第189話 鎖帷子と2つ目の依頼
カンディバースから戻って一週間ほどが経った。
その間に僕たちは体を休めてから初任務の打ち上げをしたり、ギルドで盗賊団の賞金や依頼の報酬を受け取った。
その後、溜まっていた仕事を片付けてきたレストミリアやラジクが、孤児院に来て皆で食事をしたり、壊れたり修理の必要な武具を鍛冶工房に持って行ったり、消耗品の買い出しに出掛けたりして過ごした。
「いやぁ、風の盾やこの鎧ごと斬られたときにも驚いたけど、後から師匠にこれが無かったら真っ二つだっただろうと言われて、更にビックリしたよ……」
僕は修理の完了した白剣やサラマンダーの鎧を受け取りながらそう言うと、鍛冶工房の親方に代金を払い、鎧を身に着けて体を動かしてみる。
「どうだ、すっかり元通りだろう?」
「ええ。相変わらずの腕前ですね、親方」
僕は同じく修理に出していた白剣を抜いて眺めていると、親方はニッと笑いながら下がり、今度はイリトゥエルの注文したものが入った箱を持ってきた。
「ほいよ、こっちが嬢ちゃんのだ。しっかしミスリルとは驚いたなぁ。さすがはエルフってところか?」
「ありがとうございます。あれは父が持っていたものですが、里にはこれを加工できるほどの職人がいなかったので助かりました。
今度から私もこちらを利用させていただきますね」
「ほっほー、そりゃありがてぇ。よろしく頼むぜ嬢ちゃん」
箱から取り出したそれはどうやら鎖帷子だったようで、僕と同じく装備の出来に満足したらしいイリトゥエルは、白金に輝くそれを身に着けて満足そうに言う。
「お二人の用件は終わりましたか~? 私はもう待ちくたびれて、お腹減り減りですよぉ~」
「はいはい、もう終わったよ。っていうかルミアは装備を整えなくて良いの?」
「ん~、私の場合は近接戦に持ち込まれる前に魔法でどうにかしますし、私が武器防具を必要とするような事態になってる時点で、状況としては詰んでる気がするんですよね~。
だから私に武具は必要ないかなぁと~」
「は、はあ……?」
「まったくもう……ダメですよルミア。あなたもせめてこれくらいは使ってくださいっ」
自分には必要ないと言い、椅子に座ってだらけていたルミアに、イリトゥエルは箱からもう一つ鎖帷子を取り出して言う。
「……これを私に?」
「ええ、そうです。この前一緒に服を買いに行った時にサイズは測ってましたから、ルミアにピッタリのはずです」
イリトゥエルが差し出した鎖帷子を見たルミアは、珍しく驚いた表情をしてそれを受け取る。
「わぁ……金属を使っているのに布のように軽いですね! 凄いですイリトゥエルさん、ありがとうございます~♪」
鎖帷子を抱き締めて凄く嬉しそうに言うルミアは、何だか少し照れているように見えた。
「ルミアに喜んでもらえたなら私も嬉しいです」
「お友達からプレゼントされるなんて初めてです、大切にしますね!」
空腹のことなど吹き飛んだらしいルミアは、そう言って鎖帷子を身に着けると、僕たちと一緒に上機嫌で工房を後にした。
「さてと……じゃあ消耗品は買い込んであるし、修理も終えて装備も整ったから、あとはまたギルドに行って依頼があるか見てこようか」
「そうですね。ラジク様やレストミリア様も、しばらく騎士団などからの依頼は無いだろうと仰ってましたし、今のうちに普通の冒険者向けの依頼も経験してみたいところです」
「……あっ! ギルドに行くならついでにお昼もそこで済ませましょうよ~! 私はお腹が空きましたよ~」
イリトゥエルのプレゼントのお陰で忘れていたのに、ギルドと聞くと食事だと思う辺り、どうやらルミアの中で冒険者ギルドというのは食事処になっているらしい。
