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転生の糸使い [830万PV突破・400万字、900話以上の大ボリューム!]  作者: 青浦鋭二
第2部 海の国編 (初任務・火焔馬・海の民・ハイワーシズ)

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第238話 大海を越えて その13 追撃開始とジグの目的

 お風呂から上がってルミアと交代で休みながら、その日の僕はウィルヘルム大臣の身辺警護の任務に就いていた。


 昨夜の襲撃から海の民を退け、ようやく置き土産のモンスターの駆逐(くちく)も終了して、アルテミアをはじめとした皆が帰ってきたのは夕方近くになってからだった。


「あっ、戻ってきたみたいだね」


「ですね~、イリトゥエルさんもお帰りなさ……わぁっ!?」


 皆と一緒に疲れた表情で帰ってきたイリトゥエルを出迎えると、彼女はこちらを見て駆け出し、僕たちの首にガバッと腕を回して抱きついてきた。


「私がこんなにも心配していたのに、二人揃って呑気な顔をして!!

 ……でも、本当に無事で良かった…!」


「く、苦しいよイリトゥエル」


「ジグさんも私も、イリトゥエルさんのお陰で命拾いしました。

 本当にありがとうございます~」


 僕たちがそんな事を言いつつイリトゥエルの背中をポンポン叩くと、感極まった彼女は抱きつく力を更に強め………あ、あのイリトゥエルさん?

 そろそろ離してくれないと首が絞まってますから、ちょっ……このままじゃ…あっ……。



 ◇◇◇◇◇


「う、うぅ~ん」


「あっ、目が覚めたみたいですよ~」


 気がつくとソファーに寝かされていて、近くにはこちらを覗き込むルミアと、その後ろでしょんぼりしているイリトゥエルの姿があった。


「ご、ごめんなさい……」


「なるほど、あのまま落とされたってワケか……。

 立場が逆なら僕だって心配しただろうし、イリトゥエルもそんなに気にしなくて良いよ。

 それと、どれくらい気絶してた? 僕たちはこれからどうするか聞いてる?」


 消え入りそうな声で謝るイリトゥエルにそう言いながら周りを見ると、まだ外は夕焼け色に染まっていた。


「短時間ですから大丈夫ですよ~。ただ、ジグさんが寝ているあいだに今後の動きも少しは決まりました~。

 ひとまずセラーナさんは自分たちの船で追撃に出るみたいで、アルテミアさんは大臣の護衛とハイワーシズ到着を優先させるそうですよ~」


「被害の大きかった街の方は、現地の騎士や衛兵と冒険者らが対応するとして、戦力的にも不足しているため既にハイワーシズ側は、早船(はやぶね)で本国へ派兵の要請を出しています。

 アルテミア様も使いを出したようですが、船の性能の違いでセントリングへは日数がかかるので、恐らくこちらは間に合わないかも知れません……」


「そうかぁ…」


 僕は二人の話を聞きながら考えていると、アルテミアが部屋に入ってきた。


「起きたのね。二人から話は聞いてる?」


「はい。セラーナ様が追撃するのと、先生が大臣の護衛を優先させると聞いてます……」


「……何だか不満そうね?」


「今はたしかにそうかも知れませんが、僕がどの船に乗るかによってはそんな不満はすぐに無くなりますよ」


 僕はわざと顔に出していたのだが、クリムゼリスをこのままにしておけと言うのならそれも当然だ。

 僕の心はもう決まってるんだから、ハイワーシズへ向かうなんて有り得ない。


「まったくもう……。本来なら冒険者としては失格よ?」


「仲間の命を優先してくれた『トモダチ』を見捨てるくらいなら、失格でも構いません。僕は……」


「言わなくてもわかってるわよ。それにあなた達がすべき事はもう決まってるわ。

 ひとまず私はウィルヘルム大臣をハイワーシズに届けたら護衛はケルガー殿に任せて、足が速いあちらの船に乗ってグランドセイルへ向かうわ。

 3人はセラーナ殿に同行して、可能ならグランドセイル到着前にクリムゼリス様を奪還するように。

 ……これはセラーナ殿と私からの新たな依頼よ」


「先生……」


 アルテミアが自分の考えを理解してくれたことに思わず笑みがこぼれる。


「べ、別にあなた達のためではないわよ?

