第22話 モルド神父の呼び出し その5 神父の決断とラジクの申し出
モルド神父の決断と、その後の予定のお話。
僕が頭を下げたままの姿勢でいると、モルド神父が沈黙を破る。
「二人の考えはわかった。良かろう。今までのように教会に留まり、ジグは成人までみっちり鍛えてやる」
僕たちの思いが通じたのか、モルド神父は首を縦に振ってくれた。
その言葉にアマリアと僕は顔を見合わせ、本当に良かったと笑いあう。
その後、神父はこれからについて自分の考えを話し始める。ひとまず僕の鍛練はモルド神父の怪我が完全に治り、教会に戻ってきてからになった。
それとモルド神父がこれまでやってきた仕事の大半を、これからはカディルとヘロルの二人に担当させるため、モルド神父が仕事内容を一通り説明し、その内容を引き継ぎのための手紙にアマリアが代筆しているあいだ、僕は神父に尋ねた。
「そういえば僕の話でうやむやになってしまいましたが、神父から僕への話って何だったんですか?」
「あぁ、それか。お前がルナメキラと対峙したまでは皆も見ていて知っていたが、中庭を離れた後から俺が行くまでに、何があったのかの確認をしたいと思ってな。
それと身体強化や魔力についての報告と、実際に使ったお前や見ていたアマリアの意見の確認が取れたら、俺の方から戦闘訓練をしないかと聞くつもりだったのだ。もちろん、お前の意思が最優先だがな」
訓練の方は聞く前に言われてしまったが、とモルド神父は苦笑する。
僕はルナメキラを相手にしていた時のことを軽く説明した後、気になっていたことを思い出した。
「そういえばモルド神父。ルナメキラが獅子になって襲いかかってきた時に、ギリギリでかわしたと思っていた攻撃が当たっていた事がありました。
あれが無ければもう少し時間を稼げたと思ったのですが、何か心当たりはありますか?
それとも単純に、僕が避け損なっただけなのでしょうか?」
モルド神父は、ふむ…と少し考えてから答える。
「避け損なった可能性が無いわけでもないが、あいつは『百化』の二つ名の通り、かなり変幻自在に様々な生き物に化けるからな。
戦闘中の、更に言えば攻撃の最中に爪を伸ばすことなど容易いだろうから、恐らくそのせいだろう」
「もう何でもありなんですね…」
僕が呆れ半分で言うと、モルド神父は更に続ける。
「いや、奴の変化にも制限はあったはずだ。
たしかあまりに小さいものや大きすぎるものには変身できないことと、変化は魔力が無ければ出来ないはずだ。
あとは……奴自身は他の四天王に比べると、戦闘能力はそれほど高くない部類だ。
欠員が出た四天王にすぐに入れる程度には強いし、もちろん魔族全体を見れば強い方だが、どちらかというと変身能力で臨機応変に戦い、使えるものは何でも使い、時には謀略を駆使して敵を陥れるのが奴のやり方だ。
そして相手に合わせて変化で不足を補うため、非常に討ち取りにくく逃げ足が速いのも奴の特徴だ。過去に何度も戦ってきたが、いずれも奴を討伐するまでには至らなかった。
恐らくルナメキラを倒すには奴の想像を完璧に上回る手段を取るか、予め逃げ道を完全に絶ってから倒すしか無いと思われる。覚えておくといい」
過去に何度も苦汁を飲まされ、また飲ませた宿敵との戦闘経験を思い出しているのか、神父は顔をしかめながら自身が持っているルナメキラの情報を教えてくれた。
そんな話をしているうちにアマリアが手紙を書き終わると、僕たちは兵舎を後にして教会へと戻った。
すると入り口の前で警備をしているラジクがこちらを見て尋ねる。
「お、出かけるときよりも晴々とした表情をしているな。何か良いことでも有ったのか?」
僕は兵舎であったことを、かいつまんで話した。
「アベル将軍は俺も知っている。優れた指揮官であり、仲間想いのとても良い人だった。君が将軍の娘だったとはな……」
するとラジクは懐かしそうにアマリアに話した後、こちらを見る。
「しかし冒険者を目指すとは実に惜しい。考えが変わったら、いつでも騎士団を目指して良いからな?」
話を逸らしたり兵舎でのやり取りも伝えたが、ラジクはニヤリと笑ってそう言った。
僕はそれを聞いてやんわりと断ったが、アマリアと一緒に教会に入ろうとしたところで再びラジクに止められ、彼は良いことを思いついたとばかりに話し始めた。
「戦闘訓練をするのなら、武器も扱えなければなるまい。
俺は警備で毎日ここに来るし、モルド殿に身体強化を教わるのなら剣を俺が教えてやろうか。冒険者でも騎士でも剣の訓練は必要であろう?」
閃いたと言わんばかりの表情でラジクは、僕の剣の訓練を担当すると申し出てくれた。
騎士にすることを諦めていないように聞こえたのは、僕の気のせいだろうか。
「えっ!? ええと……」
僕はまだモルド神父の訓練がどのようなものか分からないので、とりあえずラジクへの返事は保留にしておいた。
次の日、改めて兵舎に行きモルド神父に聞いてみると、神父も僕の訓練ばかりをしていては引き継ぎを済ませた以外の他の仕事が出来ないので、自分の訓練が無いときにラジクからの訓練を受ければ良いと言われた。
「俺は剣の扱いがそれほど得意ではないし、騎士から教えを受けられる機会など、かなり身分の高い家の子供や、よほど裕福な家庭の子でなければ無理だろう。ましてや向こうから申し出てくるなど普通は有り得ん」
予想外の申し出に驚いた様子のモルド神父からは、彼の意外な一面と、ラジクの申し出がかなりの幸運である事を教えられた。
僕は教会に戻るとラジクに、神父からの許可が出たことを伝えて丁寧にお礼を述べ、彼に剣術の教えを乞うことにした。
2人の説得にモルド神父は折れました。
教会を出た場合には自分から戦闘訓練を勧めて、それをジグが受けたなら街に住み南門で待ち合わせして、東の森や街の練兵場を使って訓練するつもりのモルド神父でした。
ラジクは襲撃の時に騎士団で守り切れなかったことで負い目があることや、魔族を引きつけて自分や他の人達を救ったジグに感謝していること。
そして、まだ子供ながらに皆を守りたいと思い、それに向かって行動を始めたジグのことを高く評価し力になりたいと思って、訓練を申し出てくれました。
騎士になってくれたらという希望も若干…いえ、だいぶ混じってますが(笑)
それに加えて魔王軍との戦いで自分よりも3つほど年下ながら、数々の武功を挙げ軍での出世は確実だったのに、戦後は神父となり恩人の娘を守ることを選んだモルドに、尊敬の念を抱いています。……何気にモルドのファンなのです。
次は訓練開始の予定です。




