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転生の糸使い [830万PV突破・400万字、900話以上の大ボリューム!]  作者: 青浦鋭二
第1部 教会の孤児編 (襲撃・修行・エルフの里・黒骸王・巡回の旅・王都攻防戦)

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第137話 リッツソリスの戦い その3 白黒の世界と手の温もり

神縛桜糸(しんばくおうし)!』


 僕はルナメキラに向かって糸を放つ。

 目の前にはアマリアやヒルダや子供達が、周囲には避難してきた人々が大勢いて、いつものように様子見なんてしてはいられない。

 幸いにも敵はルナメキラ一人だけのようだし、それなら今はとにかく奴をここから引き離さなくては、ここにいる全員を到底守り切れない。


「ほぅ、初めて見る魔法ですねぇ。どれどれ…」


 ルナメキラは伸びてくる糸を見ながらそう言うと、以前、騎士たちを薙ぎ払ったときのようにグルンと回転し、両手の爪で糸を切り裂こうとした。

 僕はこれまでの経験から、ルナメキラほどの力があれば、糸を切断することは可能だと知っていたので、両手の指を細かく動かし、その爪をかいくぐるように操作すると、狙い通りにルナメキラを拘束することに成功した。


「いっけぇぇぇぇっっ!」


 僕は思惑通りなのを確認すると、すかさず身体強化を強めて突進を始める。

 不意を突かれて身動きの取れないルナメキラの腹部に、渾身のドロップキックを叩き込むと、衝撃のままに伸びるようにしてあった糸は蹴りの威力に逆らわず、ルナメキラは拘束された状態で吹っ飛んでいった。


「アマリア!ここは僕が抑えるから、皆を連れて出来るだけ離れて!」


「わかってる!でも無茶は…」


「この状況がすでに無茶なんだから、今はとにかく急いで!」


「…えぇ!」


 僕がルナメキラから目を離さずに言うと、こちらのやり取りを見ていたヒルダは、すでに子供達に声をかけて誘導し始めていたし、アマリアも周囲の人たちに避難を呼び掛けた。

 僕はそれを確認すると再び飛び出していき、ルナメキラを追いかけながら手の平に魔力を溜める。


『エル・トルネード!』


 ルナメキラは空中で、人間の姿から比較的小さな蛇に変化(へんげ)して、巻き付いた糸から逃れようとしていたが、僕の糸は相手を常に締め上げるように巻き付いているので、体の形状を少し変えたくらいで逃げられるほど甘くない。

 僕は下から突き上げるように竜巻を発生させ、地面すれすれまで落ちてきていたルナメキラを、上空へと高く持ち上げた。


「はぁぁっ!『金剛斬糸(こんごうざんし)!』」


 変化には若干のタイムラグがあったはずだと思い、僕は空中で糸を解除すると、今度は蛇の体を切り裂くべく風の糸を放つ。


「あまり調子にのるなっ!」


 拘束が解けた一瞬をルナメキラは逃さなかった。黒い魔力を全身に纏ったかと思った直後、空中には大きな甲羅に六本の足、蛇のような頭と鋭い2本の尾を持った、亀のようなモンスターが現れた。


「今さら何に化けようと…!」


 僕は首や尾を甲羅の中にしまい足を畳んだ亀の、全身に巻き付いた糸を力いっぱい引っ張り、その体を切り裂こうとした。

 しかし金剛斬糸は切り裂くどころか、甲羅に傷を付ける事すら出来ずにいた。


「なっ!?……いや、それなら…!」


 僕は攻撃が通じなかったことに一瞬狼狽えたが、巨人族ですらある程度は防いだのだから、魔王軍四天王であるルナメキラが防いだとしても、何ら不思議はないと考え、頭を切り替えて次の行動に移る。


 防御姿勢を取ったということは、ルナメキラとしてもこちらの攻撃をそれなりに警戒しているはずだ。

 恐らく、普通なら奇襲として直撃していたはずの火球を、ギリギリだったとは言え僕が防ぎきった事が、ルナメキラを慎重にさせているのだろうか?