 これはもう我が国やハイワーシズと海の民の戦争になっているわけだから、セラーナ殿が出撃するのにこちらからも人員を出さなきゃならないわけで、でも他国に向かう大臣の護衛も残さなきゃいけないから、国の組織の人間である騎士や治癒術士はそっちが優先されるだけで……」


「わかってます。でも、ありがとうございます」


 アルテミアが建前を並べているのを見て、僕は思わず笑ってしまう。


「……コホン。まぁ、私も今回の戦闘では結構痛い目に遭わされたし、この機会を逃せば借りを返す機会も無くなっちゃうもの。

 ……それはあなた達も同じでしょう?」


「そうですね~。あの無礼な女には倍……いえ、三倍返しでお礼をしなくてはなりませんし、お友達を助けるのは当然です~」


「まぁ僕も肩に穴を開けられた分の借りが残ってますし、このままクリムゼリスを放っておけませんからね」


「私だって今回は置いてけぼりでしたし、二人を酷い目に遭わせた者には報いを受けさせねばなりません!」


 アルテミアの問いに僕たちはそれぞれの理由を述べると、それを聞いたアルテミアが大きく頷く。


「なら私の弟子として、そしてセントリングの冒険者として、ナメた事をしてくれた奴らにはキッチリお礼をしてらっしゃい。

 セラーナ殿の船はもう少ししたら準備を終えて出発するはずだから、あなた方もすぐに港へ向かって……そして街を襲った連中には、私たちに手を出したことを後悔させてやるのよ!」


「「「はいっ!」」」


 そう言ってニッと笑うアルテミアに応えて頷くと、僕たちは部屋を出て港へと急いだ。

 すると僕たちの乗ってきた船の隣にあったセラーナの船は、船体そのものの形はセントリングのものと大差ないものの、サイズはだいぶ小さい。


 しかし甲板には多くの攻撃用魔道具が搭載(とうさい)され、船体や帆やオールなどは材質が違うのか少し光沢(こうたく)があるように見える。

 ……何となく小回りが利いて素早そうな感じがするね。


「セラーナ様」


「まあ、よくいらっしゃいました。アルテミア様は助っ人を出してくださると聞いてましたが、あなた方だったのですね。

 これまでの働きはメリルからも聞いております、とても頼もしいですわ」


 水夫らへの指示をメリルに任せてボーッとしていたセラーナに話しかけると、退屈していたらしい彼女はこちらを見て嬉しそうに言う。

 ……相変わらず、本当にどちらが上司なのか分からない人たちだ。


「お褒めにあずかり光栄です。ご期待に添えるよう、僕たちも全力を尽くしますので宜しくお願いいたします」


「えぇ、頼りにしてますわ。既に皆さんのお部屋は決まってますので、船の者に聞いてください。乗船後はしばらく時間があると思いますので、敵と遭遇するまではしっかり休んで英気を養ってくださいまし」


「わかりました」


「セラーナ様」


 僕たちが話しているとメリルがやって来た。


「メリル、どうかしたの?」


「いえ、何も問題はございません。船の準備が整ったのでお知らせに来ました」


「そう。いつもありがとう。では行きましょうか」


「はい。……では出航するわよ! 全員船に乗り込んで!」


 メリルの声が辺りに響くと乗組員と一緒に僕たちも乗り込んで、船は海の民の本拠地へと動き出した。


「全速前進! 何としてもグランドセイル到着前に敵を捕捉するわよ!」


 相変わらずセラーナの代わりに指揮を執るメリルがそう言うと、船尾の方からボコボコと音がして徐々に船が加速する。

 そして風の魔力か何かを動力とした船は、帆を畳んでいるのにも拘わらず逆にぐんぐんとスピードを上げて海を渡り始めた。


「な、なな、なんだぁっ!?」


「魔石か何かを使って推進力を得ているようですね……これは凄いです! ルミアもアレを見てくださいっ」


「ガソリンの代わりに魔力を燃料としたエンジンで進む船のようですが……す、すみません、私、もう……&#♪♡〒◎△#&□◎!?」


 僕がキョロキョロしながら驚いていると、冷静な……いや、珍しいものを見てイリトゥエルは少し興奮してルミアの肩を叩き、ルミアは風の噴射口を覗き込んで説明したかと思うと、一気に船酔いしたのか海面に咆哮波を放つ。


