第21話 モルド神父の呼び出し その4 願いと覚悟
話があると呼び出された二人ですが、ジグは自分への話の前に、こちらからのお願いを切り出しました。
僕の突然の言葉に「お願い?」とモルド神父は聞き返し、アマリアもキョトンとしている。
「はい、お願いがあります。簡単に言うとモルド神父には、僕を鍛えて欲しいのです」
「ほう……」
僕の言葉を聞いたモルド神父は、考えを探るようにこちらを見ている。
アマリアは先ほどまでの僕のように、大人しく一通り話を聞こうと判断したのか、椅子に座り直して様子を窺っている。
「今回の事で僕は無力な自分に嫌気がさしました。
力が無ければ、家族を守りたくても守れない。
力が無ければ、相手にいくら関わって欲しくないと思っていても、こちらを恐れる必要は無いのですから否応なしに巻き込まれます。
力が無ければ、僕達の代わりに戦い傷付いてる人を助けることも出来ない」
僕は教会への襲撃で起こったことを思い出しながら、自分の考えを伝える。
「もちろん僕は戦いなんて怖いし、痛い思いもしたくはないです。でもあの光景を黙って見ているのは、もう絶対に嫌なんです」
騎士や兵士が傷付き倒れる姿。
ラジクが最後まで諦めずに戦う姿。
モルド神父が僕を敵から庇い守る姿。
それらを思い浮かべ、そして今、目の前にいる片腕を失ったモルド神父の姿を見つめながら、自分の決意を告げる。
「だから、僕がモルド神父の代わりに皆を守ります」
アマリアはそれを聞くと何か言おうとして口を開き、こちらに手を伸ばそうとしたところで我慢したのか、口を閉じ目を瞑って首を振り、軽く拳を握って自分の方へと戻した。
モルド神父は少し驚いたように目を見開き、僕を真っ直ぐに見つめていた。
「皆を守る力が欲しいけれど、でも僕には何をしたら良いのかが分かりません。だから神父には今後も教会に留まり、僕にそれを教えて欲しいのです」
僕がそう続けると、ようやくモルド神父が口を開いた。
「なぜ俺に頼む? 成人後に兵士となり、実力をつけて騎士や将校になれば一人でするよりも更に強大な、組織の力を使えるようになるぞ」
「……理由は三つほどあります。
一つ目はまず、兵士を目指していたのでは時間がかかりすぎですし目標まで遠すぎます。
兵士や騎士の仕事は立派ですし尊敬もしています。ですが、組織の中でどこまで自由に動けるかも分かりませんから、恐らく僕の望みは叶いません。
それなら鍛練を重ねて自由な冒険者になりたいです。今だって有事には傭兵として街の防衛に参加しているのですから、教会に雇われればここを守れますし、言われなくたって勝手に守ります」
「ふむ……」
僕が説明するとモルド神父はひとまず頷く。
「それにルナメキラは今回のダメージが癒えて、また戦力を整えるのに時間がかかるとは思います。
しかし、モルド神父の片腕を奪ったことでハードルが下がり、少なくともアマリアや僕たちを狙うだけなら、次回は今回ほどの戦力を必要としません。
教会を取り巻く環境の変化も、今のルナメキラは知るはずも無いですし。
いずれにせよまだ復讐を諦めていないなら、魔王討伐後から今までに必要とした時間よりも、もっと短い期間でまたやってくると思います。モタモタしてはいられません」
「そうだな。奴にとって俺はもう、今回ほどの脅威とはなり得ないだろう」
神父は無くした右腕の辺りを見ながら頷く。
「二つ目は、戦闘中の騎士達とモルド神父を比べてみて、動きが全く違ったことです。
僕もオーガとラジク様の戦いを見たり、ルナメキラと対峙して思ったことなのですが、盾で防ぐとか鎧で守るとか、そういう防ぎ方ではなくまず当たらないようにしないと、魔族や強力なモンスター相手には戦えないと思いました。
なので身体強化が得意そうなモルド神父に、ぜひ教えてほしいと思いました」
「ほう、色々と考えているな。しかし、あれが身体強化の魔法だと何故分かる?」
モルド神父は興味深そうに聞く。
いや、どう考えたって鍛えてるとか、筋肉でどうにかなるような範囲を超えてたし、明らかに人間の動きじゃなかったもの!
