相殺や敵の無力化が目的なのに間違えて上位の風魔法を使って、相手がいきなり真っ二つなんて事になりかねませんよ~?」


「返す言葉もございません……」


 僕は自分が頻繁に魔力切れで気絶するのを思い出したり、ルミアの言うような事が実際に起こったらと想像して項垂(うなだ)れる。


「ルミア、ジグはこれまで厳しい戦いばかりを経験してきたのですから、仕方がありません。

 これから少しずつ直していけば良いのです。私もそういった加減が苦手ですから、一緒に頑張りましょう?」


「うん、ありがと……」


 僕は自分を励まし手を差し伸べるイリトゥエル……いや、イリトゥエル様のお姿がまるで天使のように見えた。

 そうして治療を終えて立ち上がると僕はプロディサウラを部屋まで運び、早めに手合わせが終わったその日のお昼は魚料理を楽しんだ。


 そして午後からはアルテミア先生やルミア先生の指導のもと、イリトゥエルや他の騎士や兵士たちと共に、魔力の扱いについて改めて勉強することにした。

ハイワーシズへ向かう道中のお話、その2でした。


戦闘経験がそれほど無くても、属性を含め成人時点でかなり完成されていたルミアも、ここに来て成長しています。

本編でもあるように神々は永劫不変の存在ですが、中身が神でも体が人間なのでこのような事もあります。


そして相変わらず強いプロディサウラの攻略法を考えていたジグは、魔力を使わないという条件を上手く利用しましたが、プロディサウラも普通では無いやり方でそれを破りました。

……が、ほとんど自爆して手合わせは終了。


魔法についても改めて、上中下に別れてる意味を考えようということで触れてみました。

とは言え敵が自身を上回る事の多いジグは苦手。

しかし作者的には今後、そういう相手以外も出る可能性が高いので、ここらで少し慣れさせておきたいところ。


そんなわけで2日目も終わりましたが、早船ではないのでハイワーシズまではもう少しかかりそうです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦いがありながらも、なんだかほのぼのとした雰囲気が滲み出ている穏やかな回でしたね。 昨日の敵は今日の友というものですね。 互いに切磋琢磨(というか指導かな?)出来る人がまた増えたみたいで何…
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