「ルミアはクロエさんの薬を飲んで早く寝た方が良いね……」


「あ゛っ! む、向こうの船に忘れてきましたぁ……」


 顔色の悪いルミアは半泣きでそう言うと、遠ざかる僕たちの船に向かって手を伸ばすが虚しく空を切るばかりだし、この船はもう島の湾を出て外海に出ているので無駄だった。


「あの薬が無いって……ど、どうするのルミア……」


「わ、私、このままじゃ戦う前に死んじゃいますぅ……」


 冷や汗ダラダラな僕と絶望しきったルミアが顔を見合わせていると、イリトゥエルが小さく溜息をつく。


「二人とも……アルテミア様が私たちにこちらへ行けと言ったのなら、私たちの荷物は水夫が積んでくれているはずです。

 それに最低限必要なものは、船からこちらに来るときに私が持ってきてますから、ルミアの薬も私が持ってます」


 イリトゥエルが背負っていた鞄から箱を取り出すと、その中にはクロエ作・ルミア御用達(ごようたし)の激マズ酔い止め薬が入っていた。


「ああぁっ! イリトゥエルさんはやはり命の恩人……いえ、恩神(おんじん)ですぅ~~!」


「いやぁ、助かったね。イリトゥエルがいないと僕らは本当にダメダメだなぁ……」


「わ、わかれば良いのです。だから今度は留守番なんてさせないでくださいねっ」


 すがりついて感謝の涙を流すルミアの頭を撫でながら、照れくさそうにイリトゥエルはそう言うと、ルミアの背中にある荷物を見て不思議そうな顔をする。


「でも私はてっきり大事なものだから、少なくとも何本かはそこに入ってると思ったのですが、違うとなるとそれは一体?」


「あっ、これはですね……じゃ~んっ!」


 イリトゥエルが差し出した薬を飲んで早速元気を取り戻したルミアは、荷物を降ろして中身を取り出すとそれはクリムゼリスの義手だった。


「クリムゼリスさんはこれに鍵を忍ばせて敵から隠したのですが、残念ながらご本人が攫われてしまったので、今はトモダチの私が預かっているのです~。

 なので私の目標はこれを彼女にお返しすることなのですよ~」


「これが義手なのですか……随分と大きく、しかも頑丈なようですね?」


「そうなんですよ~、クリムゼリスさんときたらこれで敵をバッタバッタと殴っては魔法を撃ち、終いにはロケットパンチみたいにバーンと飛ばして、それはもう凄かったんです~。

 体術だけならヒスティリスさんやモルドさんと比べても遜色ないほどでしたよ~」


「まあ! それは凄い使い手ですね。今から会うのが楽しみです」


 ルミアが義手と鍵を見せながら話すのをイリトゥエルも感心して聞いていたが、僕はそれを見ていると何かを思い出しそうで……。


「へぇ~、クリムゼリスってそんなに強いんだ? モルド神父を引き合いに出…………ああぁっっ!!??」


「きゃあっ!?」


「び、びっくりするじゃないですかジグさん! 何事ですか?」


 僕は気付いた、気付いてしまった。

 モルド神父やヒスティリスと比べても、遜色ないほどの体術に耐えられるって事は、この義手こそが僕の求めていたものだ。


 ルミアが持つそれを見て、ノックするように叩いてみてもそれがわかる。明らかにモルド神父が身に着けていたそれよりも頑丈そうで、ルミアから受け取ると試しに白剣を抜いて軽く突いてみたが、義手は傷一つ付かない。