「はいはい。じゃあお昼を食べた後にでも、ギルドで何かあるか聞いてみよう」
「わ~いっ」
「ルミア、そんなに慌てて走ると………あっ」
◇◇◇◇◇
「あっ、おかえりルミア。すっかり綺麗になったね」
「水属性持ちの方がいて良かったですね。さぁ、注文は済ませたのでルミアも座ってください」
「はひぃ……」
走り出した直後、道に落ちていた馬糞を踏み、見事に滑って転んだルミアはひとしきり泣いた後、ギルドにいた水属性持ちの冒険者にお願いして、全身をくまなく綺麗に洗ってもらい戻ってきた。
そうして食事時にもテンションが低いルミアという珍しいものを見ながら昼食を終えると、僕たちは受付カウンターのお姉さんの所に向かう。
「いらっしゃいませ。ギルドカードを見せていただけますか?」
「はい、これです」
僕たちは揃って自分のギルドカードを出す。
そういえばギルドカードには出身の国と街、名前に年齢と性別、それに本人の持つ属性の種類が記されている。
他にも冒険者ランクというのが載っていて、僕たちはまだ駆け出しだからランクは一番下の、十級冒険者だった。
一番下の新人となると、どんなお使いに出されるのか分かったもんじゃないなぁ……などと思っていると、受付のお姉さんは僕たちのカードを見た後に、少しお待ちをと言ってどこかへ行ってしまった。
「何かあったのかな?」
「さぁ…? 何もないと良いのですけど……」
「……」
お腹いっぱい食べてボーッとしているルミアをよそに、僕とイリトゥエルは顔を見合わせて話していると、階段を降りてきたお姉さんがギルド長を連れて戻ってきた。
「おぉ、そうだ。この3人だ……うむ、では手続きを頼む」
僕たちの顔を見たギルド長はそう言ってお姉さんにギルドカードを返すと、再び上の階へと戻っていく。
そうして受付カウンターへと座ったお姉さんは、さっきとは少し違った……何というか珍しいものを見るような雰囲気で、こちらを窺いながら書類を見繕う。
「では皆さんへの依頼は、この中のものから選んでください」
「はい、ありがとうございまっ!?」
そうして差し出された依頼の紙には何故か☆が3つ。つまり七級冒険者への依頼の印がついていた。
「あ、あの……僕たちはまだ十級のはずなんですけど?」
「あぁ、それでしたらこちらを…」
お姉さんはそう言って僕たちにギルドカードを返すと、そこにはさっきまで十級という最低ランクの表示があったのに、何故か七級に変化していた。
「前回の依頼は本来、七級冒険者への依頼に相当するものでしたが、状況の変化によって三級以上の難易度と認定されました。
それをあなた方は達成したので、昇格させよとギルド長からの指示です。
しかし、いきなり十級から三級では他の冒険者の手前よろしくありませんので、今回は元の依頼のランクまでとさせていただきました」
「は、はあ……」
「それにあなたの場合、既に騎士や治癒術士の方々との実戦経験がありますから、腕の立つ冒険者をいつまでも十級にしておくわけにもいかないそうです」
僕が驚いて話を聞いていると、お姉さんは僕に手招きして更に小声でそう言う。
「そ、そういうことなら分かりました。
じゃあ二人とも、依頼はどれにする?」
「そうですね~…あっ、これはどうですか?
『北の鉱山のアンデッド退治。報酬100万ゴル』」
「げっ、またあそこにアンデッドが湧いてるの!? でも黒骸王の時のトラウマがあるから嫌だなぁ。それにアンデッドはこの前の依頼で散々戦ったし……」
「じゃあじゃあ、こっちにしましょう!
『レクイ湖付近の荒れ地に湧いたアンデッドの討伐。報酬60万ゴル』」
「いや、そっちも結局アンデッドだし嫌だよ。
ってか何でルミアはそんなにアンデッド推しなのさ……」
「ではこちらはどうです?