 それなら会話で出来なかった時間稼ぎが、攻撃を続けることで可能になるかもしれない。


 ズドオッ!と大きな音を立てて地面に降り立った亀に向かい、僕が突進していくと、ルナメキラはこちらに2本の尻尾を向けると同時に、その先端に付いているギザギザした、槍の穂先のような部分を立て続けに射出してきた。


「ちぃっ!」


 僕はそれを白剣を抜いていなし、続いて飛んでくるのを避けて、更に接近していく。

 どちらの攻撃も、防いだり回避するのを最低限にしたため多少の怪我は負ったけれど、それは首飾りが癒やしてくれるはずだ。


「その白い剣もただの剣ではないようですねぇ……グォォォッ!」


 亀は防御に特化した変化(へんげ)なのか、僕が白剣を構えながら突進していくと、今度は羽の生えた獅子の姿に変わって舞い上がり、空中からいくつもの火球を放ってきた。


 周囲にいた人たちはすでに離れていたので、今度は無理に盾魔法で防ぐ必要は無かった。

 僕は光の身体強化で動き回り、次々降り注いでくる火球をあちこちに火傷を負いながらもどうにか回避すると、白剣を力いっぱい薙ぎ払って風の刃を放つ。


 すると獅子の体に直撃した風の刃は、バシュウッ!と音を立てて体表面で打ち消された。

 先ほどの変化とは違っていても、風の糸が通じないなら、やはり風の刃程度は防御する必要すらないらしい。


「全く、本当にあの時の子供と同一人物なのですか?随分と戦い慣れた様子ですねぇ…」


「アンタに襲われた後から、それこそずっと鍛えてきたからね…」


「それにしても、二年と経たずにそこまでの実力を付けるとは、なかなか素晴らしいではありませんか」


 奇襲を仕掛けてきたわりに、ここに来ていきなりルナメキラが会話をするつもりになったことが、僕にはどこか引っ掛かった。

 こちらの目的は時間稼ぎだし、向こうから動きを止めてくれるのはありがたいけれど、それでも嫌な予感がする。何か企んでいるのだろうか…?


「モンスターはもちろん、アンタの部下とも戦ったからね。随分と苦労させられたけど、そのお陰で強くもなったよ」


 話しながら地上に降りてきたルナメキラに対して、僕はいつ何が起きても対応できるように、会話を続けつつ索敵魔法で辺りを探りながら、身体強化も強めていく。


「そう言えばリザードマンの集落では、グレイジーナがお世話になったようですねぇ。ウクロネやフェイドロークもやられてしまいましたし、私としては本当に残念なことです」


 部下を失ったと言うわりに、その口調は残念そうでもなんでもない。それどころか楽しげですらあって、僕の嫌な予感は更に膨れ上がる。

 すると索敵魔法に僅かな反応がある。それは僕の足下と背後からのものだった。


「くっ…!!」


 僕は魔力を爆発させて横に飛び退くと、一瞬遅れて地中から二匹の蛇が飛び出してきた。

 よく見ると獅子の尻尾は地面に突き刺さっていて、そこから地中を進んで僕の足下と背後に回り込んでいたようだ。

 しかもその蛇の牙から(したた)る液体は地面に落ちると、ジュウッ!と音を立てて土を溶かしている。あんな毒を受けたらひとたまりもなかった。回避できたのは本当に運が良かったと言うべきだろう。


「ちっ、今の攻撃までもかわしますか…。その年でそれほどの力を持つとなると、将来はもっと厄介な事になりそうですねぇ。

 モルドがいない今のうちに殺しておくとしましょうか!」


 ルナメキラは獅子の姿のままそう言うと、羽を広げて一気に飛び上がり、上空から炎を吐いてきた。

 僕は迫り来る炎をジャンプして避けると、それを狙っていたかのように獅子は突進してきて、その太い前足から伸びている長く鋭い爪で僕の体を引き裂こうとしてきた。


自在粘糸(じざいねんし)!』


 僕はテントの支柱に糸を貼り付けると、それを一瞬で縮めて移動し、獅子の攻撃を間一髪で避けた。


「逃さん!」


「うひぃっ!」


 地上に降り立った僕に向かって、獅子は鬼の形相で急降下してくる。あまりの迫力に変な声が出るが、今は見聞きする人が誰もいないので、僕は地面を転がり無様に逃げ回って、ルナメキラの追撃を次々と避ける。


「め、滅茶苦茶怖い…!それにアドルピスカ様はなんでまだ来ないんだぁっ!?」


 すでに狼煙を上げてからしばらく経っているし、そうでなくともこの付近はアドルピスカの担当のはずだ。他の皆を逃がしているにしても到着が遅い気がするけれど、助けが来ないからには僕が時間を稼ぐしかない。