今思い出せば、あれはもう完全にバトル漫画の動きだったもの!
……などとは当然、正直に言えなかった。
「モルド神父が到着する前の話ですが、僕も逆上したというか何というか、とにかくどうにかしなきゃと思っていたら魔力が溢れてきて、その魔力を体の中に押し込めて一点に集めてみたり、もの凄く速く循環させたら体が驚くほど軽くなりまして。
それでルナメキラを二回ほど、不意打ちで思い切り蹴り飛ばして皆と距離をとったんです。その後は神父が助けに来るまで、痛めつけられて逃げるばかりでしたけど。
初めて使った僕ですらあの動きなんですから、モルド神父が見せた動きも、身体強化が原因なのかなと」
「あのルナメキラを蹴飛ばしただと……?」
モルド神父は驚いた様子で聞き返すが、その表情はなかなか楽しそうで少し笑っていた。
「お前の体は無理な身体強化でボロボロだったと報告では聞いていたが、まさか本当にそうだったとはな。
そういえば魔力が溢れ出して光っていたとも聞いているな。あれも本当なのか?」
「ええと、どうなんでしょう。イマイチ僕にはよく分からないです」
「はい。どういうわけか全身から桜色の髪の毛のようにも、糸のようにも見える魔力が溢れ出して、眩しいほどに輝いていました」
僕が答えに困っていると、実際の光景を傍で見ていたアマリアが、コクコクと頷きながら答えた。
っていうか、そんなに光ってたのか。全然知らなかったよ……。
「ほう。これまでにそんな兆候は見られなかったが、魔力量は人並み外れて多いようだな。まぁ少ないよりは断然良い、何をするにしても選択肢が増える」
アマリアの話を聞いたモルド神父は左手で顎を撫で、あれこれと考えながら「では、三つ目は?」と聞いてきた。
「そりゃもちろん、僕や皆だってモルド神父がいないと寂しいですから、いなくなるのは嫌です。
でもやっぱり一番の理由は、大好きなモルド神父がいなくなれば、シスター・アマリアが悲しむからですよ」
僕はニンマリと笑うと、わざと大きめの声でそう言った。こう見えて姉想いなのだ。
「んなぁっ!?」
するとその直後、アマリアが横で顔を真っ赤にして素っ頓狂な声を上げ、モルド神父は深く溜息をつきながら左手で頭を抱えた。
本当は僕や他の皆だって寂しいし、神父に残って欲しいからという感じで言おうとしていたのだが、二つ目の理由を述べたところで、モルド神父は残ってくれると思える手応えがあった。
何だかんだ言っても、皆が望んでいるのに断るほど薄情な人でもない。
だから、有り余る好意を抱いてはいても決定的な事は言わないアマリアと、薄々気づいていてもあえて知らないふりをしているモルド神父に、この際アマリアの想いをストレートに伝え、そしてハッキリと気持ちを認識してもらえるように、二人の前で明確にした。
余計なお節介なのかもしれないが、周りには他に誰もいないし、見た目は子供の無邪気な言葉として許して欲しい。
……許してくれるよね? 後でお説教とかゲンコツしないよね?
「本気なのか?」
「んなぁっ!?」のまま固まっているアマリアはさておき、やがて頭を抱えていたモルド神父はこちらを見て、僕に問いかける。
「こんなこと冗談では言いません。危険はもちろん覚悟の上です。
僕は神父を目指してましたが、現状そうも言っていられません。目的のためには兵士にも騎士にもならず自由に動ける冒険者として、大切な人達を守れる力が欲しいです。
そのためにどうかお力をお貸し下さい。僕を鍛えてください」
僕はモルド神父を真っ直ぐに見つめて答え、深々と頭を下げると改めてお願いした。
教会での戦いで感じたことや、戦いの後に考えていたことを伝えました。
家族がいなくなるのは皆、嫌なのです。
平穏が好きなジグですが、それを脅かされて考えも変わってきました。
力無き正義ではいくら正しくても悪には勝てず、そのままではいくら待っていても、平穏など訪れないのです。
ちなみにゲンコツはされませんでしたが、のちにアマリアの雷は見事に落ちて、今までで最長のお説教もされました。