「ジグ、その義手はもしかして……」


「え? 一体どうしたっていうのですか~?」


 モルド神父が右腕を失った経緯を知っているイリトゥエルは気付いたらしいが、ルミアはまださっぱりな様子だ。

 義手に夢中になっている僕の代わりにイリトゥエルが説明すると、ようやく納得した。


「はは~ん、なるほどなるほど~。ではクリムゼリスさんを助ける理由が、それでまた一つ増えましたね~」


「そうですね。モルド様にはお世話になってますし、彼女を助け出したら、この義手についても尋ねなくてはなりませんね」


「ハイワーシズに着いたら時間を作って情報を集めなきゃと思ったけど、まさか実物が先に現れるなんて思わなかったよ。

 ……あっ、でもそういうことならクリムゼリスが知らなかったときの為に、海の民で知ってそうな人には全員聞いた方が良いのかな?」


 僕が義手から目を離して二人の方を見ると、何故か二人は少し引いてる様子でこちらを見ていた。


「えっ、どゆこと? 二人とも、なにその顔?」


「いえ、その……」


「無意識なら仕方ないですけど、今のジグさんはすっごく悪い顔をしてましたよ~? なんかこう、黒いオーラが滲み出てました。

 ちなみにその聞き出すってどういう方法でですか~? 敵対しているわけですから、素直に話す人ばかりではないと思うのですが……」


 僕はただ、絶対に情報が必要で何としても聞き出すとだけ考えていたけれど、言われてみればその「何としても」の中身は……うん、素直に話してくれるようになるまで何度でも聞くことで…それこそ何としても、だ。


「だ、大丈夫だよ。そこまで酷いことはしないよ……多分」


「うわぁ……この人、絶対にヒドイコトをしてでも聞き出すつもりですよ~」


「……ジグ、たとえモルド様のためとは言え、ほどほどにしなくては胸を張って帰れませんよ?」


 大きな目的を目の前にして、焦って気がはやる僕を二人が心配そうに見ていた。


 確かに手段は選ばないつもりでこれからの事に臨もうとしていたけれど、言われてみればこれは正気の沙汰じゃないな……。


 僕は義手をルミアに返すと、自分の頭に思い切りゲンコツを落とす。


「ちょっ、今度はどうしたんです?」


「……」


 目の前がチカチカするほどの衝撃を受けた僕を見てルミアが驚き、イリトゥエルは無言だが少し微笑んでいた。


「いや、モルド神父ならどう思うのか考えたらさ……きっとバカなことを考えるなと言ってゲンコツされそうだなって思って。

 情報は喉から手が出るほど欲しいけど、まずはクリムゼリスの救出が最優先。そのために必要なら敵は速やかに排除。義手の情報が欲しいからってモタモタしてはいられないよね……」


「そうですね。確かに今回は大切なものがいくつもありますが、最優先は人の命です。モルド様ならきっとそう言うでしょう」


「まぁ、ジグさんが一人で頑張る必要は無いですよ~。

 私たちだっているのですから、その中で誰か一人でも情報を見つければ良いわけですし、皆で協力してクリムゼリスさんを助けて、余裕があれば情報も手に入れれば良いのです~」


「うん。二人ともありがとう」


 僕たちは互いに顔を見合わせて頷くと、セラーナの指示通り部屋で休むことにした。

 そうして船は敵が逃げた方向へ、夜の海を切り裂いて進んでいく。

ようやくイサプラ島での戦いが終わり、久し振りに三人が揃いました。


既に大臣の護衛という本来の目的からはだいぶ離れていますが、実はジグたちの知らないところではウィルヘルム大臣とアルテミアの間で話し合いがおこなわれ、外交カードとして使えるとのことでハイワーシズへの協力は許可が下りています。


それに四天星とはいえアチコチ抜けているセラーナと、彼女の世話を一手に引き受けているメリルを心配したハイワーシズ本国の騎士団長は、既に他の手を打っていたり。


ジグとルミアはもちろん、他の皆もまだ戦闘のダメージや疲労が抜けきらない状態ですが、移動中に回復して態勢を整えながら、海の民の本拠地グランドセイルへと向かいます。


ルナメキラという脅威が無くなったあとに掲げた目標を前にして、焦りが出たジグも仲間と、そしてずっと見続けてきた大きな背中が言いそうな言葉に冷静になれた様子。


でも、ジグがいつものジグであることを望むイリトゥエルに対して、可能なら望みは全部叶えたいのも理解してるルミアは、何一つ捨てる気は無いみたいです。


ということで、良ければ次回もご覧ください<(_ _)>

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[良い点] 日常ターンでの久しぶりに気絶ですね。 さすがの気絶系主人公。 あがり症のセラーナさんがジグ君たちに対して普通に会話が出来ているところが、この子たちは自分をいじめないと思っているのか、身分関…
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