 特に今はルナメキラがこちらに狙いを定めているから、囮になるのなら好都合だ。


「おのれちょこまかと…。ならば逃げ道の無い広範囲攻撃で全てを灰にしてやる!」


 僕を追っていた獅子は再び空中へ昇ると魔力を溜め、やがて口からはバチバチと音が鳴り炎が溢れ始めた。


「あれはやばい、辺り一面を焼き尽くすつもりだ…」


 僕はキョロキョロしながら隠れる場所や逃げ道を探すが、だだっ広い練兵場にはテントが並んでいるだけで、隠れて攻撃をやり過ごせるような場所は無いし、今から移動したところで、広範囲に放たれる炎から逃げられそうにない。


「死ねぇっ!」


 ルナメキラはそう言ってこちら睨むと、一際(ひときわ)大きく口を開いて炎を放とうとした。

 しかしその直前、一筋の光が閃くと同時に熱線が撃ち込まれ、溜め込まれていた魔力と熱線魔法がぶつかり合い、獅子の口内で大爆発を引き起こした。


「グガァァッッ!!」


 爆発の衝撃でルナメキラは吹っ飛び、辺りにあったテントも薙ぎ倒されていた。

 僕が爆風を両手で防御しながら熱線が放たれた方向を見ると、そこには皆を逃がすために離れていたアマリアが立っていた。


「はぁ…はぁ…はぁ…。わ、私の家族に手出しはさせないわよ!」


「ア、アマリア!?どうして戻ってきたのさ!」


「皆は無事に避難させたし、何よりまたジグだけ戦わせるなんて、もうまっぴらよ!

 それに神父様の右腕をあんな事にした張本人がいるのなら、私だって戦うわ!」


「あいつの一番の狙いはアマリアなんだ!モルド神父もいない今、僕一人じゃアマリアを守り切れないんだよ!?」


「それがそもそも違うのよ!私は守られてるだけなのも、父の仇を目の前にして逃げるのも、ジグや神父様にだけ戦わせるのも…もう嫌なのよ!

 たとえ戦った結果ここで死ぬとしても、狙われていることに怯え続けて生きるより、自分の代わりに誰かが戦って傷付くのを見るより、ずっとマシよ!」


「ふっふっふ。幾つかある目的のうち、2つがこんなところで揃うとは。そしてここにモルドがいないとは…ようやくこちらに運が向いてきましたねぇ…」


 吹き飛ばされていたルナメキラが土煙の中から現れると、獅子の姿ではなく人間の姿に戻っていた。

 そして口もとの血を拭いながらアマリアを見ると、目を細めてドス黒い笑みを浮かべる。


「しかし今のはいただけませんねぇ…。私に血を流させるなんて、身の程を弁えていない小娘が……愚かな貴様の(はらわた)を引きずり出してくれるわぁっっっ!!」


 いつもの丁寧な口調で話していたのも束の間、ルナメキラは自分の手に付いた血を見ると、怒りを抑えきれずにとうとうブチ切れた。

 そして姿勢を低くしたかと思った直後には、すでにアマリアの目の前にいて、その両手からは再び鋭い爪が伸びていた。


「アマリア!逃げっ…」


 ルナメキラの動きに反応できず、僕は声を絞り出すのが精一杯だった。そして恐らくアマリアには、ルナメキラの動きが見えていなかったのだろう。

 いつの間にかアマリアに突き刺さっていたルナメキラの爪は、その体をいとも容易く貫いていて、アマリアの血で地面を赤く染めていく。


「ガハッ!……ジ、ジ…グ……」


「あ、あぁ……」


 血を吐いて倒れるアマリアの姿を見ながら、僕は呆然と立っていた。


「ふふふ…ようやくですが、まずは一つ目。

 簡単には殺しませんよ?痛みに苦しみながら、互いに守ろうとした相手が死にゆく様を見せてあげますからね」


 倒れているアマリアを見下ろしながら、ルナメキラはニヤリと笑い、爪に付いた血を舐める。


「そんなに悲しまなくても大丈夫です。アナタ方の後は他の者もすぐに送ってあげますし、絶望したモルドの姿を充分に楽しんだら、奴も殺してやりますからね。私はこれでも慈悲深いほうなんです。誰かを仲間外れにはしませんよ」


 ルナメキラが楽しそうに話すが、もう僕にはそんなことはどうでも良かった。

 倒れる瞬間のアマリアの姿が目に焼き付いて、早く治療しなくてはと、早くここから助け出さなくてはと思っているのに、また守れなかった自分の無力さに、絶望した体は動いてくれない。

 そして怒りで体中の魔力が暴れているのに、いつものような熱を感じない。


 動け………動け……動け…動け、動け!