『上位種を含むゴブリンの群れの討伐。報酬150万ゴル』」
「場所は……こっちはサスリブ山かぁ。
そういえばあの山には村があるとは聞いてたけど、まだ一度も行ったことがなかったなぁ。
距離的にもそれほど遠くないうえ、道中は南街道を真っ直ぐ進めば目的地の付近まで行けるから、案外これは良いかもね」
「移動に時間を取られないのは良いですね~。
ではイリトゥエルさんが選んだのにしましょう」
「はいっ」
「ということで、これをお願いします」
「畏まりました。では無事に依頼を果たし、戻ってこられますよう…」
受付のお姉さんは書類に僕たちが受けたことを記入してハンコを押すと、魔力をほんのり使って僕たちのために祈りを捧げてくれた。
どうやらギルドで依頼を受けると、こういった感じで送り出してくれるらしい。
「魔力量は少なかったですけど、あれは真摯な良い祈りでしたね~」
僕たちはギルドを後にして教会に戻っていると、ルミアがそう言って受付のお姉さんの祈りを褒めた。
「毎年多くの人が冒険者になりますが、1~2年後の生存率は半々と言ったところらしいですから、彼女が手続きをして送り出した中には、帰らなかった人もたくさんいるのでしょうね……」
ルミアの言葉を聞いたイリトゥエルは、ギルドにあった資料に目を通していたのか、冒険者についてよく調べていたようだ。
「言われてみればたしかにそうかも。普通の人は戦う機会が多いわけじゃないし、たとえ選別で魔法や武具を授かっても経験を積んで魔力量が増えてからじゃないと、冒険者になったばかりじゃまともに使いこなせない場合もあるから、その経験を積むために無茶をしたり予想外の事が起こって命を落とす人も多いんだろうね……」
僕は魔族やモンスターや盗賊に襲われた人たちが、なすすべなく命を落としているのを何度も見てきた。
「でも僕たちには戦える力がある。
恐らくゴブリンに襲われた人たちは怯えているに違いない。早く行って助けてあげなくちゃ…!」
「そうですね~。ギルド長も困っている人を助けろと言ってましたし、そうでなくても神たる私は救いを求める者を助け、導かねばなりません」
「ギルド長はそれと同時に生き残れとも言ってましたから、そちらもお忘れなく」
「あっ、冒険者登録した時のギルド長のあの言葉って、やっぱり皆に言ってるんだ?」
「キメ顔で言ってましたし、絶対にお気に入りですよね~」
僕は後から登録したイリトゥエルも同じ事を言われたと知ってそう尋ねると、前を歩いていたルミアがキリッとした顔でこちらを振り向いてそう言う。
「ふ、二人とも、せっかくの良い言葉と心構えなのにそんなことを言っては……ふふっ、その顔は止めてくださいルミア、ギ、ギルド長に失礼……うふふふふっ」
「や、やめ……ルミア、もう降参だって……あははははっ!」
ギルド長のキメ顔を真似するルミアを見て、僕もイリトゥエルも思わず笑ってしまう。
そしてそんな馬鹿なことをしているうちに教会が見えてきた。
「はぁ……はぁ…よ、よし。じゃあおふざけはここまでにして、準備を終えたら出発するよ。
今日の目標は日没までに、サスリブ山の麓の森に到着だからね?」
「は~い」
「わかりました。では私とルミアは準備をしますから、ジグはモルド様に留守にすることや依頼の事を話しておいてくださいね」
「うん、じゃあ行ってくるね」
こうして僕たちは初めて、3人だけで出かけることになった。
武具の修理や新調と、ギルドでのやり取りでした。
冒険者になるという割に、武器も防具も持っていないルミアを心配したイリトゥエルは、貴重な素材を使ってルミアにプレゼント。
故郷では神であるという意識があったせいか、不思議ちゃんな感じでなかなか友達も出来なかったルミアは、これに大喜び。
この辺りは神様だから何となく大丈夫と思っていたジグとは、やはり気遣いが違います。
冒険者ギルドではカードや等級など、この世界のギルドについて触れてみました。
受付のお姉さんには裏設定もあるのですが、それはまたいずれ……。
終盤のキメ顔のくだりはギルド長を馬鹿にするわけではなく、少ししんみりした空気を珍しく気を遣ったルミアが晴らしてくれましたが、年頃の女の子であり神なのに、本当にそれで良いのかどうかは……まぁルミアだから仕方がないですね(笑)
こうしてラジクたちの事情を知らない3人は、初めて自分たちだけで依頼を受けて出発しますが、果たしてこれからどうなるのかお楽しみにヾ(*´∀`*)