 何度も何度も頭で命令しても、自分の体なのに動かない。

 全身はどんどんと冷たくなっていき、それはまるでアマリアの体と自分の体が繋がったようで、僕は更に焦りを増していく。


 そうしている間にもルナメキラは、こちらにゆっくりと近付いてくる。アマリアを貫いたその爪で僕の腹も貫くのだろうか。

 目の前の光景が色を失い、白黒の世界に変わっていく。

 身も心も絶望に染まり、冷たくて凍えるようだ。


 僕が何も出来ないままルナメキラが来たら、この絶望も冷たさも感じなくなるのだろうか…。

 ぼんやりとした目で前を見ると、こちらに近付いて来ていたはずのルナメキラは、何故かその歩みを止めていた。

 その眼は僕ではなく、その後ろの何かを見ている。


 そしてルナメキラが後方に飛び退いた瞬間、地面を切り裂いて風の刃が幾本も(くう)(はし)り、誰かが僕に触れて左手が温かくなっていく。


「……グ!ジグ!しっかりしてください!」


「イ、イリトゥエル様……?」


 左手から広がった温もりは全身へと広がっていき、僕はハッとして隣を見ると、そこには武装したイリトゥエルがいて僕の手を握りしめていた。


「気がついて良かった。ガラドエルの隊はそのまま敵を足止めしてください!私の隊はジグを守りつつ、ただちに姉様の治療を行います!」


「あいよ!こっちは任せな!こうして暴れるのも久し振りさね。しかも魔王軍四天王の生き残りなら、相手に不足は無いよっ!」


 突然の新手に動揺しているのか、それとも目の前の相手が桁違いなのか。ガラドエルを含めた数人のエルフを相手に、ルナメキラは防戦一方でジリジリと押されていた。


「何故ここにエルフが……しかもこの強さとその名前、まさかお前が『霊樹(れいじゅ)守護者(しゅごしゃ)』か!?

 滅多なことでは森から離れられないはずのお前が、どうしてこんな所に!」


「どこの誰かなんて今はどうだって良いんだよ!

 今のあたしゃ姫様の願いを聞いて里の恩人を助けに来ただけの、ただの戦士さね!」


「ちぃぃっ!」


 ガラドエルの圧倒的な力に押され、ルナメキラはどんどんと離れていく。


「あちらはガラドエルたちに任せて、私たちは姉様の治療を始めますよ!ジグも協力してください!」


「は、はいっ!」


 僕はイリトゥエルに引っ張られるままに走り出し、アマリアに首飾りをかけると、他のエルフと協力してアマリアの治療を始める。


「姫様、予想より傷が深いです。普通に回復魔法を使っていたのでは、恐らく間に合いません!」


「ジグの首飾りの治癒力と皆の回復魔法で足りなければ、私の力を分け与えます!」


「ひ、姫様!たとえ恩人のためとは言えそれはなりません!」


「私はいずれ里を出て人の中で生き、人と共に死にたいと思っているのですから、いずれはエルフの恩寵(おんちょう)も全て捨てるつもりです!

 ならば今ここで少し分け与えたところで、私にとっては何の問題もありません!」


「し、しかし……」


「どうしても認められないと言うのなら、そこまでしなくても良いように皆で力を尽くしてください。私は姉様が助かるのならどちらでも良いのですから!」


「…はっ!」


 僕たちは魔力を振り絞って懸命に回復魔法をかけ続け、やがてアマリアの容態は安定し始めた。

 イリトゥエルや他のエルフたちが何を言っているのか、それは人間の僕にはよく解らなかったけれど、何となくイリトゥエルがまた無茶をしようとして、それに対して部下が反対した事だけはわかった。


「ふぅ…どうにか峠は越えましたね。敵の相手はガラドエルたちに任せて、私たちは姉様を連れて一旦味方と合流しましょう。

 本陣には父上が向かっているはずなので、話はそれからです」


 イリトゥエルはアマリアの頭を撫で、ルナメキラを引き離したガラドエルの隊が、遠くで戦っている様子を窺いながらそう言う。

 もともとどういった人物なのかを聞いているので、たとえルナメキラが相手でも、ガラドエルがそうそう後れをとるとは考えにくかったので、僕もそれに従うことにした。


「イリトゥエル様も皆さんも、アマリアを助けてくれて本当にありがとうございます。

 …僕だけではルナメキラを止めることも、アマリアを助けることも、どちらも出来ませんでした」


「大切な人が目の前であのような目に遭わされたら、誰だって普通ではいられませんよ。それにこの様子では、皆を逃がして一人で残ったのでしょう?

 いつも誰かを守るために戦っているのに、それがたまに失敗したくらいでなんですか!弱気になるのもわかりますけど、姉様はこうして助けられましたし、あなたが頑張ったお陰で助けられた人もたくさんいるのでしょう?だからジグは胸を張っていれば良いのです」


「でもまだ僕には力が足りないんです。どれだけ頑張っても全ては救えず、この手から少しずつこぼれてしまう…」


「ジグ…神様でもない限り、どんな存在でも全てを完璧に行うなんて無理ですよ。

 それでも悔しくて、悲しくて、無力な自分を変えたいのなら、どうしたら良いのかはもう知っているでしょう?」


「鍛えるしかないのは分かっています…。

 でもどれだけ頑張っても足りないんです。そしていつか成長が望めなくなったときを想像すると、怖くて怖くて仕方がない。

 自分の力が足りないせいで、いずれ全てを失ってしまうんじゃないかと…。そしてとうとう、アマリアを危うく死なせてしまうところだった…」


「はぁ……気持ちは分かりますけど、この人は全くもう…それでは半分しか正解してませんよ!」


「え…?」


 両手を腰に当てて溜息をつき、少しムッとした表情のイリトゥエルが僕に近付いてくる。

 そして目の前に立つと、バチンと音が鳴るほど力強く僕の顔を両手で挟んだ。


「今、ジグの目には何が見えていますか?」


「イ、イリトゥエル様です…」


 僕が答えると、今度は横を向かせる。


「ではこちらには何が見えますか?」


「アマリアやエルフの皆さんがいます…」


 すると今度は街の南東の方を向かせる。


「では向こうには?」


「あっちではまだ戦闘が続いているのが見えます…」


「そうです。ジグは一人ではありませんし、どうしても力が足りなければ助けてくれる人がいます。そして彼らはまだ戦っていて、ジグの力を必要としているのですよ。

 一人で出来なければ周りに助けを求めてください。そして誰かが助けを求めていたら、その人と協力してください。何でもかんでも一人で背負わなくて良いのです!わかりましたか?」


 イリトゥエルの温もりによって体は動き、アマリアの治療をすることは出来ていたけれど、僕の世界は色を失っていたままだった。

 しかし今の言葉で思い出した。師匠や先生にもよく言われていたし、小隊の皆との関わりの中で気づいたはずだったのに、僕はまた自分一人で戦っているつもりになっていた。


「悪い癖ですね…」


「ええ。本当にジグの悪いところです」


 僕が呟くように言うと、イリトゥエルは何度も頷きながら言う。


「すみません」


「ここは謝るところじゃないと思います」


 僕が謝ると、イリトゥエルは唇を尖らせて拗ねたように言う。


「…そうでした。ありがとうございます、イリトゥエル様」


「ふふっ、どういたしまして。いつもの表情に戻ったようですし、そろそろ行きましょうか」


「はいっ!」


 イリトゥエルの眩しい笑みを見て、僕の世界は再び色を取り戻した。

 そしてそれと同時に誓いも思い出す…。


「今度こそ大切なものを、皆と一緒に守ってみせます!」

描きたかったことが上手く表現できたかどうか、少し……いえ、だいぶ不安です。

今後読み返してみて、もっと良い表現があればその都度訂正するかも知れませんが、今はとりあえずこのような形でお送りします。


今回は特に頭を悩ませながら書いたのですが、最近はただでさえ1話作るのに3~5時間程度かかるので、書き終わった現時点で精根尽き果てています(汗)

(ちなみにこの回は6時間超えです)


さて本編についてですが、ジグのピンチを救ったアマリアでしたが、本気になったルナメキラを相手には、なすすべなどありません。

練兵場の守りを担っているはずのアドルピスカや、治療に当たっていたはずのレストミリアも現れず、ラジクやアルテミア、そしてモルドも姿を見せません。ハッキリ言って異常事態ですね。


更に今回はイリトゥエルたちが登場しましたが、最近では外の情報を取り入れる動きが活発になっていることもあって、スウサでの戦いが起こったその日には、すでに戦いが行われているのを確認しており、大急ぎで救援部隊を編成した感じです。


リッツソリス経由で戦場に向かい、情報収集や物資の補給をしてスウサへ到着する予定でしたが、その途中でリッツソリスから狼煙を確認して、こちらの救援に切り替えたという流れです。

かなりの強行軍ではありましたが、そこは精鋭部隊ということで。

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[一言] アマリアがいると邪魔って自分で気づけよ